英雄は愛しい女神に跪く

シーチキンたいし

プロローグ




夜の闇がおおい、月明かりだけが照らす寂れた教会。そこに身を寄せるように二人は抱き合った。

「ねぇ、十夜トウヤ…私達死ぬのかな?」

優理ユウリ…そうだな。でも二人なら怖くないな」

「うん」

この世界は、俺達には生きずらかった。

所謂、『天才』『超人』などと言われる才能をもって生まれた俺と優理。出来すぎる才能など、この民主主義と表した多数派のなかでは、生きずらいことこの上なかった。

出来すぎてもダメ。

出来なさすぎてもダメ。

一体何の基準で決められているのか謎だ。俺達は才能があるがゆえに、世間から、人間から、時に恐れられたり、敬われたり、罵られたり、散々な人生だった。

二人でなら生きられるのではないかと、逃げ出した。だけど逃げた先でも変わらなかった。

そんな人生も、ようやく終わる。

「私…生まれ変わっても十夜と一緒がいいな」

「俺も…優理と一緒なら悪くない」

「ふふっ、好きだよ十夜」

「あぁ、愛してる優理」



俺は優理の体を抱き締めて、意識を手放した。



























「やぁ!」

何故か目覚めて・・・・、目の前に一般的に精悍な顔があったので、俺は反射的に鷲掴んでいた。

「いたっ!いでででで!ちょっ!待ってストップ!ヘルプ!」

「誰だお前」

「ちょっ!十夜!可哀想だよ!離してあげて!」

「……優理?」

ついさっき、優理と最期・・の別れをしたはずだ。なのに何故か愛しい女をもう一度見ることが出来ている。

よくよく回りを確認すると、そこはさっきまでいた廃教会ではなく、何処までも白く何もない空間だった。

「ここは……?」

「君…神様にたいして酷くないかい?顔面鷲掴みって…」

「神?お前が?」

精悍な顔立ちの女。長い金髪に古代ローマを思わせるような薄い服。よくみれば、宙に浮いていた。

「そうなんだって。私もさっき起きたばっかりで、まだ詳しいことは聞いてないけど…」

「…なるほど、で?神が何のようだ?」

「…ほんと君たちのスペックって神様も驚きだよ。人間か疑っちゃうレベルで!普通こういう時は混乱したりするよねー?」

「お前、俺達をバカにするために呼び出したのか?」

「いや、そうじゃないけど…」

「だったら用件だけ言え」

「神様にたいしてよくそれだけ大きな態度とれるね。逆に尊敬するよ」

神様だと言う目の前の存在は、そう言って苦笑いした。

「まぁ、本題は君たちを勧誘に来たんだ」

「勧誘?」


「君たち、僕の世界で生きてみないかい?」

神はそう言うと、俺達に詳細な説明した。

このふざけた神はエレクシアルという世界を創った創造神エレルと言う名で、その世界を管理しているらしい。創造神としては新米で、エレクシアルも創造されて2億年ほどしか経っていないらしい。

そんなエレクシアルには魔法と言う概念があり、その世界に生きている者なら誰でも魔法を使うことが出来る。人族、亜人、エルフ、ドワーフ、竜族、魔族と多種多様な種族が存在し、それぞれの国もあり、様々な文化が存在する。

この世界に転生して欲しいとエレルは言った。

「何故、俺達なんだ?」

「そりゃ君たちの才能はとても魅力的だからね。もちろん僕からも祝福を送るけど、やっぱり元々のスペックは高いに越したことはない。魔物もいるからね。

平和な今の地球から来てもらうんだし、それくらいのサービスはあるけど、やっぱり才能も必要だろ?」

「…異世界に行かせて何をさせたい?あれか?魔王を倒してくれとかそんな馬鹿げた理由か?」

「いや、僕の世界に魔族も魔王もいるけど、それは魔物の王ってことではなくて、魔族の王で魔王だから、邪悪な者じゃないよ」

「じゃあ、どうして私達なの?」

「才能もそうなんだけど、君たちのことは地球の神からも頼まれてるんだよねー」

「地球の神?」

「うん、僕と同じ創造神。つまり君たちの生まれた地球という世界を造って、それを管理する神だよ。実は君たちは、君たちの運命を壊した神のせいで、魂の状態で世界の狭間をさ迷っていたんだ」

