神眼の転生者
第9話「瀕死」
一週間が経った。
この数日、俺は刀をロックさんに見せに行ったり、兵士達の訓練をしたり、クエストを消化したりして過ごした。元々旅するには困らないほど金はあったがそれが補充された形だ。
さて、先日国王とギドラにも言ったように、俺は今日を持ってこの都市を立つ。
次に目指す場所も既に決めていた。
閉鎖機械都市『アリア』だ。
この国は……そう、アリアは独立国家だ。外国との交流をせず物理的にも情報的にも封鎖された世界の中で国民は過ごしているらしい。
はるか昔、聞いた話だと500年以上前にアリアは独立し、鎖国に踏み切ったようだ。なにか隠さねばならないことが起きたか、はたまた技術の独占か。
どちらにしろ俺がアリアに行くことにした理由はひとつ。
この世界に銃はあるのか。あわよくばそれを手に入れるか複製してやろうというつもりだ。
そういうわけで出発の日が来た。アリアは王都の遥か北に位置しているらしく、道の半ばには世界最大の山脈であるバリミス山脈があるらしい。
山脈までの道のりにいくつかの村や町、さらに森を超えなければならいらしいが、空を飛んでしまえばどうということも無いだろう。
しばらくはここに来るつもりもないので挨拶回りをする。
初めに来たのはロックさんのところだ。俺が顔を出し、しばらく旅に出ることを伝えるとニヤリとしながら「またいい素材を持ってくれば、何か作ってやる」と言ってくれた。ありがたいことだ。
挨拶回りと言ってもほとんど交流など無いのでギドラと王様に出発の連絡をしに行く。
「そういうわけで、この前も言ったけどしばらく旅をする」
「そうか、まあ死なないように頑張れ。負けた俺が言うのもなんだが、この世界には俺らの物差しで測れないような化物が割といる。お前のことすら殺せるようなのがな」
「そりゃ、ぞっとしない話だな」
「出会うことはまず無いと思うがそれっぽい奴に出会ったらすぐに逃げろ。勇者達と戦わなきゃいけないんだろう?」
「ああ、半年くらい生き延びてみせるよ。……王様もしばらくは会うことがないでしょうが、気をつけてください」
「うむ……余も戦に備え、準備を進めておこうと思う。また会おう」
「はい、それでは」
「おっと、ちょっと待ってくれ。この前の襲撃者いただろ、どうやらお前が王に会うのをどこかで嗅ぎつけた貴族どもの差し金らしい。然るべき罰を与えておいたが、押収した財産をお前に渡すつもりだったんだ。旅の路銀にでもしてくれ」
去ろうとした俺を引き止めたギドラに金の入った麻袋を渡される。それをありがたく受け取り、今度こそ俺は出発した。
「さーてさて、一気にバビュンと行きますかね。ウィズ、方角の指示を頼む」
《了解です、マスター》
ふわりと5mくらいの高さにまで浮かんだ俺は、遥か遠く北の機械都市を目指して飛行を開始した。
「ただ飛ぶのも退屈だな……ス○ーフォッ○スよろしく遊びますかね」
バレルロールをしたりなんなりと遊びながら飛んで30分、得体の知れない感覚が全身を貫いた。
(なんだなんだなんなんだ、この感じは何なんだ!まるでそう……死ぬ時感じたあの感覚)
直後、強い衝撃を側面から受け俺は吹き飛んだ。
「ぐあぁぁぁぁぁ!!!!!」
強かに地面に打ち付けられ、たまらず悲鳴が漏れる。この世界に来て初めてとも言える強いダメージ、確かに俺の身体で弾けたその衝撃、それが来た方向を立ち上がりつつも見据える。
そこには死という概念を人型に固めて、圧縮したような存在が浮かんでいた。
「何……者………だ……?」
息も絶え絶えに誰何を問う。
「……」
その存在はごく自然に腕を持ち上げ、指を鳴らした。
次の瞬間、魔力で作られた刃の嵐が吹き荒れた。
「ッ…………!時破!」
咄嗟に神眼を解放して妄想技を発動する。
止まった世界の中で新月丸を抜き放ち構える。魔力障壁を前方に設置しつつ円剣を設置した。
手加減とかしている場合じゃない、外の行くほど強くなる様に五重に剣を配置する。
