3.

「そんなに睨むなって」


　白髪のゴブリンが低い耳障りな声で言った。


「背中の怪我はどうだ。グリフ？」


　ゴブリンに名を言われると、グリフは眉間に皺を寄せた。そして更に鋭い視線をゴブリンに向けた。ゴブリンがそれを気にする様子は無かった。


「俺は見たぜ！人間をかばってサラマンダーに襲われるのを！泣かせるねぇ」


　そう言ってわざとらしく泣く振りをしながら、横目でグリフを盗み見た。グリフは動じる事はなかった。けれど握った拳に力が入り、体の奥から目覚めた怒りを必死に抑えているようだ。


「相変わらず愛想がないねぇ。昔と一緒だ。昔の仲間はどうした？みんな逃げ出したか？ああ、まるでお前だけ置いていかれたみたいじゃないか！可哀想に……」


　ゴブリンはそう言うと体の前に突き出した手を合わせて祈るような素振りをする。


「見逃してくださぁい！とかさぁ、言ってみたらどうだ？そうしたらお前くらいは見逃してやってもいい」


　そう言い終わるとゴブリン達の下品な笑い声が森に響き、グリフは更に拳を固く結んだ。短剣を握りしめ、どんなに分が悪くても、こんな下劣な者達に負けるわけにはいかなかった。


　先手を打とうとゴブリン達に斬りかかろうとしたその時、グリフの周りの空気が変わった。一気に気温が下がったのだ。その気温の変化は、体の芯から凍らせるのではないかと思うほどだった。


「まぁいい。時間もないし、そろそろ始末しちまうか！首を持ってこいと言われたけど、首から下をどうするか何も言われてないからな！」


　ゴブリンは何も気が付かないのか、楽しそうに話を続けた。その時には、グリフはもう話を聞いていなかった。グリフの吐く息が白く空を舞う。そして焚き火がいつの間にか消えていた。


「あの女と子供もすぐに捕まえて……おい、なんだあれ……」


　楽しそうだったゴブリンは、いつの間にか表情を曇らせていた。ゴブリンの見開いた大きな目玉を見た時、グリフは自分の後ろで起こっていることを察し、身を低くした。


　次の瞬間、グリフの頭のすぐ上を何かぎ通り過ぎた。