crew to o'linthart (VRMMO作品)

ノベルバユーザー290341

1話. Another World / 001. RVE社



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【 - 2030年9月 - 】




ふーっ・・・


静寂だった部屋の沈黙を切るように俺は無意識の内に溜息をついていた。目に付けているHMD(ヘッドマウントディスプレイ)を外して目の前のコンピューターデスクに置いてから大きく伸びをした。

昼間は真夏を感じさせるほどの太陽の照りと快晴のおかげか、窓から射していた光で眩しかった部屋が今は夕陽に照らされすっかりオレンジ色に染まっていた。

残暑を感じるものの少しずつ早くなっていく日没を眺めながら俺は自分の頭に貼ってある、特殊な粘着性のシールが付いているいくつもの回線を一本ずつ丁寧に剥がしていく。

6時間の連続コネクトでずっと静止状態だった体のいろんなところが重くも何だか心地いいダルさからまだ解放されていないようだ。体を起こすためにもう一度のびをしていると

俺のすぐ後ろから声が聞こえた

「ログアウト・・」

溜め息と一緒に吐き出すような声に俺は思わず苦笑いを浮かべながら自分と背中合わせになっている声の主の方に体を向けた。

「おかえり、そしてお疲れ」


声の主は俺の幼い頃からの友達
小野坂 瑛司(おのさか えいじ)





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「悠太もお疲れ。あれはないよな!こっち三人に対して回復メイジが二人とダガー使い三人…それに」

「脳筋の大剣使いが五人もいたね」

短か過ぎず程よくカットされた綺麗な黒髪の前髪から覗く優しくも真っ直ぐな瞳から悔しそうな表情を見てつい笑みがこぼれてしまった

「笑うなよ悠太~。あれは、あれだぜ!ほら、えっと…」

「ピーキングモンスターに居場所をつけさせて、レベル上げやクエスト帰りで消耗したプレイヤーを狙う集団PK。だったな」

かわりに言うと瑛司はそれだよそれと悔しそうに続けた。

PK(プレイヤー・キラー)とはオンラインゲームなどで使われる用語でプレイヤーの敵であるモンスターではなく、自身と同じプレイヤーを意図的に攻撃してキル・・つまり倒すプレイヤー達の事。

「戦うなら、正々堂々と正面からかかって来いよー!」

先ほどまで俺の頭にも付いていた回線を雑に剥がしながら、愚痴を続けた。

「それにあのメイジ二人だけどさ…!」

「それ以前に」

まだ何か言い足りなさそうな瑛二だったが急にあっ、とでもいうような表情にかわり瑛司は言いかけた言葉を飲み込んだ。

俺と瑛司の背中合わせになっているコンピューターデスクのちょうど横で今さっきまで一緒にプレイしていた女の子が俺達が付けていたのと同じHMDを外しているところだった。

肩まで伸びたふわりとしたライトブラウンのボブヘアーを右わけでピンで止め、HMDのせいで少し乱れた前髪を直している。夕陽がその女の子の儚げで綺麗に整った顔をさらに魅力的に映し出す


綾瀬 みゆ(あやせ みゆ)


俺と瑛司の一つ年下だが一応幼馴染だ。家が隣同士てこともあって俺の親と綾瀬家の親はとても仲が良くて幼い頃からずっと一緒だったみゆは俺にとって本当の妹のような存在だ。




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「それ以前に、ピーキングされているのにそれに気づかない先輩が悪いです。」

不機嫌そうに右の頬を少し膨らませながら瑛司を睨むみゆ

「いやあ、違うんだよみゆ姫」

「っ!」

あだ名で呼ばれた瞬間、それに反応するようにみゆの顔がみるみる紅潮していく。

「その呼び方やめてくださいって、何度も言ってるじゃないですか 」

「ごめんごめんそれよりもう遅いし今日はもうここらへんでお開きだね」

「そうだね、あっ!その一台はシャットダウンしなくていいよ。あとでまた使うから」

「ずるっ、また一人でレベル上げかよー」

「そういうな、クラウンはどうせ器用貧乏なプロテウス(変幻自在士)だし。レベルが上がったところで瑛司のイナトやみゆのティアには敵わないよ。だからこそ足を引っ張らない様にレベルだけでもあげないとね」

