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勇者に見捨てられて死んだ大賢者はゴブリンに転生したので、魔王の配下になって魔族の軍勢を率いる大賢者になる

英雄譚

第28話 「妹を追いかける憤怒の女魔王」

 

 サリエルを連れて門を通過すると、そこには数百ものゴブリン達が緊張したような面で並んでいた。
 その先頭にはブルブルと震える老人ニコラス。

「わざわざ我等の村にお越しいただき、誠にありがとうございます。ふたたび魔王様のお目にかかれる事を光栄に思う所存であります」

 潤んだ瞳を拭いながら、ゴブリン達に合図を出す。
 すると僕にしたみたいに全員が地面に膝をつけて、頭を下げた。
 心なしか、この光景を目の当たりにしているサリエルがニヤついている。

「な……なんじゃ。ゴブリンのくせして、よく躾けられているようではないか!」
「ははぁ!  アルフォンス様バンザーイ!!」
「これ、アルフォンスではなく余を拝むのだ!」
「ははぁ!  サリエル様バンザーイ!!」

 天まで響かんばかりの笑い声の仁王立ちサリエル。
 その姿に感動を覚えたゴブリン達が涙目で拝んでいらっしゃる。

 うん、奇妙な絵面。

「お、おっかえりなさぁぁい!!!」

 村の逆側から聞き覚えのある声がする。
 太陽の日差しのせいでよく見えないのだが、近づいて来るウチにその姿が鮮明になる。

 片手に剣を握りながら、ゴブリンの普段着を着ているノエルだ。
 どうして武器なんかを持っているんだ?  と一同が呆然としながら彼女の方に視線を移動させる。

「ひぃぃ!  助けてくださーい皆んなぁぁ!!」

 よく見てみると、ノエルを追っている巨大な牙を剥き出しにしている猪がいた。
 かなり激怒しているのか瞳が赤いし、周辺の建物を次々と見境なく破壊してしまっている。

 まさか、食料調達のためにゴブリンの狩猟班に着いていったというのか?
 おそらく巨大な猪と遭遇してしまい、狩りの途中で逃げだしたノエルを追いかけたのだろうか。

(いや、どうして追われているのを知っているのに住民のいる村に逃げこんだの!?)

 あの巨躯じゃ損害は避けられない。
 このままじゃ被害が拡散していってしまう。

「お、随分と大きな猪ではないか。ちょうど余もお腹を空かせていた所だ。お主ら!  あの猪を今夜の晩餐にする為に狩るのじゃぁあ!」

 命令するサリエルに対してゴブリン達は一切に声を張り上げながら猪の懐へと飛びかかった。
 だが悔しくも半分以上が猪の攻撃により吹っ飛ばされてしまう。

 それを見届けながら、サリエルは笑いを堪えるように腹をおさえていた。

「いいぞ!  もっとやるのじゃ!」
「あのサリエル様は参加なさらないのですか?」

 妙に先ほどから動こうとしないサリエルの元まで近づき、疑問を口にする。
 もし彼女が参戦すれば苦労しないものの、どうして観戦から離れないのだ?

「当然じゃろ?  余があの猪を相手にしたりしたら瞬殺してしまう未来が目に見えておる。だからこそアルフォンス、余は決して手は出したりはしないぞ!  存分に楽しむと良い!!」

 能天気に面白さを探索するサリエルの性格に呆れる配下、その部下達が彼女に舐めた態度をとる原因がなんとなく分かるような気がする。
 もしここでサリエルが、先日起こった戦争のように敵を一瞬で薙ぎ払ってくれたら見直すのに。

「しかしアルフォンスはいかんぞ!  どうせお主もあの猪を一瞬でひねり倒せる玉なんじゃろ?  
 ならばここは一旦、お主の部下に任せてみてはどうじゃ!」
「っ!」

 どさぐさに溜めていた【爆風弾】をサリエルの言葉で中断させる。
 背中を強く叩かれて、うっかり射出してしまう所だったので早めに中断させて良かった。

 いや、そういう問題ではなく。

「いち早くあの猪を倒さないと、建物の大半が崩壊してしまうのですが……」
「まあまあ、建物の一つや二つぐらい消えたって安いもんじゃろ?」

 それはアンタにとってはだろ!
 こっちゴブリン村では建築、資源確保でもギリギリなんだよ!  
 住民だって月々増えるし、人口が増えていく中で一つの損害であろうと命取りなんだから!

「な?」

 ニコリ。
 なんの変哲もない純粋な笑みを浮かべるサリエルに、みよけがよだつ自分がいた。
 もしここで、彼女の意思を肯定せずに逆らったりしたらその笑みも憤怒の表情へと成り代わってしまうだろう。

「……はい」

 拒否権のない僕は彼女に従い、暴れる猪にはあえて手を出さずに仲間たちを見守る。

 バキ!!

