政略結婚で仮面夫婦の予定だったが、破滅フラグを回避するため鬼嫁になります

森の木

第二話 予知夢

 
「く…………、はっ………………!!! 」




 はっと目が覚めて、起き上がる。
 目が覚める直前からうなされているのは自覚はしていて、今みているのは夢だとわかった。額を触れば、ひどい寝汗をかいている。ローズは悪夢にうなされることが、最近頻繁にあった。起きたとき、必ず左目がうずくのだ。


 赤く光る目、これをドラゴンルビーと人は呼ぶ。ローズはとある魔術演習で、ドラゴンと出会ってしまったことがあった。演習のときにチームを組んでいたメンバーを守るため、王家に伝わる禁術を発動させてしまった。そのため、ドラゴンを倒すことができた。
 しかしその禁術は発動するにあたって、対価が必要だった。対価はローズの左目であった。戦いが終わってから、ローズの左は赤く光るようになった。そして、予知夢を見ることが多くなった。


 見ている夢が予知夢と自覚するには、いくつかの傾向がある。そのほとんどが悪夢であり、悪夢にうなされ起きたときには、左目がひどく熱くなっている。ローズは今までに何度か厄災の夢をみてきたが、どれも本当に起こってしまった。そこでローズは夢の通りにならないよう、先回りし、事態を未然に防ぐことが何度かあった。そのおかげもあって、ローズは魔術学院で、名が知られ、多大な貢献と功績を認められてきた。


 ローズは禁術を使用してしまうと、代償が引き起こることをしらなかった。そもそも禁術を使えたことも、時間と運と状況とがそろっただけで、偶然に使うことができたという程度のことなのである。その結果、術を使った後の後遺症があるのを知って、ローズは禁術を使うことは二度となかった。
 演習をしたときは未熟な見習いであったし、二度と禁術を使わないよう、魔術を訓練し禁術に匹敵する大きな魔術を習得してきた。


 ローズが持った膨大な魔術容量は、この世界のほとんどの魔法を使いこなせるほどのものだった。使えないのは、人間が使えないだろう魔術形式と、禁術というこの世のコトワリを無視して、作り出す術式くらいだ。
 禁術について、ローズはひそかに研究をしていた。この世の中の摂理を曲げる禁術。しかしこの研究は、魔術学院でそうそう目立って勉強をすることができなかった。


 ローズはその功績と実力において、将来は魔術学院のトップに君臨するのではないかという噂もあった。だが、ローズはそういった権威や、肩書きに興味をもてなかった。ローズの興味関心があることといえば、魔術を研究していくことだ。大きな肩書きは、研究の邪魔にしかならないとローズは考えていた。


 なぜ、彼女が肩書きを嫌うのか。ローズは魔術学院では目立ってしまい、窮屈な思いをしてきたからである。王族ではあるが、学院内では周囲は一人の魔術士として接してくれる。しかし恵まれた幸運、生まれ持った能力は、時には羨望と嫉妬の的にもなるのだ。ローズは周囲の目が騒がしく、落ち着いて研究をする時間や空間を作ることさえ、難しくなっていた。


 突然ふってわいた婚姻は、ローズにとってマイナスの面だけではない。嫁ぐ先は田舎にはなるのだが、そういった周囲の目から逃れる面ではプラスだとローズは判断した。そして嫁ぎ先が地方領主とはいえ、経済的には潤っていて、さらに大きな図書館が屋敷内にあることを知った。


 地方領主の家系は、代々技術者であり、王家が干渉できないほどの魔術様式を発展させる研究をしていたらしいことをローズは両親からきいた。現在嫁ぎ先である屋敷には、領主と執事が暮らしているという。彼の両親は事故でなくなってしまったらしい。


 ローズは周囲からこの婚姻を不憫に思われた。しがない地方領主ということで爵位も低く、さらに年下であるためだ。ローズが今まで積み重ねたキャリアを捨て、結婚することに関して大層同情をされた。


 だが、ローズはそこまで悲観的に考えてはいなかった。新しい環境への適応力も自負しているし、ローズのやりたいことを続ければいいのだ。ローズは政略結婚ゆえに、夫には仮面夫婦でいようと提案するつもりだ。お互い干渉せず、お互いの不利益に成らない程度に自由にしていようと。相手が5つ年下だから、同じ年くらいの可愛い彼女でも既にいるかもしれない。


 ローズは魔術を学ぶことが楽しく、異性とどうにかなりたいとあまり考えたことがなかった。表向きは妹のスキャンダルを詫びてはいるが、楽観的な面もある両親は、新しい命の誕生を喜んでいるようだった。手紙の結びではローズに対して「結婚する機会がせっかくあるのだから、一度はしておくのもいいものよ?」といった軽いノリが添えられてあった。


 ローズの魔術学院への進学時も、両親からは反対がなく自由にさせてもらった。ほぼノリで選択肢を選んでいる可能性がある両親。そんな王太子夫妻ではあるが、いたって国の政情は安定しているのだから、よほど臣下や国民が優れているとしか思えない。






 しかし、国は荒れる。






 「しばらくは、ドラゴンの訪れがないはずだったのだけれど」


 ローズたちの世界ではドラゴンは天災と同じ意味をなす。
 ドラゴンは巨大で、鋼の鱗をもち、その鱗は魔術を跳ね返す。100人の魔術士が全力を出しても、勝てないと言われている。ドラゴンは100年に一度、世界のどこかに現れるといわれている。どこからともなく現れ、そして破壊して消えていく。
 だが、ローズがドラゴンに偶然遭遇し、奇しくも倒してしまってまだ数年しか経ってはいない。次にドラゴンが現れるときには、ローズはこの世界で生きていることはないだろうと予測していた。


 だが左目が告げる。
 近い未来に、ドラゴンが現れて街を焼き尽くすと。


 しかも、今回は過去に前例がない数匹のドラゴンの襲来と予知夢が告げている。
 ローズの勘が進むべき道を訴えている。今回の婚姻を受け入れ、何か事をなさなければ、間違いなく街は滅びる。ただ、正しい道をとるには、いくつものハードルがあるに違いない。嫁ぐことが決まっても、何をどうしたらいいかまったくわからない。


 ローズはベッドから離れて、明日離れる慣れ親しんだ寮の部屋を見渡した。荷物はほとんど後輩たちに譲り渡してしまい、持って行くものはいくつかのバッグに入る程度のものだ。王族にしてはとても荷物が少ない。持って行っても、嫁ぐときに置いていくことになるだろうし、新しいものを夫となる人の家がすべてそろえるだろう。だったら、身一つで行く覚悟であったほうがいい。ローズにとっては、今までのすべてをここに置いていくつもりだ。部屋がいつもより広く見える。


 窓を見れば、朝明けなのか外は薄明るい。少し早起きして、最後の手荷物の確認をしようと、ローズは寝間着を脱いだ。







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