誰にでもできる異世界救済 ~【トライ&エラー】と【ステータス】でニートの君も今日から勇者だ!~
5-2 エルフの里へ
ネサ樹海
ネニア大陸北部に広がる大森林で、エルフの里として知られている。
その南端はセンテオスク帝国の北部国境等に通じているが、北端・東端・西端がどこにつながっているのか確認できたものはいない。
「このネサ樹海が、北方の世界の果てと言われている」
タバトシンテ・ダンジョンを出た高速馬車の中で、俺はクロードさんから樹海のことを教えてもらっていた。
さすがエルフだけあって、彼は樹海について詳しかった。
まぁ、故郷だしな。
ちなみに俺たちは、結局トセマに戻らず、タバトシンテ・ダンジョンから直接樹海を目指すことにした。
そのほうが、交通の便がいいからな。
「地図では西端は海に面しているように描かれる。実際海からは樹海らしき森林が見えるからな」
「でも、樹海の内側を西に向かっていくら進んでも、永遠に海へ出ることはないんですよね?」
「うむ。そして海側から入ってもエルフの里にたどり着くことはない」
さらに不思議な事に、例えばエルフの里から西へ1年かけて進んだ場合、ずっと代わり映えのない森林エリアが続くのだが、いざ東に戻ると1日でエルフの里に戻れるのだという。
海側からも同じ現象が起こるようだ。
「エルフの里を基点にした場合、北側も東側も同じように永遠の森が続く。唯一外へ出られるのが南側だけなのだ」
「不思議なもんですねぇ」
「里に住んでいるときはそれが当たり前で、不思議ともなんとも思ってはいなかったがな」
「もし樹海に北の果てがあるとしたら、その先には何があるんでしょうね?」
「さてな。東と同じく境界壁でもあるんじゃないか?」
この大陸の東端は、境界壁という越えることの出来ない壁が、南北に渡ってそびえ立っている。
俺にしてみればなんとも不思議な話なんだが、こちらの人にしてみればそれが当たり前なんだとか。
「でも、樹海を東に向かって歩いても、境界壁にはたどり着けないんですよね?」
「そうだな。そちらも永遠の森が続くだけだ」
「境界壁の向こうには何があるんでしょう?」
「すべての魔物は境界壁の向こうにある魔界からやってきた、などという説もあれば、永遠の楽園があるとも言われている。あるいは何もない、とも」
「そこが世界の果てというわけですか」
「まぁ、壁の向こうについては、ほとんど哲学の分野だからな。考えても答えはでんぞ」
哲学の話をここで論じ合っても仕方がないので、再びネサ樹海の話に戻る。
「基本的なことではあるが、ネサ樹海の主な産業は林業だ」
「へええ。なんかエルフって木を切り倒さないイメージがありました」
「どんなイメージだ? エルフといえば林業だろう」
「えっと、その……俺、記憶喪失でして……」
「む、そうだったな」
なんでも前述した永遠の森ゾーンの木ってのは、たとえ切り倒しても2~3日ですぐに復活するのだとか。
無尽蔵の森林資源がネサ樹海にはあるので、昔から林業が盛んなのだ。
「一説には、ネサ樹海自体が大きなダンジョンではないか、と言われているが、ダンジョンコアらしきものは今のところ確認されていないな」
「樹海の木が切り放題なら、エルフ以外の人種が伐採しても問題なさそうですけど……」
なにか特権みたいな物があるんだろうか?
