crew to o'linthart (VRMMO作品)
0話. ヒドゥン・ガーデン / 004. 眠り姫
01
..ぅた....ゆ...た
「くっそ~!なんで勝てないんだ。ねえ、もう一回!もう一回だけ!」
なんだ?夢、いや記憶?俺の過去の記憶を見ているのか
懐かしい記憶だ。兄貴が困った顔で俺を見ていた。
「ほんとにゲーム好きだよなーお前は」
「うるせえ、俺のゲーム好きが分かるならもうひと勝負付き合えよ兄貴!」
「わりっ、もう会社行かないと」
「はあ?また勝ち逃げかよ」
「いつも最後に魅せ技をしようとする悠太が悪い。そんな事しなきゃ勝てるのに」
「勝つだけじゃ嫌なんだよ!格好良く勝たなきゃ…」
そっぽを向いて不機嫌そうにぶつぶつ言う俺にため息半分と仕方ないなと笑みをこぼす兄貴がいた。
ガチャガチャッ
レトロな家庭用据え置きゲーム。ガチャガチャと音をたてているのは、レバーなどと言われていた操作スティック一本と6個のボタンのある大きなコントローラーで、20年前まではどのゲーセンにもあった主に格闘ゲームに用いられた『アーケード・コントローラー』と呼ばれるもの。
そういや中学の頃よく兄貴とこうして格闘ゲームに夢中になっていたっけな。
YOU WIN!
陽気なファンファーレと共に外国人ナレーターが勝負の決着を告げる。
「よし、これでイーブンだ!」
「最後んとこで先読みをしてくるとは思わなかったなあ、悔しいけど今のは完敗だ」
「えっへん!」
「悠太は次の手をを読むのがすごいな」
そう言って、左手で頭を掻きながら兄貴が立ち上がった。
「帰ったら、次はこっちで勝負な」
ゲーム棚から違うソフトを取り出す俺に微笑みながら兄貴は何か言いたげな眼差しをしていたが、それを言葉にせず無音のままそれを飲み込んだ。
「なあ、悠太」
「なに?」
「次は....レで....ぇ......ると....な」
そそくさと違うゲームに手を出し自分の世界に入ってしまっていた俺は、兄貴が最後に言ったことをうまく聞くことが出来なかった。
兄貴なんて言ってたんだろう。
..ぅた....ゆ...た..悠太!
「痛ってー、なんだ?」
両肩を掴まれ、体を大きく揺さぶられていることにようやく気づく。
「おい悠太!起きろって!」
重い瞼をなんとか開き目の前で心配そうな顔を浮かべ大きな声を出している少年の手を掴んだ。
「俺は大丈夫だから、ありがとう瑛司」
01
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「何があった!?ギルドの手伝いが終わって、MAPを頼りに庭園にたどり着いたまではよかったけどVM送っても返事ないし、城の中で見つけたと思ったら二人して倒れてるし俺どうしたらいいか・・」
「わーかった、とにかく落ち着け」
「ご、ごめん」
そばにあった椅子に座り込み、俺の言葉を待つようにして瑛二が黙り込む。
「ユイナと二人で庭園を探索してたら…ユイナ!そうだユイナは?」
一番大事な事なのにどうして気づくのが遅れたんだよ。自分にイラつきながら瑛司の返事を待った
「ユイナのアバターにも、何度か話かけたけど二人して返事しなかったからさすがにおかしいと思って・・」
瑛司は最後まで説明しなかったが、恐らくこうだ。返事が無い二人が心配になってまずログアウトして現実世界で隣にいるはずの俺の様子を見にきて、今に至るってところだろう。
「状況はだいたい把握した。何が起きたのか気になっていると思うけど、それは後で説明するから」
ヘッドマウントディスプレイを外し、立ち上がってから瑛司に続けた
「結名のところに行かなきゃ」
「結名んとこなら、もうみゆ姫が向かってるはずだよ?」
♪(VM着信)
ポケットから着信音の元である自分の携帯端末を取り出す。
受信1件:みゆ
「みゆからだ」
瑛司に短く伝えてボイスメールを開く。
震えるようなみゆの声がすぐに聞こえた。
「早く来て!結名ちゃんが…結名ちゃんがっ!」
メッセージの向こう側にいる送信者が今にも泣きだしそう
だった。瑛司と顔を見合わせ、言葉を交わすことなく部屋をあとにした。
