勇者に見捨てられて死んだ大賢者はゴブリンに転生したので、魔王の配下になって魔族の軍勢を率いる大賢者になる

英雄譚

第12話 「暴君と呼ばれる魔王の晩餐」

 

 四人の魔王の統治によって分断された、魔力濃度が濃い魔族の住まうとされる大陸。

 その北西の魔王国には『サンダルフォン・アルゼン』と呼ばれる支配者がいた。
 魔王国の首都『アルゼン』という場所、人々が賑わう城下町を見下ろすように聳え立つ城。

 そこには執務室で一人作業に奮闘している全身鎧の男がいた。
 ちょうどノルマを達成したのか、机の上の書類を片付けるやいなや彼は窓から見下ろせる町を無言で眺め始める。

「相変わらずと言っていい程、我の国というものは退屈だな。骨があると言ったら仕事や雑務ぐらい………まったく、魔王という器も思ったより楽ではないな」

 ニヤリと苦笑いしながら、赤黒の液体が入っているワイングラスを口に付けて飲み込む。
 小さや溜息を吐きだし、かつて胸に秘めていた優越感を思い返す。

「あの頃は愉快で堪らなかったものだ、フフ」

 王の器として認められる前、自分が行ってきた救いようのない数々の非道な行為。
 傍若無人で傲慢な態度、容赦のない無慈悲な殺戮。

 全てを集計して、今の自分が此処にいる。
 魔王『サンダルフォン』というものが。

 現在は完璧なまでの暴君と呼ばれており、自分に逆らうような事があれば必要戦力であろうと、大切な友人であろうと排除してしまうような魔王である。

 だが、その心に秘めている理想は誰よりも遥かに大きなものだった。

「うむ、入ってもよいぞ」

 執務室の扉が叩かれ、サンダルフォンは返事をする。
 すると、開かれた扉から一つ目しかない使用人の女性が入室してきた。
 サンダルフォンとは決して目を合わせず頭を下げた。

「要件はなんだ、答えよ」
「ただいま、魔王国ヴラッティアからのお客様がお見えになっております」
「ヴラッティアからだと?  わざわざ我の国に来て何を?  おい、その客という奴は何者なのだ?」

 疑問を投げかけると、平然とした様子で使用人はサンダルフォンに答えた。
 その表情には恐れなどは一切なく、むしろ虚ろと言っても過言ではない様子だ。

「陛下と同じ立場にある魔王サリエル様であります。どうやら『遊びにきたぞ』との事です。いかがなさいますか?」

 使用人のその報告を聞くと、サンダルフォンは警戒心を薄めながら呆れたような仕草で額に手を当てた。

「サリエルか…………チッ、さては我の酒を堪能しにきよったなあの女。まあいい、どうせロクな話し相手もいなかったところだ。特別に晩餐だけは快く招待してやろうじゃないか」

 そう言い、ワインの栓を閉めてからグラスに入っていた液体を飲み干す。
 剣が不在の鞘を手にすると、サンダルフォンは執務室から出た。

 向かう先は自身の玉座の間。
 客が訪れたりした時には決まっていく場所である。




 ーーー




 玉座の間へと辿り着くと、そこには騒がしい声で喚き散らかす魔王サリエルがいた。
 部下と会話をしている。

 部下はなにやら困ったような表情を浮かべながら、自身へと興味津々に迫り寄るサリエルに対して後ずさりをしていた。

「お主は逸材じゃ、余の部下にならんか?  いいじゃろ、いいじゃろ!  余に認められたんだぞ!  断るはずがなかろうっ!」
「いえ、あの……その」

 自分の部下を強引に勧誘しようとするサリエルに呆れた視線を向けながら、サンダルフォンは腕を組んで彼女へと声をかける。
 その表情は固く、不機嫌なのが周囲に伝わった。

「貴様、我の玩具を無断で自分の駒にしようなど中々の度胸があるようだな」

 自分の領域にいるのならば尚更だ、と不機嫌になりながらサンダルフォンはサリエルを睨みつけた。

 対して嬉しそうに反応しながらサリエルが振り返る。
 上流といえる魔族同士の目が合うと、妙な雰囲気が玉座の間を包み込んだ。

「やめておけ。そこにいる奴も含め、此処にいる我の配下には全員『服従印』を焼き付けてある。もし我の意思に反するような事を行えば、永眠という対価が支払われるよう施している」

 すなわちそれは死を意味する。
 なのに自身たちの現状を知りながらも、この場にいるサンダルフォンの配下達は決して顔色一つ変える様子がなかった。

 それを見てサリエルは思わず、青ざめた顔をしながら口を抑える。
 普段のサリエルならこういった空気を和ませる為、一発芸を披露しているところだが笑い事ではないのを、流石の彼女でも察することが出来た。

「相変わらず用心深いんじゃなサンダルフォンよ。このような気味の悪い事をする程、お主を怖がらせるモノは何なのじゃ?   余であろうと恐ろしく思ってしまったぞ」
「それを貴様に教える義理はない」
「え~、それでも余の友か~!」

 サンダルフォンは思い出す。
 自分という人物に対してこうも生意気で気さくな態度を取れるのが、この女しか居ないことを。

「戯け、いつ貴様と対等な関係になったのだ?  過剰な誤解も甚だしい」

 素っ気ない態度でサリエルに接しながら、サンダルフォンは先ほどの使用人が今自分に呼びかけているのに気がつく。

 耳に手を当てながら、心の中で返事をする。

「まあいい。立ち話もなんだ、食事をしながら語り合おうじゃないか」
「おぉ!  この国で食事をとるのも久しぶりじゃし、勿論ご馳走してもらうのじゃ。しかし、いいのか?」

