神眼の転生者

ノベルバユーザー290685

第4話「お約束一蹴、そしてクエストへ」

 無事に登録を終えた俺は受付カウンターに向かい冒険者とは何をするのか、といった類の説明を聞いた。
 多聞に漏れず、クエストを受けるのがメインとなっているらしい。ランクごとに受けれるクエストは決まっており、自分のランクの一つ上までのクエストしか受けることは出来ない。
 ランクを上げるためには一定の実績が必要で、その後昇格試験を受け、合格することでランクが上がるとのこと。


「どんなクエストがあるのやら……」


 ギルド掲示板を眺めクエストの依頼書を確す認する。クエストにも種類があり、魔物の討伐だったり素材の採取だったり、他にも護衛任務など様々なものがある。
 適当に選んだ【ゴブリン退治(常駐依頼)】の依頼書を持ち、カウンターに向かう。対象ランクはF+である。


「これ、受けたいんですけど」
「はい、クロカワさん。こちらの依頼ですね。間違いはないでしょうか?」
「問題無いですね」
「分かりました、では依頼の説明をします。この街から1時間ほどの草原地帯にゴブリンが多く生息していて、それを数多く倒す、といったものです。ゴブリン自体は大した強さもなく、素人でも倒せないことは無いのですがどうにも数が多く、手を焼いている状態です」
「なるほど、退治の証明はどうすればいい?」
「はい、見た所クロカワさんは袋をお持ちでないようなので、こちらを差し上げます。これにゴブリンの鼻を入れて持ってきて下されば、一体につき200Gの報酬が出ます。素材を持ち帰って下されば別途で買取もしておりますので、ぜひご利用ください」
   「そうしよう。場所はどの方角だっけ?」
「北の門から出てそのまま道なりに進めば大丈夫かと」
「よし、なら行ってきます」
「はい、無事をお祈りします」


 ギルドから出ようと振り返ったところで、目の前に壁が出現した。この時点で俺は約束から逃れることは出来ないかと悟った。
 見上げると不機嫌な顔をしたスキンヘッドの男がこちらを見下ろしていた。
 ここまで見事にお約束に遭遇するとは思わなかったよ。


「あの、何ですか?」
「お前みたいなガキがクソ弱い魔物を倒して冒険者面してると俺らまで舐められるんだよ。妙な服着やがって鎧すら付けてない素人じゃねぇか」
「別にいいでしょう、俺がどうしようがアンタには関係無いだろ」


 そう答え男の横を通り抜ける。絡んできた男自身もあまりいい装備をしているとは言えず、着けている鎧も粗末な物だった。


「あ…………?いい度胸じゃねぇか!俺に喧嘩を売るとはな!」


 お前が先だろ?!まさかこんなにウザったいとは……流石お約束なだけはあるな。
 なおも無視を続けようとする俺の前に再び立ち塞がる男。
 しかし まわりこまれて しまった !!


「なんにせよ、ここじゃギルドに迷惑がかかる。ギルドが基本的に冒険者同士の争いには不干渉でも、業務妨害で制裁の対象にはなりたくないだろ?」
「うっ…………表に出な!」


 そう叫ぶと男は外に出ていった。このままここでダラダラするのはありだろうか。無しだろうな。
 後を追い外に出ようとする俺にギルドの受付嬢が声を掛けてきた。


「クロカワさん、彼はCランク冒険者のテッドさんです。いくらなんでも無謀では……」
「あの程度なら問題無いだろ。万が一殺してしまったら俺はどうなるんだ?」
「凄い自信ですね……そうですね、別段問題は無いですね。元々そういう世界ですから、冒険者同士は特に。ですが無益に殺すのも良しとはされませんね、クロカワさんはお若いですし」
「まあそれもそうですか。殺さない程度に頑張ります」
「どうぞご無事で」


