crew to o'linthart (VRMMO作品)

ノベルバユーザー290341

0話. ヒドゥン・ガーデン / 002. 違和感




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シャリ...シャリッ シャリッ.....


秋に降り積もった無数の落ち葉を踏みながら、女の子と二人であたりを探索するってのも悪くないかと思い始めた俺の心を一蹴する様に、隣を歩くエルフ族の少女が冷ややかな視線を俺に向けた。

「散歩じゃないんだからね?」

「わ、わかってるって」

「もう……気になるからその場所に連れてけって言ったのはクラウン君なんだからね?」

ジトッと俺を見つめる可憐なアバターが溜め息混じりに言う。先日、ティアとユイナがログインした時にこの辺りでレアイベント発生のNPCに出会ったが話を適当に聞いたまま放置した2人だが、その話を興味津々の眼差しで(ティアいわく)聞いてた俺に何気なく「行ってみる?」と聞いたのが事の始まり。

正直突発のイベントや限定イベントには目がないわけで 、もしまだ誰も発見していないレアイベントだったら…と思うと探究心に勝てなくなり連れてってくださいと頼んだのは紛れもない事実……なのだが。何せ、案内人が良く迷子になる方向音痴二人なもんで、30分もあれば着くだろうな~、と気楽に出発してから気づけば2時間が経過していた。
それならせっかくの聖夜前日だしこれはこれで楽しむか!と考えていたところで怒られてしまった。

「でも今日って、確か予定ないって言ってたけど…?」

何気なく聞いた問いが導火線に火を点けてしまったようで、左の眉をピクリとさせてからエルフの少女が突き刺さるような視線を俺に向けたまま、フンと微笑してからこう続けた。

「デートの予定があります!!」

「で、デート!?」

驚く俺を一度ジッと見つめてからぷいっとそっぽを向き

「はあ…冗談です。どうせカップルで賑わうイベントに参加できない寂しい女ですよーだ」

「えっ・・・?」

「もう!二度も言わせないで!」

「あっ、いやそうじゃなくて!ほら、あれ!」

(?)と首を小さく傾け、俺の指差す方を見つめる

「あっ!」

両手を口に当て、驚くユイナの顔はどことなくわくわくしてるように見えた。きっと探し物はあれで間違いないだろうと俺は確信した。

ピピッ♪

タイミングを計ったかのようにショートメールの着信音が鳴った。


新着メール / 1件

差出人:みゆ


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「姉貴とティアそろそろ帰ってくるみたいだけど、どうする?」

「うん、あたしにもメール来たよ。先に行ってて大丈夫ですって」

ユイナがにこりと言ってから続けた

「イナト君は?」

「そうだね(VM・ボイスメール)ビムっとくわ」

システムタブを呼び出して、先ほど閉じた四角いウィンドウが再度目の前にポップした。メール機能を開きVMを起動させる。レターパックを模したウィンドウが出現し、便箋の中央にある録音開始ボタンを指でタッチする。

♪(開始音)

「見つけたぞー」

それだけ言って、停止ボタンを押す。

「それだけで伝わる?」

そばで見ていたユイナが苦笑いしていた。

「大丈夫、伝わるって」

おっ、さっそく返信が来た

差出人:瑛司

開封しVMの再生ボタンを押すと聞きなれた少年の声が流れる。

「内容はしょりすぎだから!まあいいけどさ…見つかってよかったね。二人の現在位置はこっちからでも分かるからメモっとく、先に行っていいよー。ギルドの手伝い終わったらすぐ行く!」


プツッ……


伝言は以上のようだ。ウィンドウタブを全部閉じてからとなりの少女を見る

「だそうだ」

「うん♪ 行こっか!」

エルフ族である二つの特徴的な大きな耳を嬉しそうにパタパタとさせながら俺の手を握り歩き出した。




握られた右手を見つめ、ユイナの握ってきた手を申し訳なさそうに握り返す。




仮想空間内のはずなのに握られた右手からは微かな温もりを感じた気がした。



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【 ! 】

紫色に光るそのエクスクラメーション・マークは、クヲーレⅡでも極稀のイベントマークで、ずっと休まずプレイをしているヘビーユーザーでも一度も見つける事が出来ないと言っても過言ではないくらい本当に珍しい物だ。
クヲーレの世界には通常マップには記されてないエリア、隠されし庭園【ヒドゥン・ガーデン】が存在する。


