オタク気質が災いしてお妃候補になりました
5-2 制作
「アトリエAの1作目はサンパウロ伝記でいいかしら? 」
アリーシアは新しい工房となった事務所で、みんなの意見を聞くようにそれぞれの顔を見た。事務所に移動し、活動を再開して時間が過ぎた。その間、案を練っては作り直しという作業と、それぞれほかの仕事が本業であるため、顔を合わせる時間を作ることが大変だった。
アリーシアの提案にテトとザッカス、レインは頷いた。まだ小さなアトリエAでは、1作目の漫画となるサンパウロ様の伝説を漫画にして、販売するという試みが始まった。
まずはザッカスが絵本の文章から小説のように文書を作り上げていった。小説というならば、それなりにエピソードが必要である。そこで孤児院の子どもたちや、アポロにも協力してもらい、オリジナルのエピソードを作っていく作業に時間がかかった。つまり、おとぎ話を作っている要領である。
例えば、アリーシアが前世で好んだグリム童話やイソップ物語であっても、それぞれの地域に根ざした風刺や寓話などが元にあるのである。童話をつくった人々は、地方のそういった小話をまとめていき、一つの観点から物語として編纂していった。
アリーシアたちもそういった地味な作業を積み重ねていくのであった。
できるだけ子どもたちに、夢や希望をもって楽しんで読んでもらいたい。そういう意図もあり、残酷なものであったり、暗いものであったりは極力なくしていった。ただ教訓として、知っておいたほうがいいことは、子どもたちに教える意味で残していく。
地方への話を集めるのは、人海戦術も使った。特にレインたちはお年寄りからの話を聞いてくるのがうまかった。お年寄りは、昔話をよく知っていて、一見意味のない話であっても、天候の見方であったり、天災の予兆であったりを予見しているものがある。
兄・アランが紹介してくれた人員も使って、取材においても時間を労力もかけて行っていく。これは超大作になりそうだなと、お互いで笑い合い励まし合い、気の長い作業に取りかかっていく。
そこで今回は、手始めに簡単なダイジェスト版としての本を作ることにした。ページ数はそれほどないが、冊子にして配るくらいにはこれくらいがいいだろうと意見がまとまった。
ザッカスが作った小説を、テトがイラストとして起こしていく。アリーシアは場面のカットをもっとこうした方がわかりやすいなど、意見を盛り込んでいく。レインも古書の漫画を読んできたので、漫画らしい描き方を見ては、学んでいく。
「あー、地味な作業だね。肩がこる! 」
レインは場面分けのパターンを考えていて、アリーシアと何度も話し合っていた。
「そうですね。あまり前例がないですから、手探りです。アリーシア様がよく意見をくださるので、助かっています。」
「漫画を読みたいからがんばるわ」
「アリーシアって単純だよなあ」
ザッカスが作業をしながら、アリーシアに向けてつぶやく。
「そうかしら? 」
「思考がガキくさくてわかりやすい」
「ザッカスはもっと言葉を選んだほうがいいわ」
「これが性分なんでね」
ザッカスとは軽口を聞けるくらいにはなった。ザッカスはあいかわらずボサボサの髪の毛であり、昨日は仕事で徹夜した状態で事務所へ来たらしい。最初はとてつもなく不機嫌だったが、お茶とお菓子を出せば、黙って口にしていた。仮眠を少ししてから、黙々と作業を始めるのがザッカス流である。
「最初は終わるのかと思ったけど、どうにか最後が見えてきたからよかった」
「レインさん、俺たちがこれだけで寝不足になっていると思うか? 」
「どういうこと? 」
ザッカスとテトは確かにびっくりするほどやつれている。でもそれだけ初めてのことなので、消耗は仕方ないと思っていたアリーシアとレインだった。しかし口ぶりからすると違うようだ。
「ザッカス……………、今回は死ぬかと正直思っていたし。まだ死ぬと思っている」
「テト、そんな中途半端なこと言ってるんじゃねえって」
アリーシアとレインは首を傾げた。この二人で話が完結してしまっている。
「アリーシア、これ見てみ? 」
ザッカスが紙の束をアリーシアたちに見せた。アリーシアはびっくりした。
テトとザッカスは事務所で作業している何十倍、何百倍と漫画を描き込んでいたのである。それこそ寝て起きている時間以外は漫画を描いていたのではというほどだった。
ザッカスはたくさんのコマ割りに文章を書き込み、テトは絵を描き込んで言っていた。
アリーシアは絵の上達ぶりをみれば、血のにじむような努力をしているのを知った。
「………………二人とも。すばらしいわ」
「新しいことをするのには、これくらいのことは当たり前だ」
「ザッカス、誰でもできることではないわ」
「俺自身がそうしたいんでね」
ザッカスとテトは一心不乱に作業をしていた。
「はは、ザッカスと付き合っていると何度倒れそうになるかわからないですね」
テトはザッカスと長い付き合いだからこそ、ザッカスのやり方を知っているようだ。二人の連携プレイはアリーシアが想像するより、はるかにプロ意識も強く、覚悟があった。
「今書いているのは、次の作品なんだ」
「どういうこと? 」
ザッカスはテーブルに向かったまま、また紙の束を見せてきた。
「1作目と2作目は同時に出版したいです。どうですか?アリーシア様」
テトが2作目のイラストを見せてくる。二人は今までアリーシアに隠れて2作目の原稿をずっと書いていたようだった。アリーシアはその原稿を受け取り、最初から読み始めた