「はいはい、またその定型文ですか」

そう言い返すと瑛司もしぶしぶ納得したようだ

「まあいいんだけどさ、また明日来るし」

ソムニウムミラーを専用のスタンドに片付けて、上着のパーカーを着る瑛司を横目に向かいのドアに目をやると、みゆの方も帰りの仕度が出来きたらしくドアの前で携帯端末をいじっている。

この部屋は俺ん家の別屋、
正確には父が庭の隅に建てたパソコン室で、新開発のPCや主にゲーム専用の高性能なPCそれに市場にはまだ出ていない開発途中の物など色んなパソコンが数台設置されている。
父はPCゲームメーカーの大手会社の社長をやっていて、一年中パソコンの前で仕事をこなすせいなのか家の敷地内にまでこんな部屋を建てたのだ。
もっとも当の本人はここ2、3年くらい前から会社に籠もりっきりなためここを使う人はほとんどいないので、俺と瑛司そしてみゆのたまり場になっている。

いろいろと説明したけど、ようは荷物置き場みたいなもんだ。




[セキュリティロックの確認中..........ロック完了しました]


渇いた女性の機械音声を確認して
カードキーをドアにかざす

カチャ

部屋の中からドアの施錠音が鳴るのを確認して、先に部屋を出た二人の方を向く


「じゃ、行こっか」





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「それじゃ、また明日。向かう頃にVM(ビム)送るね」

出入り口そばの駐車場に停めてあったバイクにエンジンを点けると俺とみゆに短く手を振り瑛司が足早に帰っていった。
ちなみにビムは Voice Mail Service VMSを略した言葉で音声認識システムを利用したショートメールのこと。

「あいつこの後になんか用事でもあったっけ?」

俺のふとした疑問にみゆは返事のかわりに細い両肩をすこしあげた。

「夕飯どうするの?」

「大丈夫。今日はうちで食べるから。」

「そっか。わかった」

「そんな顔しないでよ、すぐ子供扱いするんだから。ちゃんと食べてるから心配いらないよ?」

「了解」

短く答えて、みゆを送り出す

「気をつけてな」

「徒歩五分も掛からないし」

心配しすぎと少し怒った様な表情をみせた後すぐに笑顔になりおやすみとだけ言ってみゆは帰っていった。




夕陽はすっかりと沈み
頬を擽る涼しい風が夏の終わりと秋の訪れを感じさせた。





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【 - 2028年8月 - 】


夏の焼くような熱気と太陽のジリジリとした光で首筋が焼けるような暑さの8月。
中学に入って2年目の夏休みをひたすらゲームに費やしていた俺に出張でいつも留守の親父から一本の電話が掛かってきた。


「もしもし」

「おう、夏休み満喫中にすまんなあ悠太」

「そっちこそ、夏休みだってーのに会社に篭りっきりで大変そうだな」

「ハハッ…ま、まあ元気そうでなによりだ」

ほとんど家に顔を出さないでいる親父に皮肉を言ってみたが、実際大変なんだろうと俺も思う。親父の会社であるRVE社はここのところ毎日ニュースで騒がれてるからだ。
RVE社(Real Virtual Electronics)は今マスコミの一番おいしいネタになっていて、茶の間はRVE社の報道やらで今や日本人なら知らない人はいないと言っていいほどにその知名度をあげている。

まあ、そのニュースのほとんどがRVE社への不満を持った人々の声や苦情ばかりなのであまり喜べる様な状況ではないので親父は苦労してるはずだ。

【 クヲーレ・オンライン 】

運営開始から約一週間で世界中のゲーマー1000万人の心を掴んだRVE社の超大作MMORPG。
大手企業スポンサーと共に費やした制作費は数百億円に及ぶと、ニュースで伝えられていた。

ゲーム内のやりこみ度、自由さ、グラフィックの鮮麗さは、どの点をとっても他のゲームを凌駕していた。スラム語を用いて言うならまさに「神ゲー」と呼ばれて相応しいゲームだった。

一年中ゲームしかしていない俺もクヲーレ・オンラインの虜になり、学校から帰ってきてはすぐにログインする毎日だった。世界中のユーザー達に文句のもの字も言わせないゲームがどうして苦情の嵐にあい、こうしてニュースに取り上げられるまでになったかというと、


先月のRVE社が開いた記者会見からだった。


「今月終日、7月31日をもってRVE社本店直属C.R.O.W.N(クラウン)の運営するオンラインRPGクヲーレ・オンラインのサーバー停止、ならびに運営終了をこの場を借りて発表します」

