英雄は愛しい女神に跪く
交渉
優理の提案は至極簡単だ。
『俺達を囮に依頼するなら、完遂してやるから獲物をよこせ』
と解釈できる。
情報収集を終えたと言うことは、この“国”のではなく、この“世界”のという意味だ。
俺はこの世界に降りたってすぐ、スキルを確認した後、最初にしたのは『創造』スキルでどこまで作れるかの実験だ。
エレルが見せてくれたステータスの詳細には、『素材と魔力さえあればイメージ次第で何でも作れる』とあった。なら、いったい何処までが含まれるのか気になった。
検証した結果、イメージさえ完璧であれば本当に“何でも”だった。
そこで、最初に作ったのは、地球には今やありふれたもの、文明の利器『スマートフォン』だ。勿論電波などはないので、誰とも連絡はとれる筈がないのだが、そこで活躍したのが魔法とスキルだ。
だが、作った後で気がついた。
念話スキルというスマートフォンより便利なものがあるのだから、要らなくね?と。
だから、スマートフォンを廃棄にしないため、次に作ってみたのが『衛星』だ。いきなり規模が違くないか?と、思う奴もいるだろが、そんなことは関係ない。結果、出来たものは出来たのだから。
ロケットで飛ばすなどしない。優理に頼んでテレポーテーションで宇宙空間に幾つか軌道にのせた。
スマートフォンに衛星からの情報がくるわくるわ。おかげでこの世界の大きさや大陸の場所、エレルが頼んでいたダンジョンのある島も見つけた。
最初の話に戻るが、この衛星に面白半分で魔法や機能を付与しておいたおかげで、そう時間もかからず、全世界の情報がスマートフォンに集約された。
それを精査して時間がかかっただけだ。
なので伯爵が手こずっている獲物のことなど初めから知っていた。そう、盗賊だ。このカザリアは冒険者の街。つまり冒険者の狩ったものや採取したものがあり、そこには商人だって集まってくる。
それを狙った悪質な盗賊団が現れた。
最初はそこまででもなく、冒険者も多いので、被害は少なく直ぐに対処ができた。
しかし、いつの間にか盗賊団は規模が大きくなっていて、今や冒険者の1パーティー程では対処ができず、討伐隊を組まなければならないほどになっていた。
と言うのが伯爵の得た情報だ。
しかし、俺達は何故盗賊団が急に力をつけたのかまで知っている。別に俺達に害を成すわけでもないので放っておいただけだ。
盗賊の情報に、護衛の話や、伯爵家にいた身なりの良い戦闘慣れした男、いつもの冒険者が街に居ないという情報から推理すれば、頭の良い俺達なら言わずともわかる。
伯爵達は俺達を雇う。勿論大きな獲物はちまちま商人の馬車を襲うよりも、伯爵を拐い金を出させた方が手っ取り早いと考えるだろう。
それを逆手にとり、伯爵はいつもの手練れの冒険者を雇っていないと思わせるために執事などに紛れ込ませ、代わりの囮の冒険者に俺達を指名した。と言うのが、今回の話の裏だ。
だが、それに気付いた俺達は逆に交渉した。
護衛に対しての報酬は伯爵家なのでそこそこあるだろうが、それよりもその獲物が貯えているであろう物のほうが多い。
それを根こそぎ頂く。
「それは、どういう意味でいっているのか分かってるのかい?」
「はい、それが何か?」
「……。」
「伯爵様!こんな冒険者雇わずとも、もっと別の者を雇いましょう!」
「いいのか?それで」
今まで口を閉じていた俺が、話しかけたので、護衛の男はこちらを睨み付けた。
「どういう意味だ貴様!」
「俺達は冒険者だ。報酬があるなら仕事を引き受けてやる。できない仕事はしない。この意味がわかるか?」
「貴様らがあの盗賊団を捕らえられるとでも?思い上がるなよ!」
はい、馬鹿決定だ。
伯爵はまだ、この話を一言も肯定していない。こいつは独断で情報を漏らしたことになる。
「別にいいんだぜ?俺達が先に貰っても」
「なに?」
「俺達は別にあんたらに義理立てしてやる必要はないんだ。せっかく良い話を聞いたんだからな」
「!貴様ッ!!」
俺の言った意味を理解したようだ。
別に伯爵に是非を問う必要はない。俺達が勝手に狩っても問題はない。
何しろ盗賊は害悪だ。何処のどいつが狩っても何も問題はなく、むしろこの世界では推奨されている。
