日常に本を足し算すると?

ボル

本と先輩は勧誘してくる1

一週間ぶりの学校。全くそのつもりはないんだがそれは俺の中だけの話で、現実は入学式後の一週間無断欠席した不登校予備軍生徒。が切実な印象だと思う。
教室の窓から見える桜はすっかり花弁を落とし、まちまちと、散り始めるであろう桜がついている。それもそう。入学式のときに美しいほどに散っていたのだ。一週間経って木から彩りがなくなるのも仕方ないこと。
俺は一週間の空白を少しでも償うべく誰も来ていない登校開始時間ピッタリに学校に来た。
机に頬杖をついて外を眺める。外の感想は前述の通りだ。教室には案の定誰もいない。なんならこの学校に生徒はいない。
「おはよう。琉夏君。」
この声を聞くまではそう思っていた。
不意な声がけに背筋がピンと伸びる。
良く通った響きのいい声。そして俺の始まって一日しか経ってない高校生活の記憶に大きく刻まれている不思議な印象。その声の主は教室の扉に背中を寄りかからせて立っていた。
「しっかり、一週間で目覚めたようだね。ふふっ、素晴らしい。占い通り♪」
満足げな顔でうんうんと大きく頷く。
そして俺をまっすぐ向いて指を指した。
「花咲琉夏君!!君がほしい!」
言ってやったと言うような顔を見せた。
っ!?こ…こ、こ、こ、告白?!?!
告白なのか?!
この人は俺が掲示板を見ていて倒れ、怪我しそうだったときに助けてくれたミステリアスな名乗らない美人先輩だ。
冷静では居られなかった。こんな黒髪美人先輩のお願いを断るわけにはいかないと答えを返そうとしたときだった。
「我が部活の主要人物として!」
今さっきのドキドキと決心を返してほしい。
なるほど、部活の勧誘だったわけか。
高校生になっていきなり人生薔薇色モードになるはずがない。特にこんな美人に好かれるほどイケメンじゃないから当たり前だ。
「えっと……何部なんですか?」
「占いを使って生徒の悩みを解決する……その名もお悩み相談部だ!」
唖然としてしまった。どうして俺を占いを必要とする部活に誘おうと思ったのだろう。実は素質があるのか!?この人には分かるのかもしれない。ちょっとそれを期待して質問してみる。
「僕にはなんかあるんですか?その……占いの素質……的な?」
「ん?ない!」
即答だった。まぁそうだよね。なんだか悔しかった。と、同時にそろそろ我慢の限界だった。
「じゃあなんで勧誘してきたんですか?!というかっ!先輩は一体何者なんですか!!僕のことを的確に占ってみたり、名乗らないでみたり!」
「そんなに感情的になるな。でも、名乗らなかったのは私が勧誘を先走ったせいだ。すまん。私の名は岐路先望きろざきのぞみ!!お悩み相談部部長で占いを特技としている2年生さ!よろしくね!」
俺の悪い癖の『感情的になる』を綺麗に交わして冷静に対応された。
「どうして勧誘してきたか、だが。私達はこれから手を取り合ったほうがいいからだ。難しい説明になるからここからは私の相棒に任せるとするよ」
そういって教室の外へ出てバッグを持ってくると、その中からとても透き通った朝日の乱反射すら素晴らしいと思える水晶玉を取り出して、手のひらに乗せて突き出した。
先輩はニコッと笑って肺に息をいっぱい吸った。そして少し大きく声を出す。
「ワールドオン!」
そう言うと水晶玉から光が飛び出し、教室一体が青色がかった世界に変わった。
「え?!なんだ?!」
机も壁も何もかも、まるで薄いバリアのようなものが覆っているようであった。
そして、岐路先先輩の隣に少しボロボロの服を身に着けた、ツインテールが印象的な小柄な女の子が立っていた。
「はじめまして、私はNo.59 占いの書。
岐路先の仮契約本です。あなたのことを占って勝手に岐路先に概要を教えたのは私です。どうかお許しください。」
細い体を折り曲げ、深くお辞儀をされた。
体を真っ直ぐに戻すと真剣な面持ちで話を続ける。
「あなたが所有している具現化の書。彼女は狙われています。」
「狙われてる?何に?」
「人滅団。詳しくは占えませんでしたが、私たち本を長き封印から解いて悪用しようとしている組織です。」
正直この話を信用していいのかわからない。たしかに水希の話と合致しているところは多い。いや、話は信用すべきなんだろう。だけど、この人たちを信用していいか分からない。もしかしたら、人滅団?のなにかなのかも分からないしな。
「すみません。先輩には確かに助けていただきました。ですが」
「私を、私たちをどうしても信用できない……と、いうことが言いたいのかな?」
図星だ。まぁ話の流れで分かるのかもしれないが。
「それじゃあ、明日部室に来るといい。そこで私たちの知っていることを包み隠さず曝け出そうじゃないか。そして、今は話せそうにない本題。私たちが手を取り合わなければなら
ない理由もその時に。さて、そろそろ時間のようだ。では」
先輩は俺に背を向けて右手をひらひらと振りながら教室から出て行った。
占いの書は岐路先先輩のカバンを持って俺に丁寧に一礼し、教室を出て行った。
気がつくと部屋の色味は全くなくなっていた。
「後で水希に聞いてみよう。」
独り言で呟いた。

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