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勇者に見捨てられて死んだ大賢者はゴブリンに転生したので、魔王の配下になって魔族の軍勢を率いる大賢者になる

英雄譚

第21話 「大賢者化」

 

 鉄格子の外の廊下から、足音が聞こえる。
 音からして看守が一人、見回りに来たのだろう。

 ちょうど良いタイミングが訪れたその時、鉄格子の中に映る人影が通りすぎようとしたのを見計らい、影の中心部を踏みしめる。

 途端、人影はピタリと動きを停止させた。

 鉄格子の外を見てみると、そこには地面を踏み込もうとしている最中のまま、固まってしまった態勢の看守が驚いた表情を浮かべていた。

 訳の分からない事態に説明をしている暇がないので、同じく幽閉されているゴブリン達に頼んで看守から鍵を拝借。
 自分は持ち場から動けないので、そのままゴブリン達に南京錠を鍵で解除させた。

 固まる看守をゴブリンの一人が持ち上げ、合わせるように僕は移動する影を踏み続けながら看守と入れ替わり牢屋から出る。
 そして再び、看守を牢屋に入れられたので南京錠に鍵をかけた。

「それでは、僕たちはこの辺で失礼いたしますね……ははは」

 看守の怒声で反響する牢屋。
 ゴブリンを数十匹引き連れながら僕らはこの場から一目散に逃げるのだった。

「流石ですアルフォンス様。まさか【影踏み】をあんな上手く活用できるだなんて思いもしませんでした!」
「え、アレス君って僕の技を見たことあるんだっけ?」
「ゴブから聞き及んでおります、間近で拝見できて嬉しい限りですよ!」

 テンション高めに鼻を鳴らしながら感激するアレス。
 ああ、そういえばゴブとリンを食おうと追いかけていた巨大カエルに一度だけ使用したのだと思いだす。
 対象の影を踏むことによって動きを捕縛する特異能力【影踏み】。
 魔力が大きく減少し、対象より筋力を要いるリスクがあるので使用を控えている。
 そのせいで忘れていたのだろう。
 そのうち、この技の存在すら記憶から抹消されそうだ。

「それでは、武器庫へと向かうんですよね?」
「うん、流石に無防備な状態じゃ危ういよ」

 アレスが無邪気に聞いてきたので、頷く。
 この地下から上に上がって、地上に出ると城の出入り口の反対側には白い塔が建っていて、そこには兵士用の武器庫があるとのことだ。

 兵士の姿が無いのを確認してから城内の二階まで上がり、広い渡り廊下を通って目的地の塔を目指す。
 やはり唐突に侵攻してきたエビルゴブリンの大軍との戦いの為、兵士の殆どが地上へと出向いてしまったのだろう、静けさだけが城中を包んでいた。

「……あそこのようだね」

 薄暗い廊下の先、高い天井まで届きそうな大きな銀灰色の扉が待ち構えていた。
 看守から奪った無数も輪に掛かった鍵を一つ選び、扉の鍵穴にはめて回す。

 そのまま扉の鍵が解除され、おそるおそる薄暗い倉庫部屋の中へと入る。
 そこには実地訓練や実戦に備える為、色んな種類の武具や防具が丁寧に保管されていた。

「上質な武器がこんなにも並べられているだなんて、地下王国だけあって純度の良い金属を効率よく採取できるんだね。貿易時にぜひとも取引したいなぁ」
「そうですよね……ウチの村には鍛治職人どころか、鉱石に関して詳しい知識を持つ住民が一人として居ませんからね」

 悔しそうに呟くアレス。
 資源不足もあるし、それは仕方のない事だ。
 もし此処ブラッティアの統一が成功したその時、誰でも充実できるような町に建国する予定である。

 具体的な想像図はほんの少し完成しているところだが、今の段階では実現するのは難しい。
 だからこそ蝙蝠族の協力も必要不可欠になるのだ。

「アルフォンスさん! 武装を完了しました!」

 数分後、使えそうな武器や防具を身につけたゴブリン達が賑やかそうに互いを自慢し合っていた。
 ゴブリン村は、上等な物にはあまり縁もゆかりもないため珍しいのだろう。

「アルフォンス様は杖とかを装備なさらないんですか?  向こう側にも様々な種類の杖が並べられているようなので、持っていってはどうですか?」
「いや、僕はいいよ。杖にはあまり好かれていなさそうだし……ね」

 生前、魔力操作を快適にするため何度か杖を厳選してもらった事があるのだが、どれも手に取って魔力を流しこもうとすると破裂するように壊れてしまう。
 どうやら僕の魔力が膨大すぎるため、杖が抑制しきれていないらしい。

 以来、杖を一度たりとも手に握った事がない。
 特に杖の製作を専門にした魔術師職人には嫌われたものだ。
『儂らが血汗を流して作った至高の杖を、いとも簡単に破損させてしまう者は永久出禁だ!』だとか。
 おかげで杖無しの魔術師として認識されていた時期もあったものだ。

 悪い思い出に老けながら、僕も全身を覆う程の漆黒鎧を身につけた。
 重々しい重量のせいで移動が不十分になるが、地下王国ネクロノから地上まで辿りつくには素性を隠す必要があるし姿も見られてはならない。
 そのため怪しまれずに顔を隠すには、この鎧達がうってつけである。

