神眼の転生者
第10話「隠蔽」
────夢は見なかった。
「……おはよう、ウィズ」
《おはようございます、マスター》
「おはようございマスター、なんちて。アレからどうなったんだ?」
未だに次元魔法は張られた状態の様子で、上を見上げても地上の光は見えない。
あの戦いの後、気を失ってから動いていないのだ。
《まずはマスターを治療しました。そこは問題無いでしょう。問題があるのはそこではありませんから》
「コルテス……アイツは俺を殺さなかったのか?」
《殺した……というか消したつもりではないでしょうか。あの時あの瞬間から現在まで、外界にマスターの情報は香りすら出てませんから》
次元魔法とはかくも便利なもののようだ。それすら突き破らん勢いで衝撃を通してきたあの悪魔はさらに規格外のようだが。
「怖い、な。すごい怖い。もう二度と会いたくないくらいに怖い。上に出たら待ち伏せしてるとかないよな……?」
《この一帯から反応は消えています。ですが、マスターがこのまま出てはまた来るかも知れませんね》
「は?何でだ?」
《匂いです。と言っても物理的なものではなく呪い的なものなのですがね。マスターには初めに倒したブラックナイトの香りが付いているようなのです。眷属を殺した相手を探すために魔族が使うことのある呪法の一つです》
つまり、ペイントボールでも投げつけられたようなもんか。どうすりゃいいんだ?
《解呪するには3ヶ月は時間がかかります。その間に行動するためには幾つかの隠蔽が必要ですね》
「……具体的にはどんな?」
《難しいことはありません。姿を変え、魔力を隠すだけです。マスターには難しくもないでしょう》
「俺以外だと難しいのか?」
ウィズが言うにはちょっとした変装くらいでは意味がないらしい。が、俺は妄想技もあるし平気だろう、とのことだ。
次に、魔力を隠すとの事だが、大規模の魔法を使わなきゃいいようなので程度の分かるウィズにセーフティを任せた。
しかし、姿を変える、ね。
どんな姿がいいだろうか、難しいとこだ。
……ん?
「なあウィズ」
《はい、マスター。なんでしょうか》
「魔力の性質を変えるってのはダメなの?」
《……いいとは思いますが、簡単では無いのでは?》
「いや、丁度いいから試してみるよ」
俺はとびきり魔力を込めて短剣を二振り創り出す。新月丸には劣るが、かなり質のいいものができたと自負する。
さらに、完成した刃にもっと魔力を込め性質を付与する。付与した性質は『吸血』『隠蔽』『変形』の三つを両方に、『幻影』と『消音』をそれぞれ一つづつだ。
「うーんカッコイイ、柄が赤い方が太陽、青い方が満月にしよう」
《マスター?武器を作って如何するのでしょう?》
「ああ、こいつらは今からする事に先駆けて用意しただけだからな。本番はここからだ」
静かに目を閉じ頭の中に理想を思い描く。
イメージはジョブシステム。
今の状態を剣士として登録する。
スキル名は……『スイッチ』
新しいジョブは『暗殺者』。
特徴は素早い動きと存在の認識阻害。
……よし。
「スイッチ、アサシン」
呪文を唱え目を開く。左腰に佩いていた新月丸は姿を消し、両腰に太陽、満月が下がっていた。
何回か剣を抜き収める動作を繰り返す。感覚は良好、身体も軽い。どうやら上手くいったようだ。
しかも魔力の性質をモード毎に最適化するようにした。今の俺の魔力は剣士モードとは完全に別物のはずだ。
「どうかな、ウィズ」
《……問題ありません。姿の方も問題いです》
「そうだな、鏡が欲しいところだよ……っと、『三人称視』」
なんとなく使えそうだからやってみたが問題なさそうだ。
今の俺の姿は先程までとは完全に別人だ。まず髪の色からして違う。
髪は黒からグレーになり、顔には覆面──と言っても口元だが──をし、眼の色も茶色から赤になった。服装も大きく変わり、黒の忍び装束といった感じか。
背中には大きく死神のマークが入っている。
「それじゃあ、モードの試運転も兼ねてアリアに向かいたいと思うけど、出ても平気?」
《はい、次元魔法、解除します》
空間が陽炎のように揺らめき、地上からの光が穴の底に降り注いだ。
深さは10m程か、穴というかクレーターのようにもなってしまった上の方に向かい、俺は跳躍した。
すっかりここら一帯だけ荒地になった草原が周りに広がる。
「ステータス、確認しとくか」
黒河誠 Lv.96
種族:人間 性別:男 年齢:18歳
モード暗殺者
HP:37,480/37,480 MP:1,002,340/1,974,000
筋力:1,400 体力:1,200 魔力:30,000
精神力:100,000 敏捷力:30,000
えっと、戦士……改名、魔剣士。魔剣士はどうだっけ。
モード魔剣士
筋力:2,980 体力:974 魔力:51,560
精神力:100,000 敏捷力:2,120
ふぅむなるほど、大体思い通りの状態になったようだ。暗殺者なのか忍者なのか分かりづらい感じはするが似たようなもんだろ。
それじゃあ、当初の目的地に向かおうかな。
走って。
妄想技『疾風迅雷』を使い、地を蹴る。飛ぶように景色が流れていく様は地上版『天翔』と言ってもいいかもしれない。
「しかし……まるで天罰のような奴だったな。調子に乗ってた意識が引き締まるよ。ギドラの言ってたヤバイ奴ってのも案外アイツのことかもしれないな」
聞けば俺が気絶してから三日も経過していたらしいが今でもあの脅威を鮮明に思い出せる。
規格外過ぎでしょアレは。
コルテス、ウィズによると魔族の中でもかなり高位の者らしい。理性があるのかも怪しい暴れ具合ではあったが確かにとんでもなく強かったな。
「まあ今さら仕方ないし、次遭遇した時には話が通じることを願っておこう。無理なら逃げる」
アリアの前にそびえ立つバリミス山脈、その麓で朝まで休憩することにした。
流石に5時間走りっぱなしは辛い。
翌日。
俺は山を駆け上がっていた。
山頂まではあと2時間くらいだろうか、こういう山にはイベントがつきものだと思うんだけど。
幸い山頂に着いても異界送りされなかった誰かさんが出てくることは無かった。あのゲームはもうちょい進んだら守護獣も出てきたよな、懐かしい。
地図を見てみるがアリアはこの長い山を越えた先にあるらしい。ズンズン進む。
もんすたー が あらわれた !
