crew to o'linthart (VRMMO作品)

ノベルバユーザー290341

5話. クロノス学園 / 001. オフライン



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「おい・・・」

「よっ、お邪魔してるぜー」

リビングでは、サッカー中継が始まりとっくに試合開始の笛が吹かれている時間だったので先にみんなで盛り上がっているのは予想出来たが、まさか人数が増えてる事は予想できなかった。
親父自慢のRVE社特注80型液晶テレビを囲むようにして置かれたリビングのフロアソファーに、姉貴と姉貴に甘えモードになっているみゆが座り、正面に置かれたテーブルの絨毯には瑛司と俺の予想にいなかった人物、長谷川兄妹の兄がいた。

日焼けした肌に筋肉質だがスリムな体系、ショートヘアーで逆立てた髪に真っ直ぐなダークブラウンの瞳。長谷川 耀太(はせがわ ようた)。

「なんで?…誰が呼んだ……おい」

「なにー??」

キッチンから物音が聞こえてきて、目をやると冷蔵庫から取ってきたのであろうスティック型のチーズを口に咥えた女の子と目が合った。

「あっ、いや・・まあ、そうだよな」

兄が来てるなら妹だって来ててもおかしくないか

「変な藤ヶ谷」

両サイドの端だけ顔の輪郭に沿って長く伸ばし、真っ直ぐに切り揃えられた前髪から覗く兄と瓜二つのダークブラウンの瞳がおかしそうに俺を見ながらくすっと笑う。長谷川兄妹の妹。長谷川 美麗(はせがわ みれい)

「あっ、悠太遅ーい!」

テーブルに置いてあるピザを一切れ取りながら隣に座るみゆに渡す姉貴

「買い出ししてたら双子の妹ちゃんに会ってね、無理やり連れてきた」

「あっそ……それでおまけとして耀太が付いて来たんだな」

「おまけとか言うな」

「悠太も早くこっち来いよ今盛り上がってきたとこなんだぜ?」

テーブルには、ピザの箱が3箱と寿司の出前やらお菓子などが散乱してる。ピザをうまそうに食べる耀太と瑛司の横に座り、俺も一切れ頂いた





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~~♪




「日本!なんとか追いつきスコアは同点で前半終了!」

実況者の興奮したような声がテレビから流れ、試合の前半が終わってコマーシャルが流れる。

「よく追いついたね~」

「なっちゃん飲み物何がいい?」

「ありがとうみゆちゃん じゃあ、麦茶をお願い」

試合に熱中してる母と姉、そしてその熱気に当てられてみゆもテレビのサッカー中継に夢中だった。
俺、瑛司と耀太は時折中継を見ながら別の話をしていた。美麗は俺達の話を聞いたり、母達に混ざってサッカーの応援したりと終始マイペースだった。

「そうなんだよー!レアなモンスター素材を取られたのも痛いけど所持ガレルの三分の一が取られたからなあ・・・」

「マジかあ……これじゃあクルー設立はまた延期だなあ」

ガレルは、クヲーレ内の通貨。その通貨はデスペナルティーに含まれていてPK達に全滅させられた俺達全員はペナルティーとして所持金の三分の一をPK達に奪われた。

瑛司と耀太はクルーを作りたいらしく、先月からその計画は進行中だ。クルーはパーティーと違って一時的な編成ではなく、【所属】を意味とした団体の事。設立には100万ガレルが必要で、設立後にはクルーメンバー10人まで勧誘出来て、それに加えクルーズ・ベースと呼ばれるメンバー専用の基地を好きな領地に建てられる。

「俺もそのエルフのメイジに会いたかったなー」

「先生ー長谷川君がいやらしい顔をしてまーす」

からかう瑛司に危うく飲んでる炭酸飲料を吹きそうになりながらも反論する。

「し、してねーよ!だってメイジでヒーラー職だぞ?いま俺達に一番必要なジョブじゃんか」

「それは、俺も同感だな。対人戦は経験不足だったみたいだけど、ヒールのタイミングとかは的確だったし」

「でも、フレンドとプレイしてたんだよな?」

「ああ」

俺が答えると残念そうな顔をする耀太。となりで雑誌を読んでる美麗は、読みながらもこっちの話に聞き耳を立てているようだ。どうやら兄妹揃って昼間に出会ったエルフの少女に興味があるらしい。