新月丸に力を込め斬撃を飛ばす直前に時間が流れだした。
「オォォォォォ!!!!」
配置された剣が針山の如く突き立つのと同時に、裂帛の気合と共に斬撃波を放つ。
妄想技『飛斬』。オーソドックス且つ実用的な技だ。
先に突き立った剣の隙間を縫うように突き刺さる刃の雨。流石に無傷ではいられない。
その証拠に神眼を通して見える奴のHPには減りが見える。
HP:4,999,800/5,000,000
ってな感じに。
こりゃマズイ。
次の瞬間、俺の身体は先ほど飛んでいた高さの三倍ほどの高度に浮遊していた。
可視化したHPを横目で眺める。
HP:30,000/37,480
死にかねねぇな……どうしよう。
そんな思考も遅れてやってきた激痛に中断を余儀なくされる。どうやら強烈な腹パンを喰らったらしい、とても痛い。
そんで多分逃げられないタイプの相手だ。どこに伏線があったか……
眼前の空気が揺らぐように霞んだ直後、目の前に現れた死の魔力を叩きつけられ俺は遥か下の地面に見事叩きつけられた。てか3mくらいめり込んだ。
5,000まで減ったHPを視界の端に置き敵を見据える。
コルテスLv.300
種族:魔族 女
年齢:1846歳
HP:4,999,800/5,000,000
MP:50,000/100,000
筋力:15,450
体力:30,000
魔力:20,600
精神力:50/4,570
敏捷力:5,000
と、ステータスだけで相手するのが嫌になる有様だ。
おや、MPが全部消えた……トドメかな?
上空に浮かぶコルテスとやらの周囲に紅い稲妻が弾けており、合わせた両手の前に同じ色をした球体が形成されてくのをボーッと眺めていた。
────────────勝てないわ。
降り注いだ雷球が地上で大きく膨張し、周囲20mが灰になった。
低空まで降りて来たコルテスの眼にも先程まで相対していた少年の姿は写らず、配下のブラックナイトが死に際に施した死者の香りの効果も切れ、完全に誠かいた痕跡はなくなっていた。
「マジ…で死ぬ…かと思…った」
HP100の俺が地下深くに佇んでいた。直撃は免れたが余波は抑えきれず、満身創痍である。もっと言うとピンチでもある。クッソ痛くて治療できねぇ。
ぶっちゃけ最後の瞬間は諦めが入ってたウィズが土魔法で一気に地下まで穴を掘り、空間を形成すると同時に次元魔法で断層境界を作り上げたところで先の雷球が猛威を振るったのだった。
障壁まで用意しといてこれだけ削られるとはどれほどの攻撃だったのか、圧倒的なパワーのせいでこちらの感覚が麻痺してしまいそうだ。
「……ウィ……ズ、ま………かせ……っ……」
深まる思考とは裏腹に身体は動かず、能動的にスキルも使えない。ダメージからか恐怖からか、この瞬間に関しては俺はきっとギルドの受付嬢よりも弱い。
必死に繋いでいた意識を手放すよりも早く
《全力で治療いたします、おやすみ下さい》
そうウィズが言ってくれた。
──任せたよ、相棒。
俺の意識は暗転した。
»»sideウィズ
マスターの意識が無くなると同時に彼のMPを掻き集めて魔法を構築する。
これほどの重症なら最高級の治癒魔法を施すしかあるまい。観察すれば観察するだけ、絶望的な状態だ。
それこそ、マスターが元いた世界のように、魔法も何も無いような場所では治療すら出来ない程だ。
《…………あの魔法にしましょう》
一言、宙に言葉を放ち魔力を高める。
《知識の記録者たる我が乞う、創造の神クリムベルよ。最高神である御身により我がマスターに原初の癒しを》
《────『創始者の癒し』》
マスターの周囲に赤と緑の魔力が渦巻き、淡く光りながらその体を撫でる。
光が過ぎた場所には傷はなく、避けた肉は繋がり折れた骨はより強靭に、これこそが創造神の司る癒しです。
《修復完了です、しばしの休息を、マスター》
─────────そして、三日が経った。
