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勇者に見捨てられて死んだ大賢者はゴブリンに転生したので、魔王の配下になって魔族の軍勢を率いる大賢者になる

英雄譚

第1話 「ゴブリンに転生した大賢者」

 

 目を開けると、視界には暗闇が広がっていた。
 常闇でなにも見えない、くわえて肌寒い。

 ………あれ?

 意識が覚醒するとともに僕はある事に気がついた。
 強力な呪いで弱体化された筈の膨大な魔力が、なぜか胸底から感じとれるのだ。

 ちょっと寒いので試しに指先に火を灯してみせた。
 ボワッと火が出現する。
 同時に暗闇だった周囲は出現した火のおかげで見えるようになっていた。

 少し暗いものの辺りを見回してみる。
 岩の壁と天井、居心地の悪いゴツゴツとした地面。

 地面からむくりと起き上がろうとしたが、一瞬だけよろけてしまった。
 なんだが身体が重いような気がする。

 そういえば此処はどこなのだろうか?
 一目で見れば洞窟のような空間だけれど、どういった経由でここに居るのやら……。

 やっぱり寒い、と思いながら何気に身体に触れてみる。

 ペタッ、ペタッ。

(あれ、服を着ていない……)

 いま自分が全裸だってことを触って分かってしまった。
 どうやら下も履いていないらしい。
 どうりで寒いんだ。

 何故だろうか、ここにいる理由を思い出そうとしても記憶が曖昧なせいでハッキリとした事が導きだせない。
 とりあえず、自分が洞窟にいることだけは分かったので脱出することを試みてみよう。

 冷たい地面を裸足のままで歩きだす、悪い感覚は特にしない。
 まるでこういった地形を歩むための足のようで、違和感はまったく感じられなかった。

 ……すんすん。

 いつのまにか嗅覚が強くなったのか、さきほどから様々な臭いを鼻が捉えていた。
 腐った臭いに甘い匂い、鉄のような臭いもする。

 まぁそれはあまり気にせず、なるべくこの洞窟から脱出する為だけに頭をフル回転させよう。
 あわよくば壁を破壊して脱出口を作ろう。たぶん洞窟が崩れてしまう恐れがあるかもしれないけど……ね。

 さあ、賢者タイムだ。



 ーーー



 結果、いくら探し回っても出口の一つも見つけられることができなかった。
 その代わり、彷徨い続けるのに嫌気をさした頃の僕は洞窟破壊を実行しようとしたその時、自分以外の生物と遭遇した。

「……ゴブリン?」

 緑色の肌が特徴的である邪悪な精霊『ゴブリン』である。
 人間の半分の身長しか満たない、貧相な鎧を着たゴブリンが目の前にいる。
 それもメスとオスの顔が整った二匹だ。

 オスと見られるゴブリンは棍棒と盾を手にしていて、メスの方は慣れない手つきで弓矢を構えていた。
 心なしかメスの方は顔を赤らめながら僕の下半身を凝視している。

 やばい、と下半身を瞬時に手で隠す。
 しかし相手が人族の天敵である魔族だってことを思いだすと、恥ずかしくも僕はさっそうと戦闘態勢へと切り替えた。
 膨大な魔力が僕を中心に周辺で渦巻く。

 大賢者の力を利用すればこの二匹を消し灰にするのは容易いことだ。
 だけど強力で禍々しい魔力を放つ僕を目の当たりにした二匹のゴブリンは、怯えるような声で互いにやり取りをする。

「まさか……『邪悪なゴブリンエビルゴブリン』!  どうして俺たちの領域内なんかに!?」

 メスを背にしてオスのゴブリンがぎごちない様子で前へと出た。

『エビルゴブリン』その名を聞いて僕は後ろの方を振り返る。
 通常のゴブリンとは異なり、魔王によって生みだされたというゴブリンの変異種。
 まさか背後にいるのかと視界で探すが、居ない。
 そんなの、何処にいるんだろうか?

 キョロキョロと周囲を見回すが、やはり居ないじゃないか、驚かせちゃって……。
 安堵しようとしたその瞬間、ヒュン!  と風切り音と同時に右頰になにかが通った。

 見ると背後の壁に矢が突きささっている。
 どうやらメスのゴブリンが僕にめがけて矢を射たらしい。

「あっ、ごめんお兄ちゃん!  外しちゃった!」

「十分だ!  離れてろリン!」

 目を離した隙にオスのゴブリンが瞬時に僕との間合いを詰めていた。

「!」

 引き絞られた棍棒が振りおろされる。
 すぐさま反応した僕は地面を蹴り、横に飛んで回避した。

「リン!」

 オスのゴブリンが叫ぶ。
 奴の背後の方を見ると、メスが僕の方へと矢を定めていた。
 つがえられた矢がすぐに射られてしまう。

「【爆風刃】!」

 だけどこの程度ならば難ではない。
 自分にむかってくる矢を風魔術で弾き、すぐ横で追撃を仕掛けてこようとするオスのゴブリンより先に回し蹴りを脇腹に命中させた。

「はや……っ!」

【強化魔術・弱】で威力が増した蹴りでオスのゴブリンは吹っ飛んでいってしまう。
 そのまま壁に叩きつけられ、オスは意識をなくした。

 あと、残るは……、

「お兄ちゃん!」

 僕を尻目に叫ぶのはメス……いや、妹のゴブリンだ。
 敵である僕に構うことなく心配そうに気絶した兄の方へと駆け寄っていった。

「お兄ちゃん!  死んじゃダメだよ!  お兄ちゃん!」

 起こそうとしても返事をしない兄に、妹は次第に涙を流し始めてしまう。
 兄をぎゅっと抱きしめながら妹のゴブリンは僕の方へと振り向き、涙が溜まった瞳で睨みつけてきた。

