オタク気質が災いしてお妃候補になりました

森の木

3-12 続・木の上の出来事2

「…………なんとか言え」


「えっ! 」




 何分経っていたのだろうか。ただ急に怒り出したかと思ったら、泣き言なんだか、愚痴なんだかわからないが怒濤ドトウのごとく言葉を吐いていたエドワード。ただ始めはびっくりしてしまった。アリーシアは何も言えずにいたが、次第に積もりに積もった感情なのかもしれないと相手の話を聞いていた。自信満々な顔でいつも傲慢な態度だったが、それは自信のなさからくる行動だったのかもしれない。王子として、これから国を担う立場の1人として、態度だけは大きくしていたのかもしれない。


 あくまで想像にすぎないけれど、いろんな責任が自分とそう年齢の変わらない子どもの肩に掛かってきている。もちろんプレッシャーや、不安があるのは当たり前だ。それを誰にも言えず、ずっと虚勢を張っていたのか。


「落ち着きましたか? 」


 一言アリーシアが声をかけると、エドワードは顔がただでさえ赤いのに真っ赤になってしまう。プライドに触っただろうか。


「わたしには王としての器とか、そんな難しい事はわかりません」


 前置きしてアリーシアは、言葉を選びながら話を続ける。


「ただ、エドワード様が一生懸命王位を継ぐお立場として。努力されているのはいい意味で驚きました。わたし偉そうにしているだけかと、正直思っていたのです。ごめんなさい」


 言葉を選んだつもりだが、率直すぎてしまった。後から言い直そうと思ったが、エドワードも正直に答えた方が言葉をしっかり受け取ってくれる気がした。いつものように怒らせたら怒らせたで仕方がない。


「エドワード様のお父様のエンドリク様は確かに素晴らしい方だと思います。ですが、それは何十年も努力した結果ではないでしょうか。エンドリク様だって、きっと苦しんで、悩まれたことはたくさんあると思います。もしかしたらエドワード様には見せていないかもしれませんが、泣き言だって言っているのではないでしょうか。父やエドワード様のお母様に愚痴っているかもしれないです。だからつまり……完璧な人はいないと思っています」


「父上が?まさか。常に冷静沈着でいるのに?俺のように声を荒げたりしないのに? 」


「それは父親としての威厳を考えてかもしれません。わたしの父だって、特に兄弟では兄に厳しいとは思いますが、わたしにはとっても情けない姿を見せますよ?特に母の前では、情けなくて世間では父は野獣と言われていますが、子犬のようになってしまいますもの」


「子犬………」


父の姿を想像して急に吹き出しそうになったエドワード。


「だからどんな強い人でも、弱いところがあって当たり前です。むしろ弱いところがあるから、人を理解ができ、人に優しくできると思います。強いだけの人間では、魅力的ではないでしょう」


「そうか?俺は強い人間がいいと思う」


「エドワード様がそういった王を目指されるのもいいと思います。ですが、それだけではみんな共感しないから、臣下も意見されるのではないでしょうか。まだまだ成長が必要だと、言われているのかもしれません」


「そうか。成長か」


「ええ、むしろ成長を期待しての言葉ではないでしょうか。成長を期待出来ないひとには、何も言いません」


 アリーシアは実感をこめていった。というのは、前世のOL時代も若いうちはたくさん注意されて、怒られているうちが花と言われた。しかし年をとっていくと、誰も注意してくれなくなるのだ。そして人は離れていく。期待とプレッシャーは比例していく。プレッシャーが強い時ほど、期待がかけられ、それだけの成果を求められる。誰にだってかけられるわけではない期待。そう、オリンピック選手がテレビで言っていたのだ。選ばれた人間だけがプレッシャーをかけられる、と。だからそのプレッシャーを楽しむこと。


「それに、こうやって誰かに胸の内を話すのもいいと思います。特にジャン様が近くにいらっしゃいますよね? 」


「あいつは、何も言わない。だから俺も何も言わない」


「そうなのですか?ですが、嫌いな人だったらこんなに長く従者はできないでしょう。頼られたかったら、頼ることも大切だと聞きました。自分で何かすることも大切ですが、誰かと一緒に何かをするのも楽しいですよ」


 アリーシアはそれを孤児院で学んだ。レインは何でも出来るし、明るいし、頭がいい。マリアだって綺麗だし、賢いし、責任感がある。だけれどみんな助け合うからこそ、大きなことが出来るのだ。自分一人では大きなことはできない。まして国を支えるということは。


「………………意外といろいろ考えているものだな」


「わたしですか?褒めて頂けて嬉しいですが、ほとんどが受け売りですわ。エドワード様みたく将来について考えることさえ、そんなにないのですから」


「俺はもう一度、態度を改めてみる」


「ええ、エドワード様には味方がいらっしゃいます」


「ありがとう、アリーシア嬢。借りは返す」


「いいえ、いりません。また大ごとになったら嫌ですから」


「好意はありがたくもらうものだ」


「大きすぎる好意は、迷惑になることもお考えください」


 小さくアリーシアとエドワードは笑い合うと、エドワードは木を降りていった。アリーシアは初めてエドワードとこんなに話をした。エドワードなりに苦しみ、考えていることを知った。勝手に家に入ってくることはやはり失礼だが、こんな厳重な警備の屋敷に易々と入ってこられるなんて、何か隠し通路でもあるのだろうかと思った。あり得そうな話だ。もしかしたら、エドワードにとって気晴らしがここの木の上なのかもしれない。外側から城を見ることによって考えられることもあるのだろう。


 傾き始めた夕日に気がつき、アリーシアも木を降りて服を着替えて夕食に備えることにした。



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