crew to o'linthart (VRMMO作品)

ノベルバユーザー290341

7話. クロノス学園 / 003. CREW



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「そうだけど、どうして?」

「あの……」

「ん?どうしたの?」

「あっ、いえ…すみません。もうチャイムが鳴るので教室に急ぎましょう 」


結局、俺の質問には答えなかった。階段を上っていく彼女に引っ張られるように、俺は柄にも無く急いで階段を上った。

教室に着いて、質問の答えがすぐに分かった。

というか、なんだろう・・・質問した事に少々悔いを覚え始めたくらいだ。端本さんがどうして俺がプログラマーやプランナー志望って知っていたのか、答えは簡単だった。

席に座って後ろを振返り、俺の席の二つ後ろの席を見る。俺に小さく手を振り嬉しそうに笑う端本さんが自分の席に座っていた。

苦笑い混じりに手を振り返してから、俺は前を向いた。

なるほど、全然気にしていなかったけど…そういえばゲームクリエイターとプログラマー志望の教室にはCG、キャラデザイナーの子達もいるんだった。
確か三階の教室は映像作成、編集志望。映像プロデューサーに演出科がいるって、最初の説明会で聞いたような聞かなかったような。

これじゃあ、半年間同じ教室で授業を受けてたのに俺は名前はおろか顔すら憶えてないと彼女に言ったようなものだ。


あとで、謝っとくか。



授業開始のチャイムが鳴り、担当講師が教室に入って授業を始める。



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「そのため、ハードウェアの仕組みの知識を一つでも多く知っておいて損ではないということです。それじゃあ、先ほど渡した資料の18ページを・・・っと、チャイムが鳴りましたので、今日はここまでにします。質問のある者は、あとで私の所に来てください。」

最後に解散と付け足すと静まっていた教室が帰り支度や話声で騒がしくなる。

教室の時計は、午後3時45分を指していた。


「藤ヶ谷くん」

「お疲れ」

「はいっ、お疲れ様です!それで…その…B棟に戻るのでしたら…よかったら一緒に」

ためらいながら言う少女がなんだか微笑ましかった。

「ありがとう。それじゃ、戻ろっか」

資料や教材を抱えて、端本さんと一緒にコンピ棟を後にした。いつも一人で帰っていたのでこの状況に少し違和感があったが隣を歩く少女の横顔を見てたらそんな事なんてどうでもいいかと思った。

「どうかしたんですか?」

「なんか、悪かったな。半年も一緒の教室で授業を受けていたのに気づかなくて」

俺がそういうと、再びにこっと笑ってみせてから端本さんが言った。

「私目立たないですし仕方ないですよ?だから気にしないでください」

「改めてよろしく、端本さん」

「はいっ!こちらこそ。こうして誰かと一緒に帰れて嬉しいです  藤ヶ谷くんさえ良ければこれからも一緒に帰ってくれませんか?」

断る理由もなかったので、俺は素直にじゃあ、ぜひと返した。

「結名・・・お迎え・・見つけた・・・」

「うおっ!?びっくりしたー」

びっくりしてる俺を気にもせず、いきなり現れた声の主は端本さんの手を握ると隣にいる俺の方を向きながら警戒する小動物のように「うぅ~っ」と鳴き?始めた。

水色のベストを指定のワイシャツの上に着て、制服のグレーのリボンと黒とグレーのチェックスカート。カチューシャのようにして編込まれたブラウンのショートな髪は、可愛らしくて女の子らしいが……長く垂れた前髪で目が隠されていて表情がよく見えない。


「えっと・・」

う~ぅと鳴き続ける女の子の対応に困り果て、端本さんに助けを求めた。

「お迎えありがとね、ここあ。この人は藤ヶ谷くん。友達だよ」

「結名・・友達?・・・わかった・・藤ヶ谷・・友達・・・・ここあも・・結名の友達」

「そういう事です」


はあぁ、なる・・ほど?



