魔滅の戦士

やましゅん

記憶

「あああああああああ!」
天音だった者は奇声を発し、椎名に向かって蹴りを放つ。
(重い!)
刀で身を守ったが、ヒビが入ってしまった。
(私がここで斬る!)
椎名の剣は、普段とは全く違う物だった。火事場の馬鹿力と似たものか。悪魔になった上官を、絶対にここで斬る。という強い意思、それが椎名の力を引き上げているのだろう。
だが、埋まることの無い圧倒的な実力の差。元々身体能力が高かった天音が悪魔となったことで、凶悪な強さだ。
椎名の発展途上の剣技では、天音の体に傷を付けることができていない。
だが、戦えている。かなり劣勢だが。
「天音さん!!」
-剣技-百花繚乱
切れない。でも、効いている気がする。
天音の悪魔の目からは、涙が零れていた。
(もしかして、記憶が戻ったの?)
可能性は可能性でしかない。確定的な情報でない限り、警戒は解かない。よくできた性格だ。こういう状況でも、冷静でいる。
「じ...イナ」
悪魔は喋った。お世辞にも日本語と言えるものでは無いほどひどい発音だが。
「記憶が戻ったのですか!?」
悪魔はコクリと頷く。
自分の部下に手を出したこと。悪魔になったこと。その記憶も引き継いで、天音の記憶は復活した。


「奴は悪魔になったか。ククク...これからの働きが楽しみだ。」
仮面の男ははるか上空から天音が悪魔になったことを把握し、帰って行った。


「街が静かになりましたね。様子を見に行きましょう。」
「ヴ...ん」
街に戻ると、そこには首のない來央の体と、來央の首が転がっていた。
「そんな...」
椎名は目を背ける。
「ァ...ああ」
天音は地面を叩く。何も出来なかった自分に対して怒っている。
走っていた。逃げ出していた。悪魔を根絶やしにすると誓っていたのに、自分が悪魔になってどうする。部下に手を上げてどうする。上司の手助けすら出来なくてどうする。これから何をすればいい。
分からない。

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