政略結婚で仮面夫婦の予定だったが、破滅フラグを回避するため鬼嫁になります
第三十四話 ある執事の事情 Sideルボワ
Side ルボワ
ルボワは日記をつけている。その一ページ目の内容は、ある出会いのこと。
思い返すのは、今の主・アルフレッド様の父君に初めて出会ったときの頃だ。人間達のエゴで焼けてしまった森。焼けてしまった森を再生するために、力を使ったルボワは森で倒れていた。
そのときにルボワを発見したのが、アルフレッド様の父だった。彼はまだ少年といえる年齢だった。今のアルフレッド様によく似ている顔つきだ。性格は明るく、そして誰からも可愛がられる人だった。ルボワは命を助けられてから、ルボワの執事としての人生が始まった。
アルフレッド様の父と接すれば接するほど、こんなに人を惹きつける人間がいることに驚いた。両親や召使いみんなが彼を好きだった。しかし彼を嫌う者が唯一いた。彼の弟だった。彼の弟は、なんでも手にする兄が嫌いであり、彼なりに努力しても、兄に勝てるものはなかったのである。そして恋していた女性さえも、兄と結婚してしまう。兄はその女性とは政略結婚だったが、兄の魅力に彼女はどんどん恋していくのがわかった。彼女は綺麗になっていく。
家を継ぐのも、彼女と結婚したのも、魔導装置の才能も。兄が全部自分のもてないもの手にしていくことが耐えられない彼は、自暴自棄になり、悪さを始めた。魔導装置を使って不当にお金を得るようになった。悪い仲間ともつるむようになった。それを何度も止めたのは、家族だった。家族の言葉も聞き入れなくなり、結果的に国外に追放されるまで彼は反省することはなかった。
ルボワはそれまでに執事としての技術を磨き、アルフレッド様の父の側近として一緒に勉学に励み、ゆくゆくは家を切り盛りするために毎日が忙しかった。
そして時が過ぎ、先代が亡くなり、家を継いだアルフレッド様の父のもとに子どもが授かった。その子どもがアルフレッド様である。
アルフレッド様がうまれて、ルボワは心配事が募った。それはアルフレッド様の叔父にあたるレンドの存在だった。いくら警戒はしていても、いつ主人に危害をくわえるかわからない。
ルボワは古い友人に相談した。それがドラゴンの始祖と大魔道士のアサルだった。
ルボワは遠い昔、一緒に彼らと旅をしたことがあった。アサルは人間であるものの、精霊の血も入っていて、通常の人間の寿命の何倍も長く生きている。ドラゴンの始祖なんてこの世界が生まれるくらいから存在している。旅をしていたころは、ドラゴンの始祖は可愛らしい少女に変身するのが非常に印象に残っている。そういった腐れ縁で、彼らには何か困ることがあると、相談事を話していた。
ルボワは主人を守る方法があるか彼らに尋ねた。するとドラゴンの始祖から助言があった。ある程度、未来を予見できるドラゴンの始祖は、アルフレッド差は王家とのつながりを持つ方がいいと言った。
そこでアサルとルボワとドラゴンの始祖は動く。
三人の力を合わせれば、神殿の神託を操作することなど簡単だ。そもそも神殿に奉ってある神の一人がドラゴンの始祖ではあるのだ。だから少し干渉すれば、アルフレッド様が王家との婚姻を結ぶことなど朝飯前ではあるのだ。
そして、神殿の神託が届くとアルフレッド様は王家とのつながりをもつことになる。
アルフレッドの両親はとても優しく、いい領主であり、領地が繁栄していくことは、ルボワの楽しみの一つでもあった。
しかし、それもアルフレッドの両親が不慮の事故で亡くなったことで一転する。
アルフレッドはとても優しい性格である。それにつけ込んで、国外追放になった叔父が乗り込んできたのだが、ルボワは感知するのがおくれてしまった。ルボワがいないときに、なぜか現れる叔父。彼もまた能力を使って侵入していたのだろう。
それをドラゴンの始祖から教えられたときには、アルフレッドはもう表情がなく、完全に外に出ることができなくなってしまったのだ。
ルボワは自分を責めた。自分がもっとしっかりしていれば、アルフレッド様をお守りすることができたのにと嘆いた。それから必死にルボワはアルフレッドを支えた。だが、アルフレッドは外に出ることはなかった。
ルボワはアルフレッドがいつか外に出てくれるのを信じていた。だから領地のことは、アルフレッドがまた元気になったらいつでも管理できるように手配し、そして身の回りの世話を甲斐甲斐しく続けた。
ドラゴンの始祖は、そこまで人間に肩入れする必要はないとも言う。
しかしルボワにとって、アルフレッドは恩返しをすべき相手。本当は、アルフレッド様の父が亡くなったら、自分も屋敷を去るつもりだった。しかしこんな早くに亡くなると思わなかった。ルボワはアルフレッドも、アルフレッドの父同様に、仕えるべき主として思うようなっていた。
