契約の森 精霊の瞳を持つ者
1. 狭間の濃霧
風が、頬を撫でるように吹いた。頭の上の辺りでは虫が旋回している音が聞こえる。あっちに行って、こっちに行って。音は小さくなったり大きくなったりする。
そのうち聞こえなくなると、体が冷えている事に気が付いた。やけに寒い。上半身だけが寒くて、震えが止まらない。体中が痛いし頭も重くて仕方がない。
誰かの話声もする。うるさいな。頼むから、世間話ならあっちでやってくれ。もうクタクタだ。どれだけ働いたと思ってるんだ。せっかくの休みなんだから、あともう少しだけ、寝させてくれ。
――精霊様だ……
――水の精霊が……
――奇跡だ……
――100年ぶりの……
――早く……私が……
「ねぇーーーーーー!!やっぱりタカオを待った方がいいってぇーーーー!」
ジェフは大声でイズナに抗議をしていた。イズナは心配そうに馬の上にいるグリフに目を向ける。グリフは今だに意識が戻らず、馬の背に張り付くように乗せられていた。注意しなければ簡単に落ちてしまう。
「一本道だから迷わない。タカオならすぐに追いつくから」
「でももう朝だよ?全然来ないじゃん!それにこんなに早く歩いたら追いつけないよ。タカオ歩くの遅いもん!」
「もうすぐ村に着く。そこで待とう?ほら、あの村……」
イズナが道の先に目をやると、その村の方向から音楽が聞こえてきていた。イズナの後ろから叫んでいたジェフは小走りにイズナを追い越し振り返る。
「お祭りかなぁ。あの"オジサン"が様子見に行ってるんだよね?僕もちょっと見てきていい?」
お祭りだと気が付いた時から、ジェフの顔には興奮が隠せないようだ。最後は今までにないほどの早口だった。
「……ちゃんと名前で呼びなさいね」
ジェフがお祭りに気を取られ、イズナは安心したのか余裕の表情だ。
「はーい!行ってくる!」
そう言ってジェフは嬉しそうに走り出した。ジェフを見送ったイズナは、グリフが馬から落ちないように注意しながら進んだ。
村に近づくにつれて、音楽が大きくなる。太鼓の音、笛の音や楽しそうにはしゃぐ子供達の声。風にまぎれて、美味しそうな香りまでしてきていた。
「懐かしい……こんなに賑やかなの」
イズナは呟き、歩く速度を少しだけ速めた。
イズナがちょうど村の門まで来たとき、ジェフが戻ってきたところだった。片方の手には串に刺さったこんがりと焼けた肉を持ち、口のまわりはその肉のたれでべったりと汚れていた。
「イズナ!大変!今聞いたんだけど、このお祭り……」
ジェフは驚いた表情のまま、イズナに駆け寄った。
「口のまわり、ヒドイ事になってる」
ジェフの慌てぶりに反して、イズナは落ち着き払ってポケットから布を出して渡した。
「そんな事より!水の精霊!ウェンディーネを捕まえたんだって!」
ジェフは渡された布を掴むと、きつく握っていた。風が一瞬だけ強く吹き、ジェフやイズナのコートが音を立ててはためいた。
イズナでさえも、その言葉に顔を強ばらせた。森の住人が恐れ続けた、その精霊を捕まえた理由は子供にだって推測はできた。
「捕まえたって事は……」
イズナはそれ以上の言葉を続ける事は出来なかった。イズナが言葉に詰まっていると、聞き覚えのある声が付け足すように続けた。
「殺すため、だろうな」
その声の響きには、どこか楽しんでいる様子さえうかがえた。ジェフとイズナが睨むように声の主を見る。そこには、この陽気な雰囲気には似合わない男が立っていた。
「なんでここに?!」
ジェフとイズナは、思わず同じ言葉を同時に発していた。
そのうち聞こえなくなると、体が冷えている事に気が付いた。やけに寒い。上半身だけが寒くて、震えが止まらない。体中が痛いし頭も重くて仕方がない。
誰かの話声もする。うるさいな。頼むから、世間話ならあっちでやってくれ。もうクタクタだ。どれだけ働いたと思ってるんだ。せっかくの休みなんだから、あともう少しだけ、寝させてくれ。
――精霊様だ……
――水の精霊が……
――奇跡だ……
――100年ぶりの……
――早く……私が……
「ねぇーーーーーー!!やっぱりタカオを待った方がいいってぇーーーー!」
ジェフは大声でイズナに抗議をしていた。イズナは心配そうに馬の上にいるグリフに目を向ける。グリフは今だに意識が戻らず、馬の背に張り付くように乗せられていた。注意しなければ簡単に落ちてしまう。
「一本道だから迷わない。タカオならすぐに追いつくから」
「でももう朝だよ?全然来ないじゃん!それにこんなに早く歩いたら追いつけないよ。タカオ歩くの遅いもん!」
「もうすぐ村に着く。そこで待とう?ほら、あの村……」
イズナが道の先に目をやると、その村の方向から音楽が聞こえてきていた。イズナの後ろから叫んでいたジェフは小走りにイズナを追い越し振り返る。
「お祭りかなぁ。あの"オジサン"が様子見に行ってるんだよね?僕もちょっと見てきていい?」
お祭りだと気が付いた時から、ジェフの顔には興奮が隠せないようだ。最後は今までにないほどの早口だった。
「……ちゃんと名前で呼びなさいね」
ジェフがお祭りに気を取られ、イズナは安心したのか余裕の表情だ。
「はーい!行ってくる!」
そう言ってジェフは嬉しそうに走り出した。ジェフを見送ったイズナは、グリフが馬から落ちないように注意しながら進んだ。
村に近づくにつれて、音楽が大きくなる。太鼓の音、笛の音や楽しそうにはしゃぐ子供達の声。風にまぎれて、美味しそうな香りまでしてきていた。
「懐かしい……こんなに賑やかなの」
イズナは呟き、歩く速度を少しだけ速めた。
イズナがちょうど村の門まで来たとき、ジェフが戻ってきたところだった。片方の手には串に刺さったこんがりと焼けた肉を持ち、口のまわりはその肉のたれでべったりと汚れていた。
「イズナ!大変!今聞いたんだけど、このお祭り……」
ジェフは驚いた表情のまま、イズナに駆け寄った。
「口のまわり、ヒドイ事になってる」
ジェフの慌てぶりに反して、イズナは落ち着き払ってポケットから布を出して渡した。
「そんな事より!水の精霊!ウェンディーネを捕まえたんだって!」
ジェフは渡された布を掴むと、きつく握っていた。風が一瞬だけ強く吹き、ジェフやイズナのコートが音を立ててはためいた。
イズナでさえも、その言葉に顔を強ばらせた。森の住人が恐れ続けた、その精霊を捕まえた理由は子供にだって推測はできた。
「捕まえたって事は……」
イズナはそれ以上の言葉を続ける事は出来なかった。イズナが言葉に詰まっていると、聞き覚えのある声が付け足すように続けた。
「殺すため、だろうな」
その声の響きには、どこか楽しんでいる様子さえうかがえた。ジェフとイズナが睨むように声の主を見る。そこには、この陽気な雰囲気には似合わない男が立っていた。
「なんでここに?!」
ジェフとイズナは、思わず同じ言葉を同時に発していた。
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