「どういうこと…?」

エレル曰く、創造神の下には世界を詳細に管理する神が何人もいて、そのうちの一人が俺と優理の運命に干渉してしまった結果、本来なら輪廻転生するはずの俺達の魂は、世界の狭間と呼ばれる世界と世界の間の迷路のような空間を漂っていたらしい。

それを知った地球の神は、お詫びの意味を込めて、地球ではなく、別の世界の輪廻に乗せることにした。

そこで俺達の魂を託されたのがエレルだったと言うわけだ。

「で、ついでに僕が困ってたことを解決してくれたら嬉しいなぁって!」

「ふーん」

「反応薄っ!怒ったりしないの?君たちの運命をねじ曲げた神とかにさ」

「怒っても仕方ないだろ。俺達はもう死んじまってるんだから」

「……そんなもの?」

「まぁ、もし俺達の前に現れたらボッコボコにするけどな」

「…君だけは怒らせたくないよ」

エレルは俺の顔を見てドン引いていた。
俺のモットーは、やられたら倍にしてやり返すだからな。目の前に現れるようなら容赦なくやり返す。


「まぁ、それは置いといて……どお?転生しない?」

「その前に、さっき『困ってたことを解決してくれたら嬉しい』とか言ってたな。説明しろ」

「えっとねぇ……実は、僕の世界に異物が紛れ込んじゃったんだー」

「異物?」

「うん、僕の世界でも地球でもない別の世界の異物。端的に言うならダンジョンってやつさ」

「ダンジョン?エレクシアルにはないのか?」

「うん、なかったよ。だけど、突然わいてきてね。どうやら僕の部下が間違って世界に穴を開けちゃって、そこからダンジョンが落ちてきたんだ。

まぁ、落ちた場所は誰もいない未開の島でね、誰の物でもないし人族や亜人も住んでないから、襲われることはないんだけど…放っておくと魔物が溢れてしまうみたいなんだ。しかも、僕の世界にきたことで魔物の強さも桁違いでね、君たちにそのダンジョンの封印をお願いしたいんだ!」

どいつもこいつも、神の部下とは無能しかいないのかと問いたくなった。

「神なんだろ?自分で何とか出来ないのか?」

「それが出来たら苦労しないよー」

エレルは確かにエレクシアルの創造神だが、神のなかにも守らないといけないルールと言うものが存在するらしい。

創造神が直接、自身の創造した世界で力を振るってはいけない。このルールのせいで直接エレルがどうにかすることは出来ないそうだ。

「未開の島…か。」

「十夜?」

俺は暫し考えて、結論をだした。

「おい、ダンジョンをどうにかしたら、その島…もらっていいのか?」

「え?島?全然いいよ?」

「よし、決まりだ。転生してやる」

「ほんと!?」

俺の返答に心底嬉しそうにしているエレル。そんなエレルを冷めた目で見ていると、服の裾を引かれた。優理は不安そうに俺に触れた。

「…十夜。転生するの?」

「あぁ、一緒に行こう」

「でも…」

「聞いた限り、エレクシアルという世界は弱肉強食だろう。強ければ誰も文句は言わない。強くなって、俺達の平穏を、今度こそ俺達の手で手に入れよう」

「私達の手で……うん。私、十夜とずっと一緒がいい。強くなりたい!」

地球では手に入れることのできなかった『二人だけの平穏』を今度こそ手に入れてみせる。

「話は決まったかい?」

「あぁ、俺達はエレクシアルに転生する。」




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