英雄は愛しい女神に跪く
街道のテンプレ
「こっちだな」
「この先がルマニアン王国なの?」
「あぁ、ルマニアン王国のなかでも冒険者が特に集まる大きな街。カザリアの街だ。」
ようやく森を抜けて平原を歩いていると、見えてきたのは大きな外壁。
ルマニアン王国でも冒険者の街と言われるほどの大きな街、カザリア。俺達のいた“終焉の深森”にも近く、他にも資源の豊富な森や鉱山がある。
“終焉の深森”は他の場所よりも魔物のレベルが高く、危険な場所として有名らしい。それ故、迷い出てくる魔獣や魔物を討伐するための最前線の街がカザリアなのだ。
それに“終焉の深森”から漏れ出る魔力のおかげで、豊富な鉱山や薬草がとれる。だからカザリアは冒険者が多く、冒険者の街とも言われている由縁だ。
「そうなんだ」
「あぁ、カザリアには冒険者ギルドの本部がある。そこで冒険者登録するぞ」
「うん!楽しみだねぇ」
優理は楽しそうにしている。
これほど穏やかな時間を過ごせるのは久しぶりだ。地球にいたころとは比べ物にもならない。だからこれからはこの穏やかな時間を力ずくで守る。
それが俺のやりたいことだ。
「んー?十夜ー!前方に集団がいるよ?」
「敵か?」
「んーと…、なんか馬車が襲われてるみたい。距離は3.4、数は19、襲われてる馬車の方が7だね。非戦闘員入れると、馬車の方が劣勢だよ」
優理の完全感知は索敵スキルの最上位。優理の完全感知の感知範囲は半径100キロ。人数や敵か味方かまでわかる。俺の隠密でも優理の前じゃ、感知されてしまうほどなのだから。
それよりも、森を出てきてそうそうこんな事態に遭遇するなんてどんな確率だろう。
「なんつー異世界テンプレ」
「どうする?助ける?」
「…優理はどうしたい?」
俺は優理の頭の上に手を乗せて、優しく問う。俺のなかでの優先順位は優理以外に居ないのだから。優理のやりたいことを叶えたいのだ。
「…わかってるくせに」
「意地悪」と照れながら呟く優理。
長年一緒にいるのだから、少し考えれば分かる。優理は誰よりも優しいから。
「助けたいの。いい?」
「あぁ、優理が望むなら」
そして俺は優理を抱えて走り出した。
走り出して数秒で、優理の言っていた集団を目視する。
それなりに大きな馬車を囲っている盗賊らしき集団と、冒険者風の護衛。応戦しているが、多勢に無勢で押されている。これで怪我人でも出ようものなら戦線は崩壊する。
「優理、少しペースをあげるぞ。しっかり捕まってろ!」
「うん!」
優理がしっかりと俺に抱きついたのを確認して、身体強化のレベルを上げた。
陸上選手もビックリの速さで、あの距離を5分足らずで走り抜け、馬車の屋根に飛び乗った。
「な、何者だ!!」
「質問だ。お前ら冒険者か?」
「質問してるのはこっちだ!」
「おい!今はやめとけ!」
突然現れた俺達に全員が警戒した。しかし全くお構いなしに質問した俺に優理は、十夜らしいと苦笑いした。
護衛の一人が苛立ちを顕にしたが、リーダーらしき男がそれを諌めた。
「で?どうなんだ」
「そうだ、冒険者だ。この馬車を護衛している!」
「そっちは盗賊か?」
「状況を見れば分かるだろ?!お前たちは何者だ!」
戦っているのに悠長に質問する俺に、リーダーも苛立ちを顕にした。
「と、十夜。煽っちゃダメでしょ!」
「…優理、ここで待ってろ。」
「うん。気を付けてね」
優理を馬車の屋根に置いて、俺は飛び降りた。双方に緊張が走る。
「盗賊ってのは、殺しても罪になるのか?」
「そんなことも知らないのか?!盗賊は殺しても罪にはならない。捕縛が望ましいが、出来ない場合は、正当防衛が許されている!」
「そうか」
聞きたい情報は聞けた。エレルに貰った本にも載っていたが、こう言うことは現地人との情報の擦り合わせはしておいて損はない。
「怪我したやつは退いてろ。邪魔だ。」
