オタク気質が災いしてお妃候補になりました
幕間 従者ジャンは目撃する(ジャン目線)
僕は従者として侯爵のご子息、エドワードに仕えている。
エドワードとは遠い親戚だ。でも立場は違う。エドワードは現国王の直系の孫、父親に次いで王位継承権がある。つまりは自分の主は将来、国王になるのだ。だから公爵の妻、サラ様がご懐妊したときは王国も沸き立ったものだ。
サラ様はいい意味でも悪い意味でも、高貴な身分の人という印象だ。あまり世俗に興味がなく静かに穏やかに暮らすことがいいようだ。体がそれほど強くもないので、ほぼ城の中でお裁縫や、お茶をのみ音楽をたしなんだりと特に何も言わない。夫婦関係は良好であるし、エドワード様は生まれたときから皆の注目の的だった。
一方僕は、身分が子爵ということもあり、主従関係の意識というより、エドワードのことを年下の弟のように思っていた。一応敬意は払ってはいるが、僕からみたらエドワードはお城の中の小さな王様という印象だ。サラ様が特に何も言わないことをいいことに、エドワードは我が儘になってしまった。城の中の人々もまだ小さいのだから仕方ないという風潮で、エドワードにしっかり意見するものなど父親のエンドリク様くらいしかいない。国王だって王妃だって、かわいい孫だから溺愛しているのだ。
僕も従者としてエドワードの言うことは聞くが、最近我が儘がひどくなっているのを感じていた。最初は遠回しに注意をしたが、むくれていることが多い。僕のいうことはまだ聞く耳をもつエドワードだが、ほかの貴族の前ではその態度は横柄になる。
自信家というのは、いい意味なら王様という点で利点はある。自信がない王より、偉そうな王の方がなんとなく頼りがいもあるだろう。けれどエンドリク様は王の後継者として自信を感じられるが、家臣の話を聞く寛容さもあるのだ。
エドワードがまだ小さな子どもだから、仕方のないことなのかもしれない。でも僕は時々エドワードの勝ち気さがめんどくさくなって、エドワードの面倒をみるのをサボってしまうことがあった。彼は好奇心旺盛いっぱいで、すぐどこかへ行ってしまうし、多少迷子になっても健康優良児なので怪我くらい全然気にしない。
城の中の庭を探索したり、色々かすり傷程度は日常茶飯事なので、手当はするけれど、お役目をさぼって昼寝を僕もしていた。
僕も同じくらいの年の貴族の子どもから嫉妬されたりと、精神的につらいんだ!ということを建前にサボってはエドワードを放置していることもあった。
僕の見た目はいい人そうで、真面目そうだから警戒心をもたれない。自分でも意外と腹黒いんじゃないかとも思う。適当に休みながらお役目をしないと、これからエドワードと長いつきあいになるんだし、やってられない。
今回のガーデンパーティーも正直気乗りがしてなかった。以前、ガーデンパーティーが行われる庭に王子と忍び込んだことがある。そこで庭の持ち主の侯爵の令嬢に見つかってしまったのだ。
ご令嬢はアリーシア様。とても美しい金髪と青い瞳、可憐なたたずまいと噂に聞く、とてもおとなしいご令嬢らしい。両親や兄のいうことを聞き、評判のよい貴族のお姫様だ。うっかりエドワード様が見つかってしまい、中庭で声をかけようとしたらアリーシア様にぶつかってしまった。やはり可愛らしい人だ。見た雰囲気は、エドワード様の母親サラ様に似てなくもない。
しかしエドワード様はそれからなんとなく変だ。話しかけたのにアリーシア様につれなくされたのを怒っているらしい。確かにご令嬢は名を名乗らなかった。でも屋敷内に無断で侵入したものに挨拶など、普通しないだろと僕は思った。ただエドワードは身分が高いだけが取り柄ではない。父親エンドリク様似の赤髪で金の瞳は、女性陣から人気がある。それだけで目を引くだろう。
これだから城の中だけの王様は困るなと思った。だれもがエドワードに従うわけではない。エドワード様が偉そうにして許されているのは、身分があるのをみんな知っているからである。
だから僕は、ちゃんと正規のルートでご令嬢に挨拶すれば大丈夫ですよ。と適当に言っておいた。エドワードはガーデンパーティーで、ご令嬢にちゃんと挨拶する機会があるのを知って、少し楽しみにしていたようだ。僕は何もないといいなと思いながら、ガーデンパーティーでおいしいものを食べようと考えていた。
