英雄は愛しい女神に跪く
初仕事は定番のアレ
「……ないな」
「……ないね 」
お昼頃、ギルドにやって来た俺達。
依頼が貼り出されているクエストボードの前で、いい仕事がないか見ていた。しかし、殆ど依頼はなく、閑古鳥が鳴いている状態だ。
「おはようございます。トーヤ様、ユーリ様」
「あんたは…」
「受付嬢しているリーヤと申します。昨日はどうも登録ありがとうございます」
クエストボードの前で立ち尽くす俺達に話しかけてきたのは、昨日俺達の登録をしてくれた受付嬢だった。
「いつもこんな感じなのか?」
「えぇ、皆様、朝早くにギルドで依頼を受けて、夕方には帰ってきますから…この時間になると、報酬のいい依頼はほとんどありませんね」
どうやら理由は、夜になると魔物が活発に動くため、夜に都市の外を出歩くことは危険だと暗黙の了解らしい。
なので冒険者も、朝早くにギルドで依頼を受けて、夕方には帰ってこれるものがベスト。日を跨ぐ場合は、街や村に宿泊して次の日に帰ってくるなどして、夜は動かないのが当たり前なのだそうだ。
それに、ここは冒険者の街。冒険者に憧れてやってくる者も多く、新人も多い。なので、このルーティンを知っているものは、皆朝に来る。なので新人用の依頼も、この時間になると良いものは少ないなだとか。
「なるほどな」
「もうちょっと早くこればよかったねぇ」
「まぁ、いい。俺達の目的は別に金じゃないしな。これを受けるか」
そう言って俺が取ったのは、『ゴブリン退治』と書かれた依頼書。
「こちらですか?」
「ランクはあってるだろ?」
「えぇ、そうですけど…。ゴブリン退治は常に必ずある依頼です。こちらとしては大変ありがたいですが…」
「報酬か?構わない。さっさと受領してくれ」
「は、はい!」
ゴブリンはあっちの世界で言うゴキ○リのような存在だ。一匹見たら20匹はいると思えと言われるような存在。
繁殖力が高く、知能は人間の子供並み。しかし、バカだが間抜けではない。徒党を組み、村を作ったりもする。女を拐い、犯し、繁殖させる。質の悪い小悪鬼だ。
とれる素材もなく、駆除に手間がかかる。新人は旨味がなく、ベテランになれば高ランクの報酬のいい依頼があるため、受けることもなくなる。
しかも、小さな村では依頼金も少なく、報酬も割りが合わない。なので常に1、2枚はクエストボードに滞留している。
この依頼書に書かれた村は、このカザリアから乗り合い馬車で2~3時間の距離。俺達ならこれから行って帰ってこれる距離だ。
「お二人で向かわれるのですか?」
「何か問題でもあるのか?」
「い、いえ……お気をつけて行ってらっしゃいませ」
「あぁ」
俺達は依頼書に書かれた村に向けて移動した。
乗り合い馬車に揺られて3時間、ようやく目的の村にやって来た。
「なんかみんな元気なさそうだね」
「仕方ないだろ、ゴブリンの被害ってのは、都市の連中には大したこと無くても、こう言う小さい村にとったら一大事だ。」
「…価値観の相違なんだね」
「そう言うことだ」
村のなかは、かなり荒れていた。どうやら俺達の受領した依頼はクエストボードに塩漬けされた依頼だったらしい。
こう言う依頼はさっさと対処しないと被害は甚大だ。そう言うところを理解してない当たり、都市と村との溝は深まるばかりだろ。
「すみませーん。村長さんいらっしゃいますかー?」
「あの、どちら様で?」
優理の声に反応して出てきたのは、村の青年だった。
「依頼を受けて来た冒険者だ。さっそくで悪いが状況を教えてくれ」
「ぼ、冒険者様!おぉ、やっと来てくださったったのですね!」
「お前が村長か?」
「いえ…私は村長代理です。情けない話、村長は自分達の家族だけつれて逃げ出したのです」
「…なるほど」
「酷い人だね」
村長にしては若すぎるとは思ったが、どうやら村長代理という立場らしい。ゴブリンの被害に耐えかねて、元々の村長は自分達の家族だけ連れて村を逃げ出したらしい。
酷いちゃ酷い話だが、この世界においては地球よりも命が軽い。力がなければ淘汰される。ある意味、自分の大切なものだけ守る手段としては責められない。
青年はカルトと名乗った。状況は最悪。長い間放置されていたせいで毎日のようにゴブリンに村が荒らされ、酷いときには女も数人連れ去られたらしい。
「ゴブリンの村が出来てても不思議じゃねぇな」
「そうみたい。かなり多いよ?これ」
優理には完全感知がある。その前では隠密も意味をなさない。優理に位置と方角を聞くと、北東に24キロだといった。
「あ、あの……」
「報酬は書いてある通りで構わない。別に報酬目当てで来た訳じゃないからな。今日中に方をつける……にあたって、北東の森の20キロあたりで魔法を使っても大丈夫か?」
「え、えぇ、そこら辺は村人も行きません。特に焼失しない限り大丈夫ですけど……」
「了解した」
俺達は今日中にカザリアに帰るためにも依頼を早急に終わらせなければならない。
「今日は村人には村から出ないよう指示しておいてくれ。」
「わ、分かりました!」
俺は優理と一緒に森へと入っていった。
優理の身体強化にあわせて森を疾走する。それだけでも充分に早いだろう。半分の10キロほどを10分足らずで進む。
「優理、どうだ?」
「うん、弱いのが1527、中ぐらいが239、統率してるっぽいのが2匹、合計で1768匹だね」
流石、正確な感知だ。それにしても約1800匹。増えに増えたものだ。もしかすると統率している魔物が進化した変異種かもしれない。
「強いか?」
「私と十夜なら問題ないよ」
「ならさっさと終わらせるか」
「うん!」
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