契約の森 精霊の瞳を持つ者

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11.

 白い卵だけが残された倉庫の中は、誰もが石になったように動かず、その卵をじっと見つめている。そんな中、倉庫の入り口からエントがタカオに近づいていた。

 タカオはこの卵をエントに任そうと、助けを求めるように見つめた。

「まさか、大地の契約が目の前で行われるとは。まだ夢のようだ。なるほど、精霊と血の契約を……」

 エントは何やらぶつぶつとそう言って、震える手でサラマンダーの卵を恐る恐る触った。

「しかし、何故タカオが……」

 エントがそう言うと、タカオの背後からグリフの声が響く。

「何かの間違いだ。こんな事、ありえない」

 グリフは背中の痛みに堪えながら立ち上がる。無理に歩きだそうとすると、髪の長い少女が心配そうに駆け寄った。

 少女の髪は金に近い明るい茶色をしていて、動く度にその髪も踊るように動く。少女が手を差し出そうとした時、グリフは冷たい言葉を放つ。

「触るな。一人で歩ける」

 そう言うと倉庫から出て行ってしまった。少女は寂しそうに視線を落とす。それでも、グリフの後に付いて行った。

 グリフが倉庫を後にすると、残った者達はそれぞれにやるべき事へと行動を移していた。グリフの手当てに向かう者。サラマンダーの卵に近づく者。タカオの傷の手当てをするもの。朝食の準備に戻る者。

 タカオはそんな慌ただしさの中、倉庫の中で手当てを受けていた。痛みは波のように押し寄せて、終わりのないぐるぐるとした地獄の中に突き落とされたような心境だった。

 痛み止めがすぐに効くわけでもなく、噛みしめるように痛みに耐える。タカオが向けた視線の先では、たまごを囲うようにエントや男達が集まり何かを話していた。

「このままではいかんな」

「エントでも分からないとなると……」

 サラマンダーの卵はどうやらひどく冷たいらしく、このままでは卵が孵るかどうかも分からない。

 手当てが終わり、倉庫から出るタカオとジェフの耳にそんな話が聞こえていた。まだ孵りそうもないサラマンダーの卵は、倉庫で保管するようにエントが指示を出した。

「コダに来てもらわねば……」

 エントがそう小さく呟いたのを、タカオは聞いていた。

 
 しばらくして、他の者達はいつもの生活へと戻ろうとしていた。その中で、サラに対してのそれぞれの気持ちは複雑だった。

 サラがあんな風になる前は、強くて、優しくて、あのエントよりも物知りで、誰もが尊敬し慕っていた。そこにいた全ての者にとって、サラはかけがえのない存在だった。

 死の森に住む者達にとって、サラマンダーがどれだけ重要な存在だったか。サラが暴れても、サラを見捨てようなんて考える者はいなかった。

 けれど、それは初めのうちだけだ。長い年月の中で、彼らの考え方は変化していった。森に放そう、処分しよう、という意見を出した者もいた。今では、サラのことを化け物と呼んで怖がる者がほとんどだ。

 今回の件で、サラの復活を喜んでいる者は、実のところ少ない。

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