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勇者に見捨てられて死んだ大賢者はゴブリンに転生したので、魔王の配下になって魔族の軍勢を率いる大賢者になる

英雄譚

第22話 「怠惰の女癖」

 

 蝙蝠族の主力となる存在のラフレーシアとジーク。
 両者が放ったことによって日光を遮る薄暗い曇天は強風に煽られ、戦場の所々に薄日が差さるようになっていた。

 そんな中、光芒に包まれながら鮮やかな姿を顕して地上に降りる者一人がいた。
 それが自分自身なんだと暗闇に意識が遮断されていく寸前に自覚する。
 とり憑かれるような感覚を最後に、朦朧とする意識が敵を倒せと嘆いていた。


 それを見上げる少女は、落下する男が何かを握りながら自分へと落下している事に気がつく。
 すぐさま、瀕死となったラフレーシアから離れる。

 しかし、落下速度が加速していく男から十分な距離をとることができず、全て破壊しかねない重量感が一気に戦場を駆け巡り、大規模な衝突音が周囲にいる者の鼓膜を振動させた。
 異常なまでの揺れに場は一瞬にして静寂に包まれ、まるで時が停止したかのように男へと視線が注がれる。

「………アルフォンス……様?」

 絶望に駆られ、寸前の死に恐怖を覚えていたラフレーシアの目尻が涙で潤んでいた。
 彼女の口にする名は、この戦場へと前触れもなく降り立った男に向けられる。

「もう、大丈夫だラフレーシア……安心して観戦でもしてくれ」

 しかし、アルフォンスと呼ばれた男は決して彼女の方へと振り向くことは無かった。
 本来とは似つかない口調でただ言葉を返すだけ。

 温厚とは裏腹で、その恐ろしげな佇まいにラフレーシアは背筋を微かに凍らせていた。

「そこの少女よ。君なのかい、僕の臣下達を傷つけたっていう悪い子は……フフ」

 頰にかすり傷を与えられ血を垂らす少女は、唐突にアルフォンスの放った笑みに対して生理的拒絶を感じ後ずさりしてしまう。
 さらにその視線は、破けた服装から曝け出される薄黒い自身の肌に向けられ、少女は恥じらうように身を両手で隠した。

「おっと、あまりにも美しいので見惚れてしまったよ……君のような可愛い容貌した魔族はなかなか居ないから非常に珍しい。どうだい、良かったら僕とーー」

 ふいに仕掛けられた少女の攻撃をアルフォンスは、眉に動揺を露わにする事もなく受け止めるのだった。
 アルフォンスの発言中に気配を押し殺し、完全に不意打ちに近い速度での攻撃を仕掛け、致命傷を避ける部分の命中を確信していた少女は驚愕を瞳に浮かべていた。

 アルフォンスが握るのは、透明にも近い金色の剣身だった。
 なにより、その鮮やかな翠色の柄にはめてある青い宝玉が存在を醸しだしていた。

「あれ、ま。お茶は嫌なのかい……?  まあ、それもそうだよね。いくら君自身もがゴブリンであろうと、こんな醜い緑色の怪物とは縁を結びたくないよなぁ」

 鍔迫り合いでは余裕のある様子でアルフォンスは、少女の剣を軽々と押し返す。

「ねぇ、お茶が嫌なら名前はどうかな?  名前ぐらいは教えてもらったってバチは当たらないだろう?  ね、いいでしょ?」
「………」

 頰に汗を垂らしながら明らかに不快感を表情に浮かべている少女は、さきほどラフレーシアを圧倒していた筋力をありったけ剣に注いでみせた。
 至近距離での囁きが、あらぬ方向で少女を突き動かす。

 これ以上は、この男と会話をすべきでは無いと判断したのだろう。
 完膚なきまで叩きのめす眼光をアルフォンスへとかざした。

「ふぅん、ダメか。熱い視線はありがたいけど、どうやら君じゃダメみたいだ」

 呆れたように目を細め、男は少女を弾いた。
 瞬間、少女は今までに無い衝撃を全身に浴びてしまう。

「ガハ!?」

 アルフォンスの剣が直撃したワケでも無いのに、自分自身の剣を弾いただけで打撃を受けたかのような激痛に見舞われてしまった。
 魔術を使用したわけでは無いのは動作からして明らかである。