この数日、俺は刀をロックさんに見せに行ったり、兵士達の訓練をしたり、クエストを消化したりして過ごした。元々旅するには困らないほど金はあったがそれが補充された形だ。
さて、先日国王とギドラにも言ったように、俺は今日を持ってこの都市を立つ。
次に目指す場所も既に決めていた。
閉鎖機械都市『アリア』だ。
この国は……そう、アリアは独立国家だ。外国との交流をせず物理的にも情報的にも封鎖された世界の中で国民は過ごしているらしい。
はるか昔、聞いた話だと500年以上前にアリアは独立し、鎖国に踏み切ったようだ。なにか隠さねばならないことが起きたか、はたまた技術の独占か。
どちらにしろ俺がアリアに行くことにした理由はひとつ。
この世界に銃はあるのか。あわよくばそれを手に入れるか複製してやろうというつもりだ。
そういうわけで出発の日が来た。アリアは王都の遥か北に位置しているらしく、道の半ばには世界最大の山脈であるバリミス山脈があるらしい。
山脈までの道のりにいくつかの村や町、さらに森を超えなければならいらしいが、空を飛んでしまえばどうということも無いだろう。
しばらくはここに来るつもりもないので挨拶回りをする。
初めに来たのはロックさんのところだ。俺が顔を出し、しばらく旅に出ることを伝えるとニヤリとしながら「またいい素材を持ってくれば、何か作ってやる」と言ってくれた。ありがたいことだ。
挨拶回りと言ってもほとんど交流など無いのでギドラと王様に出発の連絡をしに行く。
「そういうわけで、この前も言ったけどしばらく旅をする」
「そうか、まあ死なないように頑張れ。負けた俺が言うのもなんだが、この世界には俺らの物差しで測れないような化物が割といる。お前のことすら殺せるようなのがな」
「そりゃ、ぞっとしない話だな」
「出会うことはまず無いと思うがそれっぽい奴に出会ったらすぐに逃げろ。勇者達と戦わなきゃいけないんだろう?」
「ああ、半年くらい生き延びてみせるよ。……王様もしばらくは会うことがないでしょうが、気をつけてください」
「うむ……余も戦に備え、準備を進めておこうと思う。また会おう」
「はい、それでは」
「おっと、ちょっと待ってくれ。この前の襲撃者いただろ、どうやらお前が王に会うのをどこかで嗅ぎつけた貴族どもの差し金らしい。然るべき罰を与えておいたが、押収した財産をお前に渡すつもりだったんだ。旅の路銀にでもしてくれ」
去ろうとした俺を引き止めたギドラに金の入った麻袋を渡される。それをありがたく受け取り、今度こそ俺は出発した。
「さーてさて、一気にバビュンと行きますかね。ウィズ、方角の指示を頼む」
《了解です、マスター》
ふわりと5mくらいの高さにまで浮かんだ俺は、遥か遠く北の機械都市を目指して飛行を開始した。
「ただ飛ぶのも退屈だな……ス○ーフォッ○スよろしく遊びますかね」
バレルロールをしたりなんなりと遊びながら飛んで30分、得体の知れない感覚が全身を貫いた。
(なんだなんだなんなんだ、この感じは何なんだ!まるでそう……死ぬ時感じたあの感覚)
直後、強い衝撃を側面から受け俺は吹き飛んだ。
「ぐあぁぁぁぁぁ!!!!!」
強かに地面に打ち付けられ、たまらず悲鳴が漏れる。この世界に来て初めてとも言える強いダメージ、確かに俺の身体で弾けたその衝撃、それが来た方向を立ち上がりつつも見据える。
そこには死という概念を人型に固めて、圧縮したような存在が浮かんでいた。
「何……者………だ……?」
息も絶え絶えに誰何を問う。
「……」
その存在はごく自然に腕を持ち上げ、指を鳴らした。
次の瞬間、魔力で作られた刃の嵐が吹き荒れた。
「ッ…………!時破!」
咄嗟に神眼を解放して妄想技を発動する。
止まった世界の中で新月丸を抜き放ち構える。魔力障壁を前方に設置しつつ円剣を設置した。
手加減とかしている場合じゃない、外の行くほど強くなる様に五重に剣を配置する。
新月丸に力を込め斬撃を飛ばす直前に時間が流れだした。
「オォォォォォ!!!!」
