Red FIELD - 武装召喚 -

瞬くヒノヒカリ

第一戦 【兆し】

■大都市、東京。
■その昼夜問わず光で溢れる街を、静かに見下ろす少女が一人。
■その眼光には、覇気を纏う事なくボソリと呟く。

『気味の悪い世界だ』

■少女の立つ場所は、誰もが知る東京のシンボル“東京タワー”の展望台の外だった。
■「自殺しようとしている人がいる」、そう通報され数分が経とうと言う時に、地上の方でけたたましくサイレンを鳴らした数十台のパトカーや救急車等で辺りは赤色灯せきしょくとうの明かりで赤に染まっているようだった。

『騒がしいなぁ。 気が散る』

■そんな事などお構いなしに、少女は眼前に広がる景色をただ見つめている。
■何かの気配を察知しようとしているようだ。
■時刻は午後8時になろうとしている。
■人通りが多くなる頃合いという事もあり、東京タワー周辺では人でごった返していた。
■その直後、彼女の近くでどこからかパタパタパタと一定の音を鳴らし続ける人間が操作する航空機が徐々に近づいて来たと思いきや、少女に風圧がかからない程度の距離を保ち、何かを向けている。
■その少女には何を向けられているのか分からないようだったが、TVカメラだった。
■その横では、必死に棒切れのような物を口に当て、何かを喋っている男性の姿が薄く確認出来た少女。
■余り関わらない様にしようと決め込んだ少女をよそに、航空機から甲高いハウリング音が鳴ったと思いきや、その棒切れを手に持つ男性の声が少女に向け発せられる。

『そこの君。 今すぐそのような行為は止めて、我々と話をしよう』

■その声はゆっくりとしたペースで語り始め、自殺を止めようと優しく少女に語りかける。
■男性の声はその棒切れから口を離すと聞こえなくなる所を見ると、拡張され自身の耳に届いているのだと確信する少女。

『我々は、君と共に君の言葉を世界に向け発信できる場所を提供出来る、危ない行為でその言葉を捨てる事はない!』

■更に男の言葉は続く。

『君の身の安全は保証する。 君のその覚悟で十分理解する事が出来る。 だから、安全な所に我々のクルーが連れて行くから、今は早まらずその場所から動かず、そのクルーに身を任せなさい』

■必死さが滲み出る説得だった。
■その後も、追加で2機ほど似た機体の航空機が少女の周りを取り囲むようにしていたが、何かを悟ったのか、すぐにその1機を残して、帰還していった。

『赤の地に救いなど求む事はない。 今はただ、人を探しているだけだ』

■少女の言葉など聞こえるはずも無く、その航空機はなおもその面持ちを少女に向け佇んでいる。
■その時だ。
■一瞬の光と共に、少女の眼前にあった航空機が爆裂し空中で四散した。

『今回のフェイトは、一般人までも巻き込もうというのか?』

■目の前で起こった出来事に、若干の驚きと共に考えを巡らす少女だったが、その思考は誰かの声で打ち切られる。

『大層なご身分だなぁ、フィーア・ロン・テリベリア』

■青い衣を纏う白髪の眼帯をした男が、フィーアと呼ばれた少女の眼前、丁度爆裂した航空機と同じ場所で佇んでいた。
■彼の足元には、鈍く光を放つ魔法陣が浮かび上がっていて、現世に置いて存在すらしないとされる力を使っているのは明白だった。

『貴様、一般人を巻き込んでいいと思っているのか?』

■先程の航空機に搭乗していた人達を心配するでもなく、ただ、今の状況を余計に混乱に陥れるかも知れない事を懸念しての質問だったのだが、、、。

『関係ないね。 ウェーブはまだ立つ兆しもない』

■その言葉に、蒼き衣を纏う白髪の眼帯の男に、冷戦の言葉は通用しないようだったが一応の確認だろう、少女フィーアは問いかける。

『戦闘がしたければ、もっと他にあると思うがな』
『戦闘? 今がそれだと思うのだが、フィーアさんはそんなことも理解できないと』

■大袈裟に両手を広げ、小馬鹿にしたようにフィーアに言葉を投げてくる男。
■やはり、話は通じない。
■若干の睨み合いが続く中、少女にも、そして、目の前の男にも何かしらの思想が巡っているのは確かだった。
■その時。

