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勇者に見捨てられて死んだ大賢者はゴブリンに転生したので、魔王の配下になって魔族の軍勢を率いる大賢者になる

英雄譚

第25話 「切断されてしまった能力」

 

 意識が呼び戻されるような感覚が身体中を行き渡り、同時に今までの経験から感じた事のない物凄い脱力感に襲われてしまう。

 【大賢者化】心の中に潜む七人の英雄を体に憑依させる能力であり、彼らの武勇伝や歴史に基づく詠唱を唱えると自動的に意識を英雄に操作させることが可能となる。
 憑依の持続時間は数十分。
 その間は憑依させた英雄に身体を自由自在に操ってもらい、術者本人は意識を共有させた英雄が見ているモノを持続時間が切れるまで観戦する形である。

 悪鬼王との戦闘は十分程度。
 いつもなら二十分間は【大賢者化】を保てられる筈なだが、まるで急に相殺されたかのように意識を共有していた英雄の気配が弱まっていた。

『すまない……アル君。なんだか良くない事態が起こったみたいだ……』

 僕の脳に直接、英雄の声が流れ込む。
 余裕のある傲慢でギザっぽい口調が乱れてしまっている。

 悪鬼王に槍を投げつけられ、それが胸を貫通した途端に大賢者の能力が段々と弱体化……いや、解除されていくような感覚だ。

「………はっ」

 引っ張りだされた意識が本来の身体へと戻り、英雄の気配は完全に遮断されてしまった。
 それだけではない、たった一瞬で大量の魔力が体内の器から消滅している。

 他には何か、機能が停止している部分は無いかと手探りで身体中を確認。
 胸の中心を悪鬼王の槍で貫かれたのは確かだ、しかし何故だろうか痛みという感覚が一切感じられない。

 胸に手を当ててみても外傷は無かった。

 おかしい、大賢者化で意識を共有していた英雄の目では悪鬼王の槍が僕の胸を貫いたのは確かである。
 それなのに何事も無いぐらい、痛みが全くしない。

 だけど、あの攻撃が身体を通り抜けた瞬間に魔力を強引に吸い出されていくような感じがした。
 振り返り、悪鬼王が投げた槍を探す。

 だが、そこには何も無かった。
 何故ならば、槍はすでに所有者の手元にまで戻っていたからだ。

「……我の渾身の最大技を受けても尚、尽きようとしない魔力総量。能力を切断する呪いさえ食らっても負担が見受けられない」

 空気を切り裂くような声と困惑した様子。
 ありえない存在、異形を目の当たりにしたかのような眼光を悪鬼王に向けられていた。

 顔を上げて、ソイツと目を合わせる。

「貴様、本当にただのゴブリンなのか……?」

 いつしか弱者を見下すような視線が悪鬼王から消え去る。
 その代わり警戒と探究心、闘争心と殺意が入り混じる雰囲気を投げかけられているようで不快感が消えない。

 一体どうしてこうなってしまったんだ……?

 能力を切断する呪い。
 もしや先ほど胸を貫通した槍は肉体に直接ダメージを与える訳ではなく【大賢者化】を強制的に打ち切ったというのか?

「【爆風弾】!!」

 なけなしの魔力で注いでみせた風魔法を全力で悪鬼王へとめがけて射出する。
 だが、当然のように軽々しく槍で弾かれてしまった。

「これ以上抗おうとしても無駄だ。貴様の敗北はもう等に決まっている、我がそう宣言したのなら尚更」

 恐ろしく笑みを浮かべながら、悪鬼王は狂気に染まった妖気を放ちながら徐々に接近してきた。
 ならば絶好の的も当然、再び手を対象へとかざしながら得意の風の元素を使用する。

