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勇者に見捨てられて死んだ大賢者はゴブリンに転生したので、魔王の配下になって魔族の軍勢を率いる大賢者になる

英雄譚

第26話 「帰ろう」

 

 あれから六時間が経過。
 紛争地帯となったネクロノ地下王国付近の平地には、サリエルの軍となる兵士達用のテントが設営されていた。

 エビルゴブリンには勝利したものの、その犠牲者は想像を絶する程のものだった。
 戦場に転がる大量の死体、折れかかった武器、海のように広がった真紅色の血がその悲劇さを物語っていた。

 死体は処理しなければならない。
 もし此処でずっと放置をしてしまえば腐った死体から大量の毒素が発せられ、そのまま伝染病は魔王国ブラッティア中に蔓延してしまうかもしれないからだ。

 まずは蝙蝠族の兵や戦士を回収して、遺族への戦死報告をするために身元の確認を行う。
 あまりに多すぎる為、全員は無理だったがその代わりに生き残った兵士達は火葬される自分らの仲間に対して冥福を祈った。

 僕もまた、魔族の死後の幸福を祈るために手を合わせていた。

 かつて、人族の命が最も尊いと思っていた時期がある。
 生前は敵も当然である魔族との対峙時、慈悲というものを考えたことが無かったし、躊躇いもそんなには無かった。
 何人もの魔族を勇者達と共に殺めてきた。
 ただ殺せば……いや、処理すればいい。
 それが当然になっていた。

 魔族は人類の脅威であり、混沌を招く悪魔なんだと幼少期にそう教育されたからだろうか?

 だけどかつて、此処『魔の大陸』は自然で豊かだったという。
 凶暴な魔物も少なく、ゴブリンすら居なかった時代が存在していたんだと誰かが記録した本にそう記されていた。

 著者名は文字がかすれているせいで読めなかったが『アラン・ーーーーール』とだけ、下の名前が背表紙に書かれていた。

 内容はその著者自身が冒険時に得た知識や体験、遠い過去に存在した種族や幻獣と遭遇した時の詳細を手記したものである。

 その他にも、かつて王立大学で学んだ歴史とは異なる紀元前の物語が壮大に執筆していたページがあった。


 太古から人族は彼らとの干渉を避けていた。
 この大陸に住まう魔族らも同様、平和のために人族との干渉を堅く避けていた。

 それぞれの生きる世界があり、それぞれの文化がある。
 それは決して交わる事は無いだろう。
 誰しもがそう想像しながら平穏に生きていた時代が、確かに存在していたのだ。

 とある〝少女〟が、女神に与えられた種を植えて人族に魔力を授けるまでは。






 ーーー





「やぁ、随分と久しいではないかエルマートン氏よ。ここ最近、故郷であるネクロノに足を運ぶことが出来なかったから、懐かしい気分じゃ。やはり此処が一番落ち着くのぉ」
「いえいえ、とんでもありません。昔と比べても発展したような部分があまり見受けられない低層な国であり。そんなことよりも地下で鉱石発掘しながら武器を生産しよう、といった輩しかおりませんよ」
「なにも謙遜する事は無い。お主らの最高の鍛治技術があるからこそ魔王国自体が成り立っておるんじゃぞ?」

 パン、と魔王配下であるエルフが両手を叩いてサリエルとエルマートンの話を断ち切った。

「はいはい、もう会合が開始される時間なので本題に入りますよ」

 ネクロノの王国城内、援軍を手配した魔王サリエル含めて蝙蝠族の代表者らが会議室に集結していた。
 はっきりした議題が明確ではないままだが、必要となる情報をサリエル側の配下であるエルフが提示。

 ヴェリル森林にある各集落を小規模のエビルゴブリンの軍が襲撃し、村が二つも落とされてしまったらしい。
 他にも、ここブラッティア魔王国の辺境付近の山脈に位置するネクロノ王国。
 その反対側東方のヴェリル森林に隣接するエルフの都『精霊拝国アヴニール』でも、エビルゴブリンの大規模な軍勢が同様に侵攻してきたらしい。

