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勇者に見捨てられて死んだ大賢者はゴブリンに転生したので、魔王の配下になって魔族の軍勢を率いる大賢者になる

英雄譚

第16話 「予想だにしなかった王の宣言」

 

 同盟を組む時の互いの不利益やメリットデメリットを長々と事細かく話し合ったり提案したりしながら、交渉が数時間も進んだ。

 ゴブリン村の資源は豊かではない。
 食料の調達のほとんどは昔から狩りで確保している、なのでゴブリンの耕作に対しての知識は浅い。
 それでゴブリンが蝙蝠族との交易時に何を与えられるのか?

 ここに来るかなり前、その準備の為に僕は魔族に無い知識で様々な方法を考え、試行錯誤をした。
 そして導きだしたのは『魔の大陸』に無い人族の回復薬の生産というものである。

 生前の知識が残っていたため、幅広い種類の回復薬や薬草の調合はお手の物だ。
 簡単な薬草の調合方法をゴブリン達に教えてやれば、ある程度は量産できるだろう。
 それに、魔の大陸は魔力濃度が濃いため薬草の効果は抜群である。
 深い傷を負ったり重い病にかかった場合、飲めばすぐ完治してしまうぐらいにだ。

 そしてなにより、森に囲まれたゴブリン村の周辺には原料となる植物がえげつない量で生えている為、当分は不足には困らないだろう。
 とにかく薬草類が豊富な地である。

 ゴブリン村で開発された回復薬、その他を提供。
 それを条件に交渉を進めるのであった。

 その一方、蝙蝠族に要求するのは食料、技術、知識、土地、不足があれば互いに提供し合うという方針の策定である。

 だがここに一つ問題がある。
 ゴブリン族の村はまだ発展の途中であるため、用意できるモノや量には制限がついてしまう。
 とてもじゃないが、蝙蝠族から見れば不平等も当然だろう。
 人族の知識を駆使して加工した回復薬や薬草を提供したところで、その差は埋められないだろう。
 だがもう一つ僕達から提供できるのは、強力な戦力である。

 こちらには『忠信の契り』によって戦闘力が向上したゴブリンの戦士達がいる。
 他国から襲われるような事があれば、脅威を簡単に追い払える強力な力になると自負している。

 なんせ彼らの力を目の当たりして、個人がBランク並みの魔物と対等なのを感じとれたからだ。
 日頃の訓練の成果のおかげでもあろう。

 それをさっそく条件にだした途端、エルマートンは興味でもあるかのように顎に手を当てながら話に耳を傾けてくれた。

「忠信の契り……忠誠を誓った対象に信頼を得た時にだけ効果が現れるという魔族の呪い。もしかしてラフレーシアとジークの貴様に対しての礼儀良い態度も関係しているというのか?」
「父上、その事について発言をしてもよろしいでしょうか?」

 エルマートンの疑問に対して、男勝りのラフレーシアが神妙な様子で手を挙げた。

「ああ、かまわん」
「ハイ。父上のおっしゃる通り、此方にいるアルフォンス様が理由でゴブリン族の殲滅から我らは手を引きました」
「ほう……如何にその決断に至った経緯を事細かく説明してもらおうではないか、ラフレーシアよ」

 予想通り、計画を放棄したことに不機嫌な表情をエルマートンは浮かべていた。
 不安になりながらもラフレーシアは、その結果に至るまでの成り行きを事細かに語る。

 占領のためゴブリン族を襲ったこと、そこに割り込んできた僕に計画を阻止されたこと……云々かんぬん。

「という成り行きで、我ら一同はアルフォンス様に仕えることになりました」
「ふざけるな」

 バン!!  と先程まで物静かなエルマートンが激怒しながらテーブルを叩いた。
 あまりに唐突なことで肩をビクリと震わせてしまう。

「貴様らにゴブリン村の占領の為、どれだけ我らの国が投資したのかを理解しておるのか!  残虐だろうと力こそ我ら一族の最大の誇り!  心の底から期待し人族の支配という一族の想いを託して駆り出した貴様らが持ち帰ってきたモノはなんだ!?  下等なゴブリンとの仲良しごっこだと?  たわけ、平和という楽観視も程々にしろ!」
「し、しかし!  アルフォンス様は貴方が思うような力の無い者ではない!  私たちが手を取り合うことで、必ずしも理想へと導いてくださる賢者なのです!」

 反発するような口調のラフレーシア。
 だが、それをモノともしないエルマートンが言い放つ。

「ふん、ゴブリンの能力なぞたかが知れておるわい!  貴様らが忠告を誓ったそこにおる魔族の出来損ないも、なにかしらの手違いで貴様らを誑かしたに違いない」

 エルマートンが殺意の混じった目線で睨みついてきた。
 まるで今にでも殺しに掛かろうとしているようだ。
 だが、その感情を必死に抑制しようとしているのが感じ取れた。