 微かに体内に循環する魔力と大気の魔力を融合させながら、攻撃魔法の準備に取り掛かった。

「煉獄の嵐【テンペスフレア】!!」

 悪鬼王を中心に発生させた嵐の如く狂風にめがけて、火の元素である攻撃魔法を放ってみせた。
 巨大な炎は嵐に飲み込まれ、その規模を拡大させる。

 嵐は真っ赤に染まり、熱風が戦場を駆け巡った。
 無我夢中になりながらも何度も何度も、放てる分だけ炎魔法を嵐へと放ってみせる。

「【エクスティンクション】!!」

 横からラフレーシアがさらに嵐へと魔術を打ち込んでいた。
 援護するのは彼女だけでなかった。

 ラフレーシアとジークの父であるエルマートンもが、強力な電撃を炎の渦へとめがけ放出する。
 その反動で完全に飲み込まれて姿が見えなくなった悪鬼王を中心に大地のあらゆるところに亀裂が生じ、プラズマに似た現象が起きていた。

 これなら、この火力なら殺りきれる。


 そう思っていた。



 悪鬼王は平然と嵐を通り抜け、ズタボロになった身体を再生してみせた。
 それがどれだけ僕らの最後の切り札と言えるべき手段、希望と期待を大きく打ち破ったのかが想像もつかなかった。

 この瞬間、絶望からは逃げることは決して出来ない。
 いままで遭遇してきた記憶は無いのに、何故なのだろうか?
 エビルゴブリンがそういう種なんだと、誰よりも知っているような気がした。


 入り混じる絶望と失望、死への恐怖。
 どれだけ言葉を並べても、どうれだけ苦境を乗り越えても、その先に敗北が確定された未来が変わらずと待っていた。

 それを変えられる方法は無い、思いつかない。
 所詮、大賢者という称号をつけられようが飾りにしか過ぎないも当然、人間には必ず限界は存在している。

 それには生前、何度も行き着いた領域だ。
 だからこそ言える、僕だけではない。
 この場にいる皆はやつの手によって確実に殺されてしまう。



「ーーよくぞ、ここまで保ってみせた我が配下アルフォンスよ。後の事は余に任せるのじゃ」


 唐突に遥か上空から物凄い勢いで地上へと落下してきた小柄な人影が地面に辿りつくと、強烈な破裂音と振動が周囲へと容赦なく轟いた。

 衝撃が間近にいた者を巻き込むように襲い、吹き飛ばされないよう全員が地面にしがみついていた。

「………!」

 穏やかの微塵もない、荒々しい登場を迎えた人物をこの場にいる皆が恐る恐ると見上げる。

 そこには機嫌の悪さをハッキリと顔に浮かべながら、赤髪を逆立たせた仁王立ちの魔王サリエルがいた。
 右手には魂を喰らうとされる死神が所持していそうな、鋭利な刃をギラつかせる鎌が握られている。
 サリエルの二倍のデカさはあるだろうか、あんなのを片手で持ち上げる者なぞ彼女ぐらいしかいない。

「……貴様が魔王国ブラッティアの支配者、魔王サリエルか」
「お主の事は知らんが、よくもまあズカズカと余の支配領域に足を踏み入れて、見境なく暴れおったの……エビルゴブリンよ」

 怒りを抑えきれず、サリエルは地面を砕かんばかりの威力で一歩踏みしめた。
 彼女の踏んでいる地面の表面はもはや重量関係無しに勢いのある着地だけで、その原型は失われてしまっていた。

「余の大切な民、優秀な配下であるアルフォンスを地につかせた以上、余の逆鱗に触れてしまったも当然じゃ!」

 爛々と輝くサリエルの瞳が閃光を描き、悪鬼王が反応するより先の一歩、二歩先を行く速度で鎌を上横に振り下ろしていた。

 そのまま悪鬼王はなす術なく体を斬り裂かれ、サリエルが武器を振り下ろすという動作だけで衝撃が発生して悪鬼王を飲み込んだ。
 侵攻してくる軍へと物凄い勢いで吹っ飛ばされ、悪鬼王は数百メートル先で地面に叩きつけられてしまう。

「お主らゴブリンもどきは余の軍勢で殲滅じゃ!  泣いて喚き、自分らの行いに対しての悔いを抱きながら死ね!」

 サリエルの宣言通り、エビルゴブリンの軍が侵攻してきた方向へと大規模な魔族の軍勢がいつのまにか進軍してきていた。
 エビルゴブリンと同等か、それともそれ以上の人数が後方のエビルゴブリンを次々と薙ぎ払っていく。

 そこには馬に跨った『エルフ』や、肌白い血の気を失ったような表情をした『吸血族』が波のように敵陣へと容赦なく攻め込んでいた。

 次第にエビルゴブリンの陣形を崩れていき、勝ち目が無いのを悟ったその瞬間に奴らは武器を捨てて散開するように敵前逃亡を図った。
 それを止めようとする生き残りのエビルゴブリンジェネラル達だったが、サリエルの配下の証を刻まれた数人の者の手によって抵抗する事も許されずに切り捨てられてしまう。

「チッ、まだ生き残りがおったのか」

 サリエルは振り返り、僕の背後で黒いローブを羽織ろうとしているエビルゴブリンの少女を標的として定めようと鎌を振り絞る。
 しかし、僕はそれを制止していた。

「サリエル様……あの子に手を出すようであれば、この僕が許しません。どうかその武器を下ろしてください」

 無謀に等しい要望にサリエルは耳を貸してくれるのだろうか、僕の頼みごとを聞いてくれるのだろうか?
 魔力を最大限まで使用し、出来るだけの手を尽くして力を発揮してみせた、おかげか動く事はもう困難だ。

 そんな状態でも、僕は必死にサリエルへと頭を下げよとしていた。
 しかし、それを止めるように肩に手が置かれる。

「お主は良くやった。きっとロクでも無い事は考えないはずじゃ……だからこそ、その願いを聞き入れよう」

 そう言いながらサリエルは傷だらけの少女を睨みつけ、特に言葉を発する事なく威圧を放っていた。
 まるで少女に『気が変わる前に早くこの場から立ち去れ』と言わんばかりだ。

 それを察し、少々躊躇うも少女は僕の方を見て唇を開いた。

 ーーマタ……ネ……ゴブリン……サン

 慣れない口調を披露したことにより少女は頰を一瞬だけ赤らめてしまうが、すぐに無表情へと戻る。
 そのまま僕達の目の前から離れ、吹っ飛ばされた悪鬼王を抱えながら離れていってしまった。

「……アルフォンス様」

 ボロボロになった蝙蝠族、その他のゴブリンのみんなが安堵したかのような視線をこちらへと集める。
 それもそうだろう、サリエルの軍勢の乱入のおかげで侵攻してきていたエビルゴブリンの軍を追い払う事ができたのだ。

 あまりの急展開に思考がまだ受け入れてくれない。
 だけど確かなのは、自分がまだ生きている事だ。



 それから数万もいたエビルゴブリンは、突如と戦場に駆けつけてきた魔王サリエルの軍勢によって大半が殲滅された。
 だが生き残った数千もの残党は消滅するようにその姿を途絶えさせ、不思議にそれから一匹の発見に至ることは何故かなかった。

 多大な損害、死者を出してしまったのは蝙蝠族の住む山岳地帯だけではなく、森林地帯までもがエビルゴブリンの軍勢によって侵攻されていたという。
 ゴブリン村も勿論、エルフ族や吸血族も同様である。
 だが、幸いにも魔王サリエルの即時の対応のおかげで各地に発生したエビルゴブリンの軍が魔王国の機能を停止させる事はなく一掃された。

 それだけではない、魔の大陸全体。
 サリエルの支配下に限らず、四つに分断された他の魔王国までもがエビルゴブリンの大量発生によって大規模な被害を受けたらしい。



 その理由を知る者は誰一人としておらず。
 謎を抱えたまま不安と恐怖に包まれた『魔の大陸』に、数千年ぶりの静寂が訪れるのであった。

「勇者に見捨てられて死んだ大賢者はゴブリンに転生したので、魔王の配下になって魔族の軍勢を率いる大賢者になる」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

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