【あるのはただ一つの赤の世界だ】

■少女の中で、ある人物の唱えた言葉が木霊する。
■その木霊した言葉に、少女は薄く笑い、「そうでしたね」と優しい口調を唱えた。
■その直後、白髪の眼帯をした男の頬に一筋の血が流れていた。
■白髪の眼帯をした男は驚き、すぐさまその頬に流れる血を腕で拭い少女に怒号を吐きつける。

『テメェ、何をした!?』
『戦闘なのだろう? ならば遠慮はしない』

■激高する男をよそに、少女“フィーア”は冷静にその男に視線を向ける。
■そして、ボソリと何かを呟く。
■その口の動きに白髪の眼帯をした男は、何かの詠唱なのだろうと思ったのだろう。

『無印詠唱魔法など、小細工もハダハダしいな! 唱え終える前に肉塊にするまでよ!! そ~だろ〜えぇ!!』

■一瞬の魔法陣が浮かび上がると共に、何処からともなく凶々しい巨大な剣を出し怒号を吐きつけながらフィーアに斬りかかろうとする白髪の眼帯をした男だったが、刃がフィーアにあと数センチで届く距離で、その巨大な剣はピタッと停止する。

『な、何故だ、、、?』

■巨大な剣が眼前にあろうと、眉一つ動かす事なくボソリと呟くように言葉を男に向ける。

『貴様如きで私を止めようなどと、笑わせるな。 詠唱? そんなもの必要無い。 貴様が何故私の邪魔をするのかとか、これからの事を考えていただけだ』

■見る見る内に白髪の眼帯をした男は冷や汗を滲ませ、恐怖に慄いている。

『隠密の意味が無くなるから、使うのを躊躇していたが致し方ないな』

■そう言ってフィーアは、空に手を掲げ、その掲げられた手から、一線の光が天を貫いた。
■その光は、何かの居場所を探すように東京タワーを一周した後、一直線にその光を輝かせフィーアの元から離れて行った。

『ふぅ、やはりあの方向だったか。 覚醒者のように上手く気が探れないとは、私もまだまだだな』

■薄く笑みを浮かべるフィーアに、指先一つ動かせないのか先程の距離から一向に変わらない距離で佇む白髪の眼帯をした男が言葉を投げる。

『噂には聞いていたが、貴様が選定者のペッドゥなのか?』
『そうだ』
『同じ第三位魔族階級ケルベロスの位でも、ここまで違うと笑いが出るなぁ』

■白髪の眼帯をした男は、更に言葉を続ける。

『今、この時点で俺に殺されなかった事を後悔する日が来るかもしれないぞフィーア。 天零蔡団はもとより、かの人が居られる元老院が刺客を送る。 せいぜい生き残らせろよ、その選定者をよぉ』

■ペッドゥの使命にとって選定者の死は、その者に使えていたペッドゥの役割の解任と共に、役命を果たせない存在として一緒にその命を狩られる事になるのだ。
■しかし、その言葉にもやはり眉一つ動かす事なく男に語りかける。

『言い残す言葉は、以上か?』

■目一杯の脅し文句にも何一つ反応を変える事ないフィーアに、白髪の眼帯の男は奥歯を噛み締めた後、苦し紛れに言葉をぶつけようとするが、、、。

『死にさ、、、、ーーー!!?』

■白髪の眼帯をした男の罵声を最後まで言わせる事なく、フィーアは拳を握る動作を見せる、それと同時に男から鮮血が宙を舞った。

『汚い赤だ』

■体部を切断された肉塊と共に、赤黒い血は地上へと降り注がれ、爆散した航空機の残骸もろとも、地上の東京タワー周辺は騒然とした現状へと陥る事となった。
■この戦闘で、フィーアは白髪の眼帯をした男の返り血を少なからず浴びてしまう。

『服などは汚れても構わんが、、、』

■少々男の言葉と、男の行動が単独であったのかとかの考えをその場で再度しだすフィーア。

『もう少し、情報を聞き出しておくべきだったかな、、。 ふぅ、私もまだまだだな』

■もう一度、自身の幼さに落胆し、「すぐに出向くのは危険か」と独り言を呟いた後、一旦はこの後にも続くと思われる後続戦闘員の後始末の為、しばらくは光の直線上を警戒する必要が出てきた事もあり、今の場所の人混みに紛れる事にする考えに至った。

『その前に、、、』

■フィーア自身にとっては雑魚でも、戦闘経験が如何程なのか判らない選定者に隠密に精通する追跡者がいち早くたどり着く可能性の事を考慮して、フィーアは召喚詠唱を唱え始める。
■術式を展開させ、近くの足場にその呪印を刻み込んだかと思えば、その場所から小さな羽根を生やした低く飛行する猫が現れた。
■その猫は、主人フィーアの眼前で堂々と文句を一つ語り出す。

