乙女ゲーム迷宮~隠れゲーマーの優等生は、ゲーム脳を駆使して転移を繰り返す先輩を攻略する!~

森の木

第27話 ハート編 女子高生、二度好きになる

「先輩、これが新メニューのにんじんのポタージュ、カボチャとクルミとレーズンのサラダ。それにライ麦パンのサーモンとアボガドのサンドイッチです」


「おいしそうだな」


「部活帰りの先輩には、少し物足りないかもしれませんけれど」


「大丈夫、足りなかったらまた家で食べるから」


 笑顔で答える、先輩。ハートの世界であっても、現実の世界のように、先輩は先輩であることは間違いなかった。先輩の中には、先輩の魂がある。もしこのハートの世界をクリアするとしたら、先輩とハッピーエンドになるということなのだろうか。でもこの世界のアラキヒカリは、半分は魔女がなっていた。人間関係も現実とは部妙に違うのだ。そのなかで、先輩とヒカリの立ち位置も違ってきている。


 今まで恋愛らしいイベントもなかったようだし、ヒカリはどうすればクリアできるのか悩んでしまった。


「わたしもいただきます! 」


 ヒカリも試食することになっていたので、先輩と一緒に新しいメニューを食べてみた。原材料にこだわっているカフェだけあって、野菜は新鮮であり、甘みがあった。そしてパンも近所の天然酵母のパンを使っている。どれも、美味しかった。先輩も同じ感想をもったようで、次々に平らげていった。


 男性とこうやって一緒に個人的にご飯を食べることなど、父親以外となどない。少し、特別な時間に感じた。特に何も話さなくとも、苦痛を感じたりしない。自然の空間で、おいしいご飯を食べる。幸せである。


「おいしいな、こういうシャレたものは自分では作らないけれど」


「わたしも自分では作りません。そんなに料理は得意ではないし」


「自分で作ると適当になるよ」


「でも、先輩ってお料理できるって。家事得意って言っていましたよね? 」


 すると一瞬、先輩が動きを止めた。そして首を傾げる。何かまずいことでも言ったのか。ヒカリは内心慌てた。


「あれ、アラキに言っていたか?家事のこととか」


「あ…………」


 ヒカリは自分がミスをしたことを気がついた。だって、その話は先輩から直接聞いたことであったから。ハートの世界にいる先輩からではなく、本当の先輩から聞いたこと。この先輩からは聞いていないのだ。


「えっと、オーナーから。そう、先輩のお母さんから聞いたんですよ」


 慌てて誤魔化すが、そのあと変な空気になってしまった。ヒカリなりにうまく誤魔化せた気がするが、先輩が黙ってしまった。しかし、たまに視線を感じる。何かを探るように、そして観察するようにヒカリを見る。
 先輩に見つめられるとドキドキする。もちろん、何かまずいことでもあったのか、違う意味でもドキドキする。でも、先輩の傍にいられることがこんなに落ち着くのかと幸せを感じるのである。


「ごちそうさま」


「ごちそうさまでした」


 お互い試食が終わって、挨拶をした。そうするとオーナーの先輩のお母さんが、皿を取りにきた。


「どうだった?新メニュー。カボチャが近くの農家さんから頂けて、とてもおいしかったからメニューにいれたいなと思ったのよ。とても甘くて、おいしいでしょう?かぼちゃ」


「とってもおいしかったです」


 ヒカリはオーナーにメニューの感想を伝えた。先輩はどこか遠くを見つめたまま、言葉が少なかった。ヒカリは先輩を気にしながら、その日の仕事を終わらせた。先輩は、そのまま学校の予習をすると言ってテーブルで勉強をしていた。ヒカリの仕事が終わる時間になると、先輩のお母さんから先輩に送ってもらいなさいと言われた。


「悪いです!大丈夫です、そんなにまだ遅くないですし」


「いいから。サトルもそうしたいみたいだし」


「先輩が? 」


 すると先輩も帰る準備をしていた。ヒカリは自分の頬が熱くなるのを感じた。先輩と一緒に食事をするだけでも幸せなのに、帰宅も一緒。いくらゲームの中の世界であっても、先輩
という存在は同じ。心が躍る。でも恥ずかしい。
 ヒカリはエプロンを外し、鞄をもってくると先輩と一緒に店を出た。


 店を出ても、会話は弾まない。先輩は黙っている。ヒカリも自分から話しかけにくい雰囲気に、黙って隣を歩いた。店を少し歩くと、公園がある。公園を突っ切っていくと、駅があり、そこで別れることになる。公園が近道であるので、自然とそこを歩いて行く。


「アラキ」


「は、はい」


 公園を歩いて行くと、先輩が声をかけた。ヒカリは緊張した面持ちで先輩を見あげる。先輩は背が高い。野球部では大きい方で、日に焼けた肌、そして凜々しい眉。


「変なこというかもしれないけど…………、アラキって朝早く学校に来ていたときあったよな」


「えーと、はい。たぶんですけど」


「やっぱり。最近は見かけなかったから」


「先輩、朝練も早く来ていますよね。放課後もすぐ部活行っていて」


「アラキも下校早くないか? 」


「早く帰りたくて」


「それって、好きなことだったよな。えーとゲームが好きだって言っていたような」


 ヒカリは驚いた。だってそれは、この世界の先輩には言っていないことだったから。朝早く来ていることだって、この世界の先輩は知らない。授業が終わってゲームをやりたくて、まっすぐ帰ること。先輩を昇降口でよくすれ違って、挨拶を簡単にしていたこと。ゲームに入る前のことだって、この先輩は知っている。先輩は覚えているのだろうか。


「そうなんです、わたしゲーム大好きで。引かれるかもしれないですけれど」


「俺も小さい頃、ゲームよくやったよ。今は部活が忙しくてなかなかできないけれど」


 同じような会話をしたのを覚えている。こんな小さな話題ができるのが嬉しい。例え、ゲームの中であっても、ゲームのキャラクターとしての先輩だとしても。ハートの世界が乙女ゲームの世界で。今は、アラキヒカリというキャラクターとして生きているとしても。今、ヒカリは幸せだ。この気持ちは嘘じゃない。
 たわいもない会話をして、公園を過ぎていく。ヒカリは、先輩がまた好きになった。例えゲームのなかの先輩であっても。





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