クヲーレの《世界設定》の中にはこの雄大な星を作った神々に人類やその他の種族が反旗を翻し、数百年もの長い間戦争が行われていたのだという。
この世界には訪れた者に莫大な力を与える【庭園】があった。その庭園を見つけた者達は手に入れた力に酔いしれ、神々に宣戦布告をしたのだった。
そして怒った神々は天界から下界にあるその不思議な力を与える【庭園】を下界に住まう者達から隠したのだ。


クヲーレ内に確か存在するにも関わらず庭園についての質問には返答のない運営陣や、RVE社のクヲーレ公式サイトなどにもその様なゲーム仕様などは公表されておらず
そんな状況もあってか【庭園】はプレイヤー達の間で聖地化し、都市伝説化している。
発見した人はクヲーレの公式BBS(掲示板)に位置とMAPデータを載せるとそのID宛に多数のプレイヤーから何千通もの感謝のメッセージや賞金が届いたりして一躍ゲーム内で有名人になれる。

基本的に庭園内は非戦闘域でPVPはもちろんBOSSモンスターが出現して戦う事も一切無いし、超レアアイテムがあるわけでもない。しかし各庭園はファンタジーに相応しい幻想的な建物やオブジェで彩られ、見たものを魅了する。

運営が公式に発表しなかったり、また庭園の存在を否定する様な発言をするのはきっとユーザーを楽しませるためのいわゆるゲームの『設定』に合わせた運営側の『遊び心』なのだと俺は考えている。

現在発見されている【ヒドゥン・ガーデン】は全部で2つあり、一つは魅惑的な彩色で彩られた様々な植物に囲まれた湖に神秘的な着飾りを身につけた女性NPC(ノンプレイヤーキャラクター)達が多数住まう庭園。
俺も一度訪れた事があるがその時一緒に来ていたティアとユイナにその後、現実世界で俺と瑛司を少々避ける気配を感じ、二人に謝りそのあと一度も行っていない。
二人の俺達への対応が冷たくなった理由をなんとなく感づいている……というか明らかだ。

庭園内の女性NPC達はその、なんというか・・透明に近い羽織を着ただけの下着姿でかなりきわどい格好をしている。健全な男子高校生である俺と瑛司には少々過激だったわけで、無駄に主人の感覚に敏感なソムニウム・ミラーさんはそれ相応に興奮した我々を表すためのエフェクトを無駄に用意してくれたおかげで女子達に軽蔑の視線を向けられた。


あっ、エフェクトって顔を赤くしたりとかだからね?


……ね?




「クラウン君いま何か思い出していたでしょっ?」

「いや、別になにも」

「フーンだ!」

さっきまで耳を楽しそうに躍らせていたエルフの少女の機嫌をまたしても損ねてしまった。

発見イベントをこなして、無事に庭園を発見出来れば流石に同じ様な下着姿の女性がいるフィールドに出くわずにすむだろうから、これから見るであろう庭園の姿が少女の機嫌を直してくれる事を切に願う。


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………すごい


聞こえるか聞こえないかくらいの微かなユイナの一言に心の中でコクリと頷きながらヒドゥン・ガーデン内を見渡す。


エリア発見イベントはイベントとは名ばかりで表示された到達ボタンに触れると、どこかの古代文明の遺跡にありそうな扉が現れて、しばらくすると英語の筆記体の様な文字が扉に刻まれていき扉が開くシンプルな物だった。

プレイヤーの間でその刻まれた文字は庭園を最初に発見したプレイヤーの名前だと言う噂が流れていたので目を凝らして刻まれていく文字を見ると確かにユイナと読めなくもない文字に見えた気がした。刻まれた名がクラウン、俺ではなくユイナだったことに少々悔しさが残るが、確かにここを発見した当人なのだから当然かと納得した。

「強欲か…」

「え?」

「いや、なんでもないよ」

これは俺の憶測なんだがヒドゥン・ガーデンは The seven deadly sins つまり【七つの大罪】をテーマに創られているんだと俺は思う。先に発見された2つはきっと1つ目の庭園が【色欲】そして、ティアとイナトの3人で行った2つ目の庭園は【怠惰】を表しているのだろう



