勇者に見捨てられて死んだ大賢者はゴブリンに転生したので、魔王の配下になって魔族の軍勢を率いる大賢者になる

英雄譚

第14話 「地下王国『ネクロノ』」

 

 ヴラッティア魔王国の西側、聳える岩山の地下に位置する蝙蝠族の『ネクロノ王国』にやってきた。

 理由は同盟の交渉である。
 ゴブリン村を占領しようとした蝙蝠族達の主人にはなったものの、蝙蝠族の首領とはまだ協力関係を築きあげてはいない。
 面識が一度もないのにも関わらず、自分らは蝙蝠族と友好的な関係なんだと勝手に話は進められない。

 そこで前々から計画していた同盟の交渉を行おうと、珍しくも口数が少ないジークが提案してきた。

 そこで僕達は、蝙蝠族の翼を利用しながら空中を移動をして『ネクロノ王国』へと向かった。
 ラフレーシアは見た目に反してかなりの筋力を秘めていた為、お姫様抱っこで軽々しく持ち上げれてしまったのは忘れたい記憶である。

 猛スピードで移動して三日後。
 岩山の地下まで繋がっている、暗闇の通路前に辿りついた。
 道は蝙蝠族であるラフレーシア達が案内。
 途中、予想外にも魔物との遭遇が続いたのだが、対したレベルでは無かったため難なく奥へと進むことができた。

 それから歩いて二時間後。
 町の面積並みの大きさの広場に辿りついた。
 初めて目の当たりにする地下王国にゴブリン一行と共に僕は感激の声を漏らしてしまう。

「過去、魔王様同士が勃発させた『第四次魔線戦争』では優秀な砦として活躍した場所であり、我々を統括する魔王サリエル様が生誕なさった神聖な場所だとも崇められている所であります」
「ん、そういえば魔王国内にいるのに王国って何故呼ばれているの?  独立でもしていたり」
「無論、サリエル様の支配下には加わっておりますとも。王国と呼ばれておりますが、ただの形にしかすぎない小国ですよ。それに、サリエル様にはしっかりと許可を得ております」

 ケインが丁寧に説明してくれて、最初に頭をよぎったのが『あのヤバイ魔王を誕生させた元凶が此処』という事ぐらいだった。

「早とちりすんな、まだ国には入っていないぞケイン。この先が面倒だ」

 頭にフードを被り、顔を必死に隠そうとしているラフレーシアが言う。

 彼女の指差す方向には、王国の周辺を囲む壁が聳えていた。
 そのいくつかある門には数人もの武装した蝙蝠族が配置されている。

「もしかして検問?」

 疑問をラフレーシアに問うと、ジークの背後に隠れるように彼女は答えた。

「はい。ここ最近、エビルゴブリンに似た物騒な輩が出没して被害まで出てしまったらしいので、他の村々や国々などは警戒状態真っ逆さまです。無論、この国も例外ではありません」
「千年前も前に消滅した筈の……あのエビルゴブリンが?」

 エビルゴブリンを生み出していた根源である魔王は魔族の連合によって討ち滅ぼしたと聞いたのだが、復活しただなんて聞いたことが無い。

 だが、ゴブリンとして転生したあの洞窟でゴブとリンは暗闇のせいで僕のことを『かつて存在していたエビルゴブリン』だと勘違いして恐れた。
 つまりエビルゴブリンの存在は僕たち人族が立ち入ることがあまり無い『魔の大陸』で確認され、用心されていると言うことなのか?

「詳しい話は後にしましょう。それよりもまず、これで身を拘束してください」

 そう言いながらラフレーシアは縄を取り出してきた。

「アルフォンス様も勿論、ゴブリンは忌み嫌われる存在なので入国する口実を作るんですよ。だろ、ケイン、若」

 ウィンクしながら、二人にそう告げる。
 ケインとジークが互いに頷き合いながらラフレーシアの縄を受けとり、連れてきた数人のゴブリン達の体を縄で巻き始めた。

「多少の無礼をどうかお許しください」

 同様に僕もラフレーシアの手によって体を縄で巻きつけられてしまった。 
 芋虫のような状態になりながらも巨漢なジークに担がれる。
 ゴブリン達も同じく蝙蝠族たちに担がれてしまう。
 そのまま、険しい顔を作りながら門へと蝙蝠族たちは歩き出した。