「でも、クルーやギルドには所属してないみたいだったからなあ」

「ほんとか!」

目をキラキラとさせる双子の兄

「今度コネクトした時にもし会えたら詳しく聞いてみるよ」

空になったピザ箱をどかして、新しい箱に手を伸ばしながら瑛司が返事した。




実況者

「さあー、いよいよ後半開始です!!」




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試合はその後も白熱し、スコアは日本が後半ロストタイムに逆転ゴールを決め勝利した。勝利の瞬間にはリビングにいる全員で喜び合った。

「みーちゃんおいでーお姉ちゃんの部屋で寝ようねー」

「んんっ・・ふぁ~ぃ」

ソファーで寝ぼけているみゆを何とか起こそうとする姉貴が俺を何か言いたげな視線で見る。手伝えってことだよな。

「んしょ・・っと」

ソファーに寝そべっているみゆを抱き上げたせいで、姉貴が買ったワンピースのスカートが少しはだけ、雪のように白いみゆの太股が露わになる。

「こらっ」

「わざとじゃねーって」

「わざとじゃないのは分かるけど、凝視するの禁止っ!ね?瑛司くんも 」

「え・・あっ、はい!」

お前もか・・・とお互い顔を合わせてから、姉貴を誤魔化すように視線を宙に泳がせた。我ながら醜い誤魔化し方だ。と苦笑いをする。
みゆを二階の姉貴の部屋に運んでから、もう一度リビングに顔を出した。

「ありがとね美麗ちゃん、皿洗いまでしてもらっちゃって」

「目を離さない方がいいよなっちゃん、美麗なら皿の1枚や2枚余裕で割る・・っと!あぶねーな、おい!」

スポンジが長谷川兄めがけて飛んできた。双子の様子をソファーで雑誌を読みながら見てた瑛司がけらけらと笑っている。つーか、お前も手伝えよ・・・

「皿洗いくらい出来ますー!早くスポンジ返してっ」

「いや、お前が投げたんだろーが」

スポンジを妹に返し、やれやれとした表情で俺と瑛司んところに戻る。

「姫はー?」

「姉貴んとこ」

「もう寝たのか、つまんねーの」

読んでた雑誌を適当にテーブルに投げため息をする。

「明日って、お前ら朝練か?」

「いや、明日は朝どころか部活そのものが休み」

ソファーで突っ伏している瑛司の変わりに耀太が答える

「そっ、じゃあ明日クルー設立申請にでも行くか」

瑛司が先程投げた雑誌を拾って、目を通す。コンビニとかで売ってるゲーム雑誌で中身はほとんどクヲーレの攻略情報や新発見の領地、モンスターなどの特集だ。

「えっ?」

「だから、明日全員揃うならクルー設立の申請しようって言ったの」

「だって、所持金が」

突っ伏していた瑛司も起き上がって、俺を見る

「50万ガレルならなんとか出せるから」

そんなもんどこに隠してた!?と詰め寄る瑛司と耀太を横目に雑誌の続きを読んだ



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「銀行だよ」

雑誌を一度閉じてソファーの上に置いてから続けた。

「お前らは知らないかも知れないけど、フリストヴォールのずっと北にある鉱山の領地…ランドルフ領ってのがあって、そこには銀行に似た施設があるんだよ。一時期預けてたんだ、それだけ」

「なんだしそれ!?」

「ずりっ、お前はいつもそうやって隠すよなあ~、プレイ時間が多いからっていろんな場所に行きやがって!」

「引き篭もりの特権てやつだ。あっ、妹ちゃん麦茶取ってもらっていい?」

キッチンでで母さんと何かを作ってるらしい美麗と目が合ったので、冷蔵庫の麦茶を頼んだ。一度片方の眉を引き攣らせてから渋々冷蔵庫の方に向かい、取り出した麦茶をコップに注ぐ。