その狩ったものの実入りが誰のもになるのかが問題なだけだ。勿論、盗賊は捕縛することが望ましいができないなら正当防衛が許されている。この世界で初めてあった冒険者に最初に教えてもらったことだ。
そして、盗賊の持ち物は討伐した者の物になる。これも常識だ。
つまり、俺達が勝手に狩っても、盗賊の持ち物は俺達の物になる。こうやってわざわざ伯爵に交渉してやる必要もないのだ。
「リーク。いい加減にしろ。……私を相手に交渉かい?」
「そう聞こえなかったか?」
「……。」
「正直に言おう。確かに私達は君たちを囮にしようとしたよ。あの盗賊団にはほとほと困っていてね。だけど君たちが盗賊団を壊滅させられるという保証は何処にもないだろう?」
「なるほど。確かにフェアじゃないな。だが、そんなことは関係ない。交渉する気がないなら俺達は勝手に殺るだけだ」
伯爵は俺の言葉を聞き、じっとこちらをみた。そしてなにかを決断したように話を始めた。
「わかった、君たちに依頼をだそう。その代わり、盗賊団の持ち物についてはこちらに4割譲ってほしい」
「2割だ」
「3割半」
「2割半だ」
「3割」
「……いいだろう、それで手を打ってやる」
「交渉成立だね」
伯爵はにっこりと笑って俺に向かって手を差し出した。
俺は手を見てフンと鼻で笑って返すと、護衛の男はまた突っ掛かってきたので適当に無視した。
後は今後の予定を決めて話は終了した。
「あぁ、それと…私は気にしないけど、他の貴族はその言葉使いをやめた方がいい。不敬罪で切り捨てる奴もいるからね」
「出来るもんならやってみろ」
「……ふふふ、君には必要ない警告だったかな」
「……フン、そろそろ帰るぞ優理」
「うん!お邪魔しました!」
「君とは一度ちゃんと腹を割って話がしたいよ。では一月後よろしくね」
「……そのうちな」
俺達は伯爵家を後にした。
「伯爵様!何故あのような冒険者を雇ったのです!私は反対です!」
「リーク、いい加減にしろと言った筈だ。」
「ですが!」
十夜と優理が去っていった後の伯爵家では、護衛隊の隊長リーク・ベイツが伯爵に詰め寄っていた。
「今回の作戦は絶対成功させなければならない。私の領地でこれ以上盗賊を野放しをすることはできない。恐らく、今回の盗賊騒ぎには裏に何者かがいる。」
「……はい」
「恐らく、貴族派の工作だろ。今回のルマニアン王国建国誕生祭は特別だからね」
「おっしゃる通りです」
この国には今、国王を支持する王権派と貴族が確立した地位を持ち政権を操りたい貴族派とそのどちらでもない中立派に別れている。
ラクス・クーベルトは王権派の筆頭貴族なのた。
今、王を排し、皇太子を王に祭り上げて政権を操りたい貴族派が急に台頭してきている。既に帝国と手を組んだ貴族もいるという情報もある。
なので、今回のルマニアン王国建国誕生祭に必ず何か起こるだろうと予測している。その前に王権派の貴族を少しでも王都に近づけないようにするための盗賊団なのだろう。
「そのために、今回の盗賊団を早急に対処して王都に行かなければならない。」
「はい。しかし……あのような粗悪な冒険者で大丈夫なのですか?」
「隠れたカールインに気付いたんだよ?」
「たまたまでは?あのくらい……」
「リーク、カールインは優秀なうちの隠密だよ。それに、うちの冒険者とオクベルの鑑定を弾いた。そうだね?」
「はい、旦那様」
オクベルと呼ばれた執事は、ラクスの問いに答えた。
「私の鑑定レベルは宮廷鑑定士と同等の王級。つまり彼は私の鑑定レベル以上の隠蔽系のスキルをお持ちになっていると思われます。睨まれたとき、カールインと同じように倒れそうになりましたよ」
「まさか!」
勿論、隠密であるカールインも上級レベルの鑑定持ちである。ソレ以上のオクベルの鑑定を弾いたという事実は大きい。
「つまり彼は帝級レベル以上の隠蔽持ち。それだけでも雇う価値はある。」
「……わかりました。」
「リーク、オクベル、カールイン、おそらく彼とは長い付き合いになるだろね。よろしく頼むよ」
「「「はい!」」」
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