『もう、何だよフィーア! もう少しで、低級魔獣ラットラッツを仕留めれる所だったのに!!』
『あぁ、、、それは悪かったなターニャ』

■ターニャと呼ばれるその羽根を生やし言葉を話す猫は、「埋め合わせは、目玉な」と言ってフィーアにお土産をねだる。
■そんな、従獣カーネミーであるターニャに、先程の顔付きとは打って変わって笑顔を見せ「あぁ、分かった」と言った後、フィーアはターニャに召喚した経緯を説明する。

『じゃあ、そいつの近くで魔術反応とか、魔香を感じ取ったらフィーアに伝えればいいんだな?』
『そうだ』

■優しく相槌を打つフィーアに、ターニャは猫背を直しすぎてハト胸寄りになりながら。

『分かったぞ、フィーア! ボクに任せとけば、霊獣麒麟だって威嚇してこないさぁ!』
『あぁ、頼りにしてる』

■そんなフィーアの言葉を受け、パタパタと小さく羽音を立て、笑顔で「行ってくる」と言って飛び立とうとするターニャだったが、クルッともう一度フィーアの方に向き直り。

『フィーア! フィーアは十分出来る子だから安心しろよ!!』
『励ましか? フフフ、ありがとう』

■フィーアの笑顔を確認したターニャは再度光の向かった場所の痕跡を探る為、少しの間目を瞑り、「よし」と一声出してその場所を後にした。

『任せたからな、ターニャ』

■優しく聞こえるはずもない距離にまで飛び立ったターニャに言葉を残したその直後。

従獣カーネミーを何処へ向かわせたんだ、フィーア』

■冷たく響くその声に、フィーアは少し肩をビクつかせたが振り向く事なく答える。

『この辺りの美味しいお店を探させているだけですよ、ヴァイス卿』
『ほう、人間界でも興に乗ずるモノを見出したか?』

■意表を突かせる為についた小言にヴァイス卿は、特に反応を見せていないのか言葉を返してきた。
■この人物に心境探りなど意味は無いのかも知れないと早々に悟ったフィーアは、「冗談ですよ」と声のする方へと顔を向けその人物の姿を目に映す。
■一方のヴァイス卿と呼ばれる人物は漆黒のマントで全身を包んでいたが、フィーアが向き直るのを確認するや、顔に影が深く掛かるほど覆っていたフードをゆっくりと外し顔を覗かせた。
■右目が赤、左目が白いオッドアイの男はゆっくりとした動作で、フィーアに近づき話し始める。

『冗談を私に対し使うとは、フィーアも大人になったな』
『私はもう子供ではありません。 戦士として本心を易々と語るほど愚かではないので、、、』

■反論を呈してはいるが、ヴァイス卿の顔を見ながらでは尻込みを隠せないフィーアだった。

『今すぐ、我らと共に帰還するぞ。 選定者捜索は終わったのだろう?』
『えぇ、邪魔は入りましたが』
『ほう、ではそなたの身を染めた赤は、その邪魔者の血か?』

■ヴァイス卿はフィーアの服に染み付いた血に対し質問した後、「ところで」とフィーアを試す為なのか判らないが。

『そなたと同位どういのバイドが先攻したが、如何程だったか?』

■そうフィーアに訪ねた。
■バイド、それはまさにフィーアが先程、物言わぬ肉塊に帰した白髪の眼帯をした男である。
■その力量を指し示す物であるならば、フィーアが語る内容は容易に想像する通りだった。

『ケルベロスとしては、力不足だったと言わざる負えない男でした』
『そうか、、、分かった』

■寂しそうにそう呟いた後、静かにヴァイス卿は後方で同じような姿の部下らしき数人に合図を送る。
■しかし、それを見るやフィーアは、その部下達を先程殺したバイド同様、動きを止めさせたのだ。

蜘蛛の糸スパイダーネットか、、、。 従獣カーネミーを既にもう一体召喚していたようだな』

■ヴァイス卿は、見えない糸が自身を既に包んでいる事に気が付きフィーアに質問する。

『流石はヴァイス卿ですね。 ですが、私の女王蜘蛛アルフィアは早々簡単には見つけられません』
『だろうな。 だが、このまま抵抗を続けるという事が何を意味しているのか分かっての事か?』
『、、、はい』