「フフフ、構わないさ。
 なんせ我は……寛大なのだからな」

 サリエルを表では邪険にしながらも、心の隅では楽しみが増えたことに嬉しさを感じているサンダルフォンがいた。
 退屈な日々が数年も続いて、自身を楽しませる存在は誰一人していなかった。

 同様にサリエルもが自分を満足するのに値する人物ではない事は、昔からのサンダルフォンの認識している。
 ただ単に退屈凌ぎにはなるだろうと期待していた。




 ーーー



 城の中でも最も広い空間の食堂に辿り着くと、そこには既に豪勢な料理の数々が並べられていた。
 この国の近海には魔力によって変異した珍しい魚介が大量に生息している。
 その為か主に魚が料理として用意されていた。

「うむ、良い匂いじゃないかサンダルフォンよ。お主の料理人がいかに優秀なのかが伝わるぞ!」
「我が厳選し認めた直属の料理人共だぞ?  当然のことだ」

 腕を組みながら、嬉しそうに鼻を伸ばすサンダルフォン。
 その行動にサリエルは笑いを堪えつつ、用意した席へと座る。

 その眼前をサンダルフォンが居心地良さそうに足を組みながら座る。
 それを前に自分がいかに見下されていることに、サリエルは複雑な心境に見舞われる。

 だが料理を前にすると、その感情はいとも簡単に消滅した。

「貴様がこの国に訪れるなど数十年ぶりだな。どういう風の吹き回しかは知らんが、余計なことだけは勘弁してくれよ……?  我は自分に牙を剥くような愚かな者がなにより嫌いだ。故に排除しなければならない」

 そう言いながらサンダルフォンは二つあるワイングラスの片方を、サリエルの方に差し出す。
 料理を遠慮なく口にしながら、サリエルはグラスを受け取った。

「かなり上品なワインのようじゃな?  ウチの国じゃ何を飲もうが構わないような場所じゃから、此処まで美味そうなのを口にした事がない」
「おい、そうやって話をすり替えても無駄だぞ?  我の提供する酒を褒めるのは良いことだが、そのような真似は関心できんな」

 両肘をテーブルにつけながら手を組み、冷静さを保ちながらサンダルフォンは無表情で問い詰める。
 その氷のような、人に容赦がない瞳にサリエルは目を細めてしまう。

「ふむ、別になんでもないぞ。余の安息日ということで暇を持て余したんじゃ。ただ、このような単純な理由でこの国に足を運んだにすぎん」

 決して動じないサリエルの対応に、サンダルフォンは不機嫌そうな態度でワインを飲み干した。

「それなら良いのだが、何か良いことでもあったようだな……?」

 酒を再びグラスに注ぎながら、何事も無かったように切り替えるサンダルフォン。
 不信感はまだ定着しているものの、自分だけが感情を露わにする訳にもいかないと判断したのだろう。

(この女は馬鹿だが、思うほど愚かではない。もし仮に油断をみせればいとも容易く刺しにくるだろう、警戒すべき対象に等しい脅威だ)

「何故、急にそのような質問をするのじゃ?」
「いつにもなく晴れ晴れしいような表情をしていたものでな。鬱陶しいぐらいに笑う顔より、随分と嬉しそうだ。どうかしたのか?」
「『それを貴様に教える義理はない』……じゃろ?」

 サンダルフォンの先程の言葉を真似するサリエル。
 流石にその行為が癇に障ったのか、サンダルフォンは殺気を放ちながら彼女を睨みつけた。

「貴様、それは我を侮辱しているつもりか?」
「いや、割に合わんと思ってな……お主が『服従印』を利用する理由を伏せるのならば、余にもプライバシーを話す道理がないと思ってな」

『服従印』
 どのような命令であろうと聞き入れさせ、生涯服従を定められた呪いの刻印。
 もし術者に背くようなことがあれば『服従印』が暴走を引き起こし、対象の肉体に侵食して死に絶えさせる。

 サリエルは疑問に思った。
 この城にいる『服従印』を焼き付けられた人々を伺う限り、サンダルフォンを敵視するような人物が誰一人として居ないようだった。

 なのにも関わらず、城にいる人々らには全員それが焼き付けられている状態だ。

「知りたいのならばお主が先に明かすのが条件。もし信用出来ないのならばこの話は無しじゃ」
「我が先だと?  貴様が口を封じたりしたらどうするのだ?」
「そんな事はしない。もしそのような事があれば余を殺すことを許可しよう」
「……ほう」

 サンダルフォンは眉を寄せながら顎に手をあてると、興味津々に声を漏らした。

「フフフ、貴様のような考え方をする輩は嫌いではない。良いだろう、話そうじゃないか」

 交渉が成立して、互いが納得するように頷く。
 テーブルの上で手を組んでいるサンダルフォンは、自分がこれから話そうとする内容をじっくり思い返す。

 そして、全てを導きだしたその直後。
 魔王サンダルフォンは包み隠すことなく自分の過去を語りだす。

 珍しくも長話に関心を持たない魔王サリエルでさえ、黙々と真剣にその話をじっくり耳を傾けるのであった。


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