 アルフォンスは瞬きもせず、冷たい視線で唾を吐きだす少女を見下ろす。
 そのまま再び剣を振りかぶる。

「………!」

 直撃を回避するため、少女は軌道を先読みして剣を構えた。
 予想通りの位置に剣がぶつかり合い、なんとか直撃を防いだ。

 しかし、再び少女は腹部を斬り裂かれるような感覚に突如と見舞われてしまう。
 あまりの激痛に腹部を抑え、少女は地へと膝をつけてしまった。

「無駄だ、僕には常識の範疇での剣術は通用しない。たとえ先を読もうが、変幻自在で繰りだされる斬撃の向かう先は僕であろうと予測できない」

 彼の言うとおり、通常では肉眼では捉える事のできない攻撃が虚無から少女にめがけて連続で放たれていた。
 その重さは本人の放つ斬撃に劣る威力だが、的を翻弄するには十分なのである。

 現に少女はワケも分からない虚無からの斬撃で地に膝をつけていた。
 アルフォンスは冷静に告げると、剣を頭上へと掲げる。

「可愛らしい少女を斬るだなんて僕としては非常に心苦しい……だけど、彼の仲間を窮地に追いやった償いをしてもらおう」

 地ち伏しながらラフレーシアは目を疑った。
 眼前で剣を握る男はアルフォンスとは全くもっての別人である。
 彼女は目の前の男を目の当たりにして断言した。

 気色悪い発言と本人のイメージを覆しかねない奇妙な口調、異常なまでの冷たさと容赦の無さからして温厚なアルフォンスの性格が目の前の人物とは到底結びつかなかった。

 なにより、アルフォンスは剣術を会得していない魔術師だ。
 剣術の心得の大半を研究で身につけているようだが、剣を振るうほどの技術と技量がアルフォンスには無い。

 それに、魔術に特化しながらも剣を握るのは不自然すぎる。
 まるであの剣とは度重なる苦難を超えた相棒かのように、手足のように扱えていた。

 狂剣【モルタル】を超えるであろう重量の、あの剣を軽々と棒切れのように振えるのは自身であろうと困難であろうとラフレーシアは感じとれていた。

「最後に言い残すことは無いかい……?」

 人を殺める躊躇いがない冷酷な問いに、少女は小さく身震いした。
 敵わない、このままでは死んでしまう。

 遠い目で、助かる手段を脳裏で模索している少女に猶予を与えている暇がないのを判断したアルフォンスは振り上げた剣に力を込めた。

 しかし、それを許さないエビルゴブリンの兵士達がアルフォンスを邪魔するように割り込んでくる。

「……チッ、むさい男には興味は無いんだよ」

 左の手首を右手で抑えるように握りしめながら、アルフォンスはそれを向かってくるエビルゴブリンの兵士達の元へと定めた。

「【爆風斬】」

 風切り音と共に、刃が対象を通り抜ける。
 そのままアルフォンスの魔法の餌食になった対象が次々と肉塊と化してしまう。

 血しぶきが噴水のように周囲に飛び散り、その光景に少女は恐怖を覚えた。

「邪魔者がまだまだ居るようだけど……」

 アルフォンスは怯える少女をチラッとだけ見てからラフレーシアとジーク、生き残った蝙蝠族らを交互に見渡す。

「とりあえず、君は殺さないでおくよ」

 その発言に驚いた表情を浮かべる少女を尻目に、アルフォンスは倒れた仲間の元へと歩む。

 懐から緑色の液体が入っている小さな瓶を取り出し、蝙蝠族らにそれを次々と飲ませた。
 途端、戦闘で負った傷と疲労がみるみると回復していき、数分もかからずに何事もなかったように全員が武器を手にして立ち上がっていた。