 威嚇しているのだろうか、瞳孔が収縮している。

「……お兄ちゃんに近くな、エビルゴブリンめ!」

 エビルゴブリン、エビルゴブリンって、もしかして僕の事を言っているのだろうか?
 何を勘違いしているのかは分からないけど、それはさておき。

「僕はエビルゴブリンなんかじゃないよ。ただの魔術師」

「嘘つき!  ゴブリンの魔術師なんか聞いたことないよ!」

 いまの言葉に疑問が一瞬だけ生じたけど、特に気にせずに続ける。

「まあ、そう思うならいいよ。それよりもゴメン、兄に手荒な真似をしてしまった。治してあげるから……」

 偏見だが一目で悪いゴブリンには見えない。
 姿、形、容姿、僕の知っているような下劣なゴブリンとは似つかない。
 まるで人族のような文化を持って生きてきた顔をしている。

 そう思った矢先に頰にまた何かが通過した。
 また矢を射られたようだ。

「それ以上近いたら、許さないんだからっ……!」

 荒々しい息遣いで告げてくる。
 無理もないだろう。
 兄が得体の知れない奴にやられたのだから。

 最初に攻撃を仕掛けてきたのはこの二匹のゴブリンだが、遭遇してすぐ殺気を放った自分が悪いと思う。
 そのせいで自分たちを敵意する人物だと見なされてしまったのだ。

 反省しながら自分を中心に渦巻く魔力を体へと吸い込む。
 大気を埋めていた魔力が消滅すると、妹のゴブリンは驚いたように僕を凝視した、下半身ではない顔をだ。

「私たちと同じ……それじゃ、貴方はエビルじゃ……」

「違うよ、それにゴブリンでもない」

 妹のゴブリンは僕にむけていた弓を下ろす。
 やっと落ち着いたのだろうか、数歩近づいても威嚇をしてくる事はなかった。

「治癒魔術【ホーリーヒール】」

 兄ゴブリンの手に触れ、中級クラスの治癒魔術をかける。
 本来ならこの程度は初級クラスの魔術で十分なのだろうけど、脳震盪、打撲はしているだろうから念のためだ。

「わぁ……これが魔術」

 隣で大人しく見ていた妹ゴブリンが感動していた。

「あまり見ないの?」

「うん、だって私達ゴブリンは魔術なんて使えないし……使えると言ったらゴブリンロードぐらいだし」

「まあ、魔族の中でも最も魔力適正が低い種族だからね」

 丁寧に兄ゴブリンを回復した後、立ち上がり洞窟を見回す。
 よく見れば、人工的に作られた通路のようだ。

「君、教えて欲しいんだけど」

「私の名前は『リン』です。そしてここにいる兄の名前は『ゴブ』です」

「あ、ごめん……聞きたいんだけど、リンはこの洞窟の出口まで通じる道を知っている?  ちょっと迷って、出る方法が分からなくなったんだ」

「それなら、私達二人が進んできた方向に戻ればすぐに出口に通じますよ」

 指差す方向、鼻でにおいを確認する。
 確かに洞窟とは違った空間の匂いがしてくる。

 そんな遠くはない、つまり出口はもう目前。やっとこの陰気な洞窟から脱出できるのだ。

 期待を胸に一人で駆け出すのもいいが、二匹ともをここに置き去りにして自分だけ行くわけにはいかない。

 そう思いながら僕はゴブを背中に乗せ、強化魔術で身体を強化して重さを軽減。
 さらには感知魔術で魔物に警戒、また偶然遭遇して争いごとになりたくないしね。

 さて、出口まで出発だ。



 ーーー


 快晴の空。
 自然の良い香りがする鬱蒼とした大森林。

 やっとのことで洞窟から抜け、その付近にあった小川で休憩していると。

「えぇぇええええええええええええええええええーーーーーーーー!!!!!!!???」

 水面を覗き込んでいた僕は今まで放ったことのない、鳥が森から散るほどの大声量で叫んでいた。
 洞窟の暗さであまり意識しなかった皮膚の色と姿が水面を前にして映しだされている。

 確かに違和感はあったのだ。
 嗅覚といい、リンの言葉といい、色々あったけどあまり気にしなかったのだ。
 だけど、まさかこの僕が、この僕が!

 緑色の肌に通常の人間より小柄な体格、鋭い牙に爪!

 人族ではない、他種族の『ゴブリン』になっているだなんて!!!


「……あっ、そういえば」

 あまりの衝撃でふたたび叫んでいると、ふとある記憶が蘇ってきた。
 そして思い出したのだ、自分がドラゴンに喰われて筈だってことを。

「勇者に見捨てられて死んだ大賢者はゴブリンに転生したので、魔王の配下になって魔族の軍勢を率いる大賢者になる」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

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