 さっき睨み合いをした時に覗かせてもらったが、レベルも43と中堅くらいで平均的なCランク冒険者なんだろう。
 どちらにしろ、余裕で勝てる。






「来たな、覚悟は出来たか?」


 腰の剣を抜き、構えながらテッドは問い掛ける。


「自分の心配だけしてな、木偶の坊」
「なんだと……喰らいなぁぁッ!」


 眼前に振り下ろされる剣を身体の向きを変えることで避け、突っ込んできた相手の腹部に拳を叩き込み後ろに下がる。


「ぐっ……効かねぇなぁ、そんなもんかぁ?!」


 雄叫びを上げ、踏み込みながら逆袈裟に伸び上がる斬撃を抜き放った剣で迎撃する。抑え込まれた力を少しだけ解放し大きく剣を弾き、反動を利用して再び剣を振り下ろす。
 狙い違わず鎧の中央に吸い込まれた俺の剣は僅かな抵抗を感じさせつつも綺麗に鎧を切り裂いた。皮も少し切るかと思ったけど、咄嗟にバックステップしたテッドの判断は少なくない経験を伺わせるものではあった。
 だがその動きも先が読めてればなんてことは無い、追いかけるように踏み込んで剣を首に押し付ける。


「終わりだ。残念だったな」


 告げてテッドの目を睨む。息を詰まらせるテッドだが、諦めた様な顔をしてようやく言葉を紡いだ。


「まさか……この俺様が……負けるなんてな」
「俺に喧嘩を売った時点でお前の負けだよ、今度からは自分の身の程をわきまえて生きていくんだな」


 バッサリと言い捨て俺は依頼の目的地へ向かった。
 後ろで雄叫びが聞こえた気もしたが、俺には関係ない。






「多くね……?」


 目的の場所にたどり着いての第一声がこれだった。多く生息している、とは聞いていたが普通に見えるだけで50匹はゴブリンがうろついてる。
 森も近くにあるし、少し離れたところには草むらもある。この一帯のどこかにゴブリンの集落でも有るのだろうか?どちらにしろ、これは多人数戦闘の丁度いい訓練になりそうだな。


「ウィズ、能力20%開放だ。頼んだぞ」
 《了解です、マスター。それと、ついさっき『創造神の加護』の解析が終わりました。ほぼ100%の確率でスキル創造が可能になりました》
「えぇ……俺そんなこと頼んでないぞ?」 
 《勝手ながら、気になってしまいましたので解析をしていました。ですが、問題ないですよね?》


 ま、無いですけどね。むしろサンキューだな。この際だから、こんなスキルはどうだろうか。


 《スキル『妄想技ファンタジア』を習得しました。これはまた……興味深いスキルですね》
「そりゃよかった。堕天もそれに組み込んどいてくれ」


 そう頼み五匹のゴブリンが固まっている場所に俺は狙いを付け走り寄る。


「グルアァァァァ?!」


 なんとも言えない叫び声を上げてゴブリン達は硬直した、驚いたという言葉を文字通り体現してくれた彼ら(彼女ら?)には悪いが俺のために命を捧げてもらおう。


「さあ、遊びの時間だ。『疾風迅雷』!」


 技名を呟くと同時、今まで駆けていたよりも更に早く俺の体は加速し、そのまま五体のゴブリンの真ん中を抜け次の集団に向かった。
 背後でゴブリンたちがバラバラに崩れ落ちるのを感じつつ、臨戦態勢になった10余りのグループに速度を落とさず接近する。


「少し作業ゲー過ぎないか……『ソードブーメラン』!」
  
 スナップを効かせて投げた剣は高速で回転し目標へと迫る。五体目まで無惨に切り裂いたところでようやく対応したゴブリンが飛来する剣を弾こうとする。


「そうはさせねぇよ!」


 俺の意思に従い回転力を強めた剣は、ゴブリンの構えた棍棒すら容易に切断し、残りの数体をも肉塊に変え俺の手へと戻った。
 ブーメランとは名ばかりの遠隔技だが、俺の妄想が出典ルーツだ。無尽蔵と言ってもいいレベルで技なんてある、と言うか作り出せる。


