オタク気質が災いしてお妃候補になりました
5-6 思惑
「なかなか面白いことになってきたな」
アトリエAを久しぶりに訪れたアリーシアは、テトとザッカスがまた新しい原稿を書いているのを見ながら、今後の方針などの打ち合わせをしていた。途中レインがアトリエに送られてきた手紙をザッカスに渡した。ザッカスは作業を中断して、手紙を読み始めるとニヤッと笑いつぶやいたのだ。
「ザッカスどうかしたの? 」
アリーシアはザッカスに問いかけた。
「いやあ、今話題の侯爵家の令嬢アリーシア様をお妃候補にっていうのが町でのウワサだったんだが。いくつかの権力者も推しているらしいね。これだけ有名になったご令嬢だ。何かとつながりを持ちたいんだろうな。」
「……!? 」
アリーシアはすべて初耳だった。自分がお妃候補であるかもしれないのは、身分上仕方ないことだとはわかっていた。しかし今回の本の販売により、本の後編の主人公・アリスは侯爵令嬢がモデルだと噂になっていた。そこでアランの戦略もあって、サラ様の懐妊と合わせて本も発表したこともうわさになった。幸せを運ぶ本だというようなウワサまで流れ始めたそうだ。物語の中のアリスは、国を考え、サンパウロさまのように王国を支え、国をよくしようと献身し、成長していくストーリーである。それをアリーシアに重ねてしまっているのだろう。あくまでモデルであって、実際の話ではないのだが。
「アリーシア大丈夫?顔色が悪いよ? 」
絶句してしまうアリーシアにレインが声をかける。社交界デビューではお妃候補にならないよう全力でパートナーを断った。そしてダンスだって順番で目立たないポジションでいたため、候補としての本命からは免れた。お妃候補は、現在5人いるといわれている。
大筋では社交界デビュー時に、エドワードと最初に踊った大臣の愛娘が筆頭のお妃候補とのうわさが出ている。またほかの4人は4貴族の娘たちである。それぞれの貴族の思惑があり、まだどの身分の人かはまだ明らかになっていない。しかし4貴族からもそれぞれにお妃候補にふさわしい候補を擁立するうわさが流れている。
「なあ、アリーシア? 」
ザッカスは人の悪い顔でアリーシアに問いかけた。きっとザッカスをにらみつけた。
「ザッカスは、どこまでこの事態をわかっていたのかしら? 」
「さあ、どこまでというか。俺も巻き込まれてる側だってことは確かだな」
「どういうこと? 」
「あえていうなら、最初からわかってたってことだな」
「最初から!??? 」
アリーシアは混乱した。ザッカスと出会ったのは数年前のことだ。初めて会ったのは、孤児院で視察を行ったときだった。その時からザッカスは、アリーシアの背景からすべて知っていたということだろうか。
アリーシアが何も声を出せずにいたのに、哀れに思ってかザッカスを静止してテトが入る。
「アリーシア様、すみません。ザッカスは最初からすべて知ってました。アリーシア様が侯爵令嬢であること。絵本の製作を頼んだこと。ですが、アリーシア様に危害を加えようとかやましいことはまったくないのです。ただ黙っていたのです」
「そう、黙っていた。それはアリーシアも俺に黙っていたのと同じなわけだ」
ザッカスは自分には非がないといわんばかりに、テトの言葉に乗っかる。レインもさすがにザッカスの意地悪がひどいということで、ザッカスを見る。
「それなら私だって悪かったよ。だって私も言わなかったわけだし」
「俺だけ蚊帳の外ってことか」
ザッカスはテトとレインは事情を知っているのに、自分だけが知らされていなかったことが面白くなかったようだ。
「………それは、悪かったと思っています。ごめんなさい」
アリーシアは謝った。ずっと言おうか悩んでいたし、悪いと思っていた。だからここは謝ったほうがいいと思った。
その姿に呆気にとられたのはザッカスのほうだった。一瞬真顔になると、腹を抱えて大笑いし始めた。
「いやあ、面白い。侯爵令嬢が、こんな俺に謝罪するなんて。今国中で、注目されている令嬢。王妃だって目指せる位置にいるやつがだ」