アリーシアは新しい工房となった事務所で、みんなの意見を聞くようにそれぞれの顔を見た。事務所に移動し、活動を再開して時間が過ぎた。その間、案を練っては作り直しという作業と、それぞれほかの仕事が本業であるため、顔を合わせる時間を作ることが大変だった。
アリーシアの提案にテトとザッカス、レインは頷いた。まだ小さなアトリエAでは、1作目の漫画となるサンパウロ様の伝説を漫画にして、販売するという試みが始まった。
まずはザッカスが絵本の文章から小説のように文書を作り上げていった。小説というならば、それなりにエピソードが必要である。そこで孤児院の子どもたちや、アポロにも協力してもらい、オリジナルのエピソードを作っていく作業に時間がかかった。つまり、おとぎ話を作っている要領である。
例えば、アリーシアが前世で好んだグリム童話やイソップ物語であっても、それぞれの地域に根ざした風刺や寓話などが元にあるのである。童話をつくった人々は、地方のそういった小話をまとめていき、一つの観点から物語として編纂していった。
アリーシアたちもそういった地味な作業を積み重ねていくのであった。
できるだけ子どもたちに、夢や希望をもって楽しんで読んでもらいたい。そういう意図もあり、残酷なものであったり、暗いものであったりは極力なくしていった。ただ教訓として、知っておいたほうがいいことは、子どもたちに教える意味で残していく。
地方への話を集めるのは、人海戦術も使った。特にレインたちはお年寄りからの話を聞いてくるのがうまかった。お年寄りは、昔話をよく知っていて、一見意味のない話であっても、天候の見方であったり、天災の予兆であったりを予見しているものがある。
兄・アランが紹介してくれた人員も使って、取材においても時間を労力もかけて行っていく。これは超大作になりそうだなと、お互いで笑い合い励まし合い、気の長い作業に取りかかっていく。
そこで今回は、手始めに簡単なダイジェスト版としての本を作ることにした。ページ数はそれほどないが、冊子にして配るくらいにはこれくらいがいいだろうと意見がまとまった。
ザッカスが作った小説を、テトがイラストとして起こしていく。アリーシアは場面のカットをもっとこうした方がわかりやすいなど、意見を盛り込んでいく。レインも古書の漫画を読んできたので、漫画らしい描き方を見ては、学んでいく。
「あー、地味な作業だね。肩がこる! 」
レインは場面分けのパターンを考えていて、アリーシアと何度も話し合っていた。
「そうですね。あまり前例がないですから、手探りです。アリーシア様がよく意見をくださるので、助かっています。」
「漫画を読みたいからがんばるわ」
「アリーシアって単純だよなあ」
ザッカスが作業をしながら、アリーシアに向けてつぶやく。
「そうかしら? 」
「思考がガキくさくてわかりやすい」
「ザッカスはもっと言葉を選んだほうがいいわ」
「これが性分なんでね」
ザッカスとは軽口を聞けるくらいにはなった。ザッカスはあいかわらずボサボサの髪の毛であり、昨日は仕事で徹夜した状態で事務所へ来たらしい。最初はとてつもなく不機嫌だったが、お茶とお菓子を出せば、黙って口にしていた。仮眠を少ししてから、黙々と作業を始めるのがザッカス流である。
「最初は終わるのかと思ったけど、どうにか最後が見えてきたからよかった」
「レインさん、俺たちがこれだけで寝不足になっていると思うか? 」
「どういうこと? 」
ザッカスとテトは確かにびっくりするほどやつれている。でもそれだけ初めてのことなので、消耗は仕方ないと思っていたアリーシアとレインだった。しかし口ぶりからすると違うようだ。
「ザッカス……………、今回は死ぬかと正直思っていたし。まだ死ぬと思っている」
「テト、そんな中途半端なこと言ってるんじゃねえって」
アリーシアとレインは首を傾げた。この二人で話が完結してしまっている。
「アリーシア、これ見てみ? 」
ザッカスが紙の束をアリーシアたちに見せた。アリーシアはびっくりした。
テトとザッカスは事務所で作業している何十倍、何百倍と漫画を描き込んでいたのである。それこそ寝て起きている時間以外は漫画を描いていたのではというほどだった。
ザッカスはたくさんのコマ割りに文章を書き込み、テトは絵を描き込んで言っていた。
アリーシアは絵の上達ぶりをみれば、血のにじむような努力をしているのを知った。
「………………二人とも。すばらしいわ」
「新しいことをするのには、これくらいのことは当たり前だ」
「ザッカス、誰でもできることではないわ」
「俺自身がそうしたいんでね」
ザッカスとテトは一心不乱に作業をしていた。
「はは、ザッカスと付き合っていると何度倒れそうになるかわからないですね」
テトはザッカスと長い付き合いだからこそ、ザッカスのやり方を知っているようだ。二人の連携プレイはアリーシアが想像するより、はるかにプロ意識も強く、覚悟があった。
「今書いているのは、次の作品なんだ」
「どういうこと? 」
ザッカスはテーブルに向かったまま、また紙の束を見せてきた。
「1作目と2作目は同時に出版したいです。どうですか?アリーシア様」
テトが2作目のイラストを見せてくる。二人は今までアリーシアに隠れて2作目の原稿をずっと書いていたようだった。アリーシアはその原稿を受け取り、最初から読み始めた
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