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「ああ、つまり・・えっと、その、うん?」

俺の反応が面白かったのか、端本さんはくすっと笑った。

「東雲ここあちゃんです。すごい子なんですよ?名前聞いた事ありませんか?」

「しののめ?ん~、わからないなあ」

「ん~、わから・・・ない・・・なぁ~ぁ」

俺と同じように肩を竦め、マネをする東雲さん。相変わらず前髪のせいで表情が読めない。なんていうか・・不思議な子だ。

「学年主席で、東雲グループのお嬢様なんですよ! 頭良くてすごく可愛いし、憧れますよね!?」

よね?って、俺は別に可愛くなりたいなんて思っちゃいねーよ!・・・とは言えず。そうだね。とぎこちなく返事をした。というか、前髪で顔もよく見えないし。

「東雲グループかあ、確かにすげえお嬢様だな」

東雲グループはIT企業の大手会社じゃ知らない者はいない、いまの経済のトップを走る会社だ。兄貴から昔そんな話を聞かされていたので名前は脳の片隅に残っている。

「パパ・・・すごぃ・・・だからここあも・・・頑張る」

「偉いねえ、ここあちゃん」

よしよしと、東雲さんの頭を撫でる端本さん。

「お姉さんみたいだね」

仲の良さそうな二人の様子を見て俺はつい最近耳にした言葉を口にしてしまった。

「えっ?」
「あれ?」

端本さんはともかく、表現としてはおかしいが俺も自分の発した言葉に驚いてしまって、聞き返そうとした。

「二人・・・おもしろい・・ここあ・・笑う・・」

本当に笑ってるのか怪しいとこだが、東雲さんには俺達が面白く見えたらしい。端本さんもそうですねとなぜか笑ってしまっている。

「ここで立ち話もなんですし、行きましょうか」

端本さんがそう言うとうん、わかったと東雲さんが呟き端本さんの手を握ったままB棟へと歩き出した。

外はすっかり、部活動に励む生徒達で賑わっていた。



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高等部から徒歩10分ほどで中等部の校門に着いた。帰り途中の生徒達が大勢いる中、みゆは校門のゲート前で健気に俺達を待ってくれていた。

「遅いっ」

繰り返すが健気に待っててくれていた。

「「「すみません」」」

機嫌をそこねてしまっているみゆに謝り、言い訳をしていたら何故か俺が全部悪いという事でジュースを奢らされた。

理不尽だ。

確かに俺のせいだけども



「耀太は今日自分家でか?」

「うん、そうするよ。家に一回帰りたいしな」

「了解。俺達はいまパーヴェルにいるけどどうする?」

「パーヴェルかあ~グスタフ領から近いし行くよ」

グローリア海と呼ばれる海の付近にあるパーヴェル領は3つの異なる地形に囲まれている。昨日立ち寄ったフリストヴォール領に向かう途中の北の廃墟街。多くの商人達で賑わう北東にある港町があり、南には広大なダスト砂漠が存在する。

ダスト砂漠とパーヴェル領の近辺にある領土がソラ(長谷川 耀太)のいるグスタフ領。
領土の面積がパーヴェルの半分も満たない小さな領土だが、志願兵や徴兵、傭兵などのNPCがたくさんいて、プレイヤーと一緒に戦ってくれたりして雇う事ができる。

フリストヴォールとは違い、すぐ近くにあるので合流するなら耀太にパーヴェル領に来てもらったほうが良いだろう。

「そうだね、それじゃあ国境付近の領門集合でいいね?」

了解と応え、家の方向が分かれる耀太とはそこでひとまず分かれた。



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「問題は、どこにするかだよなー」

家路の途中で口にはしなかったが瑛司とまったく同じ事を俺は考えていた。

「場所?」

問いかけるみゆに瑛司が答える

「今日みんなでクルーの設立申請を出そうと思うんだけど、クルーが設立完了したら基地が建てられるんだよ。その場所をどこにしようか迷っててね」

「基地?」

首をさらに傾げるみゆに今度は俺が説明してあげた。

「クルーを設立するとクルーズ・ベースと呼ばれるクルーメンバー専用の施設を建てる権利が貰えるんだよ。まあみんなの家みたいなもんさ」

そうなんだと興味津々のみゆに俺は説明を続けた。

「ベースはホームポイントとして利用できて、ログインする時にそこから何時でもスタート出来て便利なんだ」

今日のようにメンバーが別々の領土にいる場合、集合するには集合場所を決めてそれぞれ歩いて集合場所に向かわないといけない。だがベースがあればログインした時に召還場所として選べるので、メンバーは簡単に集まれるというわけだ