「そんなの知らないわ。侯爵令嬢であるのは認めるし、わたしには黙っていた責任もあるの。事情があったから黙っていたのは確かであるけれど、タイミングを逃して仕事仲間であるザッカスに言わなかったことはいけなかったと思っているの」
「貴族様がそんな簡単に下々のものに頭下げていいのか?品格がさがるとかないのか? 」
「頭を下げるくらいで下がる品格ならいらないわ。悪いこと悪いって謝れなくて、侯爵令嬢としての品位どころか、人間としての品位が下がります」
「さすがはサンパウロの血ってことか」
ザッカスは大笑いしたあと、小さくつぶやいてアリーシアを眺めた。
「やっぱり面白いわ。アリーシアも、アリーシアの兄さんもな」
「ザッカス? 」
アリーシアはもうザッカスが怒っていないか不安になった。怒らせるとザッカスは怖いのである。
「言っておくが、お妃候補うんぬんについては俺たちの想定外の話だ。まあ、アリーシアの兄さんは想定していた事態かもな」
「お兄様が? 」
「そうだ。そもそも今回の本について、二作同時に作ることをすすめたのはアリーシアの兄さんなんだよ。もちろん原案も兄さんのアイディアも入ってる」
「そ、それってどういうこと? 」
「全部は兄さんの思惑ってことだろう。いやいや、あの人は絶対敵に回したくないな。頭が切れすぎる。行動力もある。怖い兄ちゃんがいるな、アリーシアは」
「お兄様が考えたってことなの、全部」
アリーシアは驚いた。だが兄がアリーシアに不利益なことをするはずがない。
だが兄・アランが事業としてアトリエAの本を大きくするならば、いい戦略に違いなかった。二作同時に発売することはインパクトは大きくなる。
「アラン様だって、事態が大きくなればお妃候補の後押しになることは想定するでしょう。ですがアラン様は次期領主として立派な方でありますが、アリーシア様のお兄様です。アリーシア様の困ることにはならないでしょう」
「ええ、わたしもそう思いたい」
アリーシアは兄に一度確認してみないとと考えた。兄を疑うわけではない。だが、アリーシアの知る以外のことで事態が動いてきている気がしてならなかった。
アトリエAを久しぶりに訪れたアリーシアは、テトとザッカスがまた新しい原稿を書いているのを見ながら、今後の方針などの打ち合わせをしていた。途中レインがアトリエに送られてきた手紙をザッカスに渡した。ザッカスは作業を中断して、手紙を読み始めるとニヤッと笑いつぶやいたのだ。
「ザッカスどうかしたの? 」
アリーシアはザッカスに問いかけた。
「いやあ、今話題の侯爵家の令嬢アリーシア様をお妃候補にっていうのが町でのウワサだったんだが。いくつかの権力者も推しているらしいね。これだけ有名になったご令嬢だ。何かとつながりを持ちたいんだろうな。」
「……!? 」
アリーシアはすべて初耳だった。自分がお妃候補であるかもしれないのは、身分上仕方ないことだとはわかっていた。しかし今回の本の販売により、本の後編の主人公・アリスは侯爵令嬢がモデルだと噂になっていた。そこでアランの戦略もあって、サラ様の懐妊と合わせて本も発表したこともうわさになった。幸せを運ぶ本だというようなウワサまで流れ始めたそうだ。物語の中のアリスは、国を考え、サンパウロさまのように王国を支え、国をよくしようと献身し、成長していくストーリーである。それをアリーシアに重ねてしまっているのだろう。あくまでモデルであって、実際の話ではないのだが。
「アリーシア大丈夫?顔色が悪いよ? 」
絶句してしまうアリーシアにレインが声をかける。社交界デビューではお妃候補にならないよう全力でパートナーを断った。そしてダンスだって順番で目立たないポジションでいたため、候補としての本命からは免れた。お妃候補は、現在5人いるといわれている。
大筋では社交界デビュー時に、エドワードと最初に踊った大臣の愛娘が筆頭のお妃候補とのうわさが出ている。またほかの4人は4貴族の娘たちである。それぞれの貴族の思惑があり、まだどの身分の人かはまだ明らかになっていない。しかし4貴族からもそれぞれにお妃候補にふさわしい候補を擁立するうわさが流れている。
「なあ、アリーシア? 」