「エルフ以外の人種は一度森に入ると出られなくなるからな」
「え、なにそれ怖い」
「手ぶらで、かつ来た道がわかれば引き返せば戻れるのだが、数歩歩いて振り返れば景色が変わって見えるほどの深い森だ。よほどの対策をしていないと簡単に迷ってしまう」
「手ぶらなら、というのは?」
「樹海で取れた木材や獣、魔物の素材、薬草などを持っていると、それを捨てるまで出られなくなるのだよ」
なんとも不思議な仕様だな。
「我々としては他種族にも伐採を手伝って欲しいからな。積極的に案内人を出しているぞ」
なんというか、排他的で、高貴で、森とともに生きるというエルフのイメージがどんどん崩れていくね。
ネサ樹海に入ってもすぐにエルフの里があるわけじゃない。
そして、エルフ以外の種族だけではエルフの里に辿りつけない。
なので、他種族がエルフの里に行きたければエルフの案内人と同行するしかない。
ただ、祖父母にエルフがいる、くらいまでなら血が薄まっても大丈夫らしいけど。
「エルフの里へ行くための正しい入り口みたいなのはあるんですか?」
「森までの道が整備されている場所はあるな。しかし、必ずしもそこから入る必要はない」
これまた不思議なことなんだが、ネサ樹海ってのは大陸北部を覆うように広がっているので、東西に広がる樹海の幅(?)は3,000kmを超える。
そのくっそ広い範囲に広がる樹海へ、大陸の西の方から入ろうが中央から入ろうが東の方から入ろうが、同じルート、同じ距離でエルフの里に到着出来るようになっているのだとか。
「入るのはどこから入っても同じルートで里にたどり着けるってことですが、出るときはどうなるんです? 例えば西の端から入っても、中央あたりにでる、とか?」
「いや、エルフの里から出た場合は入った場所に出る」
「じゃあ里で生まれて一度もエルフの里を出たことがないって人は?」
「本人腹に宿った時点で、最後に森へ入った最も近い先祖が基準となるな。大抵は親が基準になるが、なかには生まれて一度も森を出ずに結婚する夫婦もいるから、その場合は祖父母であったり、曾祖父母であったり、といった具合にだ」
ある程度情報を共有したところで、俺たちはそれぞれ寝台に入ってひと眠りした。
翌朝、馬車はネサ樹海南端中央にあるサムドの町に到着した。
ここは帝国と樹海とが共同統治する町で、樹海を行き来する観光客や、林業関係者でごった返す賑やかな町だった。
誓うにはアウズ川という流れの比較的穏やかな川が樹海から南に向かって流れており、伐採した木材はその川の流れを利用して運搬される。
収納魔術なんてものがある世界ではあるが、距離や容量を考えると消費魔力も馬鹿にならない。
自然の力を利用できるならしたほうがいいのだ。
「ここが樹海ですか」
町に入って朝食をとった俺たちは、町中を走る小型馬車に乗り、樹海の前に降り立った。
外から見た雰囲気は、大学生時代にオカルトサークルで何度か訪れた青木ヶ原樹海に近いかな。
たしかにこれは一度入ったら出るのは大変そうだ。
「よぉ、クロードじゃねぇか! 久しぶりだな」
入り口近くにある案内人斡旋所の人が、声をかけてきた。
口調は雑だが、きれいな顔をしたエルフの男性だ。
「おう、お前か」
「どうした、里帰りか? もう10年は帰ってないんじゃないか?」
「バカを言うな、30年は経っているさ」
なんというアバウトな時間感覚。
長命種あるあるなのか?