しかし まだこちらに きづいていない!
俺の前方に現れたモンスターはイエティのような感じの外見で、常人なら、殴られたら死ぬくらいのパワーはありそうだ。
こちらに背を向けているから隙だらけだが。
その場で音を立てずに跳躍する。
右腰から「満月」を抜き、構える。
「─────ッ!」
そのままイエティの背に向け満月を投げる。
トスッ
突き刺さった満月に付与していた吸血が発動しイエティの生命を吸い取り始める。俺自身は左腰の太陽のおかげで見つからず、痛みと恐怖に敵を探して周囲を見渡すイエティが力尽きるまでその様をただ眺めていた。
ヒュッ。
手を振るワンアクションを終えた右手に、さっきまでイエティの背に突き刺さっていた満月が戻った。
「まさに暗殺者って感じだな」
山脈も九割を踏破し、そろそろ反対側の麓に着くとこまで来た。
そして……
「何だあれは……?」
山を越えアリアへあと1時間というところまで来た時のことだ。前方にふと現れたものに気がついた。
虎が大きくなったよう魔物が悠々と歩いていた。
「……おはよう、ウィズ」
《おはようございます、マスター》
「おはようございマスター、なんちて。アレからどうなったんだ?」
未だに次元魔法は張られた状態の様子で、上を見上げても地上の光は見えない。
あの戦いの後、気を失ってから動いていないのだ。
《まずはマスターを治療しました。そこは問題無いでしょう。問題があるのはそこではありませんから》
「コルテス……アイツは俺を殺さなかったのか?」
《殺した……というか消したつもりではないでしょうか。あの時あの瞬間から現在まで、外界にマスターの情報は香りすら出てませんから》
次元魔法とはかくも便利なもののようだ。それすら突き破らん勢いで衝撃を通してきたあの悪魔はさらに規格外のようだが。
「怖い、な。すごい怖い。もう二度と会いたくないくらいに怖い。上に出たら待ち伏せしてるとかないよな……?」
《この一帯から反応は消えています。ですが、マスターがこのまま出てはまた来るかも知れませんね》
「は?何でだ?」
《匂いです。と言っても物理的なものではなく呪い的なものなのですがね。マスターには初めに倒したブラックナイトの香りが付いているようなのです。眷属を殺した相手を探すために魔族が使うことのある呪法の一つです》
つまり、ペイントボールでも投げつけられたようなもんか。どうすりゃいいんだ?
《解呪するには3ヶ月は時間がかかります。その間に行動するためには幾つかの隠蔽が必要ですね》
「……具体的にはどんな?」
《難しいことはありません。姿を変え、魔力を隠すだけです。マスターには難しくもないでしょう》
「俺以外だと難しいのか?」
ウィズが言うにはちょっとした変装くらいでは意味がないらしい。が、俺は妄想技もあるし平気だろう、とのことだ。
次に、魔力を隠すとの事だが、大規模の魔法を使わなきゃいいようなので程度の分かるウィズにセーフティを任せた。
しかし、姿を変える、ね。
どんな姿がいいだろうか、難しいとこだ。
……ん?