しかしやはり何かが起こった。
滞りなくアリーシア様に挨拶をしたものの、アリーシア様からは特に反応がなかった。逆に僕のことは覚えていてくれたらしい。僕は見た目が地味なので、印象に残らないのことが多いのだが、珍しいこともあったものだと思った。
エドワード様はさらにご立腹だった。自分の存在をないがしろにされたのでは、と思ったらしい。
エドワード様も公式な場所はそれほど多くは出ていない。国民に顔を見せたりはあるものの、外交デビューなど公式な行事は出たことがない。貴族といっても身内に近いものの集まりであるし、大体チヤホヤしてくれる相手しかいなかった。そういう意味で自分に近い身分でありながら、全く相手にされていないことは初めてなのだろう。
エドワード様はむくれていたが、僕は少しその場から離れて、おいしいご飯を食べに行った。その間にまさかエドワード様がアリーシア様と接触したのは知らなかった。
気がついたときは、中庭の中央にある噴水の近くで、鼻血を出して呆然としている主の姿があった。一瞬暴漢にでも襲われたかと思ったが、それならもっと顔が腫れていそうだ。少し強くあたってしまい、鼻の内部が出血したくらいだった。
エドワード様は怒りと悲しみを抱えているようだ。どうやら彼を殴ったのは、あのおとなしいアリーシア様ということだ。証拠に彼女の可憐な髪につけてあった髪飾りが落ちていたのだ。エドワード様はそれを拾った。そして胸ポケットからハンカチーフを取り出し血をぬぐった。
その後、アリーシア様はパーティーに姿を現さなかった。しかしエンドリク様から聞いた話で驚いた。
なんとこの主人は、アリーシア様のドレスを破ったらしい。一瞬、主人を僕も殴りたくなった。確かに役目をさぼった僕もいけなかった。だけれどまさかレディの衣服を破るなんてあり得ないだろう。
これに関してはエンドリク様も大変お怒りだった。しかしそれ以上に、アリーシア様の父上もお怒りだったようだ。だから僕は一応、アリーシア様に殴られたことを報告し主人の擁護をした。
エンドリク様は一瞬吹き出しそうになった。
それはそうだろう、あの彼女が殴るなんてするから驚く。少したって考えたエンドリク様は今回のことはなかったことにすると話し合ったらしい。
エドワード様は最近おとなしくなった。
「ジャン、女性を怒らせてしまったときは、どうすればいいのだろう」
今日も勉強の時間、ふと一緒に読み書きの練習をしていた僕に、エドワード様は尋ねてきた。アリーシア様のことを考えているのだろう。
「まずは謝罪ですね。次に女性に喜びそうなものを贈るとかですかね」
女性の好みそうなものと言われても、そんなにエドワードと年もそれほど変わらない自分では正直わからない。思い出したのはよく僕の父も、悪いことをしたら母にプレゼントをして許しを請うのを見ていたからアドバイスをした。
「そうか」
また考え込んでしまった。それからまた一騒動あった。実はエドワード様、ドレスを破いてしまった謝罪としてドレスを贈ったらしい。メイドに流行の店に教えてもらい頼んで、注文したと聞いた。
しかしそれはすべて送り返されてきた。
なかったことにするといった手前、エンドリク様も困った顔をしていた。
「エドワード。人に悪いことをしたら、謝ることだね。でも今はアリーシアはとてもショックを受けていて、そっとしてほしいみたいだ。だから何もしないでというのがアリーシアの父からの伝言なんだ。それにエドワード、あのドレスは実はとても貴重なものなんだ」
「だったらもっと高いドレスを贈ればよかったのですか? 」
「いや、買えばいいということではない。アリーシアのドレスは、大切な人からの贈り物だったんだ。それを大切に着る約束をしてたのに、守れなかったことに彼女はショックを受けているのだよ。エドワードも、大切な人からもらったものは、お金を出して買えるわけではないだろう?その人の気持ちがプレゼントにはこもっているのだから」
「はい………」
エドワード様はさらに気落ちしたように肩を落とした。大好きな父親に諭され、自分の行いの間違いに気がついたのだろう。まだ幼いのだから間違いはたくさんある。僕も含めてだ。今回のことは僕も少しまずかったと思った。それにエドワード様の素直でいいところは僕も見直したい。アリーシア様の状態が気になるけれど、また顔を見る機会はあるだろう。