ザッカスは人の悪い顔でアリーシアに問いかけた。きっとザッカスをにらみつけた。
「ザッカスは、どこまでこの事態をわかっていたのかしら? 」
「さあ、どこまでというか。俺も巻き込まれてる側だってことは確かだな」
「どういうこと? 」
「あえていうなら、最初からわかってたってことだな」
「最初から!??? 」
アリーシアは混乱した。ザッカスと出会ったのは数年前のことだ。初めて会ったのは、孤児院で視察を行ったときだった。その時からザッカスは、アリーシアの背景からすべて知っていたということだろうか。
アリーシアが何も声を出せずにいたのに、哀れに思ってかザッカスを静止してテトが入る。
「アリーシア様、すみません。ザッカスは最初からすべて知ってました。アリーシア様が侯爵令嬢であること。絵本の製作を頼んだこと。ですが、アリーシア様に危害を加えようとかやましいことはまったくないのです。ただ黙っていたのです」
「そう、黙っていた。それはアリーシアも俺に黙っていたのと同じなわけだ」
ザッカスは自分には非がないといわんばかりに、テトの言葉に乗っかる。レインもさすがにザッカスの意地悪がひどいということで、ザッカスを見る。
「それなら私だって悪かったよ。だって私も言わなかったわけだし」
「俺だけ蚊帳の外ってことか」
ザッカスはテトとレインは事情を知っているのに、自分だけが知らされていなかったことが面白くなかったようだ。
「………それは、悪かったと思っています。ごめんなさい」
アリーシアは謝った。ずっと言おうか悩んでいたし、悪いと思っていた。だからここは謝ったほうがいいと思った。
その姿に呆気にとられたのはザッカスのほうだった。一瞬真顔になると、腹を抱えて大笑いし始めた。
「いやあ、面白い。侯爵令嬢が、こんな俺に謝罪するなんて。今国中で、注目されている令嬢。王妃だって目指せる位置にいるやつがだ」
「そんなの知らないわ。侯爵令嬢であるのは認めるし、わたしには黙っていた責任もあるの。事情があったから黙っていたのは確かであるけれど、タイミングを逃して仕事仲間であるザッカスに言わなかったことはいけなかったと思っているの」
「貴族様がそんな簡単に下々のものに頭下げていいのか?品格がさがるとかないのか? 」
「頭を下げるくらいで下がる品格ならいらないわ。悪いこと悪いって謝れなくて、侯爵令嬢としての品位どころか、人間としての品位が下がります」
「さすがはサンパウロの血ってことか」
ザッカスは大笑いしたあと、小さくつぶやいてアリーシアを眺めた。
「やっぱり面白いわ。アリーシアも、アリーシアの兄さんもな」
「ザッカス? 」
アリーシアはもうザッカスが怒っていないか不安になった。怒らせるとザッカスは怖いのである。
「言っておくが、お妃候補うんぬんについては俺たちの想定外の話だ。まあ、アリーシアの兄さんは想定していた事態かもな」
「お兄様が? 」
「そうだ。そもそも今回の本について、二作同時に作ることをすすめたのはアリーシアの兄さんなんだよ。もちろん原案も兄さんのアイディアも入ってる」
「そ、それってどういうこと? 」
「全部は兄さんの思惑ってことだろう。いやいや、あの人は絶対敵に回したくないな。頭が切れすぎる。行動力もある。怖い兄ちゃんがいるな、アリーシアは」
「お兄様が考えたってことなの、全部」
アリーシアは驚いた。だが兄がアリーシアに不利益なことをするはずがない。
だが兄・アランが事業としてアトリエAの本を大きくするならば、いい戦略に違いなかった。二作同時に発売することはインパクトは大きくなる。
「アラン様だって、事態が大きくなればお妃候補の後押しになることは想定するでしょう。ですがアラン様は次期領主として立派な方でありますが、アリーシア様のお兄様です。アリーシア様の困ることにはならないでしょう」
「ええ、わたしもそう思いたい」
アリーシアは兄に一度確認してみないとと考えた。兄を疑うわけではない。だが、アリーシアの知る以外のことで事態が動いてきている気がしてならなかった。
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