「なあウィズ」
《はい、マスター。なんでしょうか》
「魔力の性質を変えるってのはダメなの?」
《……いいとは思いますが、簡単では無いのでは?》
「いや、丁度いいから試してみるよ」
俺はとびきり魔力を込めて短剣を二振り創り出す。新月丸には劣るが、かなり質のいいものができたと自負する。
さらに、完成した刃にもっと魔力を込め性質を付与する。付与した性質は『吸血』『隠蔽』『変形』の三つを両方に、『幻影』と『消音』をそれぞれ一つづつだ。
「うーんカッコイイ、柄が赤い方が太陽、青い方が満月にしよう」
《マスター?武器を作って如何するのでしょう?》
「ああ、こいつらは今からする事に先駆けて用意しただけだからな。本番はここからだ」
静かに目を閉じ頭の中に理想を思い描く。
イメージはジョブシステム。
今の状態を剣士として登録する。
スキル名は……『スイッチ』
新しいジョブは『暗殺者』。
特徴は素早い動きと存在の認識阻害。
……よし。
「スイッチ、アサシン」
呪文を唱え目を開く。左腰に佩いていた新月丸は姿を消し、両腰に太陽、満月が下がっていた。
何回か剣を抜き収める動作を繰り返す。感覚は良好、身体も軽い。どうやら上手くいったようだ。
しかも魔力の性質をモード毎に最適化するようにした。今の俺の魔力は剣士モードとは完全に別物のはずだ。
「どうかな、ウィズ」
《……問題ありません。姿の方も問題いです》
「そうだな、鏡が欲しいところだよ……っと、『三人称視』」
なんとなく使えそうだからやってみたが問題なさそうだ。
今の俺の姿は先程までとは完全に別人だ。まず髪の色からして違う。
髪は黒からグレーになり、顔には覆面──と言っても口元だが──をし、眼の色も茶色から赤になった。服装も大きく変わり、黒の忍び装束といった感じか。
背中には大きく死神のマークが入っている。
「それじゃあ、モードの試運転も兼ねてアリアに向かいたいと思うけど、出ても平気?」
《はい、次元魔法、解除します》
空間が陽炎のように揺らめき、地上からの光が穴の底に降り注いだ。
深さは10m程か、穴というかクレーターのようにもなってしまった上の方に向かい、俺は跳躍した。
すっかりここら一帯だけ荒地になった草原が周りに広がる。
「ステータス、確認しとくか」
黒河誠 Lv.96
種族:人間 性別:男 年齢:18歳
モード暗殺者
HP:37,480/37,480 MP:1,002,340/1,974,000
筋力:1,400 体力:1,200 魔力:30,000
精神力:100,000 敏捷力:30,000
えっと、戦士……改名、魔剣士。魔剣士はどうだっけ。
モード魔剣士
筋力:2,980 体力:974 魔力:51,560
精神力:100,000 敏捷力:2,120
ふぅむなるほど、大体思い通りの状態になったようだ。暗殺者なのか忍者なのか分かりづらい感じはするが似たようなもんだろ。
それじゃあ、当初の目的地に向かおうかな。
走って。
妄想技『疾風迅雷』を使い、地を蹴る。飛ぶように景色が流れていく様は地上版『天翔』と言ってもいいかもしれない。
「しかし……まるで天罰のような奴だったな。調子に乗ってた意識が引き締まるよ。ギドラの言ってたヤバイ奴ってのも案外アイツのことかもしれないな」
聞けば俺が気絶してから三日も経過していたらしいが今でもあの脅威を鮮明に思い出せる。
規格外過ぎでしょアレは。
コルテス、ウィズによると魔族の中でもかなり高位の者らしい。理性があるのかも怪しい暴れ具合ではあったが確かにとんでもなく強かったな。
「まあ今さら仕方ないし、次遭遇した時には話が通じることを願っておこう。無理なら逃げる」
アリアの前にそびえ立つバリミス山脈、その麓で朝まで休憩することにした。
流石に5時間走りっぱなしは辛い。
翌日。
俺は山を駆け上がっていた。
山頂まではあと2時間くらいだろうか、こういう山にはイベントがつきものだと思うんだけど。
幸い山頂に着いても異界送りされなかった誰かさんが出てくることは無かった。あのゲームはもうちょい進んだら守護獣も出てきたよな、懐かしい。
地図を見てみるがアリアはこの長い山を越えた先にあるらしい。ズンズン進む。
もんすたー が あらわれた !
しかし まだこちらに きづいていない!
俺の前方に現れたモンスターはイエティのような感じの外見で、常人なら、殴られたら死ぬくらいのパワーはありそうだ。
こちらに背を向けているから隙だらけだが。
その場で音を立てずに跳躍する。
右腰から「満月」を抜き、構える。
「─────ッ!」
そのままイエティの背に向け満月を投げる。
トスッ
突き刺さった満月に付与していた吸血が発動しイエティの生命を吸い取り始める。俺自身は左腰の太陽のおかげで見つからず、痛みと恐怖に敵を探して周囲を見渡すイエティが力尽きるまでその様をただ眺めていた。
ヒュッ。
手を振るワンアクションを終えた右手に、さっきまでイエティの背に突き刺さっていた満月が戻った。
「まさに暗殺者って感じだな」
山脈も九割を踏破し、そろそろ反対側の麓に着くとこまで来た。
そして……
「何だあれは……?」
山を越えアリアへあと1時間というところまで来た時のことだ。前方にふと現れたものに気がついた。
虎が大きくなったよう魔物が悠々と歩いていた。
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