「ははは、そうかそうか。そっちのボウズは連れか?」
「そうだ」
「どうも」
とりあえず、挨拶だけしておく。
「おう。なら案内人はいらねぇか」
「そうだな」
クロードさんの先導で樹海の中を歩いた。
俺たち以外にも多くの人が同じタイミングで、近い場所から森に入ったのだが、一歩樹海に足を踏み入れた途端に気配すら感じなくなった。
「私が同行者と認めていないからな」
俺が不思議がっていると、クロードさんがそう言ってくれた。
かなり深い森の、道なき道を歩いているはずなんだが、まるで平野を歩くかのようにスタスタと進むことができた。
そうやって半日ほど歩いたところで、突然視界が開けた。
「おお、すげぇ!!」
このエルフの里をどう表現すればいいのか……。
街道はしっかり整備されていて、家は木造が多い。
屋根は薄い金属板を貼ってるところが多くて、平屋~3階建てが多いかな。
よく見れば石造りの屋敷なんかもちらほらある。
所々にでかい木があって、それが空を覆ってるせいか、地上に届く日光は非常に淡い。
ところどころ木のないスペースがあって、ポッカリと青空が見えるところもあるけど。
「ようこそ、エルフの里へ。初めて見た印象はどうかな?」
里に入り、立ち止まったクロードさんがそう尋ねた。
「なんというか、幻想的な雰囲気ではあるんですけど、しっかりと生活感も感じられるっていう不思議な空間ですね」
「幻想的、か。私にとっては見飽きた景色なのだがな」
そう言って、クロードさんは自嘲気味に笑ったあと、ふたたび歩き始めた。
「エルフ以外の人種が、結構多いですね」
「エルフと他種族とで、半々といったところだな」
エルフ的には他種族ウェルカム状態らしい。
入り口に案内人の斡旋所もあったしな。
「ぱっと見、ドワーフが多いですね」
「観光客も多いが、ドワーフは大半が林業に従事し、ここに定住しているな」
ファンタジーでありがちなエルフとドワーフの確執もなし、と。
「ここで待っていろ」
観光案内所のような所に到着したあと、クロードさんは知り合いらしき職員に声をかけていた。
それからしばらく話をしたあと、俺の所に戻ってくる。
「デルフィーヌの父親だが、俺の知り合いだったよ」
世間狭っ!
「まずそこから辻馬車に乗ってヘサという駅へ行け」
言いながらクロードさんは、さらさらと何かを書き始めた。
「そこからデルフィーヌの家までの地図だ」
いや個人情報緩っ!
「あの、ありがとうございます!」
まぁ、ありがたく頂戴するんだけどさ。
「クロードさんはこれからどうするんですか?」
「実家に顔を出すかな。とりあえずお前とはここでお別れだ」
「え? じゃあ帰りは……」
「デルフィーヌと帰ればよかろう」
「いや、まぁ……」
そうなれば、いいけど……。
「フラれたらそのときはここで案内人を斡旋してもらえ」
「うぅ……はい」
不吉なことを言わないでくれよ……。
「それにしても、あいつの娘が里を出たということは、100年以上実家に帰ってないのか……」
エルフの時間感覚、半端ねぇな。
ネニア大陸北部に広がる大森林で、エルフの里として知られている。
その南端はセンテオスク帝国の北部国境等に通じているが、北端・東端・西端がどこにつながっているのか確認できたものはいない。
「このネサ樹海が、北方の世界の果てと言われている」
タバトシンテ・ダンジョンを出た高速馬車の中で、俺はクロードさんから樹海のことを教えてもらっていた。
さすがエルフだけあって、彼は樹海について詳しかった。
まぁ、故郷だしな。
ちなみに俺たちは、結局トセマに戻らず、タバトシンテ・ダンジョンから直接樹海を目指すことにした。
そのほうが、交通の便がいいからな。
「地図では西端は海に面しているように描かれる。実際海からは樹海らしき森林が見えるからな」
「でも、樹海の内側を西に向かっていくら進んでも、永遠に海へ出ることはないんですよね?」
「うむ。そして海側から入ってもエルフの里にたどり着くことはない」
さらに不思議な事に、例えばエルフの里から西へ1年かけて進んだ場合、ずっと代わり映えのない森林エリアが続くのだが、いざ東に戻ると1日でエルフの里に戻れるのだという。
海側からも同じ現象が起こるようだ。
「エルフの里を基点にした場合、北側も東側も同じように永遠の森が続く。唯一外へ出られるのが南側だけなのだ」
「不思議なもんですねぇ」
「里に住んでいるときはそれが当たり前で、不思議ともなんとも思ってはいなかったがな」
「もし樹海に北の果てがあるとしたら、その先には何があるんでしょうね?」
「さてな。東と同じく境界壁でもあるんじゃないか?」
この大陸の東端は、境界壁という越えることの出来ない壁が、南北に渡ってそびえ立っている。
俺にしてみればなんとも不思議な話なんだが、こちらの人にしてみればそれが当たり前なんだとか。