エドワード様はそれから少し成長して、わがままも以前よりはましになった。
エドワードとは遠い親戚だ。でも立場は違う。エドワードは現国王の直系の孫、父親に次いで王位継承権がある。つまりは自分の主は将来、国王になるのだ。だから公爵の妻、サラ様がご懐妊したときは王国も沸き立ったものだ。
サラ様はいい意味でも悪い意味でも、高貴な身分の人という印象だ。あまり世俗に興味がなく静かに穏やかに暮らすことがいいようだ。体がそれほど強くもないので、ほぼ城の中でお裁縫や、お茶をのみ音楽をたしなんだりと特に何も言わない。夫婦関係は良好であるし、エドワード様は生まれたときから皆の注目の的だった。
一方僕は、身分が子爵ということもあり、主従関係の意識というより、エドワードのことを年下の弟のように思っていた。一応敬意は払ってはいるが、僕からみたらエドワードはお城の中の小さな王様という印象だ。サラ様が特に何も言わないことをいいことに、エドワードは我が儘になってしまった。城の中の人々もまだ小さいのだから仕方ないという風潮で、エドワードにしっかり意見するものなど父親のエンドリク様くらいしかいない。国王だって王妃だって、かわいい孫だから溺愛しているのだ。
僕も従者としてエドワードの言うことは聞くが、最近我が儘がひどくなっているのを感じていた。最初は遠回しに注意をしたが、むくれていることが多い。僕のいうことはまだ聞く耳をもつエドワードだが、ほかの貴族の前ではその態度は横柄になる。
自信家というのは、いい意味なら王様という点で利点はある。自信がない王より、偉そうな王の方がなんとなく頼りがいもあるだろう。けれどエンドリク様は王の後継者として自信を感じられるが、家臣の話を聞く寛容さもあるのだ。
エドワードがまだ小さな子どもだから、仕方のないことなのかもしれない。でも僕は時々エドワードの勝ち気さがめんどくさくなって、エドワードの面倒をみるのをサボってしまうことがあった。彼は好奇心旺盛いっぱいで、すぐどこかへ行ってしまうし、多少迷子になっても健康優良児なので怪我くらい全然気にしない。
城の中の庭を探索したり、色々かすり傷程度は日常茶飯事なので、手当はするけれど、お役目をさぼって昼寝を僕もしていた。
僕も同じくらいの年の貴族の子どもから嫉妬されたりと、精神的につらいんだ!ということを建前にサボってはエドワードを放置していることもあった。
僕の見た目はいい人そうで、真面目そうだから警戒心をもたれない。自分でも意外と腹黒いんじゃないかとも思う。適当に休みながらお役目をしないと、これからエドワードと長いつきあいになるんだし、やってられない。
今回のガーデンパーティーも正直気乗りがしてなかった。以前、ガーデンパーティーが行われる庭に王子と忍び込んだことがある。そこで庭の持ち主の侯爵の令嬢に見つかってしまったのだ。
ご令嬢はアリーシア様。とても美しい金髪と青い瞳、可憐なたたずまいと噂に聞く、とてもおとなしいご令嬢らしい。両親や兄のいうことを聞き、評判のよい貴族のお姫様だ。うっかりエドワード様が見つかってしまい、中庭で声をかけようとしたらアリーシア様にぶつかってしまった。やはり可愛らしい人だ。見た雰囲気は、エドワード様の母親サラ様に似てなくもない。
しかしエドワード様はそれからなんとなく変だ。話しかけたのにアリーシア様につれなくされたのを怒っているらしい。確かにご令嬢は名を名乗らなかった。でも屋敷内に無断で侵入したものに挨拶など、普通しないだろと僕は思った。ただエドワードは身分が高いだけが取り柄ではない。父親エンドリク様似の赤髪で金の瞳は、女性陣から人気がある。それだけで目を引くだろう。
これだから城の中だけの王様は困るなと思った。だれもがエドワードに従うわけではない。エドワード様が偉そうにして許されているのは、身分があるのをみんな知っているからである。
だから僕は、ちゃんと正規のルートでご令嬢に挨拶すれば大丈夫ですよ。と適当に言っておいた。エドワードはガーデンパーティーで、ご令嬢にちゃんと挨拶する機会があるのを知って、少し楽しみにしていたようだ。僕は何もないといいなと思いながら、ガーデンパーティーでおいしいものを食べようと考えていた。