配置された剣が針山の如く突き立つのと同時に、裂帛の気合と共に斬撃波を放つ。
妄想技『飛斬』。オーソドックス且つ実用的な技だ。
先に突き立った剣の隙間を縫うように突き刺さる刃の雨。流石に無傷ではいられない。
その証拠に神眼を通して見える奴のHPには減りが見える。
HP:4,999,800/5,000,000
ってな感じに。
こりゃマズイ。
次の瞬間、俺の身体は先ほど飛んでいた高さの三倍ほどの高度に浮遊していた。
可視化したHPを横目で眺める。
HP:30,000/37,480
死にかねねぇな……どうしよう。
そんな思考も遅れてやってきた激痛に中断を余儀なくされる。どうやら強烈な腹パンを喰らったらしい、とても痛い。
そんで多分逃げられないタイプの相手だ。どこに伏線があったか……
眼前の空気が揺らぐように霞んだ直後、目の前に現れた死の魔力を叩きつけられ俺は遥か下の地面に見事叩きつけられた。てか3mくらいめり込んだ。
5,000まで減ったHPを視界の端に置き敵を見据える。
コルテスLv.300
種族:魔族 女
年齢:1846歳
HP:4,999,800/5,000,000
MP:50,000/100,000
筋力:15,450
体力:30,000
魔力:20,600
精神力:50/4,570
敏捷力:5,000
と、ステータスだけで相手するのが嫌になる有様だ。
おや、MPが全部消えた……トドメかな?
上空に浮かぶコルテスとやらの周囲に紅い稲妻が弾けており、合わせた両手の前に同じ色をした球体が形成されてくのをボーッと眺めていた。
────────────勝てないわ。
降り注いだ雷球が地上で大きく膨張し、周囲20mが灰になった。
低空まで降りて来たコルテスの眼にも先程まで相対していた少年の姿は写らず、配下のブラックナイトが死に際に施した死者の香りの効果も切れ、完全に誠かいた痕跡はなくなっていた。
「マジ…で死ぬ…かと思…った」
HP100の俺が地下深くに佇んでいた。直撃は免れたが余波は抑えきれず、満身創痍である。もっと言うとピンチでもある。クッソ痛くて治療できねぇ。
ぶっちゃけ最後の瞬間は諦めが入ってたウィズが土魔法で一気に地下まで穴を掘り、空間を形成すると同時に次元魔法で断層境界を作り上げたところで先の雷球が猛威を振るったのだった。
障壁まで用意しといてこれだけ削られるとはどれほどの攻撃だったのか、圧倒的なパワーのせいでこちらの感覚が麻痺してしまいそうだ。
「……ウィ……ズ、ま………かせ……っ……」
深まる思考とは裏腹に身体は動かず、能動的にスキルも使えない。ダメージからか恐怖からか、この瞬間に関しては俺はきっとギルドの受付嬢よりも弱い。
必死に繋いでいた意識を手放すよりも早く
《全力で治療いたします、おやすみ下さい》
そうウィズが言ってくれた。
──任せたよ、相棒。
俺の意識は暗転した。
»»sideウィズ
マスターの意識が無くなると同時に彼のMPを掻き集めて魔法を構築する。
これほどの重症なら最高級の治癒魔法を施すしかあるまい。観察すれば観察するだけ、絶望的な状態だ。
それこそ、マスターが元いた世界のように、魔法も何も無いような場所では治療すら出来ない程だ。
《…………あの魔法にしましょう》
一言、宙に言葉を放ち魔力を高める。
《知識の記録者たる我が乞う、創造の神クリムベルよ。最高神である御身により我がマスターに原初の癒しを》
《────『創始者の癒し』》
マスターの周囲に赤と緑の魔力が渦巻き、淡く光りながらその体を撫でる。
光が過ぎた場所には傷はなく、避けた肉は繋がり折れた骨はより強靭に、これこそが創造神の司る癒しです。
《修復完了です、しばしの休息を、マスター》
─────────そして、三日が経った。
「ファンタジー」の人気作品
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