政略結婚で仮面夫婦の予定だったが、破滅フラグを回避するため鬼嫁になります

森の木

第十四話  変化   Sideアルフレッド

 
 Sideアルフレッド




 「おはよう」




 アルフレッドは、今日はルボワに起こされることはなかった。ルボワが起こしにくる前に目が覚め、自発的に着替えをした。その一連の作業に、ルボワは大変驚いたらしく、いつもは表情にとぼしい顔がぽかんと静止していた。アルフレッドはそんなに驚くことではないのに、と思ったが確かに起こされることも拒否して、扉に鍵をかけていたのは、ついこの間の出来事だった。


 ローズが屋敷にきて、しばらくたった。中庭に出て、日光に浴びることが日課になった。アルフレッドが疲れているときは、歩くこともしないで、ベンチで座って話していることもあった。決まった生活リズムが出来てきた。


 朝起きて、着替えをして、そして朝ご飯を部屋でとる。そして身なりを整えて、ローズに挨拶に行くのが朝の日課だ。そして二人で昼食まで、庭を散策する。ローズは多弁かと思えば、アルフレッドのそのときの体調に合わせて黙っていることもある。そういうときは、あらかじめ本を用意していて、ベンチで読みながら日光浴をしていることもあるのだ。
 ローズといる時間はいつも自分らしくいられ、夫ならこうしなければならない、とか紳士だったらこうしなければならない、とかややこしいことを考えなくて済んだ。


 ただ、ローズはそばにいてくれる。そういうことが、今の自分には何よりも助かっている。ローズと話していると、過去の楽しかったことを思い出して、何かしたいと思うようになってきた。昼食を二人一緒に食べてから、午後はローズと一緒に図書室へ行く。彼女が領地について知りたいというので、ルボワが講師となり机を囲んで学んだ。




 夕方になるとアルフレッドは疲れてきてしまって、横になってしまう。慣れないことをすると疲れる頻度も多くなる。軽く仮眠をとってから、夕食をとり、一日が終わっていく。


 ローズはとにかく毎日続けること、というのが口癖だ。毎日となると、やはり体調がすぐれないことも、やる気が出ないこともある。ただ今までつくってきた流れを乱してはならない、というのがローズの方針で、アルフレッドがやる気がでないと、容赦なく笑顔で連れ出す。


 アルフレッドは体格も、力も、魔力も、ローズに勝てる要素はないのだ。ルボワもローズに味方しているので、アルフレッドはふて腐れても、そっぽを向いても、強制的に連れ出される。でもローズは一日が過ぎると、アルフレッドを褒めてくれる。どんな些細なことでもだ。






 「今日は、朝早く起きていたとルボワから聞いたわ。進歩じゃない!わたしだって眠いときはハンナに起こしてもらうことがあるから」


 「たまたまだよ」


 「でも、進歩よ」




 アルフレッドは、こんな褒められることではないと最初は謙遜しすぎていて、卑屈にさえなったのだ。自分を馬鹿にしているのかとも思った。だが、ローズはどんな事ができたか、というより、アルフレッドが毎日少しずつ進歩していることを認めてくれているのだと思った。自分ではこんなこともできない、あんなこともできない。ダメ人間だと思っていた感覚からすると、ローズの言葉はなんだかくすぐったい。でも、褒められて嫌な人間なんていないのだ。毎日褒められると、今日はこのことができた!だからローズは気がついてくれるかな、と期待してしまうことも出てきた。もちろんローズだって万能ではない。そういうときは、何気なく、アピールをして、気がついてもらうこともしている。


 そんなアルフレッドの様子をみて、ルボワは飼い主に構ってほしい子犬のようだと微笑んだ。確かに、ローズに褒められたくて、しっぽを振っている犬のようかもしれないとアルフレッドは妙に感心してしまった。でも、なんだか恥ずかしい。






 「最近、夜更かしもしなくなったんだ」


 「あら、すごいじゃない。夜ってなんだかこれもやりたい、あれもやりたいって目がさえてしまうでしょう?だからずるずる起きてしまうじゃない」


 「でも、朝早いから。ローズは起きないと起こしにくるだろうし」


 「もちろん!多少眠くても朝の散歩は絶対よ」






 ふふふっとローズは笑った。アルフレッドも力なく笑ってしまう。こういう穏やかな時間は、アルフレッドには懐かしくもあり、くすぐったくもある。ローズは自分を見てくれている。そう強く感じるのだ。そしてルボワだって自分を気にかけてくれる。メイドのハンナも。そしてそれに気がつくようになれば、使用人の心遣いも感じられるようになる。料理長の料理は、ローズとアルフレッドの好みを察してくれて、どんどん自分たちが好きだといった風にアレンジしてくれる。特にローズは果物が好きで、食後のデザートはローズの好みを優先している。アルフレッドは、ローズが嬉しそうに食べる姿を見るだけで、幸せな気分になるのだ。


 特に好きな料理ではなくても、ローズと一緒に食べていると、美味しく感じる。


 気がつくと頬が緩んでしまう自分の変化も、実は驚いているアルフレッドだ。この前まで笑うこともほとんどなかった。声を出して笑うこともだ。でも、今は自然と笑顔が出てくるし、気がつけば肩をふるわせて笑ってしまうこともある。最初は笑うだけで、顔の表情はひどくこわばっていたが、毎日些細なことで頬が緩んでしまい、そうしていくと笑うことも日常になっていく。自分が解放されていくみたいに感じる。






 「アルフレッド、最近少し痩せてきたんじゃない?着ている服が少しゆるいみたい」


 「そう?」


 「ええ。これからもっと外に出歩いていくようになると、もっと動くことになるから、動きやすい格好の服を少し作りましょうか」


 「う、うん。ローズに任せる」


 「ルボワに頼んで仕立屋さんを呼びましょう。わたしが見繕ってあげるわ」






 鏡を見るとふっくらしていた頬が少しばかり、丸みがとれてきたようだ。外に出ていることもあって、肌の色も黒くなってきている。健康そうな顔つきだ。少し前は、どんな服を着ようがそんなことどうでもよかった。着られるものを着て、ルボワに指示されて、しかたなく汚れた服を着替えるということの繰り返しだった。服を作ると言われても、どうでもよかったし、人に関わりたくなかった。だから全部ルボワ任せだった。


 もともとおしゃれは興味がないので、どんな服を着ればいいのかもよくわからない。でも今はローズが気に入ってくれるものを着てみたいと思ってきた。


 少し服を着ることの楽しみも覚えてきた。





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