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03
「冗談だよな?」
今までにないくらいの全力疾走で向かった端本家の数百メートル手前で俺達は立ち止まった。俺の家からは結構距離があったが、体感にして10分ほど走ってやっと見えてきた結名の家の前には、このタイミングと状況ではあまりにも嫌な物を連想させる白い車が1台停まっていた。
「行こう」
瑛司は俺の返事に応えるかわりに、止まった足を動かした。
玄関前に停車してる救急車のせいで、まわりには野次馬がちらほらいて中の様子が分からない。
「だめだ、俺行くよ」
耐え切れずに瑛司が人混みをかきわけていく。先行する瑛司が玄関前で見知った顔を発見した
「瑛司先輩っ」
「遅くなってごめん、なにがあったの?」
遅れてやってきた俺の顔見て、すでに真っ赤になっていたみゆの瞳から涙の粒が零れる。歩み寄ろうとした俺を救急車のサイレンが阻む。
走り出していく救急車の後部を見ながら、頭の中で想像していた最悪な事態をなんとか掻き消そうとしていた。
玄関には、普段物静かなであまり他人に表情を見せないみゆが大泣きしていて、その隣に瑛司と家から出てきた結名のお母さんがみゆをなだめていた。
「おばさん」
「悠太くん、瑛司くんもなかにいらっしゃい。みゆちゃんもほら、大丈夫よ。もう泣かないの、可愛いお顔がそんなんじゃもったいないわ」
みゆに優しく微笑みながら頭を撫でるおばさんに手招きされ、端本家にお邪魔した。
事態は俺の最悪の予想そのものだった。家に入り、リビングでおばさんから事情を聞いた俺と瑛司は終始沈黙をを貫くことしか出来なかった。
俺らが駆けつけて来た30分ほど前にみゆが家にやってきたので、二階にいる結名を呼んでみたのだが返事がなく、心配したみゆは様子を見るようにとおばさんにお願いをした。娘の部屋に入ったおばさんはコネクト中の結名を起こそうと、ソムニウム・ミラーの外部コールを押したが返事がなかったのでみゆを呼んで強制終了のやり方を教えてもらい、結名を強制的にログアウトさせた。
しかし、それでも結名は起きなかった。完全に意識を失い、眠っているようだったとおばさんは言っていた。
救急車を呼び、近くの病院へと搬送されるまでの出来事がだいたいそんなところらしい。娘が倒れ、パニック状態になってもおかしくないのに俺達に優しくして、心配ないよとなだめるおばさんを正直すごいと思った。
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みゆは泣き疲れたのかリビングのソファーで静かに寝息をたてている。
「私は、これから結名のところに行かないといけないから3人ともごめんね」
「いいえ、すみません俺達こそ」
「いいのよ、みゆちゃんはそのまま寝かしてて大丈夫だからね?あとで私が送っていくから。あっ、お父さんが帰ってきたら私に連絡するようにと言ってもらえるかしら?」
「わかりました」
手にたくさんの荷物を抱え、おばさんが出て行った。
ガチャン...
玄関のドアの音とともに家が静寂に包まれる。どうやら事の展開に気持ちがついて来られていないのは瑛司も俺も同じらしい。
「なっ…なあ」
先に沈黙を破ったのは瑛司だった。
「絶対に、絶っっっ対にありえないと思うんだけどさ・・・」
「結名はクヲーレをプレイ中に意識を失った。原因があるとすれば、クヲーレかソムニウム・ミラーで間違いない」
「やっぱり、そうなのかな?」
瑛司の言いたい事は分かる、確かにクヲーレかソムニウム・ミラーのせいで意識を失うなんて考えにくい。
だけど、それにしてもタイミングが合いすぎるんだ。俺とコネクト中に会ったPK…ファースト。結名はアイツに何かをされたに違いない。
無意識に右手に力が入っていく。
クヲーレ内で感じたあの感覚は紛れもない痛みだった。【本物】の痛覚だった。
「瑛司」
俺はコネクト中にあったことをすべて話した。
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