腰にある刀に手をかける。
“終焉の深森”で倒した強力な魔物の牙と魔力を帯びた鉱石から、俺の創造スキルで造り上げた刀『紅黒』。基本は柄も刀身も黒だが、魔力を纏わせると刀身が紅く光ことからその名をつけた。
刀を握り、構え、小さく息を吐く。地球に居たときも、武術は一通り覚えている。そのなかでも、刀を扱う剣術に関しては、頭ひとつ抜けていた。そのなかでも俺が最も得意とするのは、『居合』。
「一閃」
放たれた刀身を目で追えるものはいなかった。故に刀を仕舞ったカチャンという音がしただけだった。
「あ?ギャハハハハ!応援かと思ったらとんだ腰抜けヤローだな!敵わないと見て剣を仕舞いやがったぜ!」
「良く喋る死体だな」
「あ?何言って……え?」
「そのままだ。」
斬られたことにすら気付かないとは。
男は最後まで斬られたことに気付かぬまま死んだ。
「す、すごい……」
「あ、あぁ…」
俺の居合で、半数の敵が死んだ。初めて人間を斬ったが、魔物を斬ったときと変わらない。それほど感情が動くものではなかった。
ちらりと優理を伺うが、優理も大丈夫そうだ。
「う、わぁぁぁぁあああ!!」
「逃がすか!『拘束』」
相手の動きを封じる拘束魔法で動きを止め、盗賊のリーダーを残して残りの敵を斬り伏せた。
「こんなものか」
「十夜かっこいー!」
「ったりめーだ」
馬車の上から優理がにこやかに応援していた。俺は戦闘が終わるとすぐに優理を馬車の上から下ろしてやった。
「すまない。助かった…君たちはいったい…」
「俺達は…旅人のようなもんだ。カザリアを目指して歩いてたら、お前らを見つけたんだ。」
「カザリアか。もしかして、冒険者になるのか?」
「そのつもりだ」
「その強さなら、きっと大丈夫だろう。俺はサイ。『鷹の爪』のリーダーだ。」
「十夜だ。」
「優理です。よろしくお願いします!」
「こっちは俺の仲間の、斥候のバン、盾役のカインズ、魔導師のロムだ。」
「よろしくな」
それぞれ挨拶を済ませると、馬車から人が降りてきた。
「この度は助けていただいてありがとうございました。私はアレン。カザリアにて、ローリア商店を営む商人です。」
「十夜だ。なるほど、盗賊は馬車の荷を狙っていたのか」
「えぇ、おかげでこうして荷も命も無事でした。本当にありがとうございます。」
「礼はいい。こっちも打算が無いわけではないからな」
「と、言いますと?」
「これを買い取ってくれ。実は路銀が心許なくてな。街に入るときの金が足りないんだ。」
「こ、これは…!!そんなことで良いのでしたらぜひとも!」
エレルが本と共にくれたカバン型のアイテムボックスから“終焉の深森”で狩った魔物の素材の余りを出した。
「すげぇ…Bランクモンスター、レッドグリズリーの素材だ…」
「あぁ、ホントだ…」
『鷹の爪』の連中は、素材を見ながら驚嘆していた。
「こちらが買い取り金78万6800ニアンです。ご確認下さい。」
この世界の貨幣は上から白金貨、大金貨、金貨、大銀貨、銀貨、大銅貨、銅貨とある。
銅貨一枚=100ニアン
大銅貨一枚=1000ニアン
銀貨一枚=1万ニアン
大銀貨一枚=10万ニアン
金貨一枚=100万ニアン
大金貨一枚=1千万ニアン
白金貨一枚=1億ニアン
銅貨一枚でリンゴのような果実を一つ買えるくらいの価値なので、日本とそれほど変わらないので楽だ。
「すまないな」
「いえいえ、こちらもBランクモンスターの素材を仕入れることが出来てとても助かりましたから。もしよろしければトーヤさん、カザリアまでご一緒にどうですか?」
「じゃあ、頼む。」
「よろしくお願いします!」
こうして街までの足掛かりを得た俺達は、アレンと『鷹の爪』のメンバー達と共に冒険者の街 カザリアへと向かった。
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