「でも、樹海を東に向かって歩いても、境界壁にはたどり着けないんですよね?」
「そうだな。そちらも永遠の森が続くだけだ」
「境界壁の向こうには何があるんでしょう?」
「すべての魔物は境界壁の向こうにある魔界からやってきた、などという説もあれば、永遠の楽園があるとも言われている。あるいは何もない、とも」
「そこが世界の果てというわけですか」
「まぁ、壁の向こうについては、ほとんど哲学の分野だからな。考えても答えはでんぞ」
哲学の話をここで論じ合っても仕方がないので、再びネサ樹海の話に戻る。
「基本的なことではあるが、ネサ樹海の主な産業は林業だ」
「へええ。なんかエルフって木を切り倒さないイメージがありました」
「どんなイメージだ? エルフといえば林業だろう」
「えっと、その……俺、記憶喪失でして……」
「む、そうだったな」
なんでも前述した永遠の森ゾーンの木ってのは、たとえ切り倒しても2~3日ですぐに復活するのだとか。
無尽蔵の森林資源がネサ樹海にはあるので、昔から林業が盛んなのだ。
「一説には、ネサ樹海自体が大きなダンジョンではないか、と言われているが、ダンジョンコアらしきものは今のところ確認されていないな」
「樹海の木が切り放題なら、エルフ以外の人種が伐採しても問題なさそうですけど……」
なにか特権みたいな物があるんだろうか?
「エルフ以外の人種は一度森に入ると出られなくなるからな」
「え、なにそれ怖い」
「手ぶらで、かつ来た道がわかれば引き返せば戻れるのだが、数歩歩いて振り返れば景色が変わって見えるほどの深い森だ。よほどの対策をしていないと簡単に迷ってしまう」
「手ぶらなら、というのは?」
「樹海で取れた木材や獣、魔物の素材、薬草などを持っていると、それを捨てるまで出られなくなるのだよ」
なんとも不思議な仕様だな。
「我々としては他種族にも伐採を手伝って欲しいからな。積極的に案内人を出しているぞ」
なんというか、排他的で、高貴で、森とともに生きるというエルフのイメージがどんどん崩れていくね。
ネサ樹海に入ってもすぐにエルフの里があるわけじゃない。
そして、エルフ以外の種族だけではエルフの里に辿りつけない。
なので、他種族がエルフの里に行きたければエルフの案内人と同行するしかない。
ただ、祖父母にエルフがいる、くらいまでなら血が薄まっても大丈夫らしいけど。
「エルフの里へ行くための正しい入り口みたいなのはあるんですか?」
「森までの道が整備されている場所はあるな。しかし、必ずしもそこから入る必要はない」
これまた不思議なことなんだが、ネサ樹海ってのは大陸北部を覆うように広がっているので、東西に広がる樹海の幅(?)は3,000kmを超える。
そのくっそ広い範囲に広がる樹海へ、大陸の西の方から入ろうが中央から入ろうが東の方から入ろうが、同じルート、同じ距離でエルフの里に到着出来るようになっているのだとか。
「入るのはどこから入っても同じルートで里にたどり着けるってことですが、出るときはどうなるんです? 例えば西の端から入っても、中央あたりにでる、とか?」
「いや、エルフの里から出た場合は入った場所に出る」
「じゃあ里で生まれて一度もエルフの里を出たことがないって人は?」
「本人腹に宿った時点で、最後に森へ入った最も近い先祖が基準となるな。大抵は親が基準になるが、なかには生まれて一度も森を出ずに結婚する夫婦もいるから、その場合は祖父母であったり、曾祖父母であったり、といった具合にだ」
ある程度情報を共有したところで、俺たちはそれぞれ寝台に入ってひと眠りした。
翌朝、馬車はネサ樹海南端中央にあるサムドの町に到着した。
ここは帝国と樹海とが共同統治する町で、樹海を行き来する観光客や、林業関係者でごった返す賑やかな町だった。
誓うにはアウズ川という流れの比較的穏やかな川が樹海から南に向かって流れており、伐採した木材はその川の流れを利用して運搬される。
収納魔術なんてものがある世界ではあるが、距離や容量を考えると消費魔力も馬鹿にならない。
自然の力を利用できるならしたほうがいいのだ。
「ここが樹海ですか」
町に入って朝食をとった俺たちは、町中を走る小型馬車に乗り、樹海の前に降り立った。
外から見た雰囲気は、大学生時代にオカルトサークルで何度か訪れた青木ヶ原樹海に近いかな。
たしかにこれは一度入ったら出るのは大変そうだ。
「よぉ、クロードじゃねぇか! 久しぶりだな」
入り口近くにある案内人斡旋所の人が、声をかけてきた。
口調は雑だが、きれいな顔をしたエルフの男性だ。
「おう、お前か」
「どうした、里帰りか? もう10年は帰ってないんじゃないか?」
「バカを言うな、30年は経っているさ」
なんというアバウトな時間感覚。
長命種あるあるなのか?