 幸い、軍事的な面では蝙蝠族より優秀なエルフは防衛ラインを最後まで守りきることに成功。
 被害は蝙蝠族より小規模だったらしい。

「完全に我々の領地内の地形、国々の位置する場所を把握しての計画的な侵攻ですよね。森林の集落に住まう弱い種族をたった少人数で攻め、大国には多勢で攻め込む。内通者がいると疑った方がいいかもしれませんね」

 エルフが予測を口にしながら、この場で最も存在感が薄いであろう僕の方をチラ見する。
 それに釣られて、数人の代表者らが僕に注目していた。

「こら、待つのじゃ」

 疑いの目を僕の方に向ける皆に、呆れるような態度でサリエルは手を挙げた。

「この魔王国につい最近足を運んできた異形のゴブリン、アルフォンスを疑ってしまう気持ちは分かるが。此奴が内通者ではないのは確定じゃ。
 何故ならば、この地にやってきて間もないし短期間で完璧に国の位置や座標を覚えれるとは思えん。もし内通者ならば蝙蝠族のお主らに手を貸す義理は無かったはず。それに、エビルゴブリンの王との死闘がなによりの証拠じゃ」

 もし仮に僕がこの魔王国に潜伏しているスパイなら、エビルゴブリンが不利になってしまうような行動は取らないだろう。
 それにエビルゴブリン王との一騎打ちは、誰がどう捉えようが殺し合いだった。

 サリエルの擁護に安堵し胸を撫で下ろす。
 ここで敵陣だと確定付けられたら行き場を失ってしまうだろう、それだけは何としても避けたい。

「へいへ~い、そういう事にしとくっス」

 と、拍子抜けな感じで適当に賛成するエルフ。
 あんまり疑っていなかったのだろうか、まるで冗談だったかのような返答だ。
 その失礼な態度に周囲はギクリ、と反応してしまうのだが魔王サリエルはニカニカと笑っていた。

「無論、そういう事にするのじゃ!  余は賢いからのぉ!」

 まぁ、よくよく考えてみれば違和感を感じたりする対応ではない。
 魔王でありながら能天気、包容力と統率力が無いのは最初に会って知っていることだ。

 あんな性格だからこそ、サリエルは部下に舐められてしまうのだろう。
 魔王はもっと、気高く賢い短気そうなイメージがあったけどこの女性のせいで想像全部がぶち壊れである。

「ハハハハハ!  そういえばアルフォンスよ、どうしてお主は蝙蝠族の国になんかおるんじゃ!  てっきりゴブリン村で開拓でもしているのかと思ったぞ?」

 そういえば、この人にはまだ言っていなかった。
 今のゴブリン村の資源だけでは、活動の幅を拡大していくには限界が生じてしまう。
 森林地帯だから木々などが豊富だが木造建築に詳しい者が一人して居ない。

 なにより時期に行われる魔の大陸の大戦に備える為の武器や防具、食料が必要となる。
 だからこそ、他国との繋がりが欲しいのだ。

 とりあえず大雑把に説明すると、サリエルは目を丸くさせながら手をポンと叩いた。

「本当なのかエルマートンよ?」
「ええ、誠でありますが……」
「アルフォンスゥウ!  どうして余にそれを早く提案しなかったのじゃ!?  ゴブリン村などの貧相な場所をどうにか改善できないかと一人で悩んでいたのじゃが、案があるのなら最初っから報告してくれぇ!」

 急に豹変したサリエルに首を腕で挟まれ押しつぶされてしまう。
 流石はと言うべきか小柄であろうと、魔王の筋力はそこらの強者を軽く凌ぐレベルだ。
 現に意識が飛びそうなぐらい、容赦のないプレスをモロに受けていた。

「ごほん、サリエル様。その事についてですが、交渉は私の身勝手な判断により決裂いたしました」
「なんじゃと?」

 申し訳なさそうに俯きながらエルマートンはそう告げた。

 数日前。
 同盟の交渉は問題なく進んでいたのだが、エルマートンは僕に『忠信の契り』を交わしたジークとラフレーシアに激怒。
『ゴブリンが嫌い』という捨て台詞を吐きながら同盟の交渉は決裂。
 あの瞬間、国交の未来はこうして途絶えてしまったのだ。