「どうぞ、弟ちゃん」

弟の部分を強調しながら言う美麗から麦茶のコップ手渡される

「優しくて働き者だね〜妹ちゃ・・・ん」

「それ以上言うと右手が滑ります♪」

「イエス…サー……」

「はあ…愛理さんと張るくらい可愛いのにどうしてこんなに性格……ガァ"ッ!?」

美麗さんの右手が瑛司の方に滑ったらしい…
くわばらくわばら

「妹ちゃーん」

「はーいっ」

二階から姉貴の声がして、美麗がリビングを出る。つーか姉貴だって妹ちゃんって呼んでんじゃんか。

「俺らの周りの女子って愛理さんに弱いよなあ」

「俺達の周辺ていうか、学園全体が姉貴に甘いんだよ。差別社会め…」

「愛理さん美人だし、モデルだもんなあ。みんな一線引いて話すのは無理ないわー」

毎日家で顔を合わせる俺には分からないが、そうかもなと思えてしまう俺もいる。まあ、少なくとも姉貴は誰とでも気軽に話したりするし、他の生徒達にとって近づきにくい存在みたいな事にはなってないはずだ。
俺にはない瑛司がよく言葉にするコミュ力が高いのだろう。ていうか何がコミュニケーション能力だ。俺だって、ゲームの世界じゃそこそこフレンドが・・やめておこう。




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その後、俺達は日にちが変わるまでクヲーレの話や学園内での話しをしながら順番に寝ていった。

瑛司から寝る直前に設立するクルーの名前を考えておけよと言われた時には眠気が消え、無理だと反論したが結局のところ変なネーミングになっても文句言わないからという苦しい交渉の末、渋々了解した。

まあ、今日学園でゆっくり考えればいいか。

「おはぁ~あ・・・ょ」

あくび混じりの挨拶をする長谷川妹がリビングに入ってきて、おはようと返す。ソファーには、毎回泊まりに来るとうつ伏せで苦しそうに寝る耀太と寝る前は確か…反対側のソファーにいたはずの瑛司が絨毯の上で寝てる。こいつら・・・

可愛らしい寝癖をつけた美麗はリビングの二人を見なかったことにして、キッチンに向かう。

「おい、起きろー」

二人に声をかけ起こす。「ト…ロン…ボーン」と訳の分からない事を口にしてからまた二度寝しようとする瑛司とは違い、耀太はすんなりと起きたようで、だるそうに立ち上がって美麗がいるキッチンに向かった。

「6時前だ、もう起こさねーかんな」

瑛司にそれだけ言って、俺はリビングを後にした。昨日の二の舞にはならぬとばかりに洗面所の扉をを一度ノックしてから、中に誰もいないことを確認して開けた。
洗面所で顔を洗ってる間に母さんと姉貴が二階から降りてきて、リビングに向かう途中、誰かが階段を降りる音が聞こえたのでみゆも起きたのだろう。

「なっちゃん、あたしも手伝う」

「ありがとう美麗ちゃん、それじゃあ、お皿を用意してもらっていい?」

はーいと返事をしながらテキパキ動く美麗と朝飯を作ってる母さんのとなりでは、姉貴が自分の弁当を作っていた。弁当箱が二つ並んでるのが見えたからきっとみゆの分だろう。俺のは?と言いたくなったが、姉貴の事だどんな見返りを求められるか予想がつかないのでやめておく。

「おはよう・・ございま・・す・・」

「え?」

「綾瀬だよな?」

瑛司と耀太の反応もその場に静止したままになった。なぜなら今、リビングの入り口前にモコモコした生地?のよく分からないがふわふわした白いクマが立っている。よく見ると上はパーカーになっていて顔はクマのようなモチーフのフードをサイズが大きかったのか深々と被り、下は上と同じモコモコした生地のハーフパンツそして靴下のような物を履いていた。



