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勇者に見捨てられて死んだ大賢者はゴブリンに転生したので、魔王の配下になって魔族の軍勢を率いる大賢者になる

英雄譚

第27話 「ゴブリン村にやってきた女魔王」

 

 ゴブリン村へと辿り着くまで、移動が数週間もかかっていた。
 同行者が増えたのが理由かもしれないが、蝙蝠族に溢れんばかりの物資を貰い受けたのも原因かもしれない。

 だが、何であれ皆で無事に帰還する事ができた。
 あれ程の大戦に巻き込まれ、それでもなお命があるのは良いことだ。

 だけどゴブリン村の方はどうだろうか?
 エビルゴブリンの侵攻の範囲はブラッティア領地内にある全ての集落や町、国も同様に含まれている。

 たとえ小規模だろうが、奴らの能力は常人を超越した領域にある。
『忠信の契り』を交わしたゴブリンであろうと大人数で攻められたりしたら、ひとたまりもないだろう。

 馬車の中で一人、ソワソワしなが最悪の状況を想像してしまう自分がいた。



「……遅かったの、アルフォンス」

 ゴブリン村を囲う柵。
 その西にある出入り口で無表情に佇んでいる人形のような少女がいた。

「フランさん?  どうして此処なんかに?」

 魔王サリエルの側近である最強の魔族、フランが馬車に近づいてきた。
 彼女の声を聞き取り、鎧を脱いだインナー状態のサリエルが馬車から飛び出した。

 フランは顔を青ざめながらも、飛びついてくる主に対して避けることなく受け止めてみせる。

「可愛い余の傀儡よ!  無事でなによりじゃ!」
「えっ、サリエル様。それってどういう……?」

 馬車から降り、フランに頰をスリスリと擦りながら抱きつくサリエルに尋ねた。

「エビルゴブリンを流石に、殻から出てきたヒヨコ当然のゴブリン供が血ヘドを吐かずに対処できる訳なかろう?  だからこそフランを単独で迎わせて、この村を守護させてもらったんじゃ!  ねっ!」
「……はい、なの」

 という事は、村は無事にエビルゴブリンの脅威を掻い潜ることができたのだろうか。
 比べられないぐらい強者のような妖気を放つフランならば、千人以上ものエビルゴブリンが攻めてこようとも全員を土に還すのは容易い作業だろう。

 見れば、村を囲う柵には外傷が無いし修復する部分は一切見受けられない。
 周辺の木々がいくつも倒れているのは戦闘があったからだろうか、かなり派手にやったものだ。

「だけど、この村を守ったのは私だけじゃないの。ゴブとリン、蝙蝠族とゴブリン族の戦士の協力があったからなの……後は人族の小娘一人」
「ん、なんじゃその小娘とやらは?」

 人族の小娘といったら、破滅的ドジな妹一人の姿しか頭に浮かんでこないのだが。

「あの、その魔王様……それ多分、生前の僕の妹です」

 汗だくになりながら、苦笑いで挙手する。
 この大陸の魔族達は人族を忌み嫌って対立している仲だ。
 上層部の許可がなければ立ち入りが到底許されていない危険地域であり、ましてや魔王の支配している領域内に無断で入ったりしたら処分は免れない。

「そうなのか?  というかお主に妹なんかおったのか?」
「はい。アズベル大陸の方で平凡に冒険者をやっていたそうなのですが……どうやら手違いで魔王国に足を運んでしまったようなんです」
「なるほど。帰る手段がなくてお主たちがゴブリン村に住まわせているという事なのか」

 あれ、思ったより受け入れるのが早い。
 てっきり「処刑だ!!」ってゴブリン村に突進してしまうかと思ったら、大人しそうに腕を組みながら気の毒そうな顔を作っている。

「ええ……そんな感じです」

 実はノエルがゴブリンを殲滅しようとしているだなんて、口が裂けも言えない。
 もしここで口を滑らせたりしたら、間違いなくノエルはこの魔王に殺されてしまうだろう。

「人畜無害なの、私が保証する」

 どこかノエルを小馬鹿にするように言い切った虚ろな表情のフランに頭が上がらなかった。
 けど彼女は決してノエルを擁護しようとしている訳ではなく、本心でそう発言したのは明確である。

「それなら滞在を許そう。しかし、余の目に止まるかは別じゃ。余を失望させるような人族だったら晩餐の食材にするからな」

 唇を舐めながら、恐ろしい笑顔を浮かべるサリエルが本格的な魔王だって事を思いだす。
 失望とは?  サリエルの許容範囲は知らないけど、もしノエルがサリエルを激怒させたりしたら殺されるの?

 そんな事が起きたらしたら、僕は躊躇わず命に代えてもノエルを守ろうとするだろう。
 しかし、この魔王相手にあらゆる能力や『大賢者化』を駆使しようが通用しないのは目に見えている事だ。

 敵対関係になるのは心苦しいけど、家族を守るのは昔からの専門分野である。

「まあ、そんな事をしたりしたらアルフォンスが敵に回りそうで厄介じゃな。せっかくの逸材を逃すワケにもいかん」
「……だったら殺すのは辞めるの」

 フランが恐ろしい視線を向けてくる。
 その意図が理解できないが、ヘタな行動でもしたら首を刎ねられるような威圧だ。

 やはり、魔王サリエルを本人が毛嫌いしても従者である事は変わらない。
 もし敵対心、背後からサリエルを不意打ちでもしたらフランは間違いなく殺しに来るだろう。

「フランの言う通りじゃな。同盟の事でアルフォンスにはせっかく頑張ってもらった事だ、その見返りに妹の死はちと残酷じゃ」

 ちと、どころの騒ぎではないと思うけど、殺める方法を改めてくれたのは有難い。
 あとでフランにでも美味いご馳走や飲み物を振る舞うとするか。

 ヒュン!!

 背後から何かが通り抜けたような気配がしたのだが、気配の主である人物がすでに眼前に攻撃するような姿勢を作っていた。

「……!」

 長耳と細い身体、魔王サリエルのもう一人の配下であるエルフ族がフランにめがけて強力な横蹴りを放っていた。

 一方、平然とした様子でフランは武器を下ろしながら自身の腹部にむかってくる蹴りを片手で受け止めた。

 刹那、衝撃と共に周辺の木々が大きく揺れてしまう。
 すぐ側にいた者たちは全員、予想だにしなかった展開に困惑しながらも衝撃に吹き飛ばされないよう必死に踏ん張る。

「ふふ、相変わらず君って用心深いんだな」

 エルフは眠たそうな目をフランへと当てながら、嬉しそうに口の両端を釣り上げていた。
 そんな彼に対してフランは、まるで分かっていたかのように頷く。

 そのまま反撃する事なくフランは受け止めたエルフの足を離した。

「当たり前なのルシウスさん……急に蹴られても驚いたりはしないけど、極力魔王様の前ではやめるの」
「はいはーい、フランお嬢が言うのなら挨拶代りの蹴りは控えておきまーす」
「ハハハハ!  お主らは相変わらずの仲良しじゃな!」
「……違うの」

「「ええ……」」

 今のが挨拶だという事に驚愕を隠しきれない一同だったが、この場でサリエルだけが何故か甲高く笑っていたことの方が不思議で仕方がなかった。
 いや、それ以前に魔王とその配下達がどうして此処ゴブリン村にまでわざわざ足を運んできたのかを話してもらっていない。


 まあ、どうあれ問題事だけは避けたいという心境は皆んな一緒だろう……。



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