契約の森 精霊の瞳を持つ者

thruu

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 アレルと入れ違いになるように、エントが男の前に現れた。


「コダ!すまんな。歳をとるとどうもトイレが近くなってなぁ。近頃夜になると冷え込むからよけいだな」


 そのタイミングで先程の若い男が温かいお茶を持ってきてくれた。


「おお、ありがとう。そう言えばアレルさんはまた外に行ったのか?敷地内とはいえ夜はあれほど危険だと言っておるのに」


 エントは呆れたように、ぶつぶつと呟いていた。コダはエントのそんな様子を気にもせずに、本題に入る事にした。


「エント、単刀直入で申し訳ないが、サラに会わせてほしい」


 今では食堂にいる数少ない人々が聞き耳を立てていることは、容易に分かった。


「そうだった!サラが孵る方法を教えてもらわんとな。さぁ、こちらへ」


 エントは立ち上がり、歩き始めた。けれど、コダは動こうとしなかった。


「そのことなんだが、今のところ大地の契約については何も分かっていない。手紙にはサラマンダーがたまごになったと書いてあったが……今日はそれを確かめに来ただけだ。すまない」


 それを聞いたエントは力が抜けたように肩を落とした。


「そうか……」


「大地の契約については王族の、それも一部の者しか伝わっていないはずだ。それをどうやって……契約を交わした者に会えるか?何か分かるかもしれん」


「それが……」


 エントが口を開いた時、廊下のほうが騒がしくなっていた。何人か慌てて走る音が聞こえたかと思うと、勢いよくガラと何人かが食堂へ入ってきた。


「何を騒いでいるのだ」


 エントが言い終わる前に、ガラは叫んでいた。


「サラが消えてる!!」


 エントやコダ、食堂にいた者達は急いで倉庫に向かった。倉庫に着くと、月の光で倉庫の中を見渡せた。開け放たれた扉から月の光が差し込み、サラの卵のかけらをきらきらと輝かせていた。


「なんてことだ……」


 エントはそう呟くと床に膝をついた。コダは卵のかけらを調べ、頑丈そうなそのかけらの何枚かを、古い紙のようなものにそっとしまった。


「私はこれで失敬する」


 コダはそう言うと、床に座りこんだエントを通り過ぎた。


「一体どこに行くんだ」


 エントは慌てて聞いたがコダは何も答えなかった。コダは月の光の下で振り向くと、帽子の鍔を右手で軽く触り、にやりと笑うと去って行った。どうやらあれが、コダ流の「さよなら」のようだ。

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