なんだよそれ、反則だろ。
なんか無性にギュッと抱きしめ・・・

「何…あの可愛い生き物、抱きしめていいですか?」

少し焦った、俺の心の声が漏れたわけではないようだ、言葉を発していたのは俺ではなく瑛司だった。



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「だめよー♪」

キッチンから出てきた姉貴がリビングのドアの前で半分寝ながら突っ立っているクマを抱きしめてからソファーに誘導して座らせる。

「うらやま・・じゃなくて!なにやってんだよ姉貴」

そう言うと、朝から上機嫌そうな姉貴は笑ってから、可愛いでしょう?と返してきた。

「昨日はモコモコみーちゃんを抱きしめながら寝たんだよーいいーでしょー?」

瑛司さん口が開いてます・・・
姉貴は睡魔に非常に弱いみゆがうちに泊まると、抵抗しなくなり言いなりになるのを良い事にこうして普段着なさそうな物をこっそり着させたがる。

まあ、俺もちょっとは期待していたからなんとも文句は言えないが。だけど、この着ぐるみみゆは予想外のというより反則レベルの可愛さだ。

「触ったらだめよ?瑛司くんあとで写メ送ってあげるから」

「本当ですか!」

目をキラキラとさせる瑛司にため息が漏れる。でも…俺もちょっと欲しいかも。

「あのっ、ごはんがもう出来上がるんですが?」

皿を二つ持ってやってきた美麗を見て我に帰り、昨日テーブルの上に置きっぱなしの雑誌やらを適当な場所にどかす。

「妹ちゃんは偉いね~♪私はみーちゃんを着替えさせてくるね」

姉貴は、朝から楽しそうだな。俺も手伝うよと言って、美麗から皿を受け取る。一口サイズに切ってあるトマトとスクランブルエッグと香ばしいベーコンとウィンナーがのった皿に、鮭と昆布の二種類のおにぎりがテーブルを彩る。

「瑛司くんとようくんも顔洗って着替えてきてー」

母さんに言われ、瑛司と耀太もリビングを出る。

「・・・・。」

ジト目で俺を見る美麗に何でしょうか?とあえて聞く。

「あたしも制服に着替えたいんですけど?藤ヶ谷くん?」

「あっ…ごめん」

リビングを後にして、制服を取りに自分の部屋に向かった。




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「・・・っ!」

「お、おはようみゆ」

階段を上がっていく途中で、制服姿になったみゆとすれ違った。顔を赤くするみゆと何故か視線を合わしにくい。

「ん・・・おはよ…ねえ…見た?」

ええ、もちろん見ましたとも。とは言えず、え?何が?と返してしまった。

「愛理姉さんが、その・・なんか着ぐるみ・・みたぃ・・な・・」

恥ずかしいのか、言葉は小さくなっていき後のほうは聞き取れなかったがまあ聞きたいことはそういう事だろう。

「まあ、可愛かったぞ・・なんかモコモコしてて」

自分で言っておいて何だが、顔が熱くなっていく。

「…っ!………そう…ありがと」

益々顔を紅潮させながらみゆは足早に階段を下りていった。

「着替えるか」



階段を上がって自分の部屋のクローゼットから、ここ半年間で見慣れたしまったクロノス学園の黒と赤い刺繍の入った制服を手に取る。
男子の制服は見た目がシンプルで、人気はさほどないのだが女子の制服は都内では人気がありクロノス学園の制服に憧れて入ってくる子もいるらしい。基本は男子と同じ色の黒のブレザーに大きめなグレーのリボンにグレーと黒のチェックスカートだが、規則上特に決まりはないので自分なりにカスタムしてリボンの色を変えたりと出来るところが人気の理由になっているらしい

男には分からない境地なので俺は正直ノーマルでもいいと思うが、これを女子に言ったら怒られる事くらい俺も分かってるつもりだ。

ちなみにさっき制服姿ですれ違ったみゆは中等部の制服なので、姉貴や美麗とは違う制服だ。当の本人は中等部のブレザーを着ずにいつも灰色のカーディガンに制服の紺色のスカートと黒のスクールソックスを着ている。

「そういやあ、今日って生徒集会だったっけなあ」

制服に着替え終えて、携帯端末の待ちうけを見ると画面には、「生徒集会9:00~、生徒証必要」というメモが出ていた。



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