契約の森 精霊の瞳を持つ者

thruu

2.

 夜が明け始めたころ、グリフの頭上の空には鷹が円を描くように旋回していた。グリフはそれを見つめていた。


「連絡する必要は、無いみたいだな」


 そう呟くと、焚き火に小枝を投げ入れた。街の方はまだ夜の気配を漂わせ、街とは反対の遠くの空は白く、今にも太陽が顔を出しそうだった。


 気がつけば、鷹の姿は消えていた。その代わりに、グリフの背後の森の中から小さな音が聞こえていた。それは、葉を踏みしめる音。それも音が聞こえないように配慮したような音だった。それが動物の類でない事は、グリフには分かっていた。


 聞こえないと思ったのか、コソコソと一言二言、囁く声が聞こえたのだ。グリフはその得体の知れない者達が喋る前から、隠し持っていた短剣を握りしめていた。


 けれど、足音や気配から察すると、どう考えても10人以上の団体だった。短剣では分が悪い上に、グリフは背中に怪我を負っている。


 焚き火の向こうのタカオを見ると、心地よく眠っていた。それを確認し、乾いた小枝を焚き火に入れた。そして意を決して立ち上がり、森に体を向ける。


 グリフの後ろでは投げ入れた小枝が乾いた音を立てて燃え始め、タカオは規則的で心地良い寝息をたてていた。


 グリフは背中に負った傷の痛みを微塵も見せず、森を睨むように見つめた。森はうっすらと霧がかかり視界が悪い。その上、悪臭が漂っていた。グリフはその臭いの元が何かを知っていた。


 それは、霧に紛れて潜む者達の吐く息だ。その者達の胃袋に臭いの元がある。血と肉が混ざった臭い。死者の臭いだ。


「万事休す」


 森の中からはあざ笑うような声が響いた。声の主は木の陰から現れると、にやけた顔を不気味に浮かべていた。グリフには見覚えのある者だった。


 幼い頃のグリフを騙し、森に迷い込んだタカオも騙そうとしたゴブリンだ。白い髪を後ろに結び、大きな目玉をぎょろぎょろと動かす。


「私は、ドワーフだ!」


 そう言うと、可笑しそうに高い声を上げて下品に笑った。仕留め損なった獲物をまた仕留めるチャンスが来たことに喜んでいるようだった。


 そのゴブリンの後ろの木の陰からは、続々と他のゴブリン達が姿を現した。やはり10人以上はいるようだった。他のゴブリン達には髪が無く、けれど尖った耳や、ぎょろついた目玉は皆同じだ。


 白髪のゴブリンはズボンにシャツ、その上にチョッキを着ているが、他のゴブリン達は皆泥だらけのぼろ布を着ていた。白髪のゴブリンはドワーフらしく見せる為に、髪や服、表情まで偽っていた。



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