 現に蝙蝠族は戦力を大幅に失ってしまい、あの戦場で僕は戦死した者を救うことが出来なかった。
 力を見せつけ、ゴブリンへの偏見を改めようと計画していたのだが、こんな状況で了承してくれるのだろうか。

「なるほど。昔からお主ら家系にとってゴブリンという種は醜いからのぉ。ならばエルマートンよ、魔王である余の直々の命をお主に言い渡そうと思うのじゃが、聞くも断るもお主次第じゃ」
「ハッ、サリエル様の命ならば」

 魔王サリエルは腕を組み、真剣な顔で要求した。

「ならば言い渡そうエルマートン。ゴブリンとの同盟を……」
「申し訳ございませんがその命ならば、もう必要はありませんぞサリエル様」

 ラフレーシア、ジーク。
 その他の蝙蝠族の代表者やゴブリン達が見守る中、今まさに命令を出そうとするサリエルの言葉をエルマートンは遮った。

 エルマートンは目を瞑り、小さく微笑みながら僕の方へと視線を移動させる。

「アルフォンス殿よ、貴殿に行った数々の無礼を今ここでお詫び申し上げたい」

 席から立ち上がり、弱々しく頭を下げられてしまう。

「いえ、そんな!  僕にも所為があったので謝罪だなんて……」
「儂らが貴殿を見誤っていた事実は拭えません。それに、これは儂の意思でもあります」

 予想だにもしなかったエルマートンの突然の言葉遣いや行動に衝撃を受けるも、エルマートンはそのまま僕の方まで歩み寄り、片膝を床につける。

 そして僕を見上げる態勢で、エルマートンは真っ直ぐでどこか悲しそうな瞳を向けてきた。

「しかし、その前に貴殿にお願いを聞き入れてもらいたい。どうか儂ら蝙蝠族と〝同盟〟を結んでいただけないだろうか?」
「……!」

 これは幻聴ではない。
 蝙蝠族の王であるエルマートン・ハーマンが確かに、そう告げたのだった。





 ーーー





 こうしてゴブリンと蝙蝠族の同盟が締結された。
 成立するのに時間はそうかからなかった。

 賛成派の大半は戦場の生き残りの兵士の上官や戦場に赴いていた戦士達だったが、反対派も無論いた。
 ゴブリン族を忌み嫌う輩は沢山いたが、国王エルマートンがネクロノ国民にかなり壮大な演説をしてくれたおかげで賛成派が増え、数週間で同盟は正式に成立された。

 あとはゴブリン村の皆にその事について報告をする為に帰還しなければならないのだが、数人の蝙蝠族を連れて行く事になった。
 木造建築を専門にした大工が数人、鍛治師が数人、あとは兵士が数十人。

 国王の命令で派遣された訳ではなさそうだが、数人は「地上に住んでみたい」という理由で来て働いてくれるらしい。

 これでやっと一歩、前進することができたのだろうか?

 夕暮れ、馬車が揺れる荷台の中で沈みゆく太陽を見つめながら思う。
 これから先、この同盟によって自身が思うような結果に辿り着けるかは分からない。

 世の中は、どれだけ知識と賢さを持ち合わせても上手くいかないような事が山ほど存在している。
 その道筋に沿って歩いているかもしれない、あるいは何事もない理想郷へと辿りつけるかもしれない。

「さて、帰ろうか」

 振り向き、堪えることの出来ない笑顔で仲間達にそう告げるのであった。





 想像を絶する苦痛と絶望に見舞われ、それでも得ることができた一欠片の安堵と安らぎ。

 これがどう未来へと結びつき、どう転ぶかは誰も予知することは出来ないだろう。

 だからこそ、姿のない未来へと向かうために彼は歩み続けるのだ。
 どれだけその身体に傷を負おうとも、苦難に挫けようとも、どのような過酷な結果が待ち受けていようとも。


 ーー青年はただ、真っ直ぐに進むのであった。

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