「ははは、そうかそうか。そっちのボウズは連れか?」
「そうだ」
「どうも」
とりあえず、挨拶だけしておく。
「おう。なら案内人はいらねぇか」
「そうだな」
クロードさんの先導で樹海の中を歩いた。
俺たち以外にも多くの人が同じタイミングで、近い場所から森に入ったのだが、一歩樹海に足を踏み入れた途端に気配すら感じなくなった。
「私が同行者と認めていないからな」
俺が不思議がっていると、クロードさんがそう言ってくれた。
かなり深い森の、道なき道を歩いているはずなんだが、まるで平野を歩くかのようにスタスタと進むことができた。
そうやって半日ほど歩いたところで、突然視界が開けた。
「おお、すげぇ!!」
このエルフの里をどう表現すればいいのか……。
街道はしっかり整備されていて、家は木造が多い。
屋根は薄い金属板を貼ってるところが多くて、平屋~3階建てが多いかな。
よく見れば石造りの屋敷なんかもちらほらある。
所々にでかい木があって、それが空を覆ってるせいか、地上に届く日光は非常に淡い。
ところどころ木のないスペースがあって、ポッカリと青空が見えるところもあるけど。
「ようこそ、エルフの里へ。初めて見た印象はどうかな?」
里に入り、立ち止まったクロードさんがそう尋ねた。
「なんというか、幻想的な雰囲気ではあるんですけど、しっかりと生活感も感じられるっていう不思議な空間ですね」
「幻想的、か。私にとっては見飽きた景色なのだがな」
そう言って、クロードさんは自嘲気味に笑ったあと、ふたたび歩き始めた。
「エルフ以外の人種が、結構多いですね」
「エルフと他種族とで、半々といったところだな」
エルフ的には他種族ウェルカム状態らしい。
入り口に案内人の斡旋所もあったしな。
「ぱっと見、ドワーフが多いですね」
「観光客も多いが、ドワーフは大半が林業に従事し、ここに定住しているな」
ファンタジーでありがちなエルフとドワーフの確執もなし、と。
「ここで待っていろ」
観光案内所のような所に到着したあと、クロードさんは知り合いらしき職員に声をかけていた。
それからしばらく話をしたあと、俺の所に戻ってくる。
「デルフィーヌの父親だが、俺の知り合いだったよ」
世間狭っ!
「まずそこから辻馬車に乗ってヘサという駅へ行け」
言いながらクロードさんは、さらさらと何かを書き始めた。
「そこからデルフィーヌの家までの地図だ」
いや個人情報緩っ!
「あの、ありがとうございます!」
まぁ、ありがたく頂戴するんだけどさ。
「クロードさんはこれからどうするんですか?」
「実家に顔を出すかな。とりあえずお前とはここでお別れだ」
「え? じゃあ帰りは……」
「デルフィーヌと帰ればよかろう」
「いや、まぁ……」
そうなれば、いいけど……。
「フラれたらそのときはここで案内人を斡旋してもらえ」
「うぅ……はい」
不吉なことを言わないでくれよ……。
「それにしても、あいつの娘が里を出たということは、100年以上実家に帰ってないのか……」
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