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勇者に見捨てられて死んだ大賢者はゴブリンに転生したので、魔王の配下になって魔族の軍勢を率いる大賢者になる

英雄譚

第31話 「チャラ勇者への命」

 

 勇者が最も毛嫌いしていた大賢者のアルフォンスを見捨ててから、もう半年以上が経過する。
 現在、彼らは魔の大陸の最前線に位置する『エレメン王国』王都ナイテッドに常駐していた。

 防壁で囲まれた大きな都市の中心部には国王の住まう巨大な城があり、勇者は仕事なんか忘れて優雅な時間をそこで過ごしていた。

「ふはぁ……ああ、最近は魔の大陸の方から侵攻が少ねぇから防衛の仕事が入ってこねぇな」

 とある一室で庶民の服装のままソファに寝転がる勇者と、彼を取りかこむ城内の美貌なメイド達。

 その手前のソファーにも、高級な赤ワインを堪能する二人の付き人もいた。
 女侍ユキハラと神官のエリスである。

「そんなこと言っちゃって、どうせ依頼がきたってドタキャンするクセに」

「そうであるな。せっかくの休息、邪魔されては堪りませんね」

 彼女らは元々、他国での貴族的な階級にあるため贅沢な振る舞いをされたところで喜びはしない。

「そういえば二人とも、せっかくの暇な時間を使って実家に帰んないのか?」

 ルークの言葉に、彼女らは顔を見合わせた。

 エリスの実家は『ユートピ神聖国』にあり、この王都から東へと1ヶ月は移動しなければ辿りつけない所に位置している国である。

 それに北東から南まで分断する山脈『神天の山脈』を途中で抜けなければならない、最も近道の危険な峡谷を通ってだ。

 流石に手間なのか、エリスは唇を尖らせながら考える。

「面倒だから、別にいいわ。どうせ帰ったところで両親は旅を反対するし、良いことがないわよ」

 しかし、思ったより彼女は速い決断を下した。

 両親という言葉にルークは笑みを浮かべ、かつてエリスの父親に睨みつけられた事を思いだす。

「確かに、お前んとこの親父さんは怖ぇからな。みすぼらしいとか、言葉遣いには気をつけろとか細かく説教してくるから落ち着いて滞在もできやしねぇ。こっちは説教される歳じゃねぇんだよ」

 エリスの父親は非常に淑やかで穏やかな人物なのだが、それはアルフォンスだけに限る態度だった。

 例外であるルークやエリス、実の娘であるエリスはアルフォンスと真逆に厳しい態度で接する。
 不足している礼儀作法が理由の一つでもあるが、なによりルークらの人柄が原因なのだ。

 そんな彼らと娘を一緒に旅をさせたくないエリスの両親はなんとか娘を引きとって家系を継がせようとしているのだが、自由奔放な性格からエリスは幼い頃から冒険というのには憧れを抱いていた。

「それも、そうね。勇者の仲間っていう特権もあるし不自由なことなんて無いわ」

「ははっ、俺を利用してんじゃねぇよエリス」

 だけど彼女にとってはもう、そんな思想なんてどうでも良いものへと成り下がっていた。
 両親、冒険への憧れはもう関係ない。

 自分が居心地よければ、それだけでいいのだ。
 何故なら自分はいまや尊い存在、エリスはそう勝手に解釈していた。

「失礼します勇者様」

 扉を叩きながら、眼鏡を掛けた王直属の傭兵が部屋へと入ってきた。
 途端に勇者たちの会話が止まる。

「ただいま国王陛下がお呼びなさっていますので至急、王の間へと来てください」

「用はなんだ?」

 ルークは微かに汗を流してしまう。
 まさか、大賢者アルフォンスの死亡の事について追求されるのではないか?

 自分の罪に対して、不安を覚えるのは彼だけではない。
 一部始終に関連するエリス達も同様に不穏な雰囲気を漏らしてしまう。

「魔の大陸に関する新たな命です」

 この時、大半の人族は魔の大陸で時期に迫り来る『魔線戦争』の存在を知らない。
 4人もいる魔王が、互いを削りあう大戦を残り一年以内に行うのだ。






 ーーー








 このエレメント王国の君主『イゾルテ・ナイテッド・ドリュアース』国王を御前にルーク達は跪いていた。

 と、思われていたのだが勇者ルークは立ったまま苛ついた表情で腕を組んでいた。
 その失礼な態勢に王の臣下である者たちは驚きつつ、小声で叱責する。

 しかし、小言を投げかけてくる臣下らに殺気を放ちながら睨みつけた。

「勇者ルーク殿、貴殿を玉座の前に招いたのは他でもない。魔族どもの異様な動きについてだ。ここ最近、異常と言っていいほど魔の大陸の方で魔族どもが活発化しておるらしい。100年に一度だけ発生する現象なのだが、その真相は明確にはされない。なので貴殿らで魔の大陸に侵入し偵察してもらいたい」

 代々から、この国の国王は魔の大陸の状況をビジョンで監視できる特異能力である『ミエザルモノの眼』を持っている。
 奴らが侵攻してくれば、自動的に能力が発動され王は侵攻してくる魔王軍のビジョンが見えるらしい。

