契約の森 精霊の瞳を持つ者

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4.

 グリフが見たのは、ゴブリンの見開かれた目玉に反射した黄金の光だった。グリフの頭の上を通過したものは、目にも止まらぬ速さで森に突っ込んで、まるで大きな斧を振り込んだような衝撃だった。


 衝撃の後、横一列に並んでいた木々が音を立て何本も倒れていった。そんな中でも、ゴブリン達は運良くも怪我をした者はいなかった。けれど、間一髪だった事には違いなかった。


 白髪のゴブリンも後ろにいた他のゴブリン達でさえも、あと半歩でも動いていたのならば無惨な姿になっていただろう。


 衝撃が攻撃だと気が付くと、ゴブリン達は腰を抜かし震え上がった。そして倒れてくる木々に悲鳴を上げながら恐怖と混乱でパニックになって走り回る。


 そんなゴブリン達を横目にして、グリフは振り返る。地面についた手が、湿り気を帯びている。焚き火は消えて、黒い炭や燃え切れなかった木が残されていた。


 その燃え跡からはまだ一筋の煙が立ち上がっている。グリフはその煙を目で追うように視線を上へ向けると、煙の向こうにはタカオが立っていた。


 眼帯がはずれ、黄金の瞳が恐ろしいほど輝きを放っていたのだ。タカオの左目はそこだけ浮き出たようで、まるで別々の存在になっていた。


 タカオは器でしかない。まさにその通りのように、タカオには意識はなく右目は閉ざされている。精霊の器になったタカオをグリフは見つめていた。


「タカオ、お前……」


 そう呟くグリフは戸惑いを隠せないようだった。タカオは音もなく静かに腕を上げると、ゴブリン達の方を指差した。


 グリフの後ろで騒いでいたゴブリン達はそれに気が付いたのか、突然に動きを止めた。一瞬、全ての時が止まったかのような静けさが訪れた。


 風もなく、葉も揺れない。小鳥のさえずりも聞こえなかった。朝陽でさえ、まるで拒むように隠れたままで、白々しい空と夜の名残が遠くの空にあるだけだった。


 白髪のゴブリンの足がほんの少し動き小枝が折れた時、その音を合図に全ての時が動き始めた。グリフの頭上には水が浮かび、初めは林檎程の大きさだった水の集まりはあっという間に何十倍にもなった。


 今では大きな岩ほどの球体になり、グリフの頭上に浮かんでいる。ゴブリン達は最初こそ静かだったけれど、グリフにはゴブリン達の浅く早い呼吸が聞こえていた。


 1人のゴブリンが後ずさりをすると、それがゴブリン全員に伝わった。ゴブリン達は一斉に悲鳴を上げながら、次の攻撃の前に逃げ出そうと蜘蛛の子を散らすように森に逃げ込んで行く。

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