契約の森 精霊の瞳を持つ者

thruu

27.

 もし同じ罪ならば、タカオ自身も精霊殺しに荷担したことになる。100年も前のこの森で起こった出来事に関わっているとでも言うのだろうか。


「そんな事があるはず……ない」


 ならば、自分は一体どんな罪なのだ。その言葉が喉まで這い上がり、危うく言葉にしてしまいそうになる。ウェンディーネは心を読み取ったのか、タカオから視線を外す。


「だから、お前には到底分かるはずがないと言ったんだ。そんな簡単な事ではない」


 タカオは困惑が増す心を見破られたようで居心地が悪かった。


「それじゃあ、精霊殺しは関係ないのか……?」


 ウェンディーネは呆れたように首を振り、湖へと歩き出した。


「一つ、言っておく」


 その言葉と同時にウェンディーネは振り向いた。


「ろくに知りもしない事に手を出すと……」


 言葉が途切れると、ウェンディーネの姿は水となり、湖に大きな音を立てて落ちて行った。


「ウェンディーネ!」


 タカオは慌ててウェンディーネの消えた場所に走った。


「まだ聞きたい事が!」


 湖を覗き込みながらウェンディーネを呼んだ。覗き込んだ水面は不思議な事に何も反射しなかった。光も、自分の姿さえも。そこにあったのは深い闇だったのだ。


――後悔するぞ――


 心が、一瞬で冷たくなるようなそんな心地だった。それは心に流れ込むようにタカオに聞こえ、その後は湖に引き込まれた。抵抗する余裕もなく、タカオは暗い闇に落とされた。


 気が付いた時には、もう自由に身動きをとる事も出来なかった。


 ただ、どこまでも続く暗闇を眺める事しか出来ない。この闇に触れてしまうと、自分の心が壊れてしまう気がした。けれど実際は、苦しくも冷たくもなかった。心が壊れるような事もなかった。


 タカオはどちらかと言うと、その闇に安らぎを感じた。この森に来て初めて、この得体の分からない闇に何故か、安心したのだ。


 悲しみや、苦しみ、苛立ち、恐怖、言葉に出来ない思いが混ざり合った闇。けれど、その根本にあるものは純粋な気持ちが変化してしまったものだ。やけに人間らしい、不安定で隠しようのない感情が、懐かしかった。


 この闇はどんなに混ざり合っても、まるで夜空を見ているようだ。見ようと思えば、純粋に輝く星が見えるから。


――オンディーヌ、君が化け物だなんて嘘だ。こんなにも美しい心を持っているのに――


 タカオは闇の中で気が付いた。あのドワーフに連れて行かれた時の、美しい夜空を思い出し、霧に包まれた森の事を思い出した。


ーーこの森に連れて来たのは、君だったのか。


 タカオはそう思うと、あとは何も考える事が出来ずに深い眠りについた。

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