英雄は愛しい女神に跪く
新たな港 『グローリアス』
港の拡大には、町の人間達も驚いていた。さっきまで、すぐそばに海があったのに、いきなり陸地が出来たからな。
それに性急な改革に、街の人間達の中には不満の声もあった。それは今まで、海側のすぐそばに店を構えていた者達がほとんどだ。
今まで一番いい立地で商売をしてきたものたちにとって、港が大きくなるのは、メリットよりデメリットの方が大きい。特に海産物は鮮度が命。取れたてを提供し、鮮度を売りにしている海側の店にとっては、港が大きくなった分の運送で鮮度が落ちてしまえば商売が達行かなくなる。
なので、新たにこの港のすぐ側に新設する、市場の最優先移転権利を与えることによって、何とか不満を飛散させた。公爵の手腕だ。港がでかくなった時点でこれを見越して、部下に準備させていたらしい。
バカなことさえしなけりゃ、このじいさんは有能だ。
「で?頼んでおいた資材は全て揃っているか?」
「あぁ、木材、石材、鉄、ガラス、計500家分……準備はしたが、どうやって今日中に家をそんなに建てるのじゃ?」
「こうやってさ……【創造】」
俺はスキル:【創造】を発動させた。俺のスキルに飲み込まれた資材は、頭の中の設計図通りに組み立て、ついでに足りない分は俺の魔力で補強。
完成した家をコピペの要領で道なりにそって建てていく。
端から見れば、突然大量の資材が消えて、突然家が建ち、さらに同じような家が増えていく異様な光景だ。全員唖然としていた。
「よし、こんなもんか」
「え?」
「家が……」
「建ったな…一瞬で」
「あぁ、一瞬で……な」
「「ええええぇぇぇぇぇぇ?!?!?!」」
ある程度の配置が終われば完了だ。
後はもともとあった港近くの商店街を新しく宿屋等の観光客、もしくは交易できた船員のための休憩所にする。
まぁ、そのためには、そこにいるやつらに引っ越しが終わってからだな。
「さ、さすがはトーヤ殿じゃな。非常識の塊……いや、なんでもない……」
「ま、物質を作るスキルみたいなもんだ。とはいっても、ある程度の資材が必要だがな」
本当は資材がなくとも、膨大な魔力さえあれば、作ることも可能だ。
しかし、それをしてしまえば、出来た建物は全部オリハルコン級の固さと頑丈さとなり、1000年……いや、もっと長い時間放っておいても壊れることのない建物になってしまう。
それでは不自然だから、既存の資材を用意させていたのだ。まぁ、それでも俺の魔力を微量だが含ませたから、200年は大丈夫だろうがな。
「なんと…そのようなスキルが……」
「まぁな。後は住人達の割り振りと引っ越しをさせおいてくれ。もともと市場があった場所は、宿屋街にするからな」
「ふむ…では、新しい宿屋の求人、もしくは移転の打診を告知した方がよいな。これもこちらでやっておこう」
「あぁ、任せたぞ」
その後も、改築や改装、新築を繰り返し、たった1週間ほどで、サーベストは前とはまるで違う、別の街並みにへと変貌した。
「まさかたった1週間ほどでここまで……」
「す、すげぇ……」
「これが、新たな港……」
「そうだな『栄光』でいいんじゃないか?」
「あぁ、そうじゃな…新たな港、グローリアスの誕生…!本当にありがとう、トーヤ殿、ユーリ殿」
工事に関わった組合の奴等や公爵家の者達は大いに感動しあっている。「今夜は宴だー!」と大騒ぎ。
本格的に港が稼働するのはもう少し後だろうが、それでも、今までより何倍もの物資を運ぶことができ、観光客や移動客が増えるだろう。
それに、これはダンジョン島を手に入れてから色々するための下地にもなる。俺にとっても利用価値があったから手伝ったまでのことだ。
「ねぇ、十夜。」
「なんだ?」
喜ぶ街の人間達を見ながら、優理がそっと腕に寄りかかった。
「街の人達、嬉しそうだね」