しかしやはり何かが起こった。
滞りなくアリーシア様に挨拶をしたものの、アリーシア様からは特に反応がなかった。逆に僕のことは覚えていてくれたらしい。僕は見た目が地味なので、印象に残らないのことが多いのだが、珍しいこともあったものだと思った。
エドワード様はさらにご立腹だった。自分の存在をないがしろにされたのでは、と思ったらしい。
エドワード様も公式な場所はそれほど多くは出ていない。国民に顔を見せたりはあるものの、外交デビューなど公式な行事は出たことがない。貴族といっても身内に近いものの集まりであるし、大体チヤホヤしてくれる相手しかいなかった。そういう意味で自分に近い身分でありながら、全く相手にされていないことは初めてなのだろう。
エドワード様はむくれていたが、僕は少しその場から離れて、おいしいご飯を食べに行った。その間にまさかエドワード様がアリーシア様と接触したのは知らなかった。
気がついたときは、中庭の中央にある噴水の近くで、鼻血を出して呆然としている主の姿があった。一瞬暴漢にでも襲われたかと思ったが、それならもっと顔が腫れていそうだ。少し強くあたってしまい、鼻の内部が出血したくらいだった。
エドワード様は怒りと悲しみを抱えているようだ。どうやら彼を殴ったのは、あのおとなしいアリーシア様ということだ。証拠に彼女の可憐な髪につけてあった髪飾りが落ちていたのだ。エドワード様はそれを拾った。そして胸ポケットからハンカチーフを取り出し血をぬぐった。
その後、アリーシア様はパーティーに姿を現さなかった。しかしエンドリク様から聞いた話で驚いた。
なんとこの主人は、アリーシア様のドレスを破ったらしい。一瞬、主人を僕も殴りたくなった。確かに役目をさぼった僕もいけなかった。だけれどまさかレディの衣服を破るなんてあり得ないだろう。
これに関してはエンドリク様も大変お怒りだった。しかしそれ以上に、アリーシア様の父上もお怒りだったようだ。だから僕は一応、アリーシア様に殴られたことを報告し主人の擁護をした。
エンドリク様は一瞬吹き出しそうになった。
それはそうだろう、あの彼女が殴るなんてするから驚く。少したって考えたエンドリク様は今回のことはなかったことにすると話し合ったらしい。
エドワード様は最近おとなしくなった。
「ジャン、女性を怒らせてしまったときは、どうすればいいのだろう」
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女性の好みそうなものと言われても、そんなにエドワードと年もそれほど変わらない自分では正直わからない。思い出したのはよく僕の父も、悪いことをしたら母にプレゼントをして許しを請うのを見ていたからアドバイスをした。
「そうか」
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しかしそれはすべて送り返されてきた。
なかったことにするといった手前、エンドリク様も困った顔をしていた。
「エドワード。人に悪いことをしたら、謝ることだね。でも今はアリーシアはとてもショックを受けていて、そっとしてほしいみたいだ。だから何もしないでというのがアリーシアの父からの伝言なんだ。それにエドワード、あのドレスは実はとても貴重なものなんだ」
「だったらもっと高いドレスを贈ればよかったのですか? 」
「いや、買えばいいということではない。アリーシアのドレスは、大切な人からの贈り物だったんだ。それを大切に着る約束をしてたのに、守れなかったことに彼女はショックを受けているのだよ。エドワードも、大切な人からもらったものは、お金を出して買えるわけではないだろう?その人の気持ちがプレゼントにはこもっているのだから」
「はい………」
エドワード様はさらに気落ちしたように肩を落とした。大好きな父親に諭され、自分の行いの間違いに気がついたのだろう。まだ幼いのだから間違いはたくさんある。僕も含めてだ。今回のことは僕も少しまずかったと思った。それにエドワード様の素直でいいところは僕も見直したい。アリーシア様の状態が気になるけれど、また顔を見る機会はあるだろう。
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