 ちょうど、すぐ側の建物に一人のゴブリンが勢いよく身体を叩きつけ、その衝撃で木造の建物が容赦なく崩落してしまった。

 とりあえずと倒れたゴブリンの元まで駆けつけ回復。
 忠信の契りを交わすことにより魔力を与える事が可能で、そのおかげか身体が強化されたゴブリン達の大半が軽傷で済んでいるようだ。

 しかし、被害が大きなるのも時間の問題である。
 それに巨大な巨躯を誇る猪を倒すのは、いまの彼らでは難しい。

 だが彼らの力量を断定するのは、まだ早いかもしれない。

「オリャアアアアアアアア!!」

 猪がもう一度、建物へと突進しようと身を低くしたその刹那、遥かに高い猪の頭上へと飛び上がる人影が現れる。
 雄叫びに似た声を張り上げながら、人影の振り絞とうとしている棍棒からは異様なまでの魔力が溢れ出ていた。

「これ以上、俺たちの村に手ぇだすなよ獣がぁ!」

 意外にも、その人影の正体がゴブであった。

 驚くのも束の間、ゴブは猪に補足されるより先に額へとめがけて棍棒を全力で叩きつけてみせた。
 辺りの建物はゴブの放った凄まじい衝撃で半壊してしまう。

 しかし、ゴブの攻撃が見事あのデカイ猪を失神させるのに成功。
 猪はそのまま気を失い、地面へと倒れ込む。

 同時にゴブは一回転を披露しながら、華麗に到着する。

「へへっん、どんなもんだい!」

 まさか、ゴブがこんなにもカッコ良く見えてしまうだなんて幻ではないだろうか?  と一瞬だけ疑ってしまったが、どうやら本当のようだ。

「おお!  あの小柄なくせしてあのゴブリン、猪をたった一撃で沈黙させたぞ!?」

 目を輝かせながら隣で興奮するサリエル。
 僕も同様で、まさかゴブがあんなにも強くなっているだなんて思ってもいなかったため非常に驚いている。

「お主、そこのお主!」
「ん、俺………ってか魔王様ではありませんか!」

 駆けつけてきた魔王を見て悶絶でもしそうな表情を浮かべるゴブ。
 サリエルはそんな彼の反応に気づく事なく、手で拘束するようにゴブの両肩を掴んでしまう。

「ひっ!」
「お主、見た目によらず強いではないか?  どうじゃ、余の配下にならんか!」

 勧誘かよ!  と内心ツッコんでしまう。
 隣にいるフランはまるで分かっていたかのように、ため息を吐いている。

「いや、俺はその……」
「別にいいではないか!  余は気にいった者を蔑ろにしたりはせん、それに魔王に認められるということは名誉あることじゃぞ!」

 訳も分からず苦笑いしてしまうゴブ。
 しかし、すぐさま豹変したかのように目を鋭くさせながらゴブをサリエルから逃げるように距離を置いた。

 そして手を前へとかざし、キッパリと言い切る。

「俺にはもう、村を救ってくれたアルフォンスさんという立派な主がいるので、悪いですが魔王様!  その魅力的な勧誘は断りマス!」

 ぎごちない敬語を使いながらも、泣かせにくるような言葉に僕は感動してしまっていた。

 ゴブは元々、良い子なのだ。
 成人しているようだが良い子だし、日頃の行いも良い。
 困っている他人や仲間がいれば何も言わずに駆けつけるし、村の皆からは信頼されている。

 なので彼はゴブリン村に居なければならない、かけがえのない存在だ。
 だからサリエルには諦めてもらいたいところだ、妹のリンも泣いてしまう。

「そっか、そういえばそうじゃったな。いまやこの村はアルフォンスの管理する地となっておったから、余の専属の部下に出来ないのは仕方ない事じゃな」

 案外、簡単にゴブを手放すサリエルに驚きつつ平常運転だってことを思い出す。
 彼女の気まぐれは予想できないぐらい変則のようなものだ。
 フランはまるで幼稚な者を見るような、哀れんだ目をしている。

「ま、魔オォウ様ぁぁ!!?」

 キーン、と耳の奥を刺激されそうな声を張り上げるのはノエルだった。
 あまり大声を出すと、周辺の魔物が集まりそうだ。

「おお、物凄い耳障りな声で喚くなぁ人族よ。そうじゃ、余がこの国を治める魔王じゃぞ!  すごいじゃろっ?」
「こんな子供がぁあ!?  嘘ですよねっ、こんな小さな子が魔王なワケないですよね!!」

 空気が凍りつく。
 人形のように無表情を貫き通していたフランも、目を見開きながら絶句していた。
 ゴブリン達もが全員、口を半開きにしてしまっている。

「ありゃぁ」
「死んだな、あの人族」
「バカなの……魔王様に事実を言っちゃ」

 恐怖する一行に首を傾げる。
 いや、流石にあの魔王がその程度の言葉で憤怒したりしないのでは?

 楽観視する自分を差し置いて、魔王は膨大で黒い忌々しい魔力を発してしまう。

「ぎゃああああああ!!!」

 ノエルがありったけ叫びながら、村の外に向かって逃げ惑う。

「誰がぁぁぁぁぁあ!!  子供じゃあぁぁあっ!!」

 完全に殺す勢いで追いかける、捕食者サリエル。


 帰還して早々に騒がしい出来事の連発で、疲労が溜まっていく一方だ。
 だけど、真の戦場という過酷な光景を前にしても無事に生きている自分が此処に立っている。

 どれだけ皆が騒がしかろうと、それだけで生きているという実感が確かに感じられるのだ。

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