契約の森 精霊の瞳を持つ者

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14.

 その騒動で、まだ倉庫にいたエント、怪我の手当てを終えたグリフがその廊下に集まった。

 ジェフの母親は自分の息子に駆け寄って両肩をつかみ、どこも怪我をしていないかを確認した。息子の無事を確認すると、安心したのかジェフを抱き寄せる。ジェフは迷惑そうに嫌がったそぶりをしていた。

「一体、何ごとだね」

 エントはタカオに近づき声をかけた。タカオはそんな言葉をかき消すほど咳き込んで、上半身を起こすのがやっとだった。

 ジェフは母親の腕からなんとか逃れながら、心配そうにタカオの顔を覗き込んで、驚きの声を上げた。

「タカオ!大丈夫?あれ……その目……目が……」

 そのジェフの言葉に、エントもグリフもタカオの顔を覗き込んだ。タカオは息を整えるように大きく息を吐き出し、やっと落ち着いた様子だった。

そして熱さの消えた左目をこすりながら、照れたように言う。

「ああ、うん。もしかしたら充血してるかな。倉庫の前で雫が……」

 やっとそこまで話したが、誰もタカオの話は聞いていなかった。タカオの顔を覗き込んだ者はエント、グリフ、ジェフとその母親だけだった。ジェフ以外は顔を強ばらせ、息を飲み込んだのがタカオにも分かった。

 それに疑問を抱いている暇もなく、怪我を負ったばかりのグリフが、タカオの後ろの衿を掴み、無理やり近くの扉に投げ込むように部屋に入れた。

 その部屋はタカオが目覚めた部屋だった。投げ込まれたタカオは叫び声を上げて床に転がっていた。投げ込まれた時に背中を床にぶつけて、またしても息をするのに体が混乱したようにうまくいかない。

 怪我をした腕は、痛みがぶり返しはじめた。タカオに続き、エント達が部屋に入ると急いで扉を閉めた。

「今日は災難ばかりだ。そんなことができるなら、背中の怪我は大丈夫そうだな、グリフ」

 こんな仕打ちばかりでは、嫌味の一つでも言いたくなる。

「倉庫での借りを返しただけだ」

 意外にも、グリフはそう言うと微かに笑った。それはたった一瞬だったけれど。タカオは倉庫でサラを前にして、立っているのもやっとだったグリフを投げ飛ばしたことを思い出して、小さく「あ」と声を漏らし、気まずそうに視線を逸らした。

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