俺達はそのクルーズベースを建てるのに最適な場所を探している

パーヴェル領のような領土に建てれば、東西南北にそれぞれ領があり、動きやすくて便利なのだがフリストヴォール領などの山に囲まれている領土に建ててしまった場合は、領土そのものを出るのにも苦労するのでベースとしてはあまり最適でない。

良く立ち寄る領土にすれば話が早いが、残念ながらクヲーレはその広大さからプレイヤー達が多く利用する主要都市は次から次へと移動してしまう。
現在は冒険者達の最前線とも言えるパーヴェル領が一番プレイヤーで賑わっているが、半年もすればきっと次の大都市が見つかり、パーヴェル領内も段々と人が減り寂しくなるだろう。

そういう理由もあって、俺達は中々設立する領を決める事が出来ていない



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「昨日読んだ雑誌には、ダスト砂漠で2日間立て篭もってた欧州のプレイヤーが領門みたいな人工物を見つけたらしいんだよなあ」

「その記事俺も読んだわ、確か建造物の近くまで行こうとしたところで大型モンスターにタゲされて運悪くPOTが切れてしまってたから辿り着けなかったんだよな?」

「そうだね、もう多くのプレイヤーがこの噂を聞きつけてるだろうから今頃ダスト砂漠はプレイヤーだらけだろうね」

瑛司の言うとおりだと思う。もしかしたらここ数週間で新しい領土が見つかるかもしれない。

でも、ダスト砂漠かあ・・・

本物の熱ほどではないが、クヲーレ内でも暑さは感じる事が出来る。ダスト砂漠の温度は体感的には25~30度だろう。だが本物と見違えようがない見事のグラフィックのせいで視覚から入る肌をキリキリと焼くような太陽、視界いっぱいに広がる砂の山のせいで、精神的疲れてしまう。

砂漠で探索は勘弁願いたい。

装備も暑さ対策のためにいろいろと変えなくちゃいけないし

「最近肌寒くなってきたよね」

嫌な予感がする

「何が言いたい?」

「いやあ、ね?砂漠に行けば暖かいじゃん?」

「いや、暑いって絶対。後悔するぞお前。な?みゆ?」

「みんなが行くなら、かまわないよ?」

「ほら!姫もそう言ってるし俺達も砂漠に行こうぜ!クルー設立はとりあえず保留にしてもらってさ」

クルー設立の保留には異論は無いが、だからって砂漠行くのは正直気が乗らない。やっと夏の残暑も終わりかけて涼しくなってきたのに何でわざわざ暑いところに行かないといけないんだ?

「待て!こうしよう。耀太と合流して、美麗が来てから多数決でどうするかを決める」

「ん~、分かった。みんなが賛成しないと楽しくないしなあ」

良かった、とりあえずは何とか砂漠行きを阻止した。あとは双子次第か

家が見えてきた時には時刻は既に17時になろうとしていた


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平日午後5時頃の藤ヶ谷家は高い確率でもぬけの殻だ。

母はあれでも一応元医師で平日の15時頃から18時過ぎまでは、以前勤め先だった総合病院の頼みで現役医師達の補助員としてボランティアをしている。
自由奔放な姉貴は学校が終わったあと買い物やモデルの仕事で大抵出かけている事が多い。