親父の会社で働いていて、何度か家に招いている早川さんがテレビで運営終了の会見をしている姿はまだ記憶に新しい。



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当初、ゲーム雑誌では運営開始からちょうど半年に行われるこの会見はクヲーレ・オンラインにおける大型アップデートのために用意されたなどと憶測が飛び交っていたが。結果は運営開始からたったの約半年という短さでの運営終了の会見になった。俺を含め、たくさんの人々が呆気にとられたと思う。本当に開いた口が塞がらないくらいだった。

報道が信じられなくて、親父に直接聞けば済むのに驚き過ぎたせいもあってかRVE社の問い合わせ口に電話をかけるという行動にでた。

「大変ご迷惑をおかけしております。ただいま通話が集中しているため、しばらくお待ちください。」

30分もの間何度も電話をかけ何度女性ガイダンスのこの説明を聞いた事か。

そこから一週間ほど経つ今でも、ふとテレビをつければ同じようなニュースが続くありさまだ。


だから会社の一番の責任者である親父はきっと大変だったのだろうと思う。


「それで?なんか頼みごと?」

クヲーレ・オンラインについて、俺も色々と聞きたいことがあったけど、親父に気を使って話を進めた

「ああ、今開発中のもんがあってな。α版のテストは終わっているのだが、それが予想以上の出来でなあ」

親父は極々ご機嫌のようだ

「次の段階に移行するにあたって、β版のテストをしたいんだ。会社に優秀なデバッガーは沢山いるが…まずはうちの頼もしいデバッガーに頼まれないかと思ってな」

「そんな、合間に俺の機嫌をとるような遠まわしの褒め言葉を入れなくても、やるっつーの」

実際、子供の頃から開発中のゲームを何度もやらされてきたのだから今更って感じだ。

「そうか、よかった。それじゃ、明日には届くはずだから」

「分かった。たまには帰ってこいよ?あと体に気をつけて」

「ああ、愛理と母さんによろしく」

それじゃと言って、そこで通話が終わった。



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翌日、

姉貴に誘われてご飯を食べに行ったあと、家に着いて自分の部屋に向かう途中、ドアの前に幾つかのダンボール箱が積まれていたのを見つけた。

中身はなんとなくわかっていた。昨日はああやって何だかんだと言いながらお願いをしていたが、親父は内心では俺が二つ返事でテスティングを了承すると確信していたので昨晩の内には配達を手配していたのだろう。
届くといっても、夜になるだろうと思っていたがさすがは親父だ。手に持った荷物を部屋に放り投げ、目の前の箱達を部屋に運んだ。

ふぅ、と一息ついてから
机の引き出しからハンディカッターを取り出し箱の封を丁寧に開けた。

出てきたのは、発泡スチロールに固定されたディスプレイ型の投影モニターとこれまた封をされた箱が一つそして


「なんだこれ?」
 

初めて見るそれを箱から引っ張り出した


「医療機関にありそうな道具かなんかみたいだな」

RVE社のロゴが入った白いそれは顔半分を覆うほどに大きいサングラスのようなヘッドマウントディスプレイだった。内側には何本もの回線が付いてる。


「ソム・・・ニウムミラーって言うのか?まあ見た目通りなら頭につけて遊ぶんだろうなあこれ。」


肝心のゲームソフトはどこだ?最初から内部にインストールされてるのかな?何て考えてるともう一つ小さな箱があったのを思い出した。


「これか・・・」


外の封は紙で出来ていて簡単に開封する事が出来た。中からソフトウェアが顔を出したその瞬間、今まで抑えていた興奮が最高潮に達する


「なんだよ・・・そういうことかよ」


興奮で抑えられない程に震える自分の手で持ったソフトのタイトルを読む。




【 クヲーレ・Ⅱ 】




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ピピッ..ピピッ...ピピッ...