 ゴブリン達と共にフルフェイスの兜を頭に被り、互いの顔が認識できないか確認。
 そこらにいる武装した兵士と変わらない見た目である。

 十分に準備が整ったところで、僕達は武器庫部屋から廊下へと退出。
 やはり人が居ない、と少しだけ安心していると地上の方から突如と巨大な揺れが発生した。

 数人のゴブリンが尻もち着く程の強い振動に、地上で起きている軍の衝突がいかにして熾烈を極めているのかが想像できる。
 エビルゴブリンが侵攻してきたのを未だ信じきれていない自分がいるが、直視すればその考えも覆されるだろう。

 それを早めに実現させる為、僕らは出来るだけ早い足取りで急ぐのであった。





 ーーー





 地上へと上がる為、門を通過しなければならない。
 無論、そこには数人の武器を所有した門番が待ち構えていた。
 この王国は観光地ではないため他国からの干渉は一切禁じられ、ほぼ鎖国状態の地下王国ネクロノでは多種族の侵入を防ぐためにも厳重な検問が日課になっている。

 その中で一人、武人の如くオーラを放つ強面の立派な翼を生やした男性が鋭い視線を光らせていた。

「エルドラドさん、なんだか上の方……騒がしいッスね」

 長槍を片手に、弱気に声を漏らす若気の門番が男性に声をかけた。
 男性は小さく頷きながら、六十メートルはあるであろう高さの天井から垂れ下がった無数もの石灰質のつららを見上げる。

 男性はかつて、若かった頃の自分を想像する。
 声をかけてきた若気の門番のように自分は品のない口調を使用したり、弱音を吐いたりはしなかった。
 ただ力を求め、同族への貢献の為に兵士を目指した。
 それが叶うまではあまり時間は経過しなかったが現在、戦場へと赴けないのが悲しくて仕方がないのが真意である。

「お勤めご苦労様です!」

 そんな中、街の方から数人の鎧を身につけた兵士がやってきた。
 その先頭を率いる、武器を所持していない兵士が門番へと古典的な敬礼。

「ん、こんな所でどうした?  もう既に戦場へと全兵士が送りだされたと思ったんだが……?」

 目の前の全身鎧の集団に一瞬だけ疑心を抱く男性だったが、城に残った近衛士や親衛隊なのかもしれない。
 そんな奴らが此処へとやってきたということは、自分らに言い渡された役割を放棄して戦場の仲間達の援護へと向かおうとしていという事なのか?
 瞬間、男性は雷にでも打たれたかのような衝撃に身を怯ませてしまう。

 そうだ、どうしてこんなにも勇敢な奴らと同等の発想を見出せなかったのだろうか?
 本来の目的と役割を全うするのが全てだと思っていたが、それが足枷になっていたのかもしれない。

 常識の命令にしたがうだけでは国の為にはならない、最も大切なのは自分の意思。
 門番を言い渡され、戦場へと今すぐにでも向かいたいという一心を抑えていたのが弱さかもしれない。

 なら悲しみに明け暮れ後悔するよりも、目の前にいる勇敢な奴らのように武器を手にして仲間の援護にむかうべきなのだ。

 と、男性は一人で解釈。

「……俺も同行するぞ!」

「え?」
「えっ!」
「へ?」

 全身鎧集団から驚きの声が次々と漏れてしまう。
 まさか、ここで門番までもが同行するだなんて思いもよらない一行であった。





 ーーー




 結局は門番全員がついて来ることになった。
 その中でも厳つい顔をした男性エルドラドが積極的だ。

 これが蝙蝠族の闘争心か、と言わんばかりの熱意が地上に出るまで何度も演説されてしまった。
 やる気があるのは良いことだが、この蝙蝠族とは忠信の契りは交わしていない。
 エビルゴブリンを相手にして苦戦しないかが心配だ。


 岩山の麓、人工的に作られた斜面を踏み込むと同時に再び振動とともに戦場の方から強い衝撃が伝ってきた。
 どうやらエビルゴブリンが遠距離からの強力な一斉攻撃を蝙蝠族陣地へと放ったようだ。

 戦場へと目を凝らしながら俯瞰する。
 大半の蝙蝠族が全滅、そのタイミングでエビルゴブリンがさらに侵攻をしようとするが最前線に残る少数の者によって食い留められていた。

『忠信の契り』を交わした蝙蝠族達含めて、そこにはラフレーシアとジークの姿がそこにあった。
 異様な妖気を纏った少女を相手にして、苦戦しているようだ。

「アレス、僕は先に向かっているからエビルゴブリンを側面から頼んだ!」

 口を半開きに驚くアレスと他のゴブリンにそう告げてから、全身鎧を外した。
 それを見た門番達が思わず声を漏らしてしまったようだが、今はそれに構っている場合ではない。

 足元には破裂するぐらい強力な爆風を発生させ、その勢いに乗りながら戦場へと思いもしなかった速度でぶっ飛んでいってしまった。

 空中に浮かびながら、戦場を見渡す。
 エビルゴブリンに対して劣勢を強いられるこの状況を挽回するには、今の僕では力不足だ。

 ならば、あの手を使わざる得ないようだ。

 目をゆっくり閉じて、自身の奥に眠る『ミエザルモノ』の一人に問いかける。

 ーー書庫に眠れし、禁忌の傀儡よ、幾千もの所業を償うため力を対価にせよ。


 ーーーー【大賢者化・怠惰】ーーーー


 忌み嫌われる者の真意を感知し、その領域へと僕は踏み込むのだった。

「勇者に見捨てられて死んだ大賢者はゴブリンに転生したので、魔王の配下になって魔族の軍勢を率いる大賢者になる」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

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