異世界のスキル屋さん~スキルなんでも貸し出します~
第5話 問題
スキル屋の名前は瞬く間に街に広がった。
まず最初に店を発見したグレンがその仲間に広める。
その仲間たちがクエストをクリアしたことから注目が集まり、そこからはまさにネズミ算式に知っている人間が増えていった。
初めはスキル屋の存在に困惑していた人々も今ではすっかりその存在を認知していた。
人とは慣れる生き物。
いまだに信じようとしない人間も少数ではあるが存在する一方で、大多数の人間がスキルを貸し出すリクトという人間を認めていた。
今も街の外にはそんな大勢の冒険者たちによる行列が出来ている。
「リクト、ちょっといいか?」
「グレンさん、いらっしゃい。どうしました?」
営業時間は基本的には朝~夜まで。
休憩が昼と夜に2回分けてあるため、今は1時間の食事時間だ。
しかし、それでも外にはスキルを借りようと冒険者たちが休憩の終わりをまだかまだかと待っていた。
そんな少しの休憩時間にのんびりしていたリクトに話しかける冒険者がいた。
彼の名前はグレン。
この店の最初の客であり、今ではお得意様でリクトともよく話す仲になっている男だった。
「ちょっとよくない噂を聞いたから教えとこうと思ってな」
「良くない噂?」
笑みを浮かべたまま器用に首を傾げるリクト。
そんなリクトにグレンは耳打ちした。
「ギルドの上層部がこのスキル屋のことを問題視してるらしい」
「あー……やっぱりですか」
「やっぱりって……分かってたのか?」
グレンが聞くとリクトは頷く。
「こんなヘンテコな店ですからね、何かしらの問題は遅かれ早かれ起きると思ってました。あ、でも詳しくは全く分からないんで教えてください」
相変わらずマイペースなリクトに妙な頼もしさのようなものを覚えるグレン。
彼としてもこの店はありがたく思っているのだ。
なくなったら困るし、引退を考えていた自分を助けてくれた店に恩義も感じている。
だから出来る限りは力になりたいと思っていた。
「まずこの店はスキルを貸してる、するとどうなる?」
「んー……クエストをクリアする人が増える、とか?」
「そうだ。クエストをクリアする人間が増えてギルドは混乱状態だ。ギルドマスターも動いたらしい」
ふむふむ、と頷きを返すリクト。
理解しているのか不安になるグレンだったが構わずに続けた。
「結果この街のクエスト達成率は大幅に上がったことになる」
「ん? それはいいことじゃないんですか?」
リクトは何が悪いのかと不思議がる。
「難しいクエストはそうだな、けど簡単なクエストをやる人間が激減したらしい。それに関して街から苦情が入ってる」
「ああー……」
「極めつけは冒険者たちのランクが上がりまくってるらしい。冒険者のランク情報は他の街でも共有されるからな。ほかの街で高ランクだと言ってクエストを受けてそこの街のクエストは失敗が増えてるとか」
なるほど……と、リクトは困った顔を見せた。
確かに言われてみれば考えることだったと反省する。
冒険者のランクはその組織への信用が大きく関わっている。
それがアテにならないとなればギルドが問題視するのは当然と言えた。
「それでギルドマスターがここに来るというわけですか」
「……ん? 知ってたのか?」
「もう来てますからね」
「ああ……って、うおおぉお!?」
隣から人の気配が現れたことに驚きグレンはひっくり返った。
そこにいたのは一人の少女だった。
歳は10代後半に見えるのだがその落ち着きぶりは一種の達観さえも感じさせる。
耳が尖っていることからエルフという種族だと分かる。
見た目麗しい美少女ではあったが、その眼光は鋭くリクトを油断なく見据えていた。
「あなたがギルドマスターさんですか?」
「はい、ソフィアと言います、以後お見知りおきを」
もっとも―――ソフィアは鋭い剣戟にも似た殺気を漲らせてリクトに言った。
「あなたの対応によっては以後なんてものはないかもしれませんけどね」
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