「そうだな」
「……あのね」
「今日は一緒に寝るか」
「……!うん!」
優理のことならなんでもわかる。言わずとも。それは俺も同じだったからな。
しばらく街の改革に付きっきりで、優理とろくに触れ合えなかった。優理にも寂しい思いをさせてしまったが、それより俺が優理不足。我慢の限界だ。
「なぁ」
「なぁに?」
「俺、頑張っただろ?ご褒美はねぇのか?」
「…っもぉ!私も寂しかったんだから、慰めが必要でしょ!」
「あぁ、思う存分愛でねぇーとな」
「……バカ」
ようやく一段落つけると、街の連中のお祭り騒ぎには目もくれず、俺と優理は早々に宿へと帰っていった。
その後、二人が人前に出てきたのは、一週間をすぎた頃だった。
何度か訪ねに行った者がいたが、その人達は例外なく、十夜達に会うことは叶わず、顔を真っ赤にして走り去っていった所を目撃されることとなる。
華藍side
十夜と優理が宿に籠っているころ、華藍は公爵邸に預けられていた。
宿に入る前、十夜から手紙を渡され、「これを公爵のじいさんに届けろ。そんでしばらく入ってくるなよ」と言われた。
華藍は空気の読めるスライムだった。
公爵邸へと行き、初めはスライムの華藍に吃驚していたが、手紙を渡したことと、公爵が事前に華藍の存在を知っていたので大きな騒動にもならずにすんだ。
そんな華藍だが、十夜に追い出され一人寂しく……とはならなかった。
「キュ!」
「あら、カランちゃん!いらっしゃい!美味しい果物あるよ!食べていきな」
「キュキュウ!」
「おお!スライム!うめぇ魚くってくか?」
「カランちゃん!こっちの屋台も食べてくかい?」
公爵邸どころか、街の人間にも可愛がられていた。
街で改革中も十夜や優理の側についていたので、街の人間からは二人の従魔だと認識されているため華藍一人でも大丈夫だった。
むしろ、人懐っこい華藍にみんなメロメロになり、色んな食べ物をあげてりしていた。華藍も嬉しそうにそれを食べるので、なお貢ぎ物が増え続けていた。
「キュ~!」
だが、二人がいなくなり、寂しく無いわけではないのだ。
二人と出会った頃、華藍はワイバーンの卵のフリをしていた。それには訳がある。
華藍は“終焉の深森”ほどではないが、かなり秘境で生まれた。しかし、周りのスライスたちとは違い、華藍は特殊個体だったため、群れからは仲間はずれにされた。
その後森の中をさ迷い、色々な魔物と出会うたび、その魔物に擬態し、仲間に入ろうとするが、どんなに姿形が同じであろうと、余所者の魔物を受け入れる群れなどなく、華藍は一人だった。
そこで、華藍は卵から擬態し続け家族になれば、受け入れられるのではと考え、調度産卵期に入っていたワイバーンの巣に紛れ込み生まれた卵の中に混ざり混んでいたのだ。
しかし、ワイバーンの卵を狙う冒険者達によって、人里へと来てしまった。華藍は混乱した。袋の中で逃げるべきかどうか迷っていた。
そこへ、突如大きな力の気配を感じ、どうすることもできず、怯えていた。どうかその大いなる存在が自分に気付かぬようにと願いながら。
十夜が華藍を見逃すはずもなく、擬態を見破られてしまい、華藍は生きた心地がしなかった。
しかし、十夜は「役に立ちそうだから従魔になるなら生かす」と言った。華藍は秒で服従した。
そうして、十夜達の従魔となったが、華藍はついてきて正解だと自分を誉めたくなった。
美味しいご飯、名前をつけてくれ、それを呼んでくれる存在がいる。優しくされ、誉められ、可愛がられる。今まで得られなかったものが全てあった。
「キュー!」
十夜達が出てくるまで大人しくお留守番をすることにした華藍は、今日も街の人間達から、可愛がられるのだった。
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