契約の森 精霊の瞳を持つ者

thruu

3.

「さて、タカオとやら。大変だったな。君は昨日『闇の者』に襲われていた。グリフがそれを見つけて、君をここへ運んだのだよ」

 ほら、という風に扉の外側に立っている少年に視線を送った。部屋にいた人達は振り返るようにあの少年を見る。小さなジェフは誇らしげな顔でその少年を見上げていた。

 目が合ったので軽く会釈をするけれど、グリフと呼ばれた少年は相変わらずの表情で微動だにしない。仕方なく、エントに礼を言うことにした。

「危ないところを助けていただいて、ありがとうございます。それで、あの、あなた達は……」

 あのドワーフのことを思い出すと、こんな親切そうな顔をされても安心はできない。

 老人は前かがみになった背をまっすぐに伸ばした。

「安心しなさい。ここにいる者達はエルフだ。まあ、ここには色んなエルフがいるが……ああ、私は違うぞ。私は森の番人でな……」

エントの話は、わけが分からなかった。それが顔に出ていたのだろう。

「聞いているのかね?」

 エントは心配そうに首を傾げた。返事をするのも忘れて慌てて頷く。

「君はこの森の者ではないようだから、なかなか不思議なこともあるだろう。だがね、ここにいれば、森の闇は届かない」

 そう言うと、エントは嵐に耐えている窓を見つめた。

「森の闇とか、闇の者というのは、あのドワーフのことですか?」

 視線を窓に投げたままのエントを見つめる。ドワーフという言葉を出すと部屋中がざわめいた。エントは少しため息をつくと、吐いた息を微かに止めた。ざわめきはもう収まっていた。

「そうだね。あれらの事だ。ただ、君が襲われたのはドワーフではなく、ゴブリンと呼ばれるものだ。我々も襲われることがある。中には助からなかった者もいる」

 エントは床を見つめるように視線を落とした。エントは不意に顔を上げて、優しそうな笑顔をみせた。

「君が無事で、本当に良かった」

 エントのその言葉に、無意識の内に包帯に巻かれた左腕に視線を落とす。ドワーフだか、ゴブリンだか知らないけれど、そんな者と彼らが同類ではないかと疑った事をいまさら後悔した。

 エントは先程よりもほんの少し声を低くすると話を続けた。

「タカオ、ここは君がいた森とは繋がってはいるが、同じ森ではない。まして行き来することができるのは神や精霊、霊獣のような力を持った者くらいだ。だが……見た限りでは、君にそんな力はない」

 エントは前に乗り出すように話す。その顔はにこりともせず、その瞳は鋭くもあった。

「力がないとなると、君はどうやって、この森に入ったのかね」

 部屋の中は静まり返っていた。窓は相変わらずガタガタうるさいが、それ以外は物音ひとつしない。

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