だが、アルフレッド様が部屋を出てこなくなって数年。婚約していたはずの王女が、婚姻を放棄した。まさかそんな事態になるとは思わず、慌ててルボワはドラゴンの始祖に相談した。
するとドラゴンの始祖には最近お気に入りの娘がいるらしい。彼女も王女だから、彼女を嫁がせればいいのでは?と助言をもらった。しかしいざ神託をするときになったら、アサルは反対した。彼女はアサルの愛弟子だからだ。ルボワは頭を何度も下げて、主のために、婚姻を結ばせてほしいと頼んだ。
アサルも旧知の仲間が頼むならと、最後は折れた。
こうしてローズとアルフレッドの婚姻は成立したのだ。
この話は、ルボワとドラゴンの始祖とアサルしか知らない。
婚姻はすべて彼らが計画したこと。世界はそれを知らない。
ルボワはその出来事を簡単に日記に記した。
いつかこの事実が表にでることがあるかもしれない。
でもそんなことがあっても、アルフレッドとローズの関係は変わらないと思った。アルフレッドとローズは、まだまだ子どもではあるが、心は結びついている。
人間のもつ心のつながりというのは、大きな力を発揮することを、ルボワは執事として生きて、感じることが多くあった。ルボワは人間と一緒に生きているうちに、人間らしい感情を理解するようになった。ドラゴンの始祖も人間に接するようになり、初めてあった時より、随分と人間を理解している。
力は弱いのだが、人間のもつ力は無限であるとルボワは感じている。
魔導装置に関してもそうだ。人間は『創造すること』ができる生き物だ。
まるでルボワたち精霊のような、神といわれる存在に近いところもある。
ただ人間は命が短い。アルフレッド様たちと一緒にいられるのも、ルボワにとって一瞬のことでしかない。だからこそ、ルボワは今を大切にしたいと思っている。
弱くてもろい人間だからこそ、ルボワは愛しいのだ。
そしてこの世界を愛している。
ルボワはそっと日記帳をとじると、部屋の灯りをおとした。
明日は早朝から、アルフレッドとローズが山にピクニックへ出かけるという。その用意もあるので、少し仮眠をしておこう。
ルボワは窓から暗い光景を一瞥して、そしてベッドに横になる。闇のなかに溶ける意識、ルボワにとってその闇も温かく感じる。穏やかな時間がしばらくは続くことに感謝して、夢のなかにおちていった。
ルボワは日記をつけている。その一ページ目の内容は、ある出会いのこと。
思い返すのは、今の主・アルフレッド様の父君に初めて出会ったときの頃だ。人間達のエゴで焼けてしまった森。焼けてしまった森を再生するために、力を使ったルボワは森で倒れていた。
そのときにルボワを発見したのが、アルフレッド様の父だった。彼はまだ少年といえる年齢だった。今のアルフレッド様によく似ている顔つきだ。性格は明るく、そして誰からも可愛がられる人だった。ルボワは命を助けられてから、ルボワの執事としての人生が始まった。
アルフレッド様の父と接すれば接するほど、こんなに人を惹きつける人間がいることに驚いた。両親や召使いみんなが彼を好きだった。しかし彼を嫌う者が唯一いた。彼の弟だった。彼の弟は、なんでも手にする兄が嫌いであり、彼なりに努力しても、兄に勝てるものはなかったのである。そして恋していた女性さえも、兄と結婚してしまう。兄はその女性とは政略結婚だったが、兄の魅力に彼女はどんどん恋していくのがわかった。彼女は綺麗になっていく。
家を継ぐのも、彼女と結婚したのも、魔導装置の才能も。兄が全部自分のもてないもの手にしていくことが耐えられない彼は、自暴自棄になり、悪さを始めた。魔導装置を使って不当にお金を得るようになった。悪い仲間ともつるむようになった。それを何度も止めたのは、家族だった。家族の言葉も聞き入れなくなり、結果的に国外に追放されるまで彼は反省することはなかった。
ルボワはそれまでに執事としての技術を磨き、アルフレッド様の父の側近として一緒に勉学に励み、ゆくゆくは家を切り盛りするために毎日が忙しかった。
そして時が過ぎ、先代が亡くなり、家を継いだアルフレッド様の父のもとに子どもが授かった。その子どもがアルフレッド様である。
アルフレッド様がうまれて、ルボワは心配事が募った。それはアルフレッド様の叔父にあたるレンドの存在だった。いくら警戒はしていても、いつ主人に危害をくわえるかわからない。
ルボワは古い友人に相談した。それがドラゴンの始祖と大魔道士のアサルだった。
ルボワは遠い昔、一緒に彼らと旅をしたことがあった。アサルは人間であるものの、精霊の血も入っていて、通常の人間の寿命の何倍も長く生きている。ドラゴンの始祖なんてこの世界が生まれるくらいから存在している。旅をしていたころは、ドラゴンの始祖は可愛らしい少女に変身するのが非常に印象に残っている。そういった腐れ縁で、彼らには何か困ることがあると、相談事を話していた。