「ただいま」

「おじゃましますっ」

誰もいないのはみゆも分かっているだろうが、律儀に挨拶をしてくれている。瑛司は着替えと学校の教材やらを置くためにひとまず自分の家に帰った。

みゆは家がすぐだし着替えてくれば?と聞いたがこのままでいいと言ったのでとりあえず二人で家に帰った。

「なんかいる?」

「ん、麦茶がいい」

わかった、と返し自分の分のコップと一緒にみゆの分も取り出した。

「俺らがさっき話してたのその雑誌に載ってるから興味があったら読むといいよ」

リビングのソファーに腰を下ろして、ずっとキッチンにいる俺を見るみゆが暇そうだったので薦めてみたが、みゆは大丈夫と言ってテレビのリモコンを手に取った。

ニュースが流れ、静かだったリビングにニュースキャスターの声が流れる

「はいよ」

「ありがとっ…お兄ちゃん」

「お、おう」

子供の頃から一緒に育ってきたみゆは、俺や姉貴、兄貴にとって本当の妹の様な存在でみゆ本人も俺たちの事を兄姉として慕ってくれている

ただ、兄貴の事は凌太兄さんと呼んで、姉貴の事は最近は愛理ちゃんって呼んでるみたいだけど昔は愛理お姉ちゃんと子供の頃から呼びなれてるみゆは、もちろん俺の事も昔はお兄ちゃんと呼んでくれていた。小学校の高学年までは変わらずにそう呼んでくれていたけど、中学に上がってからはさすがに恥ずかしいのか俺のことは名前で呼ぶようになった

「おに・・ゆっ、ゆうた」と噛み噛みになったり、
「ゆうた・・・くん?」と試行錯誤してるみゆは何だか微笑ましかった。

あれから3年近く経って、なんとか下の名前で呼んでくれるようになったけど、こうして家にいる時はたまに昔の呼び方で呼んでくれたりする。

俺としては、ふいに昔の呼び方で呼ばれるとすこし歯がゆいというか…なんていうか。嬉しいことには違いないが

「何か軽く食べてから別室に行くか」

ソファーに座るみゆの横に座り、可愛い妹の頭を撫でてあげた。


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買い置きの食パンにちょっと手を加えたものをトーストして、二人でいただく。食パンの上にケチャップを少量塗り、その上にチーズとベーコンを乗せただけのほんとに簡単な物

同じくらいのタイミングで食べ終えて、俺たちは庭にある別室に向かった。

外はすっかり暗くなり、時折肌をくすぐる風が冷たい。

「瑛司遅えーな」

「美麗ちゃんから九時くらいになるかもってメール来たよ?」

「バイト頑張ってんなあ、妹ちゃんは」

かじかみそうな手でポケットのカードキーを取り出して、カードスポットに表面を当てる。



ピッ♪

「セキュリティーを解除します....カードキーをそのままかざしてください」

ガチャっ

解錠音が鳴るのを確認して、スライド式ドアの開閉ボタンを押した。

一年中エアコンが点けっぱなしの室内は、ヒンヤリとしている。外よりはいくらかマシだが家着に着替えた俺はともかく、制服のままのみゆは寒いだろうと思って聞いてみたが、平気だよと返事をしたので、じゃあ一応と言ってクローゼットの中にある毛布を一枚渡した。



「お邪魔しまーす」

俺がソムニウム・ミラーの電源を点け終えたところで、瑛司がやってきた。

「何してたんだよ?」

「いやあー、小腹が空いてな飯食ってから来たから遅くなった」

「まあ、いいけど」



携帯端末のメール画面を開く

・新着メール
0件

耀太からの連絡はない
まあ、きっと先にログインしていて今頃パーヴェルに向かってくれているだろう。

「それじゃ、いきますか!」

「うんっ」

それぞれの固定されつつある席に着き、ソムニウム・ミラーを手に取る。

「じゃあ、またあとで」

二人は、返事のかわりにソムニウム・ミラーをかぶった。



「「「コネクト」」」



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「うっ・・やべえ、飯食い過ぎるんじゃなかった」

「VR酔いかよ、頼むから現実では吐いてたとかそういうオチはナシだかんな?」

アバターへの意識譲渡の時に感じる落下感に酔ってしまった頼もしい相棒をからかう

「大丈夫、冗談だって・・・うっ・・」

ティアと二人でイナトをジッと睨んでから、俺はシステムタブを呼び出した。

メール機能を起動し、VM画面の便箋がポップする。

「ソラ?」

「うん、一応ね」

指でシステムタブのウィンドウをタップして、フレンドリストを確認する。ソラは、俺たちより先にINしていた。現在地を見るとどうやら丁度グスタフ領を出るところのようだ。