金や銀色の眩ばゆい宝物や色鮮やかな宝石がフィールド中に惜しげもなく散らばっていて、奥には威厳に満ちた巨大な古城が聳びえ立っている。


唇を噛み締め、足元の近くにあった宝石を踏む。
目の前の神々しい光景に視線を奪われ、いまだ帰ってこれていないユイナを見る。


「中に行ってみよっか」

え?と一度聞き返してから今日一番の元気な「うん」をエルフの少女は楽しそうに答えた



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心が奪われそうな魅力に満ちた財宝や宝石で飾られた武具が無数に落ちているフィールドを歩き進んでいく。

システムタブを呼び出してMAPで現在位置を確認するが予想通り詳細すら現れないかわりに【 LOST 】の文字だけがウィンドウにポップする。
隠された庭園なんてものはクヲーレに存在しないという運営の証言を立証するかのように先にあげた二つの庭園もだが園内に招き入れたプレイヤーの現在地をロストさせるように出来ているようで、たとえば今現在ログインしている親友のイナトのフレンド欄にあるクラウンとyuinaはログアウト状態になっているはずだ。
どの庭園も扉前の座標をメモか何かで覚えておかないともう一度見つけるのが困難になる場所だ。
先にMAPの位置を送った理由がこれだ。

そうしている間も俺と手を繋いだままのエルフの少女は無数の財宝が散りばめられた道をを歩き続けていた。二人の目に映る城は巨大化してるんじゃ?と思わせるほどに距離が近づくに連れてその大きさと威厳を誇示していた。

「渡ったらいきなり、引きあがって閉じ込められたり…何てことは起きないよね?」

城の城門に備えられた巨大な跳ね橋を見つめ、険しそうな表情をしているユイナ。

「さすがにそれはないだろう、庭園にトラップとか無さそうだしそんな話聞いた事ない」

「そうだよね…クラウン君?」

「……… 。」

「ねーってばっ!」

「ん?ごめんごめん、なに?」

「いきなりフリーズしないでよ」

ユイナは小さな唇を上にムッとさせてからくすっと笑った。握られた俺の手を半ば無理やり引っ張りながら駆け足で橋を一緒に渡った。


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城門の内側は普通の道が続いていた。あたりに宝石もなければ財宝の1つも見たらない。

そのかわり神秘的な光景があたりに広がっていた。微かな光を放ちながら無数の雪のような光る粒子が視界いっぱいに広がり、空に向かって飛んでいる。

「綺麗だね」

「ああ、そうだな」

「クリスマス…だからかな?」

「そうかもな」

「ねえ、クラウン君」

空へと向かう粒子を見上げながら、これまでに見せなかった無邪気な子供のような満面の笑みをみせた。



「また来ようね!」




ありがとう




「何言ってんだ、城の中だってまだ見てないのに。それにこれからイナトとティア、とくにティアはこれを見たら喜ぶだろうな。あーあ…何回ここに来る事になるやら」

「そうだね、ティアちゃん早く来ないかなあ・・・あっ!」

「どうした?」

「あそこに人影が」

ユイナの指す方向を見る。城にあるパラスと呼ばれる住人が住まう別館の窓。

「人影に見えなくもない」

「動いた!」

確かに色欲のヒドゥン・ガーデンにはたくさんの女性NPCがいた。ならここにだってNPCがいてもおかしくないはずだ。

「行ってみよっ!」

「おい、ユイナ!」

城に入ったユイナの背中は別館へと続く階段で消えた。

階段へと消えた少女の背中を追いかける
走るスピードに合わせ、次第に呼吸が切れていく。


「はあ・・・はあ・・どこ行ったんだ?」



あれ…?



一瞬感じた違和感を捨て、視線の先にようやくエルフの少女を捉えた。同じように何かを見つけたような眼差しでユイナは通路の奥を見つめていた。

       

「プレイヤー名見える?遠くてあたしの視力のステータスレベルじゃ見えない」

視線の先にいた人影の頭上に名前を囲む黒い枠があったが距離があるせいで読めない

「こっちに気づいてないみたい。あたし声をかけてくるね」

プレイヤーに向かってユイナが走り出す。


え?


またさっきの違和感に襲われる


今度は一つだけじゃない、なにかが…

黒い枠?NPCは白で黒はプレイヤーだから…あれ?別におかしい事はないけど










いや、そうじゃない











庭園...発見イベント.....
.....プレイヤー...息...呼吸...。














 
背筋を撫でるような冷たいものを感じた。


















何で・・・

ユイナと俺以外のプレイヤーが

・・・・ココニイル?


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