ルボワは主人を守る方法があるか彼らに尋ねた。するとドラゴンの始祖から助言があった。ある程度、未来を予見できるドラゴンの始祖は、アルフレッド差は王家とのつながりを持つ方がいいと言った。
そこでアサルとルボワとドラゴンの始祖は動く。
三人の力を合わせれば、神殿の神託を操作することなど簡単だ。そもそも神殿に奉ってある神の一人がドラゴンの始祖ではあるのだ。だから少し干渉すれば、アルフレッド様が王家との婚姻を結ぶことなど朝飯前ではあるのだ。
そして、神殿の神託が届くとアルフレッド様は王家とのつながりをもつことになる。
アルフレッドの両親はとても優しく、いい領主であり、領地が繁栄していくことは、ルボワの楽しみの一つでもあった。
しかし、それもアルフレッドの両親が不慮の事故で亡くなったことで一転する。
アルフレッドはとても優しい性格である。それにつけ込んで、国外追放になった叔父が乗り込んできたのだが、ルボワは感知するのがおくれてしまった。ルボワがいないときに、なぜか現れる叔父。彼もまた能力を使って侵入していたのだろう。
それをドラゴンの始祖から教えられたときには、アルフレッドはもう表情がなく、完全に外に出ることができなくなってしまったのだ。
ルボワは自分を責めた。自分がもっとしっかりしていれば、アルフレッド様をお守りすることができたのにと嘆いた。それから必死にルボワはアルフレッドを支えた。だが、アルフレッドは外に出ることはなかった。
ルボワはアルフレッドがいつか外に出てくれるのを信じていた。だから領地のことは、アルフレッドがまた元気になったらいつでも管理できるように手配し、そして身の回りの世話を甲斐甲斐しく続けた。
ドラゴンの始祖は、そこまで人間に肩入れする必要はないとも言う。
しかしルボワにとって、アルフレッドは恩返しをすべき相手。本当は、アルフレッド様の父が亡くなったら、自分も屋敷を去るつもりだった。しかしこんな早くに亡くなると思わなかった。ルボワはアルフレッドも、アルフレッドの父同様に、仕えるべき主として思うようなっていた。
だが、アルフレッド様が部屋を出てこなくなって数年。婚約していたはずの王女が、婚姻を放棄した。まさかそんな事態になるとは思わず、慌ててルボワはドラゴンの始祖に相談した。
するとドラゴンの始祖には最近お気に入りの娘がいるらしい。彼女も王女だから、彼女を嫁がせればいいのでは?と助言をもらった。しかしいざ神託をするときになったら、アサルは反対した。彼女はアサルの愛弟子だからだ。ルボワは頭を何度も下げて、主のために、婚姻を結ばせてほしいと頼んだ。
アサルも旧知の仲間が頼むならと、最後は折れた。
こうしてローズとアルフレッドの婚姻は成立したのだ。
この話は、ルボワとドラゴンの始祖とアサルしか知らない。
婚姻はすべて彼らが計画したこと。世界はそれを知らない。
ルボワはその出来事を簡単に日記に記した。
いつかこの事実が表にでることがあるかもしれない。
でもそんなことがあっても、アルフレッドとローズの関係は変わらないと思った。アルフレッドとローズは、まだまだ子どもではあるが、心は結びついている。
人間のもつ心のつながりというのは、大きな力を発揮することを、ルボワは執事として生きて、感じることが多くあった。ルボワは人間と一緒に生きているうちに、人間らしい感情を理解するようになった。ドラゴンの始祖も人間に接するようになり、初めてあった時より、随分と人間を理解している。
力は弱いのだが、人間のもつ力は無限であるとルボワは感じている。
魔導装置に関してもそうだ。人間は『創造すること』ができる生き物だ。
まるでルボワたち精霊のような、神といわれる存在に近いところもある。
ただ人間は命が短い。アルフレッド様たちと一緒にいられるのも、ルボワにとって一瞬のことでしかない。だからこそ、ルボワは今を大切にしたいと思っている。
弱くてもろい人間だからこそ、ルボワは愛しいのだ。
そしてこの世界を愛している。
ルボワはそっと日記帳をとじると、部屋の灯りをおとした。
明日は早朝から、アルフレッドとローズが山にピクニックへ出かけるという。その用意もあるので、少し仮眠をしておこう。
ルボワは窓から暗い光景を一瞥して、そしてベッドに横になる。闇のなかに溶ける意識、ルボワにとってその闇も温かく感じる。穏やかな時間がしばらくは続くことに感謝して、夢のなかにおちていった。
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