 そのため、防衛時には王の存在は不可欠である。

「……そうか王様。わざわざ、それだけの為に俺たちの休息を邪魔したってのかよ?」

 王族の特権に匹敵する権利を持ち合わせているルークなのだが、だからって大国の君主である人物に大口を叩くのは別のことである。

 王が命令すれば、聖剣はいつでも剥奪可能だ。
 だが数年に渡りルークと同様、勇者の証である『勇ましき炎』を宿す者が現在では彼しかいない。

 なので王は無理に勇者を解雇できないのだ。
 ルークはそれを知ってか、まるで自分が王族より上位の立場にあると言わんばかりの態度しかとっていない。

 密かに王は憎たらしいルークを毛嫌いしている。
 密かに城内のどこかで拳に血の塊ができるまで壁をサンドバッグのように叩いてしまう程だ。

「貴様!  陛下になんて態度を…………っ!」

 近衛従者の1人が、失礼な態度と口調のルークに剣を抜こうとしたが。

シュッ!!

 それより先にルークの聖剣が近衛従者の首を一足先に、慈悲もなく刎ねてみせていた。
 首を失った胴体はうつ伏せになるように倒れてしまう。

「きゃあああああっ!?」
「あああああああああああっ!」

 人を殺めた勇者への人々の絶叫が、王の間に木霊する。
 王もまた、目を見開きながら勇者が平然と殺めてしまった近衛従者を凝視していた。

「……あのさ王様、テメェらのせいで俺はいま苛ついているの」

 頭を掻きながら、自分の行動がまるで通常運転かのように涼しい顔でルークは話を続けた。

「勿論、その命を受けてやるが。それに見合う報酬と待遇がなきゃ嫌だね」

「むっ……そうか。それは済まなかった」

 王は冷静を取り戻すため、咳払いをする。
 少しだけ頭を整理してから、ルークに問う。

「それでは聞こう。貴殿の望みはなんだ?」

「そうだなぁ、まずは長旅になるだろうから。人手がいるな。特に俺の夜伽がなにより重要だから、ヤれる女がいいな」

 まるで名案を思いついたように要求するルークに、周囲は騒然としてしまう。

「女騎士とかが良いよなぁ。ちょうどこの国には茨城の騎士団がいるだろ?  何人か同行してもらうのが、一つの条件。野郎は却下だ」

 ユキハラとエリスは特には反応を示さない。
 当然だ、彼女らは身近にいるからこそルークの性格を知っているのだ。

 自分らは、ただのお遊び相手。
 ルークの側にいさえすれば、それだけで十分なのだ。

「よ、よかろう。貴殿が望むなら」

「それと、もう一つ。金貨を1000枚は用意しておいてくれ。どうも俺たちって稼ぐことには疎いから、なるべく大金で頼む」

 絶句してしまう王、ルークはそれを見ながら嫌らしく笑みを浮かべていた。
 先ほどからの、無茶振りな条件は王がどのような反応をするのか伺うためである。

 なんせ金貨が1000枚あれば、一生は暮らして遊べるのだ。

「くっ……仕方がない。その願いを聞き入れよう」

 明らかに感情を制御しようとしているのが丸分かりであるが、王にあえて追求する者はいない。
 財産面には余裕はあるが、1000枚も金貨を用意するとなれば王国の経済が偏ってしまう。

 だが待遇がなければ勇者は、国王の命であろうとキッパリ断る性格だ。

「おっし!  んじゃ交渉成立だな」

 先ほどまでの苛つきが嘘のように消えさり、勇者は手をスリスリと擦りながら礼儀正しく頭を下げた。

「では!  この勇者ルークの誇りにかけて、魔の大陸で密かに進行している異様な状況を確かめに参りましょう。報酬の話は、また後でねっ!」

(調子の良いことを言いおって……)

 今まさに、世界で一番の幸せ者であろうルークが王の間から甲高い笑い声をあげながら立ち去ると、王イゾルテは頭を抱えた。

 同時に半年前、ドラゴンを相手に敵前逃亡して死んだというデマであろう勇者の報告を思いだす。

 大賢者アルフォンス。
 勇者は彼を従者のようにコキ使い、理由のない暴力を毎回のように与えていた。

 頼りない、素っ気ないのがアルフォンスに対しての第一印象だったのだが、彼は賢く誠実で誰よりも魔法や魔術に特化していて強いのだ。

 魔術師ギルドの創設者の一人でもあり、おかげで各国の問題が前々より大幅に激減した。
 人族は魔法が苦手で適応力が低いのである。

 無から有を生成するのは基本、イメージが強くなければならない。
 だが言語を覚えるより難関なそれは、創世記から魔力を持っていなかった人族という種には難しい作業なのだ。

 だけど、それを覆した存在がアルフォンスであり『ミエザルモノ』と呼ばれる全ての源である空間の真理を唯一、目にした者である。

 その空間にたどり着けば世界の真実、過去に起きた出来事や未来でこれから起きるであろう出来事を見ることが可能だ。
 なにより魔力という複雑な物質の資料だって覗くことができる。

 だからこそ、王は困惑を抑えきれずにはいられなかった。

 もし勇者が大賢者を殺したとしれば他国、とくに初代の大賢者を信仰していた裏組織である宗教団体が黙っていない筈だ。
 察しても、なるべく他言をしない方がいい。

 勇者の裏切りとして戦争にまで発展しかねないのだ。


 ーー本当、あの勇者は面倒な事ばかりを持ち込んでくる。

 王はふたたび壁を殴りながら、一人そう思うのだった。

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