再び便箋のウィンドウをタップし、録音ボタンを押した

ピッ♪

「ごめん、少し遅れてしまった。いまINしたとこなんだ、集合場所を港に変えてもらっていい?」

伝えたいことを終え、停止ボタンを押した。

「おっ、ユイナさんもログイン中じゃん!」

「ほんとっ?」

俺がソラへのVMを録音してる間にイナトもフレンドリストを確認していたらしく、その言葉を聞いたティアは、嬉しそうだった。
背中の小さな羽をパタパタさせている。こんなに嬉しそうなみゆは本当に珍しい。よほど先日会ったエルフの少女の事を気に入ったのだろう。


ん?


最近良く耳にするなあ・・・この名前・・・

脳裏に浮かんだ少女の笑顔を振り消し、苦笑いをする。今日一日で何度も会った女の子を想像してしまったが、さすがにそれは無いだろう。
個人情報ほど大事な物は無いオンラインゲームの世界で自分の名前をアバター名にするバカはいないだろうし。

「どうしたのクラウン?」

「あっ、いや、別になにも」


ピーピピッ♪

VM着信1件

便箋を開封して、再生ボタンを押した。
「了解!じゃあ、またあとで」

ソラからのメッセージはそれだけだった。

「問題なさそうだな」

「そうだね。それじゃあ、ソラが来るまでブラブラしてるか」

「クラウン・・」

「ん?どうしたのティア?」

何か言いたそうだが中々言い出せないでいる目の前のフェアリーの女の子は、俺を縋るような目で見ている。

何が言いたいのかは大体予想つく、イナトに視線を送ると、俺と同じく感づいていたイナトは首を縦に振った。


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「せっかくINしてるんだし、ユイナさんも呼んでみるか」

我ながらわざとらしい演技だ。
となりを見るとイナトが小さく鼻で笑っている。

こいつ・・・

「ありがとっ  おに・・クラウン」

「えっ?姫・・いまの何?え?」

落ち着けと言って、ティアに歩み寄るイナトの首元を掴んだ。



「俺は、ちょっとそういうの苦手だから二人に任せた」

「まったく、コミュ力無いなあほんと」

「ほっとけ」

ユイナさんのことは二人に任せて俺は自分のアイテム欄の整理をした。ティアは嬉しそうにして宙を指でなぞったり、タップしたりしている。
俺からは視えないがきっとシステムタブを開いて、ユイナさんへのメールでも打っているのだろう。

その後、パーヴェル領の港にある商店街を散歩しながら俺たち3人は雑談などをして時間を潰した。


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「おまたせ」

「お疲れ、ソラ」

商店街で珍しいモンスタードロップアイテム専門の商人を見つけ、交渉をしようとしたところでソラが合流した。

見た目は爽やかだがセクシーなミディアムレイヤーの黒い髪にきりっとした顔立ち。軽装備のジャケットの様な黒のベストメイルに白と黒の装飾品が付いている、シンプルなレギンスに黒のグリーブ(すねや脚部を守るブーツの様な防具)を装備している。

双剣士ソラ (長谷川 耀太)