規則正しい起動音を立てながらソムニウムミラーが起動した。クヲーレⅡの外箱を開け、中に入っていたマイクロチップを取り出す。

あとはこれを頭に貼り付けて、
一本ずつ丁寧に定められた位置に電機信号受信回線を頭のあちらこちらに貼っていく。多少の違和感があるがよくある市販の絆創膏のような感覚だ。
最後にHMDを被り切り替えボタンを押した瞬間…視界が普段の見慣れた自分の部屋から何処までも深い暗闇に変わっていった。



HMDに付いている赤色のランプ、メイン電源と説明書に書いてあったそのボタンを押す。



その瞬間暗闇が一気に光に包まれた。ソムニウムミラーのメイン画面に切り替わり聞き慣れた愉快なメロディーに乗せてこれもまた何度も見てきたRVE社のロゴマークが出てきた。


一通りの説明が流れる。


ソムニウムミラー起動中のご注意

本製品は脳から出力される電機信号を受信してプレイするシステムウェアです。
身体への危害等は当社が皆無と保障していますが、万が一のため正しい使い方をしてくれるようお願いします。

またバーチャル(仮想)世界にコネクト中は、
ユーザーは現実世界から遮断されている状態(スリープ状態)になるため、ユーザーの運動機能は全てバーチャル内の身体(アバター)に譲渡されます。

プレイのさいは身の回りが安全な室内などでのプレイをおすすめします。


以上で本機の基本説明を終わります。
詳しい注意次項、本製品の説明は付属の説明書または本社のホームページ内にて記載されています。




[ 新規のソフトウェアを確認しました
起動準備が完了しています。インストールしますか? ]




えっと、確か音声認識エンジンを搭載してるんだったよな

「はい」

返答を声に出し、システムに答えると再び画面が変わる


[インストール準備中......インストール開始します...............インストール完了。]



【ゲームを起動します】




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しばらく自分の体が落下していく様な感覚が続いたあとチュートリアルルームらしき部屋に移動した。

「クヲーレ・Ⅱへようこそ!ここではゲーム内の説明及びキャラクターカスタマイズ、作成、ゲーム内ジョブ選択をします」

「は、はあ・・・」

どうやらこの部屋内ではもう動く事が可能のようだ。仮想空間内の自分の体(アバター)にまだぎこちなさがを感じるが一通りは自由に動かせる。
というのも、まあ正直コントロールしてる感覚っていうより普段どおりに体を動かしているだけだからだコツも何もいらない。本当に自分の体のように動かせる。

手を上げるなどの脳からの命令をソムニウムミラーが受信し、現実の体の変わりにアバターが動くとてもシンプル。

ハードの機能に改めて驚かされながら周りを見る。

「現実となんら変わりないなあ」

「ゲーム内のキャラクターを作成します。アバター名を決定してください。」

「クラウン、クラウンだ」

いつもならキャラ名を決めるのに時間がかなりかかるが、前作に使っていたキャラ名にすることにした。

「ようこそクラウン、クヲーレの世界へ。次にキャラメイクをします。身長はアバターの運動能力に関わりますので、現実世界のプレイヤーの身長に合わせることをおすすめします。」

髪型、顔、肌の色、体つき、身長と
順々にクラウンが完成していく。

「ジョブを決定します。バーチャル・ワールド内には万を超えるウェポンスキルがあり、多数取得可能ですが初期設定で決めるジョブ(職業)は基本的に転職不可能なのでご注意ください」

