乙女ゲーム迷宮~隠れゲーマーの優等生は、ゲーム脳を駆使して転移を繰り返す先輩を攻略する!~

森の木

第31話 女子高生、チャンスを手にする



「エリちゃん、アイスコーヒーと。あとヒカリちゃんは飲み物なににする? 」


「紅茶ありますか?アイスで…………」


「自慢になっちゃうけれど、ここの紅茶おいしいのよ。私の好きなブレンドティーを直輸入しているから。百貨店でも取り扱いがないのよ。あとデザートは、シフォンケーキがおすすめかな?このまえ美味しい抹茶を手に入れて、シフォンケーキにしてみました」


「それ、お願いします」


「エリちゃんお願いします」


「はい、かしこまりました」


 ヒカリは、エリという女性の後ろ姿を見送った。エリという女性。たぶん日本人だと思う。ただ外国人の血が入っている感じだ。髪の毛と瞳は薄い虹彩だ。人形のように美しい人。まさに、あのエレノアのような人。いや、そのままエレノアの生き写しである。


 そして先輩のお母さん、ノゾミさんと一緒に窓際の席に座った。他に今はお客さんがいないようだ。ランチもやっていて、そのときは混み合うが、この時間は基本的にすいているとのことだ。ノゾミさんからお店のことを聞くにした。どうやら、他にも何人かスタッフはいるとのことだ。ただあてにしていたアルバイトが、急に実家に帰ることになり、1人雇いたいとのことだった。


「エリちゃんは、この隣駅にある女子校の子なの。エリちゃんのご両親と知り合いで、うちでアルバイトしてみたいってことでお願いしたのよ」


 エリは隣駅の女子校に通う女子高生だということだった。高校二年生であり、おじいさんがイギリスの人だということだ。確か、その女子校は超お嬢様学校。お金持ちの子がいるとは聞いたことがある。


「ノゾミさーん」


「あら、どうしたの?アキラくん」


 厨房から出てきたのは、白いシャツと黒いボトムスの男性だった。一目見て、チャラいと伝わる容姿だった。彼も外国人の血が入っているように思えた。そして見覚えがあった。このうさんくささと、適当さ。ヒカリが好きではないタイプの人。まさにヤンヤン、そして真の正体はリシュアンだった人。少し垂れ目なのが、タヌキっぽいかもしれない。


「あ、どうも。アキラです」


「いいから、どうしたの?アキラくん」


「食材切れちゃって。夜までもちそうにないですね」


「じゃあ、買い物行ってきてくれる?お店はわたしがみているから」


「了解です」


 ヒカリをみてニコニコ笑う。女の人にはこういう態度なのかもしれない。本当にチャラチャラしているなと思った。ヒカリは視界にいれないようにしながら、適当に流していた。


「アキラくんって、仕事もできるし、悪い人ではないのよ。ちょっと軽薄なだけなの」


「え?! 」


 ただの軽薄な人って、ずいぶんな評価をされたものだと思わず吹き出してしまった。ノゾミさんも笑っていたので、そのままつられてヒカリも笑ってしまった。いいお店だ。そのあと、ブレンドティーとシフォンケーキが運ばれてきた。どれもとてもおいしかった。ヒカリはいいお店だと思った。


 そのあとも、仕事の概要を聞いて、制服のことを確認したりしたときには、ヒカリはこのお店で働くことを決めた。そして次の日、改めて契約書を書くことになり、帰ろうとした。もう空は暗くなってきている。すると、大きな背丈の人がカフェを訪れた。スポーツバッグをもった、先輩。なんてタイミングだ。


 「あら、サトル。部活終わったの? 」


 「今日は、早めに終わった。夕飯食べようと思って寄ったんだ」


 「じゃあ、ヒカリちゃんを駅に送ってくれる?その間にご飯用意しておくから」


 「え…………」


 先輩が、ヒカリを見た。先輩が驚いた顔をした。それはそうだろう。見知らぬ女子高生がいたのだから。同じ学校の制服とはいえ。


「同じ学校でしょう?ヒカリちゃんわたしの息子です。送ってもらって? 」


「そんな、大丈夫です」


「いや、送るよ」


 丁重に断ろうとしたが、先輩が引き受けてくれた手前、固辞するのも悪い気がした。ヒカリは荷物を置いた先輩に連れられ、駅まで送ってもらうことにした。
 そしてカフェから駅までは公園を通る。公園を通って行けば、近道であるからだ。まるであの世界で起こったことをなぞったような展開。あの時も、カフェに行って帰り一緒に公園を通った。そして告白された。全部、夢であった。


「俺、マジマサトル……アラキだよな?」


「はい、アラキヒカリです。今日はありがとうございます」


「いいよ、こっちこそ。母さんが急に頼み事して。大丈夫だったか? 」


「いえ、わたしもアルバイトしてみたかったですし。あのカフェ好きだったので。アルバイトすれば、趣味とかも楽しめるし」


「趣味…………、もしかして外れているかもしれないけれど、アラキの趣味ってゲーム? 」


 先輩はひとつひとつ言葉を選んでいるようだった。初対面にしては、親しみをこめてくれて。もしかして、ヒカリのことを学校で見かけたことがあったのかもしれない。だが、趣味の話になって、期待してしまう自分がいたことにヒカリは自分の諦めの悪さを責めた。


「はい、ゲームです。あの…………先輩って。ゲームやらないですか?やっぱり忙しいからゲームできないですよね」


「そ、そうだな。最近のゲームはやらないよ。昔はゲームをした」


 ああ、やっぱりそうだ。夢の中と現実が重なる部分がある。ヒカリは、あのゲームに入って少し気になる先輩が、大好きな先輩になった。だから今話している時間は、嬉しくもあり、すこし寂しくもあるのだ。
 そして公園の出入り口がせまってきた。そこについたら、すぐ駅である。一緒にいられる時間はもうわずか。でもヒカリは、何を話せばいいかわからなかった。


「アラキ…………変なこというかもしれないけど。こんな会ってそんなにたっていないのに」


「は、はい」


 先輩が立ち止まって、ヒカリを真っ直ぐみた。あの世界でシーンと重なる。ヒカリの鼓動は高まった。


「もしかして、俺たちこうやって歩いたことあるか? 」


「え…………」


 ヒカリは頭が真っ白になった。先輩が言っていることが本当ならば、先輩もあの夢を知っているということか。期待してはいけない、でも。


「そこで、俺…………アラキに告白した。いや、これから告白しようと思っている」


「先輩…………」


 何も事情を知らない人が見ていたら、へんてこな告白だと思うだろう。でもヒカリには何よりも嬉しかった。


「先輩、わたし先輩に言いましたよ?今度現実の世界にきたら、わたしから告白するって」


「アラキ! 」


「わたしも変なこと言ってごめんなさい。でも、先輩がわたしと同じ記憶があるなら。わたし先輩に言いたいです。ずっと好きでした」


「俺も好きだよ」


 ヒカリは涙が出てきた。やっと届いた思い。先輩はヒカリに近づくと、力強く抱きしめた。ヒカリは幸せでいっぱいな気持ちで、先輩の胸で泣いてしまった。こんなに嬉しいことは今まで生きたなかでなかった。先輩が助かってよかった、またこうやって話すことができてよかった。いろんな思いが出てきて、ヒカリと先輩はしばらくそのままでいた。



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