■威厳から来る覇気を重く受け止めながらも、フィーアは揺らぐ事のない思念をヴァイス卿にぶつける。
■その意気込みに、微かに笑顔を見せ「そうか」とだけ言ったと思いきや、動かせない程強く締め付けられている筈の腕を安々と動かして見せ、一見何も無い場所に短刀を投げる。
■すると、甲高い鳴き声と共に巨大な蜘蛛が姿を表したのだ。
■その姿を見てフィーアは大きく動揺を見せながら叫ぶ。

『アルフィア!!?』

■視認不可、魔力反応も感知できない筈の第一級迷彩魔獣シェンステルス級の大蜘蛛、フィーアは“アルフィア”と呼ぶその従獣カーネミーが絶命したのを確認したヴァイス卿は静かにフィーアに語り掛ける。

『この事を報告する義務・・・・・が出来た。 今回は取り逃がした・・・・・事にして我々は帰還する』

■怒りを露にして睨みつけるフィーアに、「これからが試練だ」と言葉を残し、アルフィアが死んだ事で蜘蛛の糸の呪縛が解けていた部下数人と転移魔術の先に見せる漆黒と共に闇夜に消えていくのだった。

『報告する義務? 取り逃がした? そんな事、アナタはしない』

■膝から崩れ落ちるようにその場に座り込んでしまうフィーア。
■ヴァイス卿の事を幼い頃より近くで感じていたフィーアにとって、その言動には矛盾を感じざる負えなかった。

『いつでも殺せると言う事ですか? それとも、、、』

■色々な事が頭を巡る中、ふと顔を上げると先程の蜘蛛アルフィアがいた場所に女性の姿をした存在がフィーアに手を伸ばしていた。
■その姿を見て、慌てながら近づくフィーア。

『まだ生きていたんだなアルフィア』
従獣カーネミーとして、、、情けない姿を見せたわね、、、、』

■それは従獣カーネミーが人間界でも適応出来るようにする仮の姿だった。
■「すぐに傷の手当を」と魔法陣を展開するがアルフィアはそれを笑いながら静止させた。

『アナタは、たかだか従獣カーネミーに対して、優し過ぎるのよ。 それに、もう手遅れ、、、。 魔魂そのものを傷付けられたの、治せないわ』
『しかし、、、』
『あの方は、私が絶命したのを確認したんじゃない、魔香の停止を確認したんだわ、きっと』

従獣カーネミーは存在が確定内にある場合に魔香と言う独特の匂いを放つ、アルフィアはそれをゼロに能力発動中は出来る、しかし、攻撃を受け姿を表した事でそれを感知させ放出してしまったのだが、それが意思に関係なく停止する事は死を意味する。
■今、アルフィアが生きていられるのは、長年のフィーアの魔力を直接受けていた事で蓄積されていた残り香のような物で維持されている状態だった。

『愛着が湧くといけないのよ私のような存在は、、、』
『何を言うか、アルフィア。 お前は母に仕えていた時からの仲だからだ』

■その言葉に、アルフィアは軽く笑い声を上げ言葉を掛ける。

『フローラ様の事ね。 でもアナタは子供じゃないでしょう? だったらもう見捨てていいの。 選定者君の事、きちんと支えなさいね、アナタより更に醜い現状を見る事になるんだから、、、』

■その時、アルフィアの身体からゆっくりと光子が溢れ出てくる。
■存在が消える前兆だ。

『消えるな! まだ治せる! 私の魔力を転送すれば、まだ、、!』
『もう、子守は嫌よ』

■アルフィアはそう言ってフィーアを残り少ない力で押し退ける。
■驚くフィーアにアルフィアは優しく笑顔を見せながら語り掛ける。

『さっきの威勢は何処に行ったの? “これからが試練だ”あの人が残した言葉は真実よ。 泣き顔何か見せて、最期くらい、笑顔を見せなさいよ、、おバカさんなんだから、、、。』

■いつの間にか頬を伝っていた涙に今更ながら気付き、強引に拭き取るフィーア、それを優しく撫でて柔らかく笑うアルフィアは小さく「一緒に居れて、楽しかった」と言う言葉を残し姿を消した。
■その直後、空から大粒の雨が降り出す。
■アルフィアの姿が在った場所にフィーアは、「ごめんね」と言った後、堪え切れずに大きく涙を流し、ただ泣きじゃくるのだった。
■頬を伝うは雨と涙、、、それらに続き鳴り響くはけたたましいサイレンの音だけだった。





― 第一戦 【兆し】/ 完 ―

コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品