「ゴブリンという種は、古来から悪どい生物として認識されてきた。サリエル様が『魔線戦争』で敗北を続けたのも、こいつらのせいだ!」
「それ以上、アルフォンス様への侮辱は許さん!!」

 耳をかすめるような、何か強い覇気が通り抜けてエルマートンに衝突するような感覚を察知する。
 てっきりラフレーシアだと思ったのだが、振り返ってみるとそこには槍を両手にするジークが怒りを露わにしていた。

「若?」
「遠慮をすることはないぞラフレーシア。たとえお前がどのような立場であろうと、父上は我らの主を愚弄したことに偽りはない」

 慌てるラフレーシアの肩に手を置きながら、ジークは力のある声で彼女に訴えかけた。

「血筋の関係と恩、父上から貰ったモノは数しれない……だが魔族の忠誠となると話は別になります。それも、貴方が一番理解しているはずです父上」
「ああ、愚かにもこのゴブリンに洗脳された貴様らの真面目な姿を目の当たりにして理解したわい……もう後戻りが出来ないということを」

 呆れたように額に指を当てながら、ため息を大きく漏らすとエルマートンは決意したような眼差しを僕らの方へと向けた。
 その行動に嫌な予感を持たずにはいられなかった。

「ここで我は宣言する。以後、ゴブリンという種を見かけた場合は容赦することなく排除すること、ましてや関係を持つことも断じて許さない」

 この瞬間、この王の宣言によって同盟の交渉は決裂した。

 心の隅から何かが落ちるような音が聞こえたが、幻聴に間違いない。
 きっとこれは、感情だけで全ての提案を破り捨てたこの王に対しての失望なのだろう。

 だが、そんな事はどうでもいい……どうしてこうなったんだ?

「ラフレーシア、ジーク……蝙蝠族随一の戦力を無くしてしまうのは惜しいのだが、そこにおる汚らわしいゴブリンとの忠信の契りを破棄することは出来ないのか?  そうすれば軽い処罰で済ませた後に全てを無かったことにする。そう、貴様らの行いを水に流してやろうじゃないか」
「……お言葉ですが父上、貴方の先程の発言からは多々の誤解が見受けられます。アルフォンス様の本質を知りもしないのに、他国との戦力拡大を図った計画を破棄するだなんて、いくらなんでも度が過ぎています!」
「貴様の無礼な発言こそ、度が過ぎているのではないのかジークよ」

 そう言いながらエルマートンが席から立ち上がると、この場にいる代表者たちに目で何かの合図をだした。

「確かに貴様の言うことに一理あると思うが、儂は蝙蝠族の誇りにかけてゴブリンと手を組む気など一切ない!  もう話すことはない!」

 ラフレーシアとジーク、同族の行いに憤りながらエルマートンは失望するように悲しそうな視線を二人に向けた。
 だが、何も口にする事なくエルマートンはこの部屋を後にするのだった。

 あの様子ではラフレーシアとジーク、ゴブリン村にいる蝙蝠族らに重い処罰を与えるのも時間の問題だろう。
 まさか、このように失敗してしまうだなんて完全な誤算である。

 順調に取り引きは進んでいた、対価だって互いに平等だ。
 特筆するべき点は無かったはず。

 なのに……なのに、どうして。

 感情に曇りがかかり、次第に不甲斐ない自分への苛つきが湧いてくる。
 正直、あそこまで蝙蝠族の長が頑固だなんて思いもしなかった。

 もしかして、話を聞いておきながらも同盟を組む気など最初から無かったかもしれない。

「申し訳ありません、アルフォンス様!  こうなったのも、至らない我が出過ぎた真似を行なったせいです……!」

 俯きながら一人で悩む僕に近づいてきたジークが深々と頭を下げてきた。
 とても重い責任感を抱いているのだろうか、両目の端には微かに涙が浮かんでいる。

 だけど、混乱している状態では慰めの言葉すら思い浮かばない。
 それよりも、この状況を打開するための計画を考えなければならない。
 いま唯一可能性のある蝙蝠族と協力関係を築きあげなければ、次の交渉時に締結の成功は見込めないだろう。

「うん、別にいいよジーク。それよりもさ、ちょっと一人で考えたいから……席を外すよ」

 力の抜けた体で椅子から立ち上がるとヨロめいてしまう、だがすぐ側で待機していたラフレーシアに受け止められる。
 まさかここまでダメージが大きいとは思わなかった。

「それよりも、とにかく次の手を考えなきゃいけないんだ。僕達がここまで足を運んだのは、行き止まりに阻まれるためじゃない。『魔戦戦争』に勝利するなんだ……!」

 魔王サリエルの配下になってから、思考が段々と変化していっている。
 まるで別の人格に侵食されるような感覚だ。

 長い間、数百年も繰り返される『魔戦戦争』では魔王サリエルは敗北しかしてこなかった。
 だからこそ、魔王国ブラッティアの秩序は衰弱していっていったのだろう。


 ーー統率しなければならないんだ、分断されたこの国を一つに繋げるその為に。

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