オタク気質が災いしてお妃候補になりました

森の木

4-12 社交界デビュー2

 母と父はエントランスへ向かうと、城の案内人から会場へ通された。アリーシアたちは今回デビューする側ということで、後から入室ということになる。前室で待機することになり、兄の腕に手を置きながら、緊張が増してきた。兄は貴族たちとある程度交流があるらしく、声をかえられ、アリーシアは兄の案内を聞きながら、同世代の貴族の子ども達に挨拶をした。お互い着飾り、この国ではそれぞれ一級品と言われている装飾を身につけていることがうかがい知れた。
 まばゆい城の中の照明がそれらを照らすことで、装飾はさらに光をまとう。
 兄は父以上にそつなく、社交的に貴族としての会話を楽しんでいる、アリーシアは、デビューの緊張で相手が誰だかまったく頭に入ってこなかった。もしかしたら知り合いがいたかもしれないが、気に留める余裕もなかった。着ているドレスの締め付けが、よりきつくなったように感じて、息苦しい。倒れてしまわないか不安になってきた。
 兄の腕に添えた手にぎゅっと力を込める。


 兄はアリーシアを見ると、安心させるように微笑んだ。
 アリーシアを見つめる瞳は、貴族たちに向ける社交辞令的な笑みではなく、兄として妹を見守る優しい笑みだ。今まで何度も練習してきたのだから、と自分に言い聞かせて、まぶたとゆっくり閉じて、深呼吸をすると侯爵令嬢としてのアリーシアを演じるように気合いを入れた。しっかりしなくては。


 城の案内が兄に声をかけた。今回デビューとなるメンバーではアリーシアたちの地位は高い方だ。最初に通されることになった。兄に導かれるまま、大広間の前にたち、扉が開けられる。そこにはたくさんの着飾った人々がいる。


「侯爵家、アラン様。アリーシア様」


 会場に声が響き渡り、それぞれの名前が呼ばれる。アランが一歩進むと同時に、アリーシアも足をすすめた。室内は優美な演奏が流れ、入場を彩る演出がされている。アリーシアは微笑みを浮かべながら、毅然とした態度で堂々と広間を歩いて行く。まばゆい光に頭がクラクラしそうになるのをこらえて、ここは失敗できない瞬間であると自分を律した。歩いて行く先には、母と父がいてアリーシアを迎えてくれた。


 侯爵家としての席は王家の席に近く設けられていた。アリーシアたちに続いて、次々にデビューするものたちがパートナーと伴い入ってくる。そして一通り、入場が終わると、最後に音楽がかわった。そして入ってきたのは、王とエンドリク様とエドワードだった。王が中央の王座へつくと、皆頭を下げる。そして王の口上が始まった。


 王を間近で見るのは初めてだった。赤い髪、金の瞳はエドワードとエンドリクと同じだ。そして病気をされたので、若干ほっそりしていたが、凜々しいたたずまいだった。王としての品格がオーラとて伝わってくる。王の話が終わると同時に、音楽が流れ、デビューする貴族の子息や令嬢が広間の中央へ出てくる。アリーシアも打ち合わせで知っていたので、アランから離れて広間へ移動する。
 エドワードがパートナーを選ぶのを待ってから、踊りが始まるのである。アリーシアは誰も相手がいなく、もし壁の花になってしまってもいいわと思いながらも、これが過ぎれば今日の目的は果たされるのだからと踏ん張った。エドワードといえば、大臣が推している花嫁候補と踊り始めた。そしてアリーシアも近くにいた貴族の子息と踊りを始めた。


 初めて踊る曲はアリーシアの得意な曲で、相手の呼吸に合わせてゆったりと踊る。相手もとても緊張しているのは、手の先が震えている事からわかり、緊張しているのはお互い様だと思ったら気が楽になった。
 アリーシアは曲が変われば、一礼をして、また違う子息と踊り始める。次の子息も緊張していて、アリーシアの顔よりも、自分の動きを確認するように手の先を見ていた。男性側はリードしなくてはならなく、苦労を見て取れる。足を踏まれたら痛そうなので、足下は十分気をつけた。
 マダムの訓練もあって、意外とすんなり踊れることにもいい意味で驚いた。アリーシアはそれから何度か曲が終わり、社交界全体で踊りが始まると、もうそろそろ踊る会場から抜けようかと端の方へ移動していった。
 しかしそれを阻むように、ぐいっと手を引かれた。こんな乱暴なことは誰がするのかと思えば、この社交界の注目のエドワードだった。せっかく踊らなくてすみそうだったのに、気を抜いたらこのざまである。一曲踊ったら、疲れたし、何か飲み物でも飲みたいので離れようか思ったが、手はふりほどくことが出来なく今は諦めた。


 アリーシアはエドワードの肩に手を置き、向き合う。ぐいっと腰を引き寄せられた。本当に乱暴なやつだと思った。アリーシアは久々に正面でみるエドワードを見た。背が大きくなっていた。兄も大人になったと思ったが、エドワードも男性っぽくなっていた。


 真っ直ぐ視線を向けられ、目を離したら負けになる気がして、相手を見つめる。


 乱暴かと思ったエドワードは、踊ってみれば、最初だけだった。アリーシアが相手に合わせ踊れば、エドワードも軽くステップを踏んでくる。上手いと思った。兄とは違った力強さだ。キザな位にそつがない動きだ。王族らしく堂々とした動きであり、女性の扱いにも慣れた動きだった。


 前回エドワードと話をしたのは、木の上だった。王族として、後継者として自信を失っていたエドワード。そして今、目の前にいるのは、そんな様子などなく堂々とした王者としての風格さえ感じられた。


 アリーシアはエドワードの成長に、そっと微笑みかけた。エドワードは不意をつかれたように、顔を赤くして目をそらした。


 アリーシアは曲が終わり、そのまま疲れたので広間から離れようとその場を去ろうと足を踏み出した。





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