オタク気質が災いしてお妃候補になりました

森の木

4-7 祖父母からのプレゼント

 ドレスの新調が始まり、印刷工房も本格的に始まった。アリーシアといえば、ダンスの練習と、デビューにおいてのマナー、そしていつもの学習をしていた。アポロにつきあって剣のお稽古をして、孤児院の視察へは回数は減ってきたものの、機会があれば行っていた。やるべきイベントがあると特に忙しくなくても、落ち着かなく、慣習化しているサンパウロ様の妄想の時間もそれほどとれていなかった。気疲れが多いことがあると、眠くなることもあり、ぼんやりとソファでお茶を飲んで過ごしていることも多い。


 ドレスもある程度デザインが決まってくると、仮縫いが始まり、細かい寸法を測りにローランが屋敷に訪れた。ローランはグリーンを基調に、黒いレースを使ったシックなモチーフのドレスを考案した。アリーシアの好きな色合いだ。光沢のあるグリーンの生地に、透けるレースがあることで鮮やかさが出てくる。アリーシアはどちらかというと、持っているドレスは可愛らしいとか、可憐といった色合いが多かった。今回のドレスは少し大人っぽい形であり、色合いである。14歳の社交界デビューにちょうどいいと感じた。


 ドレスがある程度形になっていくと、祖父母に定期的に送っている手紙にはグリーンのドレスを着ることを書いた。アリーシアの父方の祖父母は、治めている領地内の中でも気候が穏やかで、避暑地として使われている土地にいる。そこで優雅に隠居して過ごしている祖父母は、今まで侯爵家としての務めを果たしていたが、父が跡をついで、兄・アランが生まれたら屋敷から引っ越していった。厳格な祖父母だが、長男や次男が相次いで流行病でなくなり気落ちしていたようで、三男の父の結婚には反対したものの、父母が侯爵家にふさわしいと悟ったらあっという間に引退してしまった。
 今は夫婦そろってやりたいことをしているらしい。何かあるとプレゼントや地方のお土産をたくさん贈ってくれるが、屋敷を訪れることはほぼなかった。用事があって王都にくれば、泊まっていくこともあるが、第二の人生を謳歌している祖父母たちは、とても元気そうである。


 一方アリーシアの母方の祖父母たちは、会った記憶がない。小さい頃が会ったことがあるらしいが、記憶にはない。レインとマリアから話を聞く限り、祖母は苦労人でありながらもどうにか家を切り盛りしていて、祖父は好きな本を探すべく家にいないことも多いそうだ。男爵の爵位があったとしても、名ばかりの貴族であるのは、生活ぶりを聞けば察することができる。ただ、レインやマリアからきくと貧乏であるが楽しいと言っていた。家族は力を合わせて生きているのだと言う。
 アリーシアもいろいろ立場はあるが、家族の仲がそれなりに良好なのは嬉しい。前世では母は仕事をしていたし、父も仕事をしていた。とても忙しく、小さいころは祖母が妹と自分の世話をしてくれていた。母と祖母は折り合いがあまりよくなく、いわゆる嫁姑問題もあった。そういうのもあって、家に緊張感があった面もあった。ただ生活に困らないようにしてくれたのは感謝しているし、小さなことは目をつむれば、概ね家族関係は良好だったのではないだろうか。一時期は、オタク趣味に没頭するのは家の中にいると息がつまるからと思っていたこともあった。しかし転生して、家族仲がとてもよく、それでもオタク気質がかわらないのだから、もともとの気質だったのだろう。


「姉さま、贈り物だって」


 アリーシアは顔を上げた。アポロと書庫で本を読んでいたが、ぼんやりしていたのだろう。その間アポロは喉が渇いたらしく、部屋を出入りしていた。エントランスでアリーシアの贈り物が届けられたらしく声をかけられた。


「贈り物?わたしに? 」


「姉さまにみたい。おじいさまとおばあさまからだって」


「まあ、どうしてかしら」


「うーん」


「お手紙が一緒にあると思うから、確認してみないと。見てくるわ」


 アリーシアは書庫から出て、エントランスへ向かった。執事がプレゼントをアリーシアの部屋に運ぶように指示していた。それを見れば執事に近寄って、プレゼントのことを聞く。聞けば、アリーシアの社交界デビューにむけての祝いの品だという。父方の祖父母からの大量の小物が届いた。ドレスはもちろん、小物や肌着など、デビューの為にだけでなく、淑女としてこれから振る舞うことのできるようにというデザインだった。今までの可愛らしく可憐なデザインから、少しだけ大人を意識した色合いやデザインのものになっていた。アリーシアは特にこういうもののこだわりはそれほどなく、センスがいい祖父母の選択なので、気に入って使っている。グリーンのドレスということで、靴や髪飾りや手袋もグリーンに映えるような色合いのものをいくつか選ばれていた。
 社交会までにはまだまだ時間もあるので、どの組み合わせがいいか、ローランと話し合いながら、決めていこうと考えた。





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