「アイテム?」

「ああ、この前PKに奪われたモンスタードロップのアイテムが売ってるらしいんだ」

ソラに返事をしながら商人と交渉している瑛司の様子を覗き見して、交渉の状況を確認した。

「そうですね――、4万5000ガレルでどうですかね?」

「・・うっ。」

どうやらお手上げのようだ、

「まあ、また狩りにでも行って気長に出るまで頑張ろうよ」

「ありがとうクラウン」

落ち込んでいるイナトを元気づけていると、後ろ肩を急に叩かれた。

「どうしたのティア?」

「ユイナさん来てくれるって、いま返事来たっ」

「おお、この前話してたメイジの子か?」

ソラはまだ会った事がないんだったか、うんと返事をして、あとで紹介するよと付け加えた。

「とりあえず、パーティー組もうか」

そう言って、俺はシステムタブを呼び出してみんなにパーティ申請を出した。順々に申請を承認してくれたようで、俺の視界の左上にパーティーのメンバー欄が現れる。


【パーティメンバー欄】

・crown LV47:変幻自在士
・イナト LV44:騎士
・Tiara LV39:妖術師
・ソラ  LV41:双剣士



「イナト、いつの間にレベル上がったの!?」

「この前フリストヴォールに立ち寄った時にね」

「また差ついたわあ」

そんな話をしている二人を横目に、俺はマップを出現させた。

クヲーレのマップは4種類ある。
ダンジョンのマップとフィールドマップ、それにタウンマップがあり、世界全体のワールドマップがある。
ワールドマップの大半は、黒くぼやけており、ぼやけている部分を見るにはプレイヤーの誰かがその未到達部分に到達し、マップを探索して他のプレーヤーにオンライン公開する必要があるのだ。


やっぱりな…心の中だけで呟いて自分の予想が的中していたことを確認する。


ほんの少しだがダスト砂漠の南部が新しく更新されている




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「お誘いありがとうございます  みなさんとまた会えてすごく嬉しいです」

「ユイナさんこんばんは」

「はい、こんばんはですティアちゃん」

自分の方に歩み寄るティアの頭を撫でながらユイナさんが俺達男性陣の顔を順番に見た。ソラの事が気になるのだろう

「えっと、初めましてユイナさん。ソラです。」

「あっ、はいっ!こちらこそ…は…初めましちぇっ  ユイナと言います」

自己紹介の挨拶をしたソラに噛み噛みになりながら、挨拶を返すユイナさんを隣で見てたイナトがくすっと笑った。

「ユイナさん今日はソロ?」

「あっ…いえ  いまさっきまで友達と一緒にいたんです」

友達って、昨日の子?と続けて質問をするイナトにユイナさんは、はいと答えた。
そういえば昨日パーヴェル領に着いたユイナさんを迎えに来た女性プレイヤーがいたのを思いだす。
ユイナさんが俺たちと行動してた理由を知っていたらしく、別れ際にお世話になりましたと律儀に挨拶してくれた。

「そうなんだあ」

「いきなりで申し訳ないんですけど、ユイナさんってギルドとかクルーに加入しているんですか?」

ほんといきなりだな。ソラの唐突な質問に驚いた様子も見せずユイナさんが答えた。

「いえ、普段は二人で遊んでたり、一人で景色を楽しんだりしているだけです」

笑顔で答えてくれたユイナさんにソラは、でしたら、と本題に切りかかる。
クルーやギルドに所属していないプレイヤーは珍しい方だし、それにユイナさんのジョブは俺たちのパーティーにとって喉から手が出るほど欲しかったメイジだ。
加入してくれたら大変助かるし、俺も是非加入して欲しいと思っている。
だが、そう簡単に許諾してくれるとは限らない・・・

「いいんですかっ!?」

簡単に許諾してくれそうだ。

「もちろんです!是非加入して欲しいです、な?」

そう言って、俺たちの方を向くソラ。うんっ、と返事をしながら羽をパタパタさせているティアと、もちろん俺もと首を縦に振るイナト。俺はユイナさんさえよければと言って強制しているわけではない事をさりげなく強調した――

「嬉しいですっ!足を引っ張ったりするかもしれませんが、こんな私でも良ければ仲間に加えさせてくださいっ」

少女の嬉しそうな声は、商店街中に響くほどにイキイキしていた。



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