 意味の分からないこの状況に頭を一瞬だけ悩ませたてしまったが、すぐさまこの行動の意図を理解する。

「帰ったぞ、我が同胞よ」

 門番がジークの声やその他に気がつくと、警戒する眼差しを和らげて武器を下げた。
 よく見ると、安堵するかのように涙を流す者たちもいた。

「貴方は……若じゃありませんか!  ご無事でしたか!  中々帰還しないものなので陛下も心配なさっていましたよ!」

 若そうな、まだ翼が成長しきれていない門番の声が震えていた。

 久々に信頼し尊敬する者が無事に帰還したんだから無理もない。
 しかし、ジークはどうってこと無い様子で頑丈な胸を叩いてみせる。

「そうか……心配をかけさせてしまって、すまない。だがこの通り、異常はない負傷者もいない」
「当然じゃないですか!  ゴブリン如きが若や同胞に外傷を与えられる筈がありませんよね?  そういえば、そのゴブリンどもは……」

 門番は縄に縛られ担がれている僕の方を指差す。

「捕虜だ。生き残ったゴブリンどもを捕らえてきた」

 入国する為の方法は、やはりこいうことか。
 普通に相手の懐に無防備で入ろうとすれば、怪しまれるのは確実。
 本来の蝙蝠族の目的、つまりゴブリン村の占領という任務を上手く利用して相手の懐に入り込む寸法か。

 まさか、門番たちはジークとゴブリンである僕が協力関係にあるとは思ってもみないだろう。

「流石ですね若!  それで、この薄汚いゴブリン達をどう処遇するんですか?」

 門番は侮蔑するような眼差しを僕の方に向けながら、皮肉な言葉を投げかけた。
 すると、ジークから何かがプツンと切れるような音が聞こえてしまう。

 彼だけではない、ラフレーシアやその他の蝙蝠族や拘束状態のゴブリン達も同様だ。

「おい貴様、名はなんと言う?」
「ん、俺ですか?  エルドっていう名前なんですが、どうかしたんですか……ひっ!?」

 エルドと名乗る門番が、ジークを見上げた途端に情けない声を漏らす。
 ジークはまさに爆発寸前の顔面のまま硬直していた。

 まるで必死に自分の感情を制御しようとしているようで、堪えるような声がジークの口から聞こえる。

「そうだなエルド。一つ忠告するが貴様はこのお方の本質を知らない、口には気をつけよ。安易に人を偏見で判断すれば痛い目は避けられない。いいな……?」
「え、えっと……はい。承知しました」

 主人である僕への侮辱が引き金なのか、ラフレーシアまで爪を噛んでいる。
 よく見ると、片方の手はすでに剣に添えられていた。

 なんなんだろう、コレ。
 嬉しいっちゃ嬉しい反応をしてくれるけど、たかが皮肉程度でジークたち自身が同胞を殺めるのは流石に頂けない。

「まあいい、それよりも早く門を開けてくれ。我々は父上への報告を急がねばならん」

 平然な様子を取り戻したジークは鬱とともに溜息を吐き出し、不機嫌な口調でエルドに指示をする。
 呆気に取られながらもエルドはジークの指示をすぐさま聞き入れ、仲間たちの元へと駆けつけた。


 数分後。
 金属音とともに門が開かれ、街の内側がその姿を見せた。
 だがそこに広がっていたのは殺風景な密集した石造りの建物、人の少ない物静かな大通りだけ。

 特に特徴を示すような所は無く、むしろ違和感が渦巻いているような感じがした。
 街へと一歩踏み込むと、更にその感覚が敏感に増幅してしまう。

 人気のない場所からの痛いぐらいの視線、まるで悪い意味での注目を浴びているような気がしてならなかった。
 それは僕だけではなく、他のゴブリン達も同様の反応を見せている。

「アルフォンス様。少しの辛抱です、城まではそう遠くはありません」

 申し訳なさそうなジークの声で我にかえった。

 そうだ、ジークのおかげで騒ぎを引き起こさずに入国することが出来たんだ。
 もしあのまま考え無しに訪問すれば、いい結果には転ばなかったのかもしれないだろう。
 せっかくの絶好のチャンスを、憂鬱な感情のせいで台無しには出来ない。

 丁寧にジークに肩から降ろされる。

「うん、大丈夫。それよりもジーク………ありがとう。君を連れてきて正解だった。もしゴブ達と一緒に留守番にさせていたら、きっと追い返されるか攻撃されていたかもしれない」

 口元を綻ばせると、返すようにジークは嬉しそうに微笑む。
 巨漢に反して純粋な笑顔を意外に思いながら、羨ましそうにするラフレーシアの方を見る。

「若だけズルイ……私も褒めてほしいなぁ」

 頰を赤く染めながら、上目遣いで言うラフレーシアの頭を撫でる。

「ひゃっ……!」
「うん、ラフレーシアも頼りになるよ」

 他人に対しては男気ある態度で接するラフレーシアの珍しい反応を堪能しながら、この街の中央に聳える城を見上げた。
 同盟の交渉には多少の不安はあるものの、上手くいくことをだけ願おう。

 そんな事を思いながら、僕達は街の中央を目指して歩きだした。

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