「さて、まだまだ数は居るみたいだな。今の俺がどれだけ出来るか、お前らじゃ役者不足だろうがせいぜい頑張れよ」


 そしてゴブリン達にとっては惨劇の、俺にとっては虐殺の幕が上がった。






 そして、夕方には300を越える死体の山が築かれそれと同じ数のゴブリンの鼻が渡された袋に詰まっていた。
 他にも素材になりそうな部位を大量に仕舞ってあるが、どういう理屈か明らかに見た目より多く入るその袋を仕舞い、三時間ほど前に開放した神眼の下位スキル『索敵眼スカウト・アイ』を使用しつつ辺りを見回す。
 この一帯はゴブリンの縄張りだった様で他の魔物はいなかったが、その代わりに大量に生息していたゴブリンたちを6割ほど始末し、帰ることにした。
 全滅させる事も出来そうではあったが、色々とまずそうだったのでそれはやめた。


「しかし……この死体を置いておくのは良くはないんだろうな。ウィズ、ここの常識と照らし合わせてこれを放置するのはアリか?」
 《端的に申し上げますと、完全にナシです。処分をお勧めします》
「デスヨネー、どうしようかなぁ……火葬でいいかね」
 《処分さえ出来れば、火葬でも土葬でも問題はありません》


 そういう事なら……今回は火葬で行こう。
 右腕を前に突き出し、手の平を死体の山に向ける。


「地獄の業火よ、灼き払え。『獄炎インフェルノ』」


 手の平の前に生み出されたその炎は俺のイメージを忠実に再現し、赤黒い光を辺りに散らしていた。一般的なハンドボール程のサイズをした炎はゆっくりと死体の山に近付いていき、死体の一つに触れると同時に山ごと火の柱に飲み込んだ。天高くまで燃え上がるその炎は周囲にもその牙を向け、それは火柱の周りにミステリーサークルが出来上がったほどだった。
 獄炎が燃え盛っていたのは時間にして30秒にも満たなかったが、火中のゴブリンは全て蒸発していた。
 後日、その現場に通りかかった冒険者がミステリーサークルを見つけ、その話が大都市で噂になったが、俺はそれを知る由もなかった。


 しばらく歩き、俺は無事にサウスへとたどり着いた。


 「おう、マコトじゃねぇか!随分帰ってくるのが遅かったな?」
 「ああ、ちょっとゴブリンを狩っていたら暗くなってたよ。入れてくれるか?」
 「いいぞ。街の中では気をつけろよ?知っての通りこの街は治安が悪いからな」


 忠告をありがたく聞き流し、俺は冒険者ギルドへ向かった。


 「クエストの報告をしたいんだが、いいかな?」
 「あっ、クロカワさん。ご無事で何よりです。討伐証明の素材を出して貰えますか?」
 「これに入ってるけど、かなり量があるし他の素材も入ってるけど平気?」
 「それでしたら……こちらへどうぞ」


 案内された先には何やら選別機のような物があった。と言っても、ザ・機械といった外見ではなく、単純に素材の投入口があり、その先に出口がいくつかあるだけだった。


 「これは?」
 「素材の選別をするための魔道具アーティファクトです。細かい仕組みは分かりませんが、どのギルドにも配置されていますよ。では、袋を頂けますか?」
 「どうぞ」


 渡された袋を投入口の上で逆さまにする職員さん。流れ出る素材、終わらない奔流、たっぷり2分間素材は落ち続け、美人の職員さんも流石に冷や汗が隠せていなかった。


 「ず、随分とゴブリンを倒したようですね。正直冒険者に成り立てでこんなに魔物を狩った人は聞いたことがないです」
 「へぇ、そうなんですか。でも、ゴブリン弱いですし、ついつい楽しくなっちゃって」
 「それはそれは……何はともあれ、お疲れでしょう。職員が素材の勘定をしますが、数が多いので……しばらく、休んではいかがでしょうか?場所もありますし、仮眠室をお貸ししますよ」
 「それはありがたいですね。確かに少し寝たい気分かもしれないし、ここはお言葉に甘えて休ませてもらいます」


 仮眠室に案内され、勘定が終了したら起こしに来る胸を伝えられ俺は簡易なベッドに転がった。


 「突然死んで、転生して、いきなり襲われた上にチートじみたレベルアップまでして」


 挙句にお約束なチンピラには絡まれるし、ゴブリンを虐殺して、元の暮らしじゃ考えられないな、ここでの体験は。
 でも、まあ


 「なかなか楽しいじゃん、異世界」


 呟き、俺は眠りに落ちた。

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