 最終的にはラフレーシアとジークにも飲ませ、傷が癒えていく間にアルフォンスは彼らにある事を命令した

「あの子には手を出すなよ」
「!?」

 腕の骨折が治ったラフレーシアはアルフォンスの命令に耳を疑いながら信じられない、といった顔をみせる。

「どうしてなんですか……?  急にそのような命令をだして、正気なんですか!  あの子娘はエビルゴブリンの中でもズバ抜けて危険なんですよ!  今だからこそ、後先の後悔に繋がらないよう処分すべきです!」

 彼女の言う通り、後先この少女もアルフォンス達の脅威になるだろうし、ここで斬り捨てた方が良いだろう。
 しかし、異常なまでの少女の異様な行動に違和感がある。

 ここに降りる直前、少女はラフレーシアを斬ろうと剣を持ち上げていたが、すぐさまその動作を停止させた。
 途端、彼女からは闘争心が嘘のように消滅したのだ。

「君も見ていたなら分かるだろうラフレーシア。あの少女は、君を斬り殺そうとしていたのを一瞬だけ拒絶していた」
「っ!」

 実際、直接本人に確かめなければ分からない推測だが、あの少女は他のエビルゴブリンとは違って本能的に暴力と殺戮を求めているようには見えない。
 現に、背中を向けて仲間を治療しようが少女は斬りかかろうともしない。

「君も蝙蝠族の戦士なら殺意の無い刃を持つ女の子には、剣を振りかざしたりはしないだろう?」

 ラフレーシアは声を漏らすも言葉を詰まらせ、納得いかないような顔のまま俯いてしまう。
 対してジークは目を伏せたままである。

 アルフォンスはそのまま、仲間全員の治療を終わらせるとふたたび攻めてくる敵の方へと視線を移動させた。

 眼前には、大地を覆うほどのエビルゴブリンの軍勢がまだ残っている。
 まだ十分の六しか敵陣を削りきれていないようだ。

 なのに蝙蝠族の軍勢はもう壊滅危機に陥っているも当然の状態である。
 だがそんな中、この戦場に降り立ったのは生前、大賢者と謳われた最強の称号を誇る魔術師アルフォンス。

 エビルゴブリンの勢いを揺るがしかねない存在であろうことは、本人自身も承知していた。
 たとえ大多数で攻めようが、大賢者化で得た力に比べれば微弱なもの当然である。

「さて、可愛子ちゃんもこの子しか居ないようだし……ちゃっちゃと終わらせるか」

 乾燥した唇を舐めながら、女性を奈落の冷気に包み込みそうなまでの気色の悪い笑みを見せるアルフォンスは、剣から生み出される魔力を供給しながら割れんばかりに地面を踏みしめた。

 この程度の状況なら容易い。
 そう慢心していたアルフォンスは、その余裕ある表情を敵陣から迫り来る一人の強大な存在を目の当たりにした途端、濁らせてしまう。

 エビルゴブリンジェネラルを数人引き連れた、強力な狂気を全身に纏う悪鬼王《エビルゴブリンロード》がアルフォンスを睨みつけながら、布に巻かれた巨大な武器を手にして接近してきていた。

 悪鬼王の踏み込んだ地表が砕け、仲間の死体の上を躊躇いもなく進んでいる。
 怒り狂うような荒々しい呼吸、圧力が伴う巨躯、その姿を目の当たりにしてアルフォンスは脳裏に醜い悪魔の姿を思い浮かべた。

 眼前にいる者がエビルゴブリンの軍を統率する親玉なんだと判断するやいなやアルフォンスも同様に、悪鬼王に匹敵するぐらいの強力な妖気を最大まで周囲に漂わせてみせた。
 ラフレーシアとジーク、その他の蝙蝠族達も完治した身体で迎え撃つような戦闘態勢を作る。


 ーー蝙蝠族とエビルゴブリンの最後の戦いの火蓋は、いままさに切って落とされるのだった。

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