「まじかあ、この設定は変わらないんだな」

オーソドックスな剣士から、大剣使い
刀使い・ウィザード・商人・斧使い・ダガー・ナックラー...
たくさんありすぎて読みきれないほどだ。

「ん?前回こんなの無かったなあ」

【プロテウス・変幻自在士】
ジョブとは関係なく一度に三種類の複数の武器を所持することが可能だがそのデメリットとして、ジョブスキルレベ・・・


このジョブたけ説明がやたらと長かったので読み終える前に説明パネルを閉じた


「つまり武器全種扱えるんだな」

これといった特別やりたい職業もなかったし、前回の刀使いに強い愛着もなかったので全種扱える変幻自在士に何の迷いもなく決定した


「お疲れさまです。ではこれにてキャラ作成を終了します。メインタウンのプリンキウムに移動します。尽きることのない無限の冒険へ…」



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陽気なファンファーレが鳴り

目の前に街が広がる。
旧世紀の欧州にあるような街の建物が並び、商店や宿屋に酒場、教会などが沢山の人々で賑わっている。


「すげえ・・・」


普段ださないような声を発している自分に驚くも、いまはこの目の前に広がる世界にただひたすら驚かせられている。

「さあ、よってけよってけ」

「教会へのご案内はこちらへー!」

「創業100年のランダール武具店!大小長短の剣から、杖、槌なんでもあります!」

「今日もいい天気ですね」

「ごきげんよう」



現実となんら変わらない、いや
まるで現実のどこかにあるんじゃかいかと思わせる世界がどこまでも広がっていた。


「・・・よしっ!」



高まる鼓動を押さえ、
無限の冒険が待つ世界への第一歩を軽やかに踏んだ。



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それからはあっという間だった


初めての仮想世界へのコネクトから約半年の2029年1月31日に俺のデバッガー生活が終わった。ソムニウム・ミラーのプロトタイプ版とクヲーレⅡのβ版は、久しぶりに家にやってきた早川さんに回収されたが、親父から報酬としてクラウンのアカウントデータをもらった。


そしてさらに半年後、一年前の会見からまだRVE社への不満の声が止まない中での一年越しの会見が開かれた。
会見の内容はもちろんソムニウム・ミラーの正式発表だ。

今回も会見の担当者だった早川さんのところどころ白に染まった髪を見てお気の毒にと思いながら俺は会見を見ていた。

ハードの発表に世界中が驚いただろう、なにせここ10年は無理だと言われたバーチャル世界へのエンタリングが可能な完成品をいきなり発表したからだ。
同時に発売されるキラーコンテンツとして、クヲーレ・Ⅱの発表がされた後には会見に来ていた記者達が全員立ち上がって驚きを隠せなかった。

早川さん(RVE社)は謝罪とともに、一年前のクヲーレ・オンライン運営終了の理由を一年もの間を空けて、やっと世界に説明した。

「この度は、会社の事情により多くのみなさまに迷惑をかけたことを会社一同の代表としてお詫び申し上げます」

早川さんが頭を深く下げると同時に無数フラッシュがたかれた。

「急な運営終了は、コンテンツの次の段階への移行が可能になった理由であり、当初は二年をかけてのプロジェクトでしたが、何より早くバーチャル世界でお楽しみいただきたいという開発者の願望により運営の一時的な終了をとりました。」

その後会見は、ソムニウム・ミラーとクヲーレⅡの発売予定日や値段などの話が続いたのちに幕を閉じた。


そして月日が流れ、俺自身がいまかいまかと待ちに待った日がやってきた。


【-2030年1月2日-】

世界初のバーチャルワールド・エンター型のハード<ソムニウム・ミラー>そして、同じく世界初の《エンタリング》仮想現実体験MMORPG<クヲーレ・Ⅱ>が発売した。


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発売初日に世界で用意された500万台は、発売開始から一時間ほどで売り切れた。もちろん同時発売のクヲーレも即刻完売。

親父の満足そうな顔が頭に浮かんでくるようだった。

俺は前もって、親父に一台頼んでおいたので無事に運営開始日にクラウンのアカウントでログインすることが出来た。もちろん息子であれ売買は別。自費だ。売り上げの鬼め慈悲は無いのか?

そして運営開始の午後17時に世界中からプレイヤーが一斉にログインした。
β版をテストした俺はなんなく投影適性訓練をパスしたが、あたりを見ると転んだり、ぎこちない動きで冒険するプレイヤーも少なからずいたのを覚えている。

そんなこんなで、
毎日クヲーレにコネクトしては、ゲームに明け暮れる毎日を中学を卒業しても続けた。

優秀な生徒達が集まるクロノス学園高等部に編入し、高校生活(主にゲーム)を満喫中だ。

クロノス学園はRVE社がスポンサーとして契約してる有名私立校で、瑛司はサッカー推薦で入学したというのに、俺は親父のコネという…どうしようもない道を進んでいる。

ちなみに成績優秀なみゆは、クロノスの中等部に在籍していて、来年から一緒の校舎で通うことになる。俺と違って純粋なクロノス学園の生徒なわけだ。


二人がダークサイ・・じゃなくてゲームにはまったきっかけは、みゆがまったく外出をしなくなった俺を心配して問い詰めてきて、その理由であるクヲーレⅡを紹介したらそこまでハマるのなら一度プレイしてみよっかなと初コネクトしてからだった

うちの庭にある親父の別屋にソムニウム・ミラーが7台も保管してあったので、ちょくちょく一緒にプレイするようになり、二人が最近付き合い悪いと様子を見に来た瑛司も結局クヲーレの世界に魅入られた。

今では、休みがあればうちに来ては長時間の連続コネクトがあたりまえになっていった。


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