勇者に見捨てられて死んだ大賢者はゴブリンに転生したので、魔王の配下になって魔族の軍勢を率いる大賢者になる
第24話 「賢者アルフォンスvs悪鬼王」
【大賢者化】になる事によって固有の能力の『魔力接触』と『魔力分解』が統合可能となり、その二つを合わせることによって新たに生まれる限定能力が『原理崩壊』。
『原理崩壊』は魔力によって形成、生成された物質や物体に触れる事によってその形状を破壊して魔力へと還元する能力である。
その後、重なるように『原理分析』を起動させながら散乱した大気の魔力を『魔力接触』で自由自在に吸収。
『原理分析』を行う事により相手の魔法を大賢者化中にだけ習得可能となる。
よって、魔力によって形を成り立たせた悪鬼王の無限の槍【インフィニティ・フルム】を全てアルフォンスは『原理崩壊』で吸収させ『原理分析』で瞬時に習得してしまったのだ。
それを目の当たりにして、悪鬼王は動揺を露わにしてしまう。
しかし、すぐさま次の段階へと移行する。
一目見て悪鬼王は自身の攻撃が消滅された理由をすぐには理解する事はできなかった。
だからこそ攻撃の手を緩める訳にもいかず、再び無数もの槍を生成させてアルフォンスにめがけて放つ。
「悪いけど、僕には魔力は効かないんだよ」
ギザっぽくウィンクしながら、アルフォンスは先程の槍の群衆を消滅させる時と同じ動作を行う。
瞬間、悪鬼王の放った槍が消滅。
その消滅時に散乱した魔力をアルフォンスは何事もなかったかのように吸収させる。
「ぬぅ!?」
今度はアルフォンスの頭上に無数もの槍が出現。
鋭利な武器が空中に並べられ、その光景を眼前にして悪鬼王は奥歯を噛み締めた。
「無限の槍【インフィニティ・フルム】!!」
アルフォンスは悪鬼王にめがけて槍を返すように、凄まじい速度で放ってみせた。
ズズズズズズズズズズズズズズズッッ!!!!
一切に標的にめがけて飛んでいく槍の群衆に、悪鬼王は手に握る槍で弾いていく。
そのまま数十本を受け流し、地上へと難なく叩きつけることに成功。
しかし、アルフォンスの魔力器に秘められている魔力の量は悪鬼王と比べるものにならないほど膨大なためか、降り注いでくる槍は一向に止むことはなかった。
回避するのも手間だと感じ始めた頃、悪鬼王も同様の魔法を発動。
回避しながら、一瞬の隙を見計らって槍を魔力で生成させてアルフォンスにめがけて放つ。
だが届く事もなく、槍はアルフォンスの生成された槍に叩き落とされてしまう。
攻撃だけではなく防御として利用された自身の魔法に悪鬼王は新たな可能性を感じるも、アルフォンスの槍がその脚を貫いて思考を中断。
「っ!?」
余りにも深く突き刺さった為、流石の悪鬼王であれ激痛に声を漏らしてしまう。
しかし、傷は自動治癒の能力で回復。
肉体的なダメージは消えたが、精神的なダメージは確かなものだった。
アルフォンスは攻撃を止めようとせず、ひたすら悪鬼王と魔法を使い続けた。
ずっと連射される槍を回避しながら、悪鬼王は周囲で蝙蝠族の軍と対峙しているエビルゴブリンに命令をだした。
「奴を攻撃しろ!!」
たった一言、そう命令されたエビルゴブリン達は悪鬼王へと槍を放ち続けるアルフォンスに注目する。
残党当然の蝙蝠族らを切り捨てながら、数十ものエビルゴブリンがアルフォンスに飛びつく。
刹那、それを許さない者達が飛びつくエビルゴブリンを全力で薙ぎ払った。
「アルフォンス様に手を出す輩は、俺たちゴブリンが許さない!!」
ちょうど、この戦場に到着してきた者達の姿を確かめるためアルフォンスは視線を移動させた。
そこには蝙蝠族の鎧を身につけ、エビルゴブリンの返り血を浴びたアレスとその他のゴブリン達が頼もしそうに立っていた。
「アレス君ではないか!  わざわざ助っ人してくれてありがとう、助かる!」
「いえいえ、元より俺たちはアルフォンス様のお側で戦うために付き添った身。指示通りエビルゴブリンの軍の側面から割り込ませてもらいました」
照れながらアレスは頭を掻いていると、唐突にその背後から『エビルゴブリンジェネラル』が音もなく迫っていた。
「アレス君!」
振り上げられた金属製の武器がアレスにめがけて振り下ろされる、まさにその瞬間ーー
「おい、油断してんじゃねぇぞアレス」
横からたった一撃で吹き飛ばされたエビルゴブリンジェネラルは、あまりの威力で絶命してしまう。
「主であるアルフォンス様を互いにお守りする身だ。くだらない事で心配を掛けさせるなっ!」
アレスの危険をすぐに察知し、その身を救うためにエビルゴブリンジェネラルをたった一撃で屠ったのがラフレーシアだった。
「………あ」
剣を担ぎながら周囲の状況を把握しようとしているラフレーシアを見つめるアレスの頰が、微かに赤らんでいるようにも見えた。
ラフレーシアはそれに関して気も止めずにアレスの肩を叩いて、苦戦する仲間の元へと駆けつけるために走り去ってしまった。
「ラフレーシアさん、なんて気高く美しい女性なんだろう……はっ、そうじゃなくて!」
見惚れている場合ではない。
我に返ったアレスは蝙蝠族の陣地へと、そのもっと先にいる者達に聞こえるぐらいの合図を出した。
ウォォォォォォォォォォォォォォォォ!!!!
雄叫びを上げる者達の声。
全滅寸前の蝙蝠族の軍に加勢するため、ネクロノ王国に残されていた数千人もの蝙蝠族の兵士達が出陣していた。
だがまず、向かう先は戦場ではなく負傷した仲間達の元である。
「……エルドラドさん?」
負傷した兵士の元へと駆けつけた、武人の如くオーラを放つエルドラドは何かのガラス瓶を手にしていた。
「しっ、喋るより先にこれを飲むんだ。ゴブリンから貰ったよく効く回復薬のようだ。誠かは判断できないが無いよりはマシだ」
そう言いながらエルドラドはガラス瓶の中身に入っている液体を兵士に飲ませてみせる。
途端、あらゆる傷が塞がり始めた兵士の瞼が勢いよく開かれた。
「傷と痛みが消えたぞ!  それも瞬時に!  しかも魔力も回復しているような……これは、どういう事なんですかエルドラドさん!」
「いや、俺に聞いても分からんぞ」
思った以上の効き目に周囲の負傷した兵士たちが次々にゾンビのように復活していく。
だが包帯の下には傷は無く、全身を確認しても完治している状態だ。
エルドラドは頭に疑問を浮上させながらも、ゴブリンに渡された大量の回復薬を布袋に詰めながら戦場を駆け巡る。
途中、見覚えのある老人が膝をつけているのを発見した。
「陛下!  ここにいらっしゃったのですね!」
身体中に傷を負った蝙蝠族の国王エルマートンが、声に反応して振り返る。
一瞬、敵の者ではないかと警戒した様子でエルドラドは睨みつけられてしまうが、自身の兵だと分かってすぐ安堵するような声を漏らした。
「なんじゃ、それは?」
見たことのない回復薬を受け取ると、エルマートンは目を細めながら瓶の中身の液体を見つめた。
「ゴブリンに渡された回復薬のようです。一見、怪しいようですが口に含めた兵士らは全員何事も無かったかのように回復していっています」
「ゴブリンの、もしや……?」
エルマートンの脳裏に浮かんだのは、アルフォンスとの同盟の交渉時に取引として提案されたゴブリン村産の回復薬。
あまり利益にはならないと判断して切り捨ててしまった取引だが、いざ飲んでみると効果は抜群である。
痛みが徐々に引いていき、気づかない内に傷は完全に治っていた。
不思議な感覚に感激しながら、エルマートンは立ち上がり戦場の方へと視線を移動させる。
そこには敵の親玉であるエビルゴブリンロードと対峙するたった一人のゴブリンがいた。
これ以上、侵攻させまいと敵を食い止めるラフレーシアとジーク、その他の同胞達と途中で乱入してきたゴブリンたち。
彼らがあんなにも必死に死を間近にしながら戦っているというのに、自身が立ち止まってどうする?
エルマートンは首を左右に振りながら立ち上がり、旗に近い形状の武器を高く掲げる。
敗北を覚悟し、なにもかも諦めてしまった同胞へと告げるため、エルマートンは戦場に響き渡るぐらいの声を張り上げた。
「ーー敵に弱音を見せるでない!  儂の築き上げてきた国の兵士は、儂の知る限りここまで軟弱者の集いではない!    顔を上げろ!  前を見ろ!  そしてその目に焼き付けろ!  命を賭してまで戦う者たちの姿を!  儂らより弱者であった筈のゴブリンが今や、目的の為にこの戦況を乗り越えようと勇敢に血肉を浴びている!  なのに儂らが絶望に打ちひしがれてはどうする!  国を守るべきは儂らであって彼らではない!」
武器を捨て去った者、戦いを放棄した者、死という恐怖に侵食された者達が次々と視線を上げる。
そこには、蝙蝠族の紋章が記された旗を高く掲げる国王の姿をがあった。
「さぁ武器をとれ!  鎧を纏え!  今こそ儂らの真の力を見せつける時だ!!」
悪鬼王と一対一で対等に渡り合っているゴブリンの姿を目の当たりにした兵士達は不思議にも絶望を忘れ、武器を手に握りしめながら王の背中を追うように走りだしたのだった。
ーーー
槍の衝突し合う音が十回、二十回も続いたところで金属音が唐突に鳴り止んだ。
魔力に余裕がアルフォンスだったが、流石に無限も敵の魔術を使い続けられる筈もなかった。
悪鬼王も同様、魔力消費を抑えるために無駄撃ちを止める。
「ここまで、我が翻弄されるのは過去にゴブリンの王と対峙した時だけよ……貴様は同等かそれ以上を行く者かもしれん。しかし、我が勝利するのは必然だ。覆すことは不可能だ!」
そう言いながら、アルフォンスにめがけて巨大な槍を振り絞る。
完全に真正面から投げてこようとする態勢に、アルフォンスはすぐさま対処する為に魔術を起動させようとしたが。
「『………!』」
悪鬼王が誰かの名を口にして、呼びかけたような気がしたアルフォンスは特に気をとられる事は無かった。
気のせいかも知れない、そう思った。
ーー背後からの攻撃を食らうまでは。
「がはっ!」
強い風にでも押されたかのような感覚が背中を走り、その正体を確認するためにとっさにアルフォンスは振り返る。
そこには、怯えるように汗を大量に流すエビルゴブリンの少女が手をかざしていた。
(まさか!  あの子が僕を……!?)
驚愕しながらも、悪鬼王が放とうしている攻撃に備えようとしたがーー
ーーもはや目では追いかけることも出来ない速さで風を穿つ、狂気に包まれた槍の先端が勢いを一切衰えさせる